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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第一章 ひよっこ魔術師
48/81

感動の再会


残酷な描写が含まれています。

ご注意ください。


前回の後書きに今話が最終話と記載しましたが、予定より長くなってしまったため話を分けることにしました。


 平手打ちを食らわせた音だけが会場に響き渡った。

 メディーナは叩かれた頬を押さえて私を睨みつけると逆の手で私の頬を叩いた。


 やられたらやり返す!

 メディーナに飛びかかろうとしてゼオンに羽交い締めにされた。


「全てはあんたのせいよ!」


 メディーナが私を指差し怒りをあらわにした。

 人に向けて指差すな!

 メディーナの指を掴もうと腕を伸ばしてもがくと「こら、暴れるな」とゼオンに怒られた。


「あんたが私のゼオンを奪ったから!あんた達姉妹なんかエドワードを取り合っていれば良かったのよ!!」


 この発言に再度会場の全員が驚愕した。


「メディーナ様はゼオンが好き…?」

「私が好きだったのは前王太子殿下よ。彼と結婚するためにネルドを滅ぼしたのに…」


 この人どんだけの罪を抱えているんだ!?


「ネルドの舞踏会に現れたあの人を見てからずっとお慕いしていたわ」


 メディーナは遠い昔を思い出すようにうっとりとしながら話し始めた。


「あの人の婚約者になりたいと申し出たのに父は許してくれなかった」


 段々表情が不穏になってきてますが…。


「だから王宮の料理にアテリア草を混ぜて戦場にしたのよ。私はあの人に狂戦士の情報とネルドの王宮に入る手段を教える代わりに婚約者にして欲しいと約束したのに第二王子のせいで全ては水の泡になってしまった」


 メディーナは嘆きながらその場にへたり込んだ。

 演技派女優だな…。


「そしてあの人は私との約束など忘れて他の女と結婚することが決まった。だから結婚式を挙げる前にアテリア草を使ったのよ」


 まさか王太子失踪事件にこのような裏話があったとは…。


「あの人はもういない…そう思っていたのに…」


 会場の全員がゼオンを見た。

 悲愴感が漂うゼオンの手を握った。

 肩の力が抜けたゼオンは表情を緩めて私の手を握り返した。


「あの女さえいなければあの人は帰ってくる。そう信じてあの女だけを殺すつもりで指示したのに…あの人まで一緒に死んでしまった…」


 メディーナはゆっくりと視線を上げるとゼオンを見た。


「でもあの人にそっくりのあなたがいた。あなたを一目見た時から私はずっとあなたを見守り続けてきたわ…」


 怖!そして愛、重!

 ゼオンもメディーナの醜悪さに顔をしかめた。


「つまりあなたは俺に好意を抱いたからエリィを狙ったと…」


 メディーナは体を揺らしながら立ち上がった。


「ゼオン、あなたが私と結婚すると言えば全員の命を助けてあげる。でも拒否するなら…」

「断固拒否します!!!!!」


 メディーナが言い終わる前に私が拒否した。

 会場中からお前には聞いてないだろという視線を浴びた。


「本当にどこまでも邪魔な小娘ね!!」


 メディーナが烈火の如く怒った。


「ゼオンの婚約者は私なのよ、お・ば・さ・ん!!」


 私はメディーナを指差した。

 やられたらやり返すだ!


「ぽっと出の悪役令嬢に本物の悪役令嬢の力見せてやるわ!」


 令嬢ではないか?

 まあいいや。


「やるならかかって来なさい!このエリアーナ魔術師様が相手になってやるわ!!」


 決まった!!

 私が満足しているとメディーナは不敵に笑った。


「後悔させてやるわ、小娘!!!!!!」


 メディーナはドレスのポケットから試験管のような物を取り出し蓋を開けた。

 中の物を一気に飲み干すと自分の足元に魔法陣をかけた。


「アテリア草は精神に作用する。自我を持った者が多量のアテリア草を服用すると…理想の姿に変わることが出来るのよ!!」


 メディーナを中心に赤黒い葉が生い茂る木が生えだした。

 木はみるみるうちに王城を超える高さにまで成長した。

 私達は呆然と巨大な木を眺めていると足元に金色の模様が描かれた。


「魔法陣だ!!」


 ゼオンの言葉に私は咄嗟に光魔法を放った。

 私の箒ちゃんがあれば空から状況が確認できるのに…!


 パリン!


 何かが割れる音とともに細長い何かが飛んできた。


「私の箒!」

「私の執務室!」


 ん?執務室?

 ほぼ同時に叫んだ相手を見ると陛下が空を見上げながら嘆き、父は何も見ていないふりを決め込んでいた。

 お父様、陛下の執務室を倉庫にしちゃダメですよ。

 窓ガラスの弁償はよろしくお願いします。


 感動の再会に箒を抱きしめた。

 皆、異様な光景に憐れむような視線を投げかけた。

 この感動がお前たちにわかるか!


「エリィもしかして箒の事を考えてた?」

「はい!」


 ゼオンは箒が飛んできたことに驚いていた。

 そして感心したように呟いた。


「エリィの魔力に反応したのか…」


 そういう仕様にしていましたね、師匠。

 私もすっかり忘れてました。


「とにかくこれで空から偵察が出来ます!」


 私が箒に跨るとゼオンが待ったをかけた。


「エリィ!ドレス姿で飛ぶ気!?」

「大丈夫ですよ。このドレスなら見えませんから。殿下は皆を守ってください」


 私は5日ぶりの空中遊泳を楽し…偵察に集中した。


 木のさらに上まで一気に飛ぶと木を中心に町のいや国全体に巨大な魔法陣が展開されていた。


「これって、魅了(チャーム)の魔法陣!?」


 私の独り言に反応した者がいた。


「その通りよ」


 木の枝から木と一体化したメディーナの上半身が姿を現した。

 キモ!


「全ての人間は私に魅了されることになる。これでゼオンも私のモノよ!」


 枝から赤いほおずきのような形をした黒い斑点のついた実が育ち、袋が開くと三葉に分かれ中央の赤い実が私目がけて飛んできた。

 咄嗟に避けて難を逃れたが、飛んだ赤い実は空中で破裂し赤い粉が散布された。


 これってもしかしてアテリア草の粉!?


 私は次から次へと飛んでくる赤い実をドライビングテクニックで乗り切った。

 しかしこのまま避けても粉を吸う危険があり一旦ゼオンの元に避難した。


「エリィ、無事か!?」


 ゼオンに抱きしめられたが父の鬼のような形相が目に入りすぐに離れた。


 上空から見た状況を説明すると皆黙り込んでしまった。


「先ほど外に逃げた貴族の者達が虚ろな目をして襲ってきたからもしかしてとは思っていたが…」


 ゼオンは口元に手をあてながら外を一瞥した。


「下から火の魔法や剣での攻撃もしてみたが修復能力が高くて全く効かなかったし…」

「フィリスの時みたいに私の治癒魔法を流せば元に戻らないかな?」


 私の提案にゼオンは首を振った。


「あれだけ巨大なものに流すにはエリィの魔力では足りない」


 何も言い返せない…。

 皆、考え込んでしまった。


 そういえば普通に聞き流してたけど、メディーナが気になる事を言ってたな…。


「ねえ、アテリア草の粉を多量に流したらどうなるんだろう…?」


 先ほどのメディーナによる第二王子暗殺のセリフを思い出していた。


「致死量まで行かなくても変化があったところで止めて弱ったところに治癒魔法をかければもしかしたら少量でも効くかも?」

「そもそもアテリア草がないから…」


 ゼオンの言葉に私は空を指差した。


「私が飛んで実を取って来れば…」

『駄目だ!』


 二人分の声が重なった。

 もちろんゼオンと父である。


「粉を吸いこんだらただじゃすまないんだぞ!」

「エリィにそんな危険なことさせられない!」


 二人は同時に叫びながら私に迫った。

 頼むから二人同時に来ないでください!


「実が割れる前にキャッチすればいいんだし、失敗してもバリアや治癒魔法をかければ何とかなるから!」

「でも…」

「しかし…」


 何なんだこの二人は…。


「私がやるって言ったらやるの!!国を支える二人がそんなことでどうするの!!」


 このままじゃいずれ私達も魅了されてしまうかもしれない。

 唸る二人を余所に強制実行に踏み切った。


 私はゼオンと陛下からマントを借りた。

 割れたら粉が飛び散るためキャッチしたらそのまま包もうという作戦だ。

 口に布をあてると箒に跨り不服そうな二人を放置して空に飛んだ。


 さ、こーーーーーい!

 体育会系のノリで構えた。

 手が使えない分、足だけで体を支えるという荒業が必要となる。


 木には先ほどより多くの実がなっていた。

 一斉に来られたら厳しいな…。


 袋が開くと赤い実が飛んできた。

 マントを広げて掴もうとするも位置がずれて斜め上で割れた。

 私はすぐにその場を離れた。

 しかし離れた先でも袋が開き容赦なく私のもとに飛んできた。


 これ避けるだけで精一杯なんですけど…!


 何か方法がないか避けながら考えて思いついた。

 私って天才!?


 私はほおずきの一つに全体のバリアの魔法をかけて草刈り魔法で枝を切り落とした。

 落ちてくる枝ごとマントでキャッチした。

 私のバリアは20秒しかもたないからね。


 これなら採れる!


 私はもう一つと狙おうとすると枝から再びメディーナが姿を見せた。


「鬱陶しい小娘ね!」


 木の頂上に巨大なほおずきが生えてきた。

 これ開いたらヤバい!


 私は採取した実をひとつだけ持って急降下した。


「てっぺんに巨大な実が出来た!みんなバリアに避難してーーーー!」


 ほぼ落下しながら叫んだ。

 実が開き辺りに多量の赤い粉が降り注いだ。


 間に合わない!


 粉が私に迫る寸前でゼオンが私にバリアをかけた。

 みんなのバリアは五人の王宮魔術師がいるからゼオンはフリーだった…。

 間一髪で助かった私はバリアをかければ良かったねと焦りで冷静さを失っていたことに気付いた。


 無事に地上に着地するとマントをそっと開けた。

 実は開かれておらず一同安堵した。


「あとはこれを流し込むだけだが…」

「根から流し込めばいいんじゃない?」


 一同は顔を見合わせた。


「私が空を飛んで意識をこちらに集中させるから、その間に水魔法で流し込んで」


 約二名以外は頷いた。


「いざとなったら今度はちゃんとバリアかけるから!」


 二人は渋々頷いた。

 ほんと過保護過ぎて困るわ。


 私は再び空へと飛び立ったのだった。





読んで頂きありがとうございます。

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