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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第二章 奇想の魔術師
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ダンス時間は拷問です

 私は今、とても憂鬱になっていた。

 この後の夜会で絶対に皇太子と顔を合わせることになるからだ。

 出来る事なら知らないフリに協力して欲しい。

 王宮の一室で夜会用のドレスに着替えながら皇太子対策を練っていた。


 ゼオンが用意した夜会用のドレスはライトブルーのスレンダーラインで所々に濃い青の刺繍が施されていた。

 いつも思うがどうやってサイズを把握しているのだろうか。

 まさかあの過剰なまでのスキンシップって…。

 一歩間違えれば犯罪ものだぞ。

 ゼオンだから喜んじゃうけど。


 部屋の扉が叩かれゼオンが入室してきた。

 今日のゼオンはサファイヤブルーと黒をベースにした衣装だった。

 普段から黒と白が多いゼオンだが…青も似合う!

 魅入っているとゼオンが困った顔を浮かべた。


「俺の想像以上で誰にも見せたくないな」


 この男はいつも嬉しい言葉かけてきて!

 喜んでしまうだろう!!

 真っ赤になって俯く私の頬に手を添えた。


「もっとよく見せて。前回は一番に見られなかったから」


 もしかしてまだエドワードに先を越されたこと根に持ってますか?


「しつこい男は嫌われるよ」


 ジト目で睨むとゼオンは可笑しそうに笑った。


「エリィに嫌われるのは嫌だけどエリィの全てを独り占めしたいし…どうしたらいい?」


 私にそれ聞く!?


「今のままでいいと思います…」


 これ以上の言葉が見つからなかった。



 ゼオンにエスコートされ会場に着くと早速皇太子が声をかけてきた。


「王太子就任お祝い申し上げます。ガレフロナ帝国皇太子のウィルビン・レメシェフと申します」

「こちらこそ遠いところからお越し頂きありがとうございます。ウィルビン皇太子殿下。ゼオン・ルーレン・フリーデンと申します」


 二人はにこやかに握手を交わしていた。

 私は皇太子の後ろに控えているローズレッド色の髪の女性を窺い見た。

 幼さは残るものの気品溢れる様は一流の教育を受けてきたことを物語っていた。


「彼女はガレフロナ帝国の第八皇女のエカチェリーナです」


 皇太子は私の視線を感じて後ろに控える皇女を紹介した。


「ご挨拶申し上げます。エカチェリーナ・レメシェフと申します」


 美しい所作のカーテシーだった。


「私の婚約者を紹介します」


 ゼオンが少し横にずれて挨拶の場を整えた。

 他人のフリ他人のフリ他人のフリ…。

 呪文のように唱えて平静を保った。


「ガレフロナ帝国の皇太子殿下と第八皇女殿下にご挨拶申し上げます。ウォルター侯爵家一子のエリアーナ・フロレンス・ウォルターと申します」


 カーテシーをすると穏やかな笑みを浮かべていた皇太子の笑みが満面のものへと変わった。

 不吉な予感!!


「やっとあなたの名前を聞くことができました、エリィ」


 カーテシーをしたまま固まってしまった。

 斜め前から発せられる空気が禍々しかったからだ。


「皇太子殿下と()()()が知り合いだったとは初耳です」


 一見穏やかな声だが私にはわかる。

 いつもより少し声のトーンが落ちている。

 しかも愛称部分が協調されている。


「エリィがあまりにも魅力的な女性だったので声をかけずにはいられませんでした。エリィ、以前にも話しましたがどうか私の事はウィルと呼んでください。お茶の約束、楽しみにしていますね」


 終わった…。

 地雷が多すぎてどこから対処していこうか…。

 殺気を放つゼオンを残して皇太子は皇女を連れてその場を離れた。


「エリィ…」

「はい!」

「説明してくれるよね?」


 ゼオンが皇太子の後姿から視線を逸らさなかったため表情が確認できない。


「黙っているつもりはなかったの…私も今日あの人がガレフロナ帝国の皇太子だってこと知ったから…」


 しょんぼり項垂れていると私の頭に置かれた手が優しく頭を撫でた。


「俺はエリィを信じているよ」


 顔を上げると先ほどまで放っていた殺気を微塵も感じず優しく微笑んでいた。


「嫉妬しなかったと言えば嘘になるけどエリィは相手にしなかったんでしょ?」

「もちろん!」


 何度も力強く頷いた。


「でもこれからはちゃんと報告して欲しいな。言ったでしょ。エリィの全てを独占したいって」


 私の額にコツンとゼオンが額を合わせた。


「ごめんなさい…」


 上目遣いで謝るとおでこにキスされた。

 ちょっと!誰かに見られでもしたらどうするの!?

 焦る私を余所にゼオンは笑みを深めた。


「それとどこでどう知り合ったのかはこれからじっくりと聞かせてもらおうかな」


 にっこりと笑うゼオンさんがとても怖いっす…。

 この後のダンスの時間はゼオンの追求タイムとなったのだった。



 ようやくゼオンの追求が終わりゼオンと共に飲み物を取りに向かった。

 追求し終えたゼオンは満足な笑みを浮かべ、追求された私は疲れ切っていた。

 何故疲れたかって?

 ゼオンが所々で不穏な空気を放つからに決まっているでしょう!

 人攫いのくだりに至っては『人攫いさん逃げてーーー!』と思わずにはいられなかった。

 おかげで飲み物が五臓六腑に染み渡るよ。


「お二人ともとても素敵でしたよ」


 声をかけてきたのは絡んでくるだろうと予想していた人物だった。

 あの拷問みたいな時間を素敵とかお前の目は節穴か!


「私とも一曲踊って頂けますか。王太子殿下もよろしければエカチェリーナと如何ですか?」


 私への誘いに疑問符が付いていない気がするのですが強制ってことですね。

 感情を押し殺し笑顔の仮面を貼り付けた。


「喜んで」


 喜んではいないが差し出された手を取った。



 ダンスが始まると流石皇太子というべきだろう。

 完璧なリードである。

 こちらに向けてくる熱い視線も演技とわかっているが一般のご令嬢なら間違いなく惚れてしまうだろう。


「あの後、待ち人とは会えましたか?」


 断りの理由に使ったとわかっているのに白々しい。


「ええ。無事に会うことが出来ました」

「それは良かった。あなたを一人残して帰してしまったことを心配していたので」

「お心遣い痛み入ります」

「エリィ、私と二人の時はもっと気楽に話して下さい。王太子殿下と話をされる時みたいに」


 人前ではゼオンと話す時も気を遣ってはいたが…どこかでボロが出ていたようだ。


「ガレフロナ帝国皇太子殿下にそのような振る舞いは致しかねます」

「エリィが気楽に話してくれるならフリーデン王国とも友好的な関係を築けそうなんだけどな」


 太子と付く奴らはどうして私の言動一つで国家の命運を左右しようとするのだろうか。

 簡単に国を潰さないで欲しいものだ。


「エリィは私の妃になるつもりはない?」


 ド直球だな!


「お誘いは嬉しいですが私はゼオン王太子の婚約者ですので皇太子殿下の側妃にはなれません」

「ウィル」

「え?」

「私の愛称。教えたよね」


 面倒くさいな!

 引きつりそうになる頬を堪えて笑顔を作った。


「それにウィル殿下には沢山の美しい側妃の方々がいらっしゃるのに私を傍に置かれる必要はないかと…」

「側妃ではなく皇太子妃にならないかと誘っているのだが?」


 皇太子妃!?何で私に??


「ウィル殿下の側妃の方には元王女殿下もいらっしゃるのに他国の一侯爵家令嬢が皇太子妃になど、殿下の威信に関わります」

「ならば側妃を全員廃妃させよう」


 怖い事言うな!

 何もしていないのに廃妃ってどんだけ横暴だよ!

 それで私が皇太子妃になってみろ。

 世紀の大悪女の誕生だよ!


「そんな事をすれば帝国内が荒れてしまいます。それに私には添い遂げたい婚約者がおりますのでお戯れはそれくらいになさって下さい」


 皇太子は面白そうに笑った後、視線を横に向けた。


「でも肝心の王太子殿下がエリィを好きでいてくれるかどうか…」


 視線の先には楽しそうに話をするゼオンと第八皇女の姿があった。

 大丈夫。ただ踊っているだけだから…。

 胸に走った痛みを誤魔化すように自分に言い聞かせた。


「エリィ、もし辛いならいつでも私のところに来るといいよ。…慰めてあげるから」


 耳元で囁かれた言葉に悪寒が走った。

 曲が終わり皇太子は私の手を取りキスを落とした。

 ゼオンと同じ仕草でも不快感だけが残ったのだった。





読んで頂きありがとうございます。

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