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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第二章 奇想の魔術師
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宣戦布告

 ゼオンと二人で寝室を出た。


「何もしてないからね!」


 寝室から出てきたことを誤解されたくなくて先手を打った。


「何も聞いてませんが」


 ルイゼルは眉間に皺を寄せた。


「エリィ、落ち着いて。それより魔物は?」

「こちらです」


 ルイゼルに案内され王都が一望できる見晴らし台に到着すると顔は人型で体は猛禽類の巨大なハーピーのような魔物が空を羽ばたいていた。

 その背には皇太子と黒いフードの者が立っていた。


『フリーデン王国に告ぐ』


 頭の中に嫌なノイズが響いた。

 これはまさかテレパシー!?

 ゼオンを見上げると同じ事を考えていたのか驚いた顔のゼオンと目が合った。


『降伏するなら誰も傷つけないことを約束しよう。だがもし抵抗するというのなら…』


 人面鳥が羽を大きく広げ勢いよく閉じるとそこから竜巻が発生しあらゆるものを巻き込みながら通り過ぎていった。

 通り過ぎた先には町も村もないため人的被害は無いものの効果は凄まじかった。


『一刻だけ猶予をやろう。選べ。無血開城か死か』


 それだけ言うと皇太子は人面鳥と共に飛び立っていった。


「陛下の所に行ってくる」


 転移しようとするゼオンの袖を掴んだ。


「私も一緒に行きたい」


 見開かれた瞳には真剣な顔をした私が映っていた。

 ゼオンは目元を緩めると私の手を取り転移した。



 陛下の執務室に転移すると陛下は神妙な面持ちで窓の外を眺めていた。


「陛下。どうされますか?」


 ゼオンの問いにおもむろに振り返った陛下の顔は想像とは違いとても穏やかだった。


「お前はどうしたい?」


 陛下の返しにゼオンは戸惑いの色を見せた。


「私にはもうこの国を守れるだけの力は無いとメディーナに攻撃を受けた時に痛感した。この国を守れるとしたらゼオン、お前の魔術とエリィちゃんの光魔法だけだろう」

「俺は…」


 ゼオンは私を一瞥すると躊躇した。

 メディーナに傷つけられ死にかけた時の事を思い出しているのかもしれない。


「前にも言ったけど私はちょっとやそっとじゃ傷つかないから。傷ついたって今もこの通り元気だし」


 無い腕の筋肉を見せるようにマッスルポーズを取るも何故か三人から訝し気な表情を向けられた。

 信用ゼロですか!?


「わかってるの!?無血開城なんかしたら私はあの男の側妃にさせられるかもしれないのよ!それでもいいの!」

「いいわけないでしょ!エリィは誰にも渡さない!」

「ゼオン…」

「いやいや、お前達、一番に考えなければいけないのは民の事だからな…」


 お互いの手を握り合い見つめ合っていると呆れた陛下に窘められた。

 そうでした…。


「陛下に問われた時から俺は戦うつもりでした。ガレフロナ帝国に支配されればこの国の民が隷従させられるのは目に見えて明らかですから。ただ、エリィを参戦させるのは…」


 ゼオンは不安そうに私を窺った。


「何言っているのよ!私が参戦しなくて誰がこの戦争を収束させるっていうのよ!あの気持ち悪い人面鳥を元に戻せるのはヒールライトが使える私だけなのよ!」


 人差し指を激しく振りながら怒鳴り散らすと迫られたゼオンは小さくなった。


「聞いてる!?」

「聞いてます!」


 こんな私達を二つの温かい眼差しと呆れた眼差しが注がれた。


「ゼオンはエリィちゃんの尻に敷かれそうだな」

「最近のエリィは令嬢らしさが欠けているのが心配で…殿下が苦労しそうです」

「あれくらい活気のある方が国も明るくなって良いと思うぞ」

「陛下、甘やかさないでください…」


 私がゼオンの胸倉を掴んで揺すり始めたところで父が止めに入った。


「ゼオン、ガレフロナ帝国の宣戦布告を受けて立つのだな?」

「はい」


 ゼオンは服を正すと意志を示した。


「ならば全権をお前に委ねよう。宰相、皆に通達を」

「承りました」


 私を羽交い絞めにしながら父が返事した。

 締りが悪いのでとりあえず離してもらっていいですか?

 父が執務室を出ていくとゼオンも準備のため私の手を取り部屋を出ようとした。


「ゼオン。無事に片付いたら王の座をお前に譲ろうと思う」


 陛下の言葉に私もゼオンも振り返った。


「エリィちゃんとの結婚が済んだら話をしようと思っていたが、今回の問題を片付けられたら皆もお前の事を認めるだろう」


 陛下は優しく微笑んでいたがゼオンの眉間には皺が寄っていた。


「そろそろ私を楽にしてくれ」


 ゼオンの握る手が強まった。

 私は黙って成り行きを見守っているとゼオンが目を閉じて深呼吸をした。


「これが片付いたら俺がこの国を守ってやるから父さんの墓参りでも行って来いよ。じいちゃん」


 ゼオンはそのまま私を連れて部屋を出たが私は見てしまった。

 陛下が目頭を押さえている姿を。


 回廊を歩くゼオンとの会話はなかった。

 色々気持ちを整理したいのだろうと察し黙って隣を歩いているとゼオンが立ち止まった。


「エリィ。俺と共に戦ってくれるか?」


 そんなの答えは決まってる。


「私がどういう役職か忘れたの?」


 腰に手を当てて得意気に胸を張った。


「ゼオン王宮魔術師の助手が師匠を助けないでどうするの」


 ウィンクするとゼオンが私を抱きしめた。


「ゼオンが地上を守ってくれるなら人面鳥は私が何とかする…だから私を頼って」

「エリィ。これが終わったら結婚しよう」

「結婚?する予定だったよね?」

「言葉にした方が叶うと思って」


 有言実行ってやつですね。


「じゃあ新婚旅行にも行きたい!」

「どこでも好きなところに連れて行ってあげるから行きたい場所考えといて」


 挙手をする私の顎を持ち上げてキスを交わした。

 長いキスの後、唇をゆっくり離しながらゼオンが呟いた。


「ちなみに助手の設定っていつまで続けるつもりなの?」

「多分一生かな?」

「そっか。じゃあ結婚したら『ゼオンの愛妻』って役職に昇格でもさせようかな」


 頬が引きつった。

 そんな恥ずかしいプレート着けて歩いたら王宮中、いやフリーデン王国中、いや世界中の笑い者になること間違いなしだ。



 約束の時間になり全戦力がゼオンの指揮の下配置についた。

 各国の要人達はゼオンが事情を説明し転移の術で各国へと送り帰した。

 人面鳥は数分前から再び姿を見せ、空を旋回し始めた。

 もちろん背中に皇太子と黒いフードの魔術師を乗せて。


『どうやら死にたいらしいな。ならば望み通りにしてやろう』


 頭の中に嫌な声が響くと人面鳥は竜巻を王都目がけて放った。

 まだ全員避難しきれていない町から悲鳴が上がるも間一髪でゼオンが巨大なバリアを展開し竜巻を防いだ。

 それを合図に私は箒に跨った。


「エリィ!駄目だ!」


 少し浮いたところでゼオンに止められた。

 人面鳥は私が何とかするって話したよね?


「スカートだ!」


 そっちかい!

 メディーナとのバトルの後、陛下と父からスカートでの飛行禁止令が出ていた。

 しかしこんな事もあろうかと非常時のために対策しておいたのだ。


「大丈夫!履いてますから!」


 スカートを捲り上げ体育用短パンをお披露目した。

 体育用の短パンなんてあるのか?って…特注で作ったに決まっているでしょ。

 全騎士団は一糸乱れぬ動きで一斉に顔を背けた。

 集団行動のパフォーマンスでも見ているようだ。

 ゼオンの訓練の賜物か?

 当のゼオンは待ったの手を伸ばしたまま固まっていた。


「スカート脱いだ方がいい?」

「そのままでいいから!」


 スカートを脱ごうとすると真っ赤な顔のゼオンがすかさず止めた。

 体育用の短パン履いてるから脱いでも問題ないのだが…この世界の人間に生足は刺激が強すぎるのかな?

 色気のないただの短パンなのに…。

 赤い顔のゼオンを残し改めて空へと飛び立った。


 この時の私は知らなかった。

 ゼオンが全騎士団に私の生足を見た奴は覚悟しろと脅していたことを。



 


読んで頂きありがとうございます。

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[一言] とりま継母だけは追い出してくれ!
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