初めての言葉(ゼオン視点)
残酷な描写があります。
ご注意ください。
エリィと会場に入ると一斉に注目を浴びた。
ひそひそと話す奴らを一睨みすると全員視線を逸らした。
本当はエリィと離れたくないが王太子は席が決まっている。
エリィに余所見しないよう念を押すと席についた。
俺が席に着くと早速エリィに近付こうとする令息達がいた。
俺一色のエリィに近付くとか…どうやら痛い目に合いたいらしい…。
奴等の顔を覚えながら不敵な笑みで殺気を放つと令息達はそそくさと後退していった。
陛下が入場し長ったらしい話が始まった。
さっさと終わらせてエリィの元に行きたいのだが…。
俺の紹介が終わると陛下が俺に『本当に言うの?』という視線を送ってきた。
『あんたが嫌がらせで渡してきた仕事は全て片付けたんだから約束は守れよ』
という笑顔を返すと観念した陛下がエリィを紹介してくれた。
先ほどの令息達に視線を向けると肩を強張らせて真っ青な顔で俯いた。
エリィが俺の婚約者だと理解したようだし今回は許してやるか…二度目はないけどな。
陛下の話が終わりエリィの元に向かう途中でウォルター侯爵に声をかけられた。
他の人間なら無視したが義理父様には逆らいません。
「殿下、ご婚約おめでとうございます。私から一つお祝いを差し上げたいと存じます」
お祝い…?そのわりには侯爵が悲しそうなのは気のせいか?
「殿下から結婚の申し込みをされてからエリィが…」
侯爵が言葉に詰まった。
「あの?エリィがどうしたんですか?」
侯爵の様子が心配になり聞き返した。
「幸せそうで…」
「え?」
「殿下の口付けが嬉しかったようで今まで見たことがないような笑顔を見せるんです!」
とうとう泣き出してしまった。
「なので婚約したら口付けは許そうと覚悟を決めました…」
覚悟を決めたような様子ではないですが…。
それにしても…すでに無許可で二回も口付けしてしまっているのだが…。
後ろめたさを感じてしまった。
エリィとの楽しいダンスを踊ったあと、エドワードがエリィをダンスに誘った。
正直譲りたくなかったが先程喧嘩した内容を思い出し渋々エリィの手を離した。
エリィとエドワードの後姿を寂しく見つめていると袖が軽く引っ張られた。
視線を後ろに向けるとエリィの異母妹が瞳を輝かせて俺を見ていた。
ダンスに誘えって…嫌なんですけど…。
しかしダンスホールにいた方が二人の会話が聞こえるかもしれない。
嫌々だったが俺は異母妹をダンスに誘ったのだった。
ダンスの最中異母妹が何か話していたがエリィとエドワードが気になりそれどころではなかった。
「異母姉様は意地悪なんです」
エリィの事ばかり気にしていたからか異母妹はエリィの話をし始めた。
「異母姉様はすぐに怒鳴るしエド様に色目使うし…」
「へえ…」
最後の言葉に俺を纏う空気が冷えた。
「ゼオン様を紹介してと言ってもしてくれないし…」
俺の冷やかな空気にも気付いていないようだ。
「名前で呼ばないでくれる。俺、王太子なんだけど」
俺が声を発して初めて不穏な空気を察したのか異母妹の能天気な顔が引きつった。
「それとエリィの事を悪く言われるのは不快なんだけど。エリィは余程の事がない限り怒ったりしない。それに紹介ってなんで俺があんたと会わなきゃいけないの。そんな無駄な時間があるならエリィの為に使うよ。それと…」
震えて俯く異母妹を見下ろした。
「あんたじゃあるまいしエリィがエドワードに色目を使うことは絶対ない!」
最後は異母妹にというよりは自分に言い聞かせていた。
話は終わったとエリィの方に目を向けるとエドワードがエリィを抱き寄せた。
何してんだよ!!!!!
曲が終わるとすぐに異母妹を放置し二人の元に向かった。
しかし何を話していたのか尋ねて怒りが鎮まった。
エドワード、異母妹だけはやめておけ。
心の中で呟いた。
休憩がてら中庭に出た俺に侯爵公認の機会がやってきた!…と思ったのに!!
会場内の悲鳴に俺の方が叫びたくなった。
俺の機会を邪魔した異母妹はエリィの活躍により元の姿に戻り、メディーナの化けの皮も剥いだ。
俺にとって一番予想外だったのは箒が飛んできたことだ。
『術者の魔力の指示に従う命令を組み込んだ』…確かに組み込んだ。
組み込んだが…遠距離でも効果あるのか!?
エリィは驚く俺を放置して意気揚々と空を飛んでいった。
置いてけぼり感だけがその場に残った。
俺も箒作ろうかな…。
箒に屈服した瞬間であった。
エリィの指示でアテリア草の粉を根本に流し込んでいると突然根が反撃してきた。
バリアを張り作業していた全員を守ると一旦避難した。
エリィの様子が気になり上を見上げるとメディーナと話をしていた。
しかも話の内容が非常にマズい…。
俺は横目で侯爵の顔色を窺った。
しかもエリィは止めとばかりに
「あと軽いキスのつもりが長いキスになったり…強要されたり…」
それ一番言っちゃ駄目なやつ!!
話の流れから瞬時に口付けの事を言っているのだと悟った。
「殿下…」
「…はい…」
隣に立つ侯爵の気配が怖すぎてそちらに向けません。
「全てが片付いたら一度詳しくお話を聞かせてもらう必要がありそうですね…」
「…はい…」
これは『正座』でのお説教だけで済むだろうか…。
恐怖の?惚気話が済むとメディーナがエリィを集中攻撃してきた。
くそ!俺も箒があれば参戦出来るのに!
何も出来ない自分に不甲斐なさを感じているとエリィを捕らえた枝がゆっくり俺達にも状況が見えるように動いた。
俺の目の前に血が滴り落ちてきた。
「エリィ…?」
俺の目に信じられないものが映った。
エリィの胸から血が溢れ出ていた。
「エリィーーーーーーーー!!!!!」
戦慄が走った。
『彼女を助けなさい』
隣から声がして声の方に顔を向けると
「母さん…?」
生前と変わらない綺麗な笑顔の母が傍にいた。
すると突然頭の中に詠唱が浮かび上がり咄嗟に唱えた。
暗闇に包まれ術者以外の全ての動きが止まった。
「ど…どうしてそこに…?」
隣でエリィを見守っていた侯爵が驚きながら呟いていた。
侯爵の視線の先を見ると銀髪のエリィに似た女性がエリィの傍に立っていた。
もしかしてエリィの母親?
精霊は亡くなった者の魂と言われているが…。
次の瞬間、辺り一面に神々しい光が放たれ木が消えていった。
光が消えると空が白み始めていた。
エリィも傷が塞がったようで元気に箒を操っている…が!?
俺は咄嗟に呆けた顔で上を向いていた周囲の人間を睨みつけた。
連中は俺の尋常ではない殺気に気付き震えながら下を向いた。
「ほお、絶景だな」
隣でニヤニヤしながら上を向いている古狸がいた。
『見てんじゃねえよクソ狸』
俺と侯爵に射殺されんばかりの殺気を向けられた陛下は縮こまりながら下を向いた。
地上に降り立ったエリィは「トランポリンが…黒猫が…」と残念そうに呟いていた。
今度陛下にスカートでの飛行禁止令を発令するよう脅さ…お願いしなくては!!
俺は今、ウォルター侯爵邸の書斎で『正座』をしていた。
「約束を破ってしまい申し訳ありませんでした」
エリィに教えてもらった『土下座』も織り交ぜながら…。
仁王立ちで立つ侯爵がため息を零した。
「エリィからも話を聞きましたが、エリィは自分からしたんだと話していました」
そう俺は今、件の問題の謝罪をしているのだ。
「しかも口付けくらいで目くじらを立てるなと逆に叱られてしまいました」
侯爵は悔しそうに拳を握りしめた。
殴られる覚悟は出来ています…。
しかし侯爵は殴るでもなく俺の肩に優しく手を置いた。
「殿下…この苦しみはあなたの娘に婚約者が出来た時にわかるでしょう…」
不吉な予言を残されたのだった。
エリィの功績を称えるため謁見室に来ていた。
褒美を求められたエリィの返答は箒の返戻だった。
普通なら欲が出てもおかしくない場面でのまさかの願い。
魔法好きのエリィらしさに吹き出した。
箒が戻ったらエリィはきっと真っ先に空を飛びたがるだろう。
俺は陛下に進言するべく待ったをかけた。
エリィの可愛い殺気を背中に感じて思わず口元が緩まり陛下が怪訝そうな顔をした。
王宮上空の飛行の進言をするとエリィが今度はうっとりとした表情で俺を見つめた。
エリィの百面相に笑いを堪えるのに必死になってしまった。
俺の進言が通り、箒が運ばれるとエリィは箒に抱きついた。
やっぱりあの箒…折るか…。
頬擦りされる箒に嫉妬したのだった。
執務室に戻るとエリィから箒を奪った。
いい加減箒と離れてくれない?
不貞腐れているとエリィは俺を抱きしめた。
「私は誰よりも何よりもゼオンの事を一番愛してる」
エリィからの初めての愛の告白に感極まった。
こんな告白されたら…理性が崩壊する!!!!!
この後、お仕置きと称して口付けと触れ合いだけで我慢した俺を誰か称えてくれ!
ここまで皆様に読んで頂き嬉しく思っております。
続編を書く際はもっとエリアーナが活躍できるよう書いていけたらと思います。
またご意見で頂いた中途半端になってしまっている箇所に関しても、続編で繋げていけたらと考えております。
なるべく続編を書くよう努力したいと思っておりますのでお待ち頂ければ幸いです。
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。




