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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第二章 奇想の魔術師
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師匠からの宿題

 皇太子が私の手を離すとゼオンが第八皇女を連れてこちらにやって来た。


「楽しい時を過ごされたようですね」


 皇太子がゼオンに声をかけた。


「ええ。有意義な時間を過ごせました」


 私の胸がズキリと痛んだ。


「それは良かった。私達も楽しませてもらえましたよ。ねえエリィ」

「ええ…」


 沈んだ気持ちを隠すため作り笑いを浮かべた。

 ゼオンには気付かれたかもしれない…。


「そういえば…フリーデン王国内の治安があまりよろしくないようですが我が帝国で協力出来ることがあれば仰ってください。食料についてとか…」


 皇太子は不敵な笑みを浮かべた。


「お気遣いありがとうございます。治安で思い出しましたが山賊に盗られた荷は全て届きましたか?」


 ゼオンは表情を崩さず切り返した。


「…ええ。無事に届いたとの報告を受けています」


 皇太子のにこやかな表情からは何も読み取れなかった。


「それは良かったです。エリィが疲れたようですので一度別室に下がらせて頂きます」


 ゼオンは私をエスコートするとその場を後にした。



 別室に入り扉を閉めるとすかさず口を開いた。


「どうしてガレフロナ帝国が食糧難の事を知っているの!?」

「裏切り者が流したか町を見て感じたか…。でも…エリィの魔術のお陰で解決したことまでは知らないようだ…」


 ゼオンは顎に手をあてて思案していた。


「山賊の荷物もアテリア草を抜いて返したのに全て届いたって言ってた…」

「まあ知っていたとしても馬鹿正直にアテリア草が入ってなかったとは言えないだろう。一つだけ分かったことはアテリア草を受け取る予定だった者はアテリア草の負の効果を知っていて欲しいと望んでいたということだ。アテリア草をやましい事で使用する気がなければ入っていなかったと申請するだろうからな」


 思案顔のゼオンを心配そうに見上げているとゼオンが私に視線を落とした。


「ところでエリィ…」


 ゼオンが私の手を取った。


「随分と皇太子に気に入られたようだね」

「ただの戯れだよ。ゼオンだって皇女殿下ととても仲が良さそうだったけど」


 不貞腐れた物言いをするとゼオンが嬉しそうに笑った。


「エリィ、嫉妬してくれたの?」


 ムッとなってそっぽを向いた。

 するとゼオンは私の手を持ち上げて手の甲を…舐めた!


「消毒」


 満面の笑みを浮かべるゼオンに真っ赤な顔で口をパクパクさせた。

 と同時にふと思った。

 ゼオンさん気付いていますか?今、あなた皇太子と間接キスをしたんですよ…とはとても言えなかった。



 初日の夜会が終了し、私は魔法の特訓のため屋敷の庭に出て来ていた。


 各国の要人達は初日の夜会後に帰国する者もいれば七日後に開かれる夜会まで残る者もいる。

 ガレフロナ帝国は最終日までフリーデン王国に残ることになり、皇太子との接触を心配したゼオンは私に自宅待機を言い渡した。


「エリィに魔法の課題を出そうと思うんだけど…やれる?」


 魔法の課題ですと!?

 私の目が輝いた。


「ヒールライト。あれを習得して欲しい」


 ヒールライトって『精霊のきまぐれ』で出たあれですか!?


「『精霊のきまぐれ』は本来発動者が出せる魔法を使っているから威力は上乗せされているけど訓練すれば習得できるはずなんだ」


 『精霊のきまぐれ』を再現する…。

 考えたこともなかった。


「癒し魔法の基盤が水魔法になっている理由を知ってる?」


 突然の質問に首を振った。


「以前にも話したけど光魔法を使える者は少ない。使えたとしても上位魔法は膨大な魔力を必要とするから水魔法で代用しているんだ」

「つまり本来癒し魔法は光魔法ってこと?」


 ゼオンが頷いた。


「エリィの光魔法の使用頻度を見ても、周囲の精霊の数を見ても魔力量が高い。だから光魔法を基盤にした癒し魔法が使えると思うんだ」


 アテリア草が再び誰かの手に渡ったということはメディーナもどきの再来も有り得る。

 その時効果を消すのは今のところヒールライトしかない。

 ゼオンは考え込む私を黙って見守った。

 これが成功すれば歴代稀に見る治癒魔法の使い手か。

 面白い。私の書籍『魔術とは発想である』に新たなページが追加できそうだ。


「ふふふふふ…」


 不敵な笑みがこぼれた。

 少し引き気味のゼオンに胸を張って答えた。


「師匠!その課題果たしてみせましょう!」



 そして今に至る。

 まずはヒールライトの分析から始めた。

 ライトというくらいだから光魔法がメインというのは解る。

 問題は癒し魔法には治癒魔法と治療魔法があり、どちらも水属性の魔法ということ。

 治癒魔法は光魔法を必要とするため癒し魔法の中でも上位にあたる。

 一方治療魔法は水魔法だけを必要とする分、傷を治すなど軽い症状にしか効果はない。

 ここから考えても光魔法は癒しの力を強めていると考えられる。

 しかし光魔法だけでは浄化しか出来ないことは実証済みだ。


「となると割合の問題か?」


 水を少なく光を多くして放ってみた。

 結果。うん。よくわからない。

 だってアテリア草に侵されている人がいないから効果があるのかどうかも不明だし、そもそもこれがヒールライトなのかもわからない。


異母姉様(おねえさま)は相変わらず魔法馬鹿ですね」


 頭を悩ませていると背後から嘲笑う声がした。


「リリィ、言葉遣いには気を付けなさい」

「はーい。エド様」


 振り返るとフィリスとエドワードがこちらに向かって歩いてきていた。


「久しぶりだな、エリアーナ」

「ご無沙汰しております。エドワード公」


 カーテシーをするとエドワードがフィリスに挨拶の基本をよく見ろと目で訴えていた。

 フィリスは口を尖らせた。


「お二人はどうしてこちらに?」

「最終日の夜会に参加しようと思ってね。フィリスも久しぶりに実家でゆっくりしたいだろうし」


 エドワードは不貞腐れるフィリスの腰に手を回した。

 抱き寄せられたフィリスの機嫌が少し直ったようだ。

 お熱いことで。


「ところで何の魔法を練習していたんだ?」


 エドワードの質問にゼオンからの課題を話した。


「あの魔法か…」

「あの魔法キラキラしていて綺麗でしたよね。何か温かい風に包まれてとても気持ち良かったですし」


 フィリスは可愛い仕草でエドワードを見上げた。

 温かい…風?


「フィリス!今、風って言った!?」


 突然勢いよく両肩を掴まれてフィリスは目を丸くした。


「え…ええ。光が通り過ぎた後にキラキラした風が全身を包みましたけど…」


 思わずフィリスに抱きついた。

 長年フィリスの傍若無人っぷりに悩まされてきたが…まさかフィリスの存在を有難く思う日が来るとは。

 抱きつかれたフィリスは不快そうに顔を歪めていたけどね。


「二人とも今から魔法を出すからあの魔法と同じかどうか教えて!」


 興奮していた私にエドワードが敬語を使うべき相手とか頭になかった。

 私は先ほどかけた光属性の多い治癒魔法に風魔法を組み込んで二人目がけてかけた。


「う~ん。何だか風が弱い気がします。それにもっとキラキラしていたような…」


 素直に分析してくれるフィリスが可愛い。


「もう一回!」


 今度は風が強すぎてフィリスとエドワードの髪が凄いことになってしまった。


異母姉様(おねえさま)!ふざけているの!」

「ごめん。ちょっと威力が強すぎたみたい…」


 私は至って真剣です。

 エドワードは文句も言わず静かに髪を直していた。


「お願い!もう一回付き合って!」


 手を合わせて頼むとフィリスは頬を膨らませながらも最後まで付き合ってくれた。

 おかげでヒールライトの習得に成功した。



 終わった頃には二人の髪がヘビメタみたいになってたけどね。





読んで頂きありがとうございます。

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