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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第二章 奇想の魔術師
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普通のイケメン

 就任式を控え各国の要人達も続々と王都入りしていた。

 今、王都はお祭りのような賑わいをみせており、王宮は準備に追われている状態だ。

 王太子妃であればその準備も私の仕事になるのだが、婚約者では手を出すことができないため私は屋敷で自分の準備をしている。

 といってもほとんどのドレスはゼオンが用意したものになるためもう何もすることがないのだ。


「ということで街に出ようと思うの!」


 マリーは呆れ顔だ。


「今は賑わっていて危険なので街に出るのは無理ですよ」

「大丈夫よ。私にはこれがあるから」


 ドヤ顔で花のネックレスを見せた。

 印籠再びである。


「旦那様の許可がなければ無理ですよ」


 もちろん父は就任式の準備で尋常じゃなく忙しいためほとんど屋敷にいない。

 ダメもとで執事の元に向かった。


「駄目です」


 即答だった。


「私の身の心配なら大丈夫よ」


 花のネックレスをチラつかせたが全く効果なし。

 強固なバリアの前に何でみんな跪かないの!?


 諦めて部屋に戻ろうとすると騒ぎを聞きつけた継母が姿を見せた。

 執事が事情を説明すると継母はくだらないと私を一瞥した。


「本人が大丈夫だと言うのだから行かせなさい。ただし何があっても自分で責任を取りなさいよ」


 フィリスがエドワードの元に行ってからほとんど関わることがなかった継母の意外な言動に驚いた。

 継母は踵を返しその場を立ち去った。

 執事も驚いていたが継母の許可が下りたため拒否することも出来ず騎士を護衛に付けることで同意した。

 何か企んでいるのだろうか…。

 継母の意図はわからなかったが折角下りた許可だし堪能させてもらおう。

 私は街へと繰り出した。



 街は予想通りお祭り騒ぎだった。

 いつもはない出店から路上パフォーマンスまで活気に満ちていた。

 メディーナに壊され修理中の個所も所々見受けられるが再生に尽力した国民達を称賛したい。


 しばらく街を散策しているといつの間にか護衛の騎士とはぐれてしまった。

 別に護衛いなくても大丈夫だけど一応探すか。

 騎士を探し回っていると路地から腕が伸びてきて引きずりこまれた。

 相手はナイフを持っており「傷つけられたくなければこっちへ来い」と人攫いお決まりの決まり文句を吐いた。


 路地裏上等!魔術師エリアーナ様を舐めるなよ!


 引きずられながら魔術を唱えた。

 すると目の前の壁に紋章術が描かれ蔦が伸びると人攫いを攻撃した。


「なんだこの蔦は!?」


 次々に現れる蔦に絡まれて身動きの取れなくなった男は蔦の中で暴れた。


「おーほほほほほほ!私に手を出すとどうなるか思い知ったようね!」


 声高々にお嬢様調で笑ってみた。

 これ一度やってみたかったんだよね。


「あのお姉ちゃん怖い」

「しっ。見ちゃいけません!」


 通りかかった親子や町民達が訝しげな表情で蔦だらけの路地を一瞥し通り過ぎていった。

 なんだか私の方が悪役になってしまった。


「とりあえずあんたはこのままお縄を頂戴しちゃうから」


 近くに警備兵がいないか探そうと街に目を向けると背後でザクッと何かを切る音が聞こえ振り返った。

 人攫いは持っていたナイフで蔦を切り脱出を試みていた。

 逃がさないと蔦をさらに増殖させるも一足先に人攫いが蔦から抜け出し反対方向へと駆けた。

 蔦が人攫いを追撃すると「グワッ」小さい悲鳴が聞こえた。

 蔦の威力を弱めるとうずくまる人攫いの前に赤い髪の青年が立っていた。


「大丈夫ですか?」


 青年は人懐っこい笑みを私に向けた。

 なかなかの顔立ちだがゼオンには及ばないといったところか。


「こいつを捕らえようとしていたみたいですが、警備兵に引き渡した方が良さそうですね」


 誰かが通報したのか警備兵が駆け付けた。

 青年は警備兵に事情を説明すると人攫いを引き渡し、ゆっくりと私に近付いてきた。


「あの、ありがとうございました」


 私が青年にお礼を言うと彼は興味深そうに私を凝視した。


「貴族のご令嬢なのになかなかの魔術の使い手ですね」


 貴族ってバレてる!

 コンセプトは町娘なのに!

 着ている服を見下ろし確認するも完璧な町娘にしか見えない。

 それよりウォルター侯爵家の令嬢ってバレると街に出たことが父の耳に入ってしまうかも!

 ここはすっとぼける?それとも素直に頷く?


「私は町娘です」


 動揺し過ぎて出た言葉が英語の教科書に出てくるような「私はサムです」みたいな言い回しになってしまった。

 青年の目が点になったが、私の意図に気付いたのか口元に笑みを浮かべた。


「私はウィルと言います。よろしければあなたのお名前を教えて頂けませんか?」

「私はエリアー…」


 バカバカ!本名名乗ったらバレるでしょ!


「エリィ…です」


 相手が敬語のため思わず「申します」とか言いそうになってしまった。


「エリィ。良かったら街を案内してくれないかな?この国に来たのは初めてだから」


 やっぱり他国の貴族か。

 自国の貴族令息ならゼオンの企みで大々的に婚約発表をされた私の顔を知らないわけがないし、このレベルのイケメンなら社交界で騒がれないわけがない。

 何度も言うがゼオンよりは劣るけどね!

 これ以上関わってボロが出るとマズいので私の選択肢は断る一択である。


「ごめんなさい。人を待たせてしまっているので…」


 残念そうな演技をしてみた。


「そうですか…。ではまた後日お茶でもしましょう」


 お茶って私が誰かわからないのに…?

 紳士スマイルのウィルにある疑惑が浮かんだ。

 この人もしかして私の事知ってる?

 だとしたら就任式で会う可能性が高い。

 去って行くウィルの後姿を眺めながら嫌な予感がしていた。

 色々な男に絡まれたことを知ったゼオンに怒られるかもしれないという嫌な予感が…。



 就任式当日は朝から予定がぎっしり詰まっている。

 就任式の式典後、バルコニーから国民へ王太子のお披露目。

 そして夜には各国の要人を招いて夜会が開かれる予定となっている。


 婚約者枠で就任式の式典に参加出来ることになった私は参列する父の後ろに控えていた。

 おしとやかに振舞ってはいるが心の中は小躍りして浮かれていた。

 普段のゼオンももちろん素敵だが正装となると話は別だ。

 正装姿で頭なでなでとかされたら…気絶する。

 妄想が止まらずにやけていたが、父の咳払いで緩んだ表情を引き締めなおした。


 必死に頬の緩みと格闘すること数分、各国の要人達が続々参列し始めた。

 何気なく眺めていると見覚えのある赤い髪の青年が入場し嫌な汗が噴き出した。

 しかも青年は各国の要人を差し置いて先頭に立った。

 それは招待された中で最も力のある国…ガレフロナ帝国の皇太子ということを意味していた。


 私は皇太子に見つからないよう父を盾にして観察を続けていると目が合ってしまった。

 皇太子は優しく微笑むとウィンクしてきた。

 周囲から見たら父にウィンクしているように見えるが…どうか父が気付いていませんように。

 祈りながらこっそり父を見上げると…めっちゃこっち見てる!!

 斜め後ろに向けられた顔は訝しんでいた。

 後でじっくり話を聞かせてもらおうかと父の目が語っている。

 別に悪い事してないし…ちょっと街をぶらついただけだし…。

 そうよ!私は何もしていない!

 堂々としていればいいのよ!

 人攫いだって…退治したんだし…。

 やっぱりマズいか?


 心の中で葛藤しているとゼオンが入場してきた。

 堂々と正装姿で歩くゼオンは割増で格好良い。

 見惚れているとゼオンと一瞬目が合いゼオンの口元が微かに緩んだ。

 参列者達もゼオンの微笑みに心を奪われたようだ。

 直に向けられた私はというと…。


 心臓撃ち抜かれた!!

 正装姿での微笑みとか反則だ!

 やっぱりカメラ作っとけば良かった!

 作り方さっぱりわからないけど!

 今度ホラー映画とかに出てくる念写とか出来る魔術でも探そ!


 悶えそうになるのを堪えて俯くと前に立つ父が小さくため息を吐いた。

 呆れられても関係ない!

 今日はゼオンをこの目に焼き付ける!

 そしていつか念写する!

 顔を上げてうっとりとゼオンを目で追っているとゼオンの奥に立つ皇太子の視線を感じた。

 え?何でこっち見てるの??

 一度俯き再び顔を上げても皇太子は私から視線を外さなかった。


 結局ゼオンの正装姿を堪能したいのにゼオンをガン見すると何故か皇太子と目が合うという最悪な時間を過ごしたのだった。


 ちょっと!念写失敗したらあんたのせいだからね!


 今度ゼオンに頼んで正装の一人鑑賞会をさせてもらえないか頼んでみようかな。

 ついでに頭なでなでも所望しておこう。





読んで頂きありがとうございます。

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