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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第一章 ひよっこ魔術師
47/81

前世の知識を役立てます


残酷な描写が多く含まれています。

ご注意ください。


 会場に戻ると辺りは騒然としていた。

 外に逃げようと走り出す人達でごった返していたからだ。


 ホールの中央には騎士に囲われた人物が一人立っていた。

 その人物の身に着けていたドレスには見覚えがあった。


「フィリス!?」


 フィリスと思われる人物の形相は般若のような恐ろしいものに変わっており、体格も騎士より大きくなっていた。

 身体の筋肉も膨れ上がっていてとても女性には見えなかった。


 フィリスは騎士達に襲いかかるも令嬢を傷つけるわけにはいかない騎士達は防戦一方だった。

 ゼオンが咄嗟にフィリスをバリアの魔法で囲った。

 あれはとても恐ろしい牢獄だ。

 以前バリアの檻に閉じ込められたことを思い出した。


 閉じ込められたフィリスはバリアを壊そうと暴れた。


「あれは魔術ではなくアテリア草の影響だ。誰かが粉にしたアテリア草を多量に飲ませたんだ」


 確かにピッツバーグ公爵のところで見た魔術に操られた人達は虚ろな目をしていた。

 だがフィリスの目は狂気に満ちている。

 でもさっきまで普通にダンスを踊っていたのに。

 誰がフィリスにアテリア草を飲ませたの?

 いや、それよりまずはフィリスを何とかしないと!


「エドワード、お前近くにいたのだろう!何か知らないのか!」


 フィリスに近付こうとして騎士に抑えられていたエドワードにゼオンが聞いた。


「俺は近くにいなかったんだ。ただこうなる前に飲み物を飲んでいるのは見たが…でもあれは」


 フィリスはさらに力を増幅させて攻撃を強めた。

 ゼオンもバリアを強化した。


「仕方ない。攻撃して気絶させるしかないか…」


 どんどん力を強化していっているフィリスの動きを止める事を優先しようとするゼオンの言葉に待ったをかけた。

 フィリスが怪我をするかもしれないし、何より令嬢を攻撃したとゼオンの名誉が傷ついてしまう恐れがあったからだ。


「少しだけ待って!何か方法がないか考えるから!!」


 そうこの世界にはなくても前世の知識には何か方法があるかもしれない。


 確か前世で毒薬を飲んだ時は吐かせる事が一番の対処法だったはず。

 けれど血液中に溶け込んでしまったものは吐いても身体の中に残ってしまう。

 血液中に溶け込んだものを何とかするには濃度を薄める必要がある。

 点滴…とか?

 でもあれは薄めるだけで効果は残ってしまう。

 浄化しないと完全には消しきれない…浄化?


 そうか透析だ!


 私は前世で祖母が血液浄化療法つまり透析療法をして血液を綺麗にしていたことを思い出した。

 確かあれは毒素を抜いて身体の中の血液を綺麗にする方法だったはず。

 あちらでは道具を使って綺麗にしていたが…この世界には治癒魔法がある。

 町の人達は外からかけた治癒魔法を使ったら襲ってくることがなくなったと以前聞いた。

 外からでも多少の効果が見られたのであれば、光の浄化と水の癒しの力を持った治癒魔法を直接血液に流し込めれば!


「ゼオン。以前血液を操作して魔物を倒したって言っていたよね」


 私はバリアをかけ続けているゼオンの腕を掴んだ。


「私の治癒魔法を魔力供給でゼオンに渡してフィリスの血液の中に流し込む事って可能?」


 ゼオンは少し考えてフィリスの身体を観察した。

 バリアを破壊するため叩き続けるフィリスの拳からは血が流れ出ていた。


「あの拳のところから流し込むことは出来るかもしれない。だけど上手くいくかは保証できないし、どういった効果が出るかもわからない…」


 ゼオンは私がショックを受けないようもしもの時の覚悟を問いたいのだろう。

 フィリスの身体がさらに大きくなった。

 おそらくアテリア草が血液内に溶け込んでいっているのだろう。


 治癒魔法を外からかけただけでは完全には治りきらない。

 それどころか下手をすれば公爵のように呼吸をするだけで精一杯の身体になってしまうかもしれない。

 助かる可能性が少しでもあるのであれば…。

 私は覚悟を決めて頷いた。


「魔術師を四人…いや五人呼んでこい!」


 ゼオンは近くにいた騎士に指示を出し、騎士はすぐに王宮魔術師を呼びに走った。

 私は凝縮させた治癒魔法を作り始めた。

 その間もフィリスの身体は徐々に変化していっていた。


 王宮魔術師が到着するとゼオンは魔術師達にバリアを箱型になるよう一方面ずつ張るように指示した。

 魔術師にバリアを任せたゼオンが私に手を差し出した。


「エリィ、何があっても責任は俺がとる。だから何も心配しなくていいから」

「これは私が決めたこと。自分の責任くらいは自分でとるわ」


 私はゼオンの両手を握ると凝縮させた治癒魔法をゼオンに流し込んだ。

 治癒魔法を受け取ったゼオンはバリアを一方面だけ解除させた。

 入口ができたことでフィリスが飛び出してきて…ゼオンがフィリスの血が出ている拳を掴んだ。

 ゼオンの周囲が光を放ち…。


 ガアアアアアアアアアアアア!


 苦しそうな咆哮と共にゼオンが吹き飛ばされ壁に激突した。

 私はすぐにゼオンに駆け寄り治癒魔法をかけた。

 フィリスはしばらく苦しそうにもがきながら暴れ回っていたが、徐々に膨らんだ身体が小さくなっていきそして…。

 元のフィリスに戻りその場に倒れた。


 ゼオンの治療が終わるとフィリスに近付いた。

 フィリスは眠っているだけでどこにも異常がなく、血が流れ出ていた拳も元の綺麗な手に戻っていた。


 よかった!


 安堵した途端身体の力が抜けてその場に座り込んだ。

 まだ後遺症はどうなっているかはわからないが、とりあえずアテリア草の効果は消えたといっていいだろう。


 フィリスは目を覚ますまでの間、一旦拘束されることになった。

 でも誰がフィリスにアテリア草を?

 私が考えを巡らせているとゼオンが呆然とするエドワードに近付いた。


「お前、彼女が飲んでいた飲み物について何か言いかけていたよな」


 エドワードは状況が理解できずに困惑しているようだった。


「言え!」


 まだ信じられないといった感じでエドワードは呟いた。


「は…母上が給仕の者に飲み物を渡すよう指示しているところを見たんだ…でも見ただけで実際は違うかもしれない…!」


 必死に弁解しようとしていたがゼオンの反応は至って冷静だった。

 ゼオンは壇上に立つメディーナを正視した。


「やはりあなたでしたか」


 ゼオンから静かな怒りを感じた。


「前王太子を襲わせた件は料理長に命令できる身分の者でなければほぼ不可能だった」


 ゼオンはゆっくりとメディーナに近付いた。


「それにあなたはエリィが誘拐された時、俺は『黒いフードを被った奴』と言ったのにあなたは『魔術師達』と言った。これは黒いフードの奴が魔術師と知っている者であり、さらにエリィを誘拐したのが複数であったと知っていた誘拐犯の関係者もしくは…主犯だけだ」


 メディーナは表情一つ変えずに微笑みを崩さなかった。

 あの姿勢、見習わなければ…。


「そこまでして王位が欲しかったのですか?」

「王位?そんな物には興味はないわ」

「エドワードを王に就かせる事が目的じゃない?」


 ゼオンの言葉にメディーナは不気味に笑った。


「エドワード?私はその子に何の興味もないわ。むしろ顔も見たくないくらいよ」


 会場にいた全員が驚愕した。


「私はその子の父親のせいで望んでもいない結婚をさせられた。だから殺してやった。アテリア草の実験も兼ねて。おかげで致死量が解って良かったわ」


 メディーナは恍惚な表情を浮かべた。

 いやーーーーーーー!!

 ここに猟奇的殺人者がいたーーーーーーー!!


「まさか第二王子にまで手をかけていたなんて…」


 ゼオンも新事実だったのか驚きが隠せない様子だった。


「あの男にそっくりなエドワードも殺してやりたかったけど、この子のお陰で王宮で暮らすことを許されたから生かしておいてあげたの」

「…母上…」


 エドワードは哀しみと苦しみで現実を受け入れられずにいた。


 私は止めようとするゼオンを制しメディーナの元に歩いていった。


 婚約していた時、一度だけエドワードが母親の話をしたことがあった。

 父を亡くしてから母は引きこもるようになったと。

 王族の夫を亡くした正妻は王宮からでなければいけない規則があり、母親に随分と肩身の狭い思いをさせているとエドワードが気にかけていた。

 エドワードが王になるための努力をしてきたのも周りにとやかく言わせないためだった。

 その努力を知っているからこそ…。


 メディーナの前に立ち


 パンッ!


 平手打ちを食らわせたのだった。





読んで頂きありがとうございます。


次話が最終話になるかもしれません。

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