開戦
問題ないとは思いますが一応注意書き入れておきます。
ご注意ください。
人面鳥の前に出ると皇太子は私を待っていたような口振りで話し始めた。
「やはりきたか。本当に空を飛べる術を身に付けるとはな。噂には聞いていたが掃除の魔女の異名は伊達ではないようだ」
掃除は私が一掃したわけではないので伊達ですけどね。
それにしても私の異名って国をまたいで広まっているのか!?
恥ずかしすぎる!
「エリィ、最後の警告だ。お前が私の妃になればこの国を助けてやろう。断れば…言わなくてもわかるな?」
この話に乗ったとしても本当に助けてくれるとは思えない。
それにフリーデン王国がガレフロナ帝国の手に落ちれば王族は間違いなく処刑される。
ゼオンに目を向けると指揮を取りながら心配そうにこちらを見上げていた。
その姿に自然と口元が緩んだ。
「私は私の事にはとことん過保護で嫉妬深くてベタベタするのが大好きで私だけを愛してくれるゼオン・ルーレン・フリーデンの妻になる。それ以外の選択肢はない!」
堂々と熱愛宣言すると忌々しそうに顔を歪めた。
「譲歩してやったというのに…そんなにお望みなら略奪してやるよ!」
皇太子が人面鳥に合図を出し耳障りな咆哮を上げると、地上から沢山の叫び声が聞こえてきた。
地上に視線を向けるとピッツバーグ元公爵と同じような巨大な異形の魔物が出現した。
「チッ!失敗か」
失敗?
もしかして自我を保てないとあの魔物になるってこと?
皇太子の後ろに控えていた黒いフードの者が私の斜め後ろを指差した。
振り返ると地上にライオンのような体で頭は人面猿のような魔物が咆哮を上げていた。
鵺とかキメラに近い感じだろうか。
地上に二体。ゼオンは大丈夫なの?
ゼオンに視線を向けようとすると強い風に飛ばされた。
「余所見している場合か?」
皇太子が不敵に笑った。
そうだ。まずはこいつを何とかしないと!
ヒールライトを使えるようになったといってもまだ近距離しか届かずほぼゼロ距離で当てない事には意味がなかった。
それに空の上で元の姿に戻ってしまったら上空にいる三人は地上に落下してしまう。
何とか地上付近でヒールライトを使えないだろうか。
作戦を練っていると人面鳥は再び風を巻き起こした。
巻き込まれた私はバランスを崩し箒と共に落下した。
やばい!このまま落ちれば無傷では済まない!
咄嗟に植物を出す魔術をかけた。
蔦は上空で私を掴まえゆっくり地上に下ろした。
そうだ!この魔術を使えば!
再び箒に乗り空に飛ぶと蔦を出した。
人面鳥は避けつつ風を起こすも溜めが短い分先ほどより威力が弱まった。
直ぐに新しい蔦を出し人面鳥を追撃した。
私の狙いはこの蔦を使って人面鳥を地上に近付けること。
風を避けながら蔦を出し続けて王宮の端にある湖まで誘導すると雷の魔術を放った。
巨大な雷が物凄い音を響かせながら魔物に直撃し感電した。
ええーーーーー!?
この箒、こんな威力の魔術を乗せて飛んでるの!?
箒作成の時に使用した雷の魔術なのだが…思っていた以上の威力に唖然とした。
皇太子と黒いフードの者は魔術を放つ直前で転移したのを目撃したので直撃は免れている。
私は電気が落ち着いたところでヒールライトをかけて人間に戻ったガレフロナ帝国の騎士を湖から引き揚げた。
騎士は気絶しているもののヒールライトが効いたのか無傷だった。
良かった。心臓止まってたらどうしようかと思った。
多分アテリア草で肉体が強化されていたことが幸いしたのだろう。
これからは攻撃魔術はまず試してからにしよう。
皇太子達の姿が見えず、一旦騎士を連れてゼオンの下に飛んだ。
地上では失敗と言われた魔物は魔術師と騎士達で自我のある魔物はゼオンが相手をしていた。
闇魔法を使い拘束しているようだが元の姿に戻すことは出来ず苦戦していた。
私は近くの兵士に捕らえた騎士を預けると空からゼオンが拘束している魔物に近付き頭上からヒールライトをかけた。
魔物は徐々に人の姿に戻りガレフロナ帝国の鎧を身に付けた騎士へと姿を変えた。
「エリィ、無事で良かった」
「空の奴は片付けたよ。もう一体も今から元に戻すね」
残りの一体にもヒールライトをかけた。
これで戦況はひっくり返ったかに思えた。
「殿下!ピッツバーグ公爵より援軍の要請です!多方面からガレフロナ帝国兵と狂戦士が襲ってきており防衛しきれないとのことです!」
「殿下!こちらも援軍の要請が届きました!」
アテリア草を見つけてからガレフロナ帝国に続く国境付近の防御を固めてはいたが、攻撃の範囲が広く人手が足りないとのことだ。
「直ぐに援軍を…!」
「援軍など出している余裕など果たしてあるかな」
皇太子と黒いフードの者が再び姿を現した。
新たな巨大魔物を引き連れて。
余所に応援を出せばここが落ちる可能性が高い。
かといって国境を突破されるわけにもいかない。
戦力不足なのは火を見るよりも明らかだ。
もう残っている戦力は…。
絶望的な状況に私は覚悟を決めた。
「ゼオン。狂戦士の相手は民達に任せよう」
「エリィ!?」
「テレパシーで民達を鼓舞して戦わせる」
「でもそのテレパシーとかいう魔術は相手に触れていないと使えないって…」
先ほど皇太子は誰にも触れずにテレパシーを使ってきた。
しかも王都全体に伝わるくらいの広範囲で…。
王都全体…。
「そうだ!ゼオン、メディーナだよ!」
「メディーナ?」
「メディーナがアテリア草の力で木になったとき国全土に巨大な魔法陣をかけていた。メディーナなら何か良い方法を知っているかも!」
正直藁にも縋る思いだった。
「わかった。この件はエリィに任す。エドワード頼めるか?」
「お任せください」
エドワードも宣戦布告を聞いていたらしく応戦していた。
「エリィ、これがメディーナの下に行く魔法陣でこっちがここに戻ってくる魔法陣」
二枚の紙に書かれた転移用の魔法陣を手渡してきた。
「エドワードはこのまま領地に戻り狂戦士に襲われている地区への援軍を頼む。エリィ、無茶はするなよ」
抱き寄せられ額にキスをされた。
「行ってきます」
笑顔を返しメディーナ行きの魔法陣に魔力を注ぐとエドワードと共に転移したのだった。
メディーナが幽閉されている塔は戦地から遠く先程までの喧騒が嘘のように静かだった。
前回と同様エドワードが開錠し塔の頂上に登るとメディーナは眉を寄せた。
「また来たの?」
「今日は時間がないので早速本題に入らせてもらいます」
私のただならぬ様子にメディーナも何かを察したようだ。
「この国は今、黒いフードの魔術師が渡したと思われるアテリア草を使ってガレフロナ帝国の襲撃を受けています」
「そう…。黒いフードの魔術師の情報はこの前教えた事が全てよ。それとも私も参戦しろと?」
「いえ。今日は聞きたいことがあり来ました」
メディーナは黙って話の続きを促した。
私はテレパシーの事とメディーナがどうやって国全土に魅了の術をかけたのかを尋ねた。
「あれは木の根から大地に魔力を流して発動させたものよ。ただあの木は私の魔力で出来ていたから可能だったけれど、生身の人間が大地に魔力を直接注入するのは難しいかもしれないわね」
自分の魔力を帯びた木といえば…。
ここ最近のリンゴ尽くめの日々を思い出した。
「もし私の魔力で成長した木があればそこから流す事って可能ですか?」
「そうね。木は地属性だからその木に魔力を注入すれば可能だとは思うわ。でも国全土は無理よ。魔力が足りな過ぎる」
予想はしていたけどやっぱりダメか…。
肩を落とした。
「私はアテリア草の影響で魔力が増幅していたから可能だったけど、生身ではとても無理よ。魔力が流れている地点を介せば話は別だけど…」
魔力が流れている地点…?
電波塔みたいな中継地点ってことか…ん?
「そうか!『魔術で野菜を作ろう作戦』!」
目を輝かせた私をメディーナは怪訝そうに見た。
「あなたが命名したのが分かるくらい地味な作戦名ね」
ツッコむところ、そこですか。
「いいんです。ゼオンは気に入ってくれましたから」
ゼオンの名前を出されメディーナは押し黙った。
実際のところゼオンは私命名なら何でも賛成していただけだが。
「とにかくあなたのお陰で何とかなりそうです。ありがとうございました」
「ちょっと待ちなさい」
頭を下げ階段を下りようとするとメディーナが呼び止めた。
「エドワード。私がここに入る前に渡した腕輪を持ってる?」
突然話を振られたエドワードは慌てて腕を出した。
腕には金色の編み込みのように編まれた金属が輪っか部分になっていて接合部には二つの龍が嚙み合っている腕輪が着けられていた。
「それは人工遺物と呼ばれる国宝級の代物でネルドが滅びる時に…拝借したの」
拝借とか綺麗に言っているが多分盗…勝手に持ってきたのだろう。
「誰が作ったのかも不明で神の持ち物ではないかとまで言われた腕輪よ。魔法道具なら持ち主以外は使えないのにその腕輪は誰でも使えるからそういう噂が出たの。それに魔力を注入すれば体内の魔力を増幅させてくれる。ただし…」
出たよ。ファンタジーあるある。神の道具。
メディーナは一呼吸置いた。
「代償は術者の寿命よ」
神様えげつないな。
完全に呪いの道具ですよね。
「それを貸してあげるわ」
貸すって…勝手に持ってきた物ですよね。
しかもこんな物騒な物を…。
早死にさせる気ですか?
「全てが片付いたらちゃんと返しに来なさいよ」
返すのはエドワードにですよね?
メディーナを見ると彼女は後ろを向いていたが、その耳が少し赤くなっておりメディーナの意図が読み取れた。
「ありがとうございます。必ず無事に返しに来ますね」
メディーナのツンデレっぷりに可笑しくなって思わず笑みがこぼれた。
「その時はゼオンも連れて来なさいよ」
「断固拒否します」
笑顔のまま返答したのだった。
助けてもらった恩もあるし、少しだけなら会わせてあげようかな。
読んで頂きありがとうございます。




