痴話喧嘩は犬も食わない
父から自宅謹慎を申し付けられて5日が経った。
つまり今日は陛下の生誕祭で催しされている夜会のある日だ。
今日をもって自宅謹慎は解除。
自由だ!…と喜べない…。
朝からずーーーーーーーーっと夜会の支度の準備に追われていた。
準備が終わった頃には赤い太陽が外を照らしていた。
「お嬢様、とても素敵です!」
ゼオンから贈られたドレスと髪飾りを身に着けるとマリーがうっとりとした表情を浮かべた。
こっちは今から本番だというのにすでに疲れたのですが…。
いつもはここまで気合を入れて準備をしないのだが、今回は陛下の生誕祭ということもあり準備が念入りに行われたのだ。
「王太子殿下も今日のお嬢様をご覧になられたらきっと骨抜きにされてしまいますよ!」
え、そうかな?
ゼオンが骨抜きになったらどうなるんだろう…ちょっと見てみたい。
思わずにやけてしまった。
エントランスに向かうとエドワードが執事と話をしていた。
「エドワード公?」
私が声をかけるとエドワードは視線をこちらに向け呆然とした。
私の美しさに魅了されちゃったとか?
若干の不安を誤魔化すように良いように変換してみた。
というか何か言ってよ!不安になるんだけど!!
「エドワード公?」
不安を誤魔化すためにもう一度声をかけた。
「あ、ああ。エリアーナ、綺麗だね」
え?何その反応…。
変なところでもあるのか?
「ありがとうございます」
微妙な反応だったが一応お礼を返しておいた。
「エド様!」
階上からエドワードとお揃いの青色のドレスを着たフィリスが駆け下りてきた。
フィリスへの贈り物ってエドワードからのドレスだったのか。
絡まれたくない私は一人納得しながら馬車に向かおうとしたが…。
「異母姉様も一緒に行きませんか?」
フィリスがエドワードの腕に手を回しながら誘ってきた。
たぶん自分達の仲の良さを見せつけたいのだろうが全くもって興味ない。
だって私はゼオン一筋なので誰と誰が仲良くしていようが関係ないから。
「行先は同じだし乗っていくか?」
私は耳を疑った。
まさかエドワードまで誘ってくるなんて…。
私が目を見開いてエドワードを見上げるとエドワードは少し頬を赤らめて視線を逸らした。
「エド様!」
エドワードの反応が面白くないフィリスが掴んでいた腕を引いて自分を意識させた。
公爵の誘いを断る理由もないし帰りは最悪ゼオンの転移術で送ってもらえばいいか。
「折角のお誘いですし、ご一緒させて頂けますか?」
エドワードは返事の代わりに頷くとフィリスを伴って馬車へと向かった。
先にフィリスがエドワードのエスコートで馬車に乗り、次にエドワードが乗車するかと思いきやエドワードは私に手を差し出してきて再び目を見開いた。
婚約していた時にこのようなエスコートを受けた事がなく戸惑ったからだ。
エドワードは訝しげな表情を浮かべたが私が手を出すまで黙って待ち続けた。
これ以上待たせるわけにはいかないと、戸惑いながらも手を添えて馬車に乗り込んだ。
馬車の中では案の定フィリスがエドワードの腕に腕を絡ませながら寄りかかり話しかけていた。
エドワードは軽く相槌を打っていただけだったが。
私の興味はというとすでに王宮にいる正装のゼオンに向けられていた。
窓の外を眺めながらゼオンの正装を想像していると、チラチラと五月蠅い視線を感じた。
エドワードだ。
私は気付かなかった事にして窓の外を眺め続けたのだった。
馬車が王宮に到着し扉が開かれるとゼオンの驚いた顔と目が合った。
エドワードが降りてフィリスをエスコートするとゼオンがエドワードに近付いた。
「ゼオン様、素敵です!」
ゼオンはフィリスの言葉を無視して丁寧な口調でエドワードを牽制した。
「エリアーナ侯爵令嬢は私がエスコートするのでエドワード公は会場にお越しください」
ゼオンはにこやかな笑みを浮かべていたがエドワードは怪訝な顔をしていた。
私もゼオンの笑みに鳥肌が立った。
もしかして怒ってる?
エドワードは「ではお願い致します」とだけ言い残しそのままフィリスと共に会場へと向かった。
ゼオンはエドワードが城内に入るのを見届けると私の方を振り返った。
見たかった正装の事よりも何よりも無表情のゼオンが怖い…。
ゼオンは私に手を差し出した。
私は恐る恐るゼオンの手を取り馬車から降りた。
会場に向かうのかと思いきや手を繋がれたまま空き部屋へと連れていかれた。
ちょっと怖いんだけど!
「どうしてエドワードと一緒に来たの?」
ゼオンの言葉には怒気が孕んでいた。
「フィリスとエドワード公に誘われて断る理由もなかったので同乗させて頂いたのですが…」
フィリスが全く見えていないと思われるゼオンにフィリスも一緒にいたことを示唆しておいた。
「断る理由ならいくらでも作れるだろ」
ゼオンの身勝手な言い分にカッチーンときた。
「お言葉ですが殿下。私にも立場というものがあります。一個人の感情で公爵様のお誘いを断るのは失礼に値します」
私は凛とした態度でゼオンに意見した。
「私の行動がお気に召さないのでしたら、他のご令嬢をお誘いください」
せっかくゼオンの正装が見られると楽しみにしていたのに…。
このまま帰ってふて寝してやる!!
泣き顔は見せまいと踵を返しドアノブに手を掛け扉を開けた。
バン!
開きかけの扉が押さえつけられて閉まった。
背後からの壁ドン!
前から受けたかった!!
「ごめん、エリィ…感情的になりすぎた…」
ゼオンは私の後ろから扉を押さえつけたまま私の肩に顔を埋めた。
肩にゼオンの温もりが伝わってきた。
これはこれで有りか?
「今日のエリィはいつも以上に魅力的だから他の男に取られるんじゃないかって不安だったんだ」
ゼオンは顔を埋めたまま私のお腹に手を回した。
「自分よりも先にエドワードがエリィのドレス姿を見たのも許せなかったし…」
おやおや。これは…嫉妬ですかー?
にやけ顔が止まらない。
「私はゼオン以外には興味ないよ?」
「エリィが興味なくても邪な想いで近付いてくる男は沢山いるよ」
「相手にしなければいいだけでしょ?」
「そんな奴らの目にエリィの姿が映ること自体耐えられない」
私はゼオンの方に向いてゼオンの背中に手を回し見上げた。
「自分でも嫉妬深いってわかってるけど、それだけエリィの事が好きなんだ」
ゼオンは真剣な眼差しで私を見つめた。
「私だって同じだよ。ゼオンが他の令嬢と一緒にいるところなんて見たら…嫉妬するよ…」
恥ずかしくて語尾が尻すぼみになってしまった。
ゼオンは嬉しそうに笑うと私を抱きしめた。
「私もごめんね。ゼオンの気持ちを考えずに酷い事言って…」
ゼオンの胸に顔を埋めながら謝った。
「俺は嫉妬深いし、独占欲も強いから今日みたいにエリィを傷つけてしまうかもしれないけどいいの?」
「いいよ。その度に仲直りすればいいんだから」
喧嘩するほど仲が良いとも言うしね。
顔を上げて笑顔を見せるとゼオンも安堵の笑みを浮かべた。
「う~ん、でも俺の方がエリィへの愛が強そうだからやっぱり不安だな…」
ゼオンはすがるような目で私を見つめた。
「どうすれば信じてくれるの?」
少しムッとしながら聞くと
「エリィから口付けしてくれたら信じるよ」
ゼオンは無邪気な笑顔を見せた。
こいつ前回の事で味を占めたな!
ゼオンは早く!と目で訴えてきた。
ぐぬぬ…と唸ったあと、ため息を吐いた。
「じゃあ目を閉じて」
ゼオンが目を閉じたのを確認して私は背伸びをして軽くキスをするつもりが…ゼオンに頭を押さえられて予想外の長いキスになってしまったのだった。
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