私の一番は…
私は自室のベッドの上で寝ていた。
元気なんですけど!!
あれから10日が経ち、王宮では事後処理に追われているようだ。
私当事者なのですが…。
胸の貫きを生で見たゼオンと父は過保護に拍車がかかりこの10日間軟禁されている。
毎日ゼオンが顔を出してくれてはいるが…外に出たい!
ベッドの上で暴れた。
「お嬢様、今日も沢山の贈り物が届いていますよ」
マリーが手にいっぱいのプレゼントを持って部屋に入ってきた。
私が放った『ヒールライト』。
アテリア草で苦しんでいた人々が治っただけでなく、呼吸するだけだった元公爵まで元に戻ったそうだ。
さらに死にかけの老人が元気になったり、無くなった腕まで生え、難病に苦しむ人達も治してしまったと、あれの威力が尋常ではなかったらしい。
今では国中の人間が私を聖女と崇めていた。
何度も言いますが私、悪役令嬢ですから…。
ベッドの上でゴロゴロしていると部屋がノックされた。
入室を促すとバラの花束を持ったゼオンが入ってきた。
ゼオンはベッドに腰掛けるとうつ伏せになって睨んでいる私の頬に触れた。
「そろそろ外出たい…」
私が仏頂面で訴えるとゼオンは私の額に自分の額を当てた。
「駄目。俺を苦しめた罰だよ」
それを言われると何も言えなくなる…。
実際、ゼオンの詠唱がなければ死んでいた。
「そういえばあの時、幽霊を見たんだけど…」
ゼオンはややあって「ああ…」と呟いた。
私を抱き起こしゼオンは自分の膝の上に私を乗せた。
「母さんだった…」
「え?」
ゼオンのお母さんって亡くなっているよね?
じゃああれはやっぱり幽霊…?
私は鳥肌が立った。
「エリィの隣にもエリィのお母さんがいたでしょ?侯爵が驚いていたから」
私は暗闇の中で見た銀髪の金色の瞳の女性を思い浮かべた。
「あの人が…お母様…」
父がよく私は母似だと言っていたが…嘘つきだーーーーー!!
「お父様に嘘つかれた…私、あんなに綺麗じゃない…」
ブツブツ呟いているとゼオンが私の顔を自分の方に向けた。
「エリィは夫人似だよ。俺にはエリィの方が綺麗に見えるけどね」
言い終わるとゼオンが私の頭を寄せてキスをした。
ゼオンに綺麗だと思ってもらえているなら良しとしよう。
あれからさらに10日間軟禁された後、ようやく解除された。
というのも今回の功績を称えて王宮に御呼ばれしたからだ。
この20日間の間に今回の事件の処罰も決まった。
元公爵は市民達を誘拐監禁、魔物も保有していたことから処刑…となるところだったが利用されていた部分も配慮され減刑となり生涯監獄暮らしが決まった。
メディーナの罪は多く本来なら処刑になるところだが、王族ということと、エドワードの嘆願により処罰を決めかねていた。
そこでゼオンは私の意見を求めてきた。
殺人未遂された当事者だからだ。
「ゼオンにとっては辛いかもしれないけど…私は生きて罪を償って欲しいと思う…」
処刑して終わりというのは違う気がする。
生きて最後までこの国の行く末を見守って…ん?それってつまり私とゼオンのラブラブを見せ続けるってことか?
これってある意味生き地獄?
死ぬよりも残酷か?
「俺もそう思っていた」
え?ゼオンも生き地獄に賛成?
「あの人は父と母の仇でありエリィを傷つけた犯罪者だから一生許すことはできない。だからと言って殺せばいいという話でもない。それではあの人と同じになってしまうからね。だから俺も生かす選択をしたい」
ということがあり、メディーナは生涯幽閉となりその監視役としてエドワードが指名された。
表向きはエドワードの王家に対する忠誠を試すということだが、私はゼオンから聞いていた。
突然家族がいなくなることの苦しみは計り知れない。
エドワードにとってどんな罪を犯していてもメディーナは母親だ。
せめて傍にいさせてあげたいと。
ちなみにフィリスはエドワードが引き取ることになった。
結婚については保留で、まずは令嬢としての教養を身に付けさせることから始めるらしい。
フィリスがよく「エド様なんか嫌い!」と駄々をこねているそうだ。
メディーナにフィリスと問題児ばかり抱えてエドワード大丈夫かな…。
「エリィ、他の男のこと考えてないよね?」
陛下の謁見のため王宮に来ていた私は隣を歩くゼオンに顔を覗き込まれた。
ゼオンついに心が読める魔術が使えるようになった!?
「え?いや…あ…みんな大変だなーって…」
目が泳いでしまった。
「エドワードのことかな?」
とてもいい笑顔を向けるゼオンが怖い!
「はい…」
素直に頷くとゼオンが頬にキスをしてきた。
ここ廊下!!
「あとでたっぷりお仕置きだね」
不敵な笑みのまま私の手を取った。
お仕置きって…絶対私にとってお仕置きじゃないよね?
謁見室に入ると騎士と仕官達がズラリと並び王座には陛下、少し後ろに父が立っていた。
ゼオンの後ろをついていき、陛下の前でスカートを広げて跪いた。
「エリアーナ・フロレンス・ウォルター侯爵令嬢。今回は大儀であった。何か褒美をとらせようと思うが希望はあるか?」
褒美と言われましても…。
ゼオンとの結婚は決まったも同然だし、それ以外で欲しい物…。
「私の箒の没収を取り消して下さい!」
会場の全員が唖然とした。
ゼオンだけが笑いを堪えていた。
あの時はたまたま私の魔力で飛んできた箒だったが、父に没収された事実は変わっていない。
陛下は後ろに立つ父をチラ見すると、父は目を閉じたまま苦い顔で小さく頷いた。
「本当にそれでいいのか?」
最終確認する陛下に私は大きく頷いた。
陛下は一つ咳払いをした。
「では、エリアーナ嬢に箒を返戻しよう」
「ちょっと待ってください」
陛下の斜め前に立っていたゼオンが待ったをかけた。
まさかゼオン反対しないよね!?
反対したら嫌いになるよ!!
目で訴えるもゼオンは陛下の方を向いておりこちらの殺気に気付いていない。
「エリアーナ嬢に王城上空も含めた飛行許可を出してください」
まさかの申し出に嬉しくなった。
この前父に怒られた時に王城の周辺は機密事項が多く飛行が許されないと言われたからだ。
ゼオン好き。あとでいっぱい癒してあげよう。
「う~ん、しかしなぁ…」
陛下が渋い顔をした。
「エリアーナ嬢は私の婚約者であり、後々王太子妃になる女性です。王城の機密を漏らすようなことはありません」
うんうんと私も大きく頷いた。
「それに…王城周辺で飛んでいてくれないと心配でおちおち仕事もしていられないので…」
小声でゼオンが呟いた。
そっちが本音かい!
陛下もゼオンが仕事しないのは困ると思ったのか即許可してくれた。
あなたたち私の素晴らしいドライビングテクニック見てたよね!?
こうして騎士により運ばれてきた箒と私は再び感動の対面を果たした。
ひしと抱きしめると会場から憐みの目を向けられた。
なんで毎回みんなそんな目で見てくるわけ?
箒を大事に抱えてゼオンと王太子の執務室に戻ってきた。
部屋の扉が閉まるとゼオンに箒を没収された。
私の箒!?
手を伸ばして取ろうとするとゼオンに不意打ちのキスをされた。
「俺と二人でいるのに箒ばっかり抱きしめていると折っちゃうかもよ」
なんて恐ろしいことを言うんだこの人は!?
「ただの箒だよ!?」
「エリィの箒愛は異常だからね。あんまり箒ばっかり構い過ぎると嫉妬しちゃうな」
人だけでなく物にまで嫉妬するとか…にやけちゃう。
私はゼオンの腰に手を回し抱きついた。
「私の一番はゼオンだよ」
ゼオンが息を呑んだ。
「だってゼオンと結婚が決まっていなかったら陛下にそれをお願いしようと思っていたくらいだから」
ゼオンは箒を壁に立てかけると私を抱きしめた。
「私は誰よりも何よりもゼオンの事を一番愛してる」
顔を上げるとゼオンは私の大好きな蕩けるような笑みを浮かべていた。
「俺もエリィを一番愛している」
ゼオンは私の手を取りキスを落とした。
やっぱりゼオンは紳士的でカッコいいな。
うっとりと見惚れていると、
「そういえば…お仕置きがまだだったね」
ゼオンがにっこりと恐ろしい笑みを浮かべた。
前言撤回!
そのセリフは絶対紳士じゃない!!
この後、激しいスキンシップと熱烈なキスに私の身体は溶けてしまったのだった。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
温かいコメントを下さった方々、アドバイスを下さった方々、楽しみに読みにきて下さった方々の支えのおかげでここまで書ききる事が出来ました。
本当にありがとうございます。
二部目書こうか現在検討中のため、ここで一旦完結とさせて頂きました。
本編では載せなかったゼオン視点の『結婚前にキスが許された理由』についてを近々載せる事ができたらいいなと思っています。
その時はまた読んで頂けると幸いです。
ありがとうございました。




