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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第二章 奇想の魔術師
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迷惑な手紙

 安定してヒールライトを放てるようになって二日が経った。

 ゼオンに報告したいが要人の接待に追われて忙しくしているところに手紙を出すのも憚られた。

 こういう時、携帯電話があればちょこっと報告して終われるのに…!

 そこで私は閃いた。

 テレパシーみたいな魔術ってないのかな?

 しかも電話より優れているのは秘匿事項も文章に残さず声も漏らさずやり取りが出来るということだ。

 素晴らしい!

 早速取り掛かることにした。


 魔術書に目を通して数刻が経った。

 わかっていたさ…。

 テレパシー、以心伝心などの項目がないということは…。

 テレパシーはそもそも超心理学にあたる。

 つまり説明不可能な精神現象ということだ。

 このエリアーナ様が使い物にしてやろうじゃないの!

 姿の無い敵に挑戦状を叩きつけたのだった。


 めぼしい項目は魅了(チャーム)の術などが載っている精神に作用する欄と魔力供給のように魔力を介する欄である。

 携帯電話は基地局からの電波を受け取って使用している。

 人間を媒体にするなら…やっぱり魔力か?

 魔力供給は相手の魔力を受け取り使用することが出来る。

 相手の精神に入り込む魔力を渡せばいいのか?

 全くわからない…。これはお手上げか?

 天を仰いだ。

 そういえばゼオンは魔力で人を判断出来ると言ってたけど…私もわかるようになるのかな?


異母姉様(おねえさま)、庭でお茶でも飲みませんか?」


 突然フィリスが顔を覗き込んできた。

 驚いてひっくり返るところを何とか踏みとどまった。


「扉くらい叩きなさいよ!」


 思わず怒鳴ってしまった。


「叩きましたけど返事がなかったんです!」


 フィリスが頬を膨らませた。

 どうやら随分集中していたようだ。


「それは私が悪かったわ。折角のお誘いだし行くわ」


 不貞腐れていたフィリスの顔が輝いた。

 あ、これはもしかして…。



 フィリスと庭に出ると予想通りエドワードがお茶をすすっていた。

 恐らく仲の良いところを私に見せつけて羨ましがらせたいのだろう。

 ゼオン一筋の私が羨ましがると思っているのか?浅はか過ぎる…。


「はい、エド様」


 席に着くと早速フィリスは手で摘まんだ菓子をエドワードの口元に近付けた。


「リリィ、今はちょっと…」


 私は見ていないフリをしてお茶をすすった。


「いつもは食べてくれるじゃないですか…」


 フィリスは上目遣いで悲しそうにエドワードを見上げた。

 いつもこんな事してんのかい!

 そんな私も人の事は言えないが…。

 ゼオンなら人前でも平気でやりそうだ。

 むしろ見せつける為に指まで舐めてきそうだ!


 エドワードは視線を私に向けた。

 私はお構いなくの意味で微笑んで返すと、エドワードは渋々フィリスの手の菓子をくわえた。


「そういえば異母姉様(おねえさま)お聞きになりました?」


 見せつけに成功したフィリスは機嫌良さげに尋ねてきた。


「今、王宮で噂になっているのですが…」

「リリィ!」


 エドワードが声を荒げた。

 驚いたフィリスは泣き出しそうだった。


「何かあったのですか?」


 尋常じゃないエドワードの様子に嫌な予感がした。


「…いや…エリアーナが気にする話ではない…」


 私から視線を逸らすエドワードに違和感があり過ぎる。

 私はフィリスを見た。

 私の顔が怖かったのかフィリスの肩が跳ね上がった。


「フィリス…続きを言って」


 フィリスは目を泳がせながらオドオドしながら答えた。


「ゼオン様が何とか帝国のお姫様と恋仲だって…噂が…」

「エリアーナ、殿下は接待で第八皇女殿下と関わっているだけできっと何かの間違いだ」

「間違いじゃないわ!だってゼオン様の寝室に…」


 エドワードがフィリスを睨んだ。

 フィリスも流石に失言したと思ったのだろう。両手で口を塞いで私を窺い見た。


「エリアーナ…」


 俯いて反応の無い私を心配したエドワードが私の頬に手を伸ばしてきた。

 私はそれを拒むように顔を上げ深呼吸をした。

 ゼオンは何があっても自分を信じろと言っていた。

 大丈夫。本人から直接聞いたわけではないから。


「私はゼオンを信じています」


 微笑むとフィリスとエドワードは痛々しそうに私を見つめた。


「お茶、美味しかったです。ご馳走様でした」


 私は席を立ち自室へと戻った。



 自室に戻るとベッドに寝転がった。

 『だってゼオン様の寝室に…』フィリスの言葉を打ち消すように目を強く瞑った。

 ゼオンを信じているとは言ったが不安を消すことは出来ない。


「ゼオンと話がしたい…」


 そうだ!テレパシーが出来るようになれば!

 私は起き上がると魔術書が置かれている机に向かった。

 魔術書は庭に行く前と同じように置かれていたが少しだけ様子が違っていた。

 魔術書の上に置かれた差出人のわからない一枚の封筒…。

 裏を返すと信じられない封蝋を目にした。


「この印璽(いんじ)って…ガレフロナ帝国の…?どうして私の机の上に?」


 誰がこの封筒をここに置いたのだろう…。

 私は恐る恐る封を開けた。

 手紙は私宛だった。

 そこには二日後にお忍びで外出する予定なので私に会いに侯爵邸を訪ねたいと書かれていた。

 差出人は…ウィルビン・レメシェフ。


「嘘でしょ…」


 下ろした手から手紙が滑り落ちていった。



 夕食時、私は継母を窺った。

 父は要人の接待で忙しく最近は夜中の帰宅か泊まりになることが多く不在である。

 いつもは父がいないと食事は部屋で取るのだが、継母がエドワードを晩餐に招いたため強制参加となった。

 しかし今日は継母に話があったので都合が良かった。

 継母はフィリスやエドワードと会話を楽しんでいて機嫌が良かった。

 話に区切りがついた隙に皇太子の件を切り出した。


継母様(おかあさま)、ガレフロナ帝国の皇太子殿下の手紙が部屋の机に置かれていたのですが何かご存じでしょうか?」


 継母は眉を寄せた。


「私が知るわけないでしょ。皇太子殿下は何と仰っているの?」

「二日後にお忍びで当家を行啓あそばされたいとのことです。それで準備なのですが…」

「皇太子殿下って格好良いのですか?」


 フィリスが割って入ってきた。

 嫌な予感しかしない…。

 返答に困っていると何を勘違いしたのかフィリスが頬を膨らませた。


異母姉様(おねえさま)はずるいです!私も皇太子殿下にお会いしたいです!」


 ずるいって何が!?

 大体あんたエドワードの前でよく他の男に会いたいとか言えるな!

 顔をしかめると、同様に顔をしかめていたエドワードと目が合った。

 『お前が何とかしろよ!』と目で訴えると『どうすることも出来ない』とエドワードは軽く左右に首を振った。


「そうね。フィリスも皇太子殿下と顔見知りになっておくといいかもしれないわね」


 継母がフィリスに微笑むとフィリスの目が輝いた。

 これは強制的に参加させろということですね…。

 だが一人で会うよりも誰かがいた方が下手に手出しできないから安全かもしれない。

 マナーに至っては地雷を踏む恐れがあり全く安全ではないが。


「それで準備なのですが…」

「お忍びと仰っているのでしょう?だったら仰々しくせず最低限のもてなしでいいでしょう。あなたが対応なさい」


 先ほどフィリスに邪魔をされた続きを進めようとすると継母は間髪入れずに返答した。

 本当に似た者同士だな!


「しかし相手は皇太子殿下ですよ。最低限というわけには…」

「大事にして皇太子殿下が当家に訪問されていることを知られる方が問題でしょう。あとはあなたの好きになさい」


 継母はこれ以上話す事はないと話を断ち切った。

 私は席を立つと食堂を後にした。



「エリアーナ」


 階段を上ろうとしてエドワードに呼び止められ振り返った。


「あいつには伝えないのか?」


 近くまで来たエドワードは声を潜めた。

 ゼオンの事を考え胸がズキリと痛んだ。


「殿下は忙しいと思いますので自分で対応します」


 少し俯き加減で答えるとエドワードのため息が聞こえてきた。


「ならば当日は私も参加するよ。これでも王子として他国の貴賓への対応なども勉強してきたからな」


 顔を上げるとエドワードが微笑んでいた。


「ありがとうございます。とても心強いです」


 微笑み返すとエドワードが息を呑んだ。


「しかし…まずはフィリスに最低限の礼儀を当日までに叩き込んでください」


 真顔の私にエドワードの頬が引きつったのは言うまでもなかった。





読んで頂きありがとうございます。

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[一言] ヒロインのあほ加減にイライラ・・・
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