これは不可抗力です(ゼオン視点)
二話とも内容がエリアーナの話と重複しています。
それでも読んで頂ける方だけよろしければ読んでやってください。
エリィに結婚の申し込みをして翌日。
陛下の執務室を訪れていた。
「エリィに結婚の申し込みをして受け入れてもらえました」
え?受け入れてもらえない事なんかあるの?って顔をしないでもらえますか陛下。
こっちは泣かれた時は断られるのを覚悟したくらいなんだから…。
壁際に立つウォルター侯爵は嬉しいのか悔しいのかハンカチを握りしめながらよくわからない涙を流していた。
「元老院の許可が下り次第婚約を公表することになるだろう」
陛下の言葉に異議はない…異議はないが…。
「公表についてなのですが陛下の生誕祭の夜会で発表して頂けませんか」
お願いと言う名の命令を強いると部屋にいた二人が固まった。
理由はわかっている。
婚約発表を大々的にしろと言っているのだから。
「ただの婚約だぞ?」
そうただの婚約なのだ。
エリィは一度エドワードと婚約破棄をしていることからも結婚とは違い婚約は簡単とまではいかないが破棄することが可能だ。
たとえエリィが俺と添い遂げたいと考えてくれていても、そこら中に転がっている馬の骨が何をしでかすかわからないため安心は出来ない。
だからこその牽制である。
「そうです。ただの婚約なんです。なので来月には結婚式を挙げて俺を安心させてください」
さらに二人は固まった。
王族の結婚となると通常の結婚のように軽々しく行えるものではない。
準備に時間がかかるからだ。
「来月とか無理だぞ」
「無理は承知ですがもし他の令息がエリィに目を付けて何か起こってしまったら俺は…」
想像しただけで怒りが湧いた。
俺の身体から赤いモヤが溢れた。
「じゃ…じゃあ一年でどうだ?」
「二ヶ月」
「二ヶ月…もう一声!」
「では陛下の生誕祭で婚約を発表して頂けるのでしたら半年まで我慢します」
赤いモヤを鎮めてにっこりと笑って見せた。
陛下は項垂れて小さく頷いた。
あわや執務室、下手をすれば王宮焼失という大惨事を防ぐことが出来たのだった。
満足して執務室に戻ると陛下の生誕祭の夜会でエリィに着てもらう予定のドレスが届いていた。
求婚する前から夜会はエリィをパートナーにすると決めていた俺はドレスの制作を依頼していたのだ。
ドレスは俺一色となっており満足の出来栄えだ。
髪飾りには俺の瞳の色とエリィの瞳の色を組み合わせてみた。
これでエリィに手を出す男がいたら…抹殺するか…。
物騒な思考に走ってしまった。
翌日、ドレスを送ってすぐにエリィからお礼と空を飛ぶ魔術について考え始めたとの手紙を受け取った。
ドレスをとても喜んでくれていると知り安堵した。
なぜなら俺一色に引かないか少し心配していたからだ。
それにしても…まだ諦めていなかったんだ…。
エリィの飛びたいという意欲に苦笑いを浮かべた。
転移魔法を使える俺には正直空を飛ぶという利点が見つからない。
しかしエリィは空を飛ぶことに執着している。
エリィの願いなら叶えてあげたい。
体を宙に浮かせる方法を考えながら、明日王宮に来るようにエリィに返事を返した。
嫌がらせか!?嫌がらせなのか!!
エリィと会う約束をしているのに!
執務机の上の沢山の書類と格闘していた。
誰の嫌がらせって?古狸しかいないだろう!!
きっと一昨日の無茶なお願いを叶える代わりにこれくらいはやれという事か…。
俺は不敵な笑みを浮かべた。
やってやる…有無を言わせないくらい綺麗さっぱり片付けて全ての願いを押し通してやる!!
書類を燃やし尽くしてしまいそうなくらいの勢いで紙の束を片付けているとエリィが約束通り訪ねてきた。
一段落つくまで待っていて欲しいと伝えるとエリィがお茶を入れてくれた。
なんか夫婦みたいで良い…。
感動しているとエリィが「後日でもいい」ととんでもない事を言い出した。
俺に癒しをくれ!
エリィを引き寄せて膝の上に乗せた。
未だに師匠呼びを続けるエリィにそろそろ名前を呼んでもらいたく真っ赤に俯くエリィの顔を自分に向けると小さく
「…ゼオン」
唇に柔らかいエリィの唇が触れた。
これはヤバい…。
エリィからの初の口付けに俺の心臓が爆発寸前だった。
しかしこの時気付いてしまった。
エリィからの口付けなら不可抗力になるのではないかと。
エリィが帰ったあと山のように積まれた書類を片付けながら物に命令させる方法を思案していた。
机の引き出しから魅了の術の実験に使ったゴーレムを取り出した。
以前は命令文だけを組み込んだが、エリィの箒に跨るという案から人と物を繋げる媒体があれば物も魅了されるのではないかと考えた。
しかし何を媒体にするか…。
執務室の扉が叩かれてルイゼルが入ってきた。
公爵領の事後処理の中間報告に来たのだ。
「やはりアテリア草は自爆の炎に巻き込まれて焼失したと思われます」
調査報告書を受け取った。
報告書には公爵邸と周辺の燃え尽きた森を探索するもアテリア草を発見することは出来なかったと記載されていた。
「王城での待機が終わり次第もう一度原産地である山を探索しようと思います」
「頼む」
この様子だとルイゼルは陛下の生誕祭には参加出来なさそうだな…。
申し訳ない気持ちで頭を下げるルイゼルを見つめるとカチャッと音がした。
音の方に目をやるとルイゼルの魔法剣が揺れていた。
「ルイゼル。その魔法剣って魔力によって地水火風を選んで刀身に付与するんだよな?」
突然の質問にルイゼルは眉を寄せた。
「そうですけどそれが何か?」
魔法道具は基本術者の魔力に反応して作用する。
そして魅了の術は人の精神に作用する。
魔力を発するということは精神と繋がっているということ。
空を飛ぶ魔法道具に術者の魔力を読み取り指示に従う命令を組み込んだ魅了の術をかければ…。
俺は立ち上がるとルイゼルの手を取った。
何故手を握られたのか全く理解出来ないルイゼルは最後まで眉間に皺を寄せていたのだった。
数日後…。
「本当に箒にしたんだ…」
高級な魔法の杖を箒にしたエリィの行動に困惑した。
エリィはすごくこだわっているが何故箒なのだろう?
跨るのであれば馬の形とか、乗るのであれば馬車とか色々あるだろうに…。
確かに箒は人が跨るだけの容量としては最適な大きさであり材料も少なくて済む。
でも箒だよ?
掃除道具だよ?
エリィのやることは何でも応援したいと思う俺でもこれに関しては何故か認めたくなかった。
俺はエリィから魔法陣を受け取り確認した。
少し不足部分を足し、ゴーレムを使って成功した魅了の術を組み込んでみた。
結果、箒は空を飛んだ。
エリィは箒を自在に操り楽しんでいた。
いつ落ちるかハラハラして地上で見守る俺を尻目にエリィは飛んでいってしまった。
俺はいつでも転移できるようエリィの魔力を探った。
魔力はところどころで上空で止まっては進んでを繰り返していた。
エリィが楽しんでいるのが窺えた。
落ちる心配はあるけれど生き生きしているエリィは好きだ。
好きなようにさせてあげようと見守ることにした。
しかしある場所でエリィの魔力が今までの動きとは違い変化した。
止まったと思ったら突然加速してこちらに向かってきたのだ。
額に血管を浮き上がらせた侯爵を引き連れて…。
エリィが謹慎処分を受けてから5日が経った。
圧倒的にエリィ不足である俺は今日という日をとても楽しみにしていた。
早くエリィに会いたくて門の前をうろついていた。
先にエドワードの馬車が到着したため挨拶をしようと近付いて固まった。
エドワードの馬車の中にエリィが乗っていたからだ。
連日の疲れと相まって嫉妬心が爆発した。
エドワードを会場に促すと、とにかく二人っきりになりたかった俺はエリィを空き部屋へと連れて行った。
部屋に入り怒りを爆発させると流石のエリィも怒ったのか他人行儀な態度で反論してきた。
「私の行動がお気に召さないのでしたら、他のご令嬢をお誘いください」
胸がズキリと痛んだ。
エリィは話す事はもうないとばかりに部屋を出ていこうとした。
このまま行かせてしまったら取り返しがつかないことになると察した俺は開きかけた扉を押さえつけた。
エリィはなんだか悔しそうな顔をしていた。
もしかして俺嫌われた…?
途端に不安に駆られた俺は必死でエリィに謝り素直な気持ちを伝えた。
するとエリィは俺を抱きしめて俺の醜い感情を受け入れてくれた。
俺を見上げるエリィの顔が可愛くて口付けしたくなった。
しかし侯爵と約束している俺からはすることは出来ない。
そこでエリィを煽ってみるとまんまと俺の策に嵌められた。
いや、嵌められてくれたのかもしれない。
エリィに目を閉じるよう言われて目を閉じたフリをした。
目を閉じて顔を近付けてくるエリィが愛おしくて思わず長い口付けを強要してしまった。
エリィからしてくれたんだし、これも不可抗力で…いいよね?
読んで頂きありがとうございます。




