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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第一章 ひよっこ魔術師
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令嬢と箒

 王宮からの帰りに武器屋に寄った。


「杖が欲しいのですが…」

「杖ですか。色々取り揃えておりますがどのようなものをご所望でしょうか?」


 手をすり合わせながら店主が笑顔で対応してくれた。


「箒の形の杖が欲しいです」


 途端に店主は笑顔のまま固まった。

 そりゃそうだ。

 ゼオンの反応からも箒の杖なんかあるはずない。


「えっと…それは…雑貨屋で買い求められては如何でしょうか?」


 普通の箒を勧められた。

 そうなるよね。


「魔力に反応する箒が欲しいのです。つまり杖の素材で箒を作って欲しいということです」


 説明すると店主は何となく理解できたのか「なるほど…」と首を捻りながら唸った。

 やっぱり理解できてないかも…。


「出来るの?出来ないの?」


 凄むと店主は慌てて目の前で両手を振った。


「可能ではありますが、用途と大きさと…図面をお願いしたいのですが…」


 語尾が小さい。

 これ絶対あの箒でいいのか疑っているよね。

 私は紙に箒の絵を描いた。

 ()()の箒の絵だけどね。

 そして箒にまたがる動きを見せてサイズを伝えた。

 ついでに魔力が浸透しやすい素材にして欲しいと要望を出した。


 店主は最後まで訝しげな表情を浮かべていたけどね。



 自室に戻ると早速ゼオンの書いた雷の魔法陣を書き写し、魔術書を開きながら魔力を蓄積させる魔術がないかを探した。


 見つけたのは氷の塊を作る魔術についてだった。

 留めた水と風の魔法を融合させるという魔術だった。

 雷の魔術も確か水と風の魔法の組み合わせだよね。

 文章を見比べていると氷は水をたくさん必要とし、雷は風の方が必要となるため比率が全く違ったのだ。

 さらに氷は冷たい水魔法と風魔法をかくはんして水が固まるまで留めておく必要がある。

 しかし雷はすぐに固まる小さな氷同士がぶつかり合って発生するため留めておく必要がない。

 つまり氷の魔術の留める部分を雷の魔法陣に組み込めば…。


 さっそく写した雷の魔法陣に氷の魔法陣を真似て書き写してみた。

 これで浮くはず!

 早く箒が届かないかな。

 作成中の箒に思いを馳せたのだった。



 箒が届いたのは陛下の生誕祭を5日後に控えた朝だった。

 杖を買ったと伝えた時、値段が値段だから怒られるかもと覚悟していたが婚約祝いだと父は許してくれた。

 買ったのが箒だと知られたら不味いかな…。


「ご注文の品をお届けに来ました」


 武器屋の店主は本当にこれでよいのだろうかとまだ不安の表情を浮かべていた。

 私は箱の中を開けて確認した。

 そこには艶のある柄に整えられた穂先。

 店主の話では穂先も魔力が通しやすい素材で作ってあるとのことだった。


 サイコーーーーーー!!


 私は箒を抱きしめた。

 異様な光景に店主も執事も何とも言えない表情を浮かべていた。

 ちょっと憐れむような目で見るの止めてもらっていいですか!



 新品の魔法の箒を持って王宮を訪れていた。

 本当は家で試したかったんだけど、ゼオンが絶対ダメって言うから…。


 箒を持って回廊を歩いていると通りすがる人達が皆二度見してきた。

 二度見しなくても見たまんま箒ですから!


 ようやく王太子の執務室に到着した。

 今日は何だか回廊が長かった気がする…。


 執務室に入るなりゼオンが何とも言えない表情を浮かべた。


「本当に箒にしたんだ…」


 ここでもか!

 私がビックリするくらいの箒パフォーマンスを見せてやる!

 不貞腐れながら完成した魔法陣の紙を渡した。

 ゼオンは雷を留める魔法陣を確認すると少しだけ追加して私に返した。


「箒に乗るときにこれを掛けてみて」


 魔方陣を覚えて練習場へと向かった。


 いよいよだ…。

 私は箒に跨った。


 深呼吸をして箒に魔法陣を付与して魔力を注入した。

 箒が魔法陣から私の魔力を受け周辺に風が巻き起こった。


 箒が体を押し上げようとしているのがわかり、そして…


 浮いた!!


 私の足が地面から離れた。

 喜びでゼオンの方に目を向けると驚いた顔で目を見開いていた。


 調子に乗った私はさらに魔力を注入し一階を超える高さまで浮き上がった。


「あとは命令の魔術を追加すれば動くの?」


 下で口を開けて呆然とこちらを眺めていたゼオンに声をかけた。


「命令の魔術は魅了(チャーム)の命令を少し改変してさっき書き込んでみた。エリィが念じれば魔力に反応して好きなように動かせるはずだから試してみて」


 我に返ったゼオンが答えてくれた。

 さすがゼオン様々!

 まさか命令の魔術を考えてくれていたなんて!


 私がゆっくり進むイメージを作ると箒はゆっくりと前進した。


 感激!動いてるよ!


「見て!見て!」


 調子に乗った私は回転したり急上昇、急降下してみたりとゼオンの周辺をグルグル回って遊んでみた。

 その間ゼオンは気が気でない様子で下から私を追いかけながら右往左往していた。


 運転になれてきた私はもっと遠くに飛んでみたくなり王城を一周してみた。


 窓から仕官達が驚いた様子でこちらに向けて指を差していたので笑顔で手を振った。

 皆、面白いくらい口を開けてこちらを眺めていた。


 騎士の演習場では騎士達が打ち合いをしていた。

 空に浮いている私に驚いて隙を突かれて頭を打たれた騎士や振った木刀がずれてバランスを崩した騎士など騒然としていた。

 やばい。ルイゼルがめちゃくちゃ睨んでる…。逃げよ。

 私は演習場から退散した。


 空を飛ぶって気持ちいい!!


 風を切って飛んでいると視線を感じて止まった。

 また仕官だろうと思い笑顔で手を振って動きが止まった。

 私を見ていた相手は驚愕の表情を浮かべて持っていた書類を真っ二つに破った。


 それ大事な書類じゃないですか?


 私は固まったままゆっくりその窓から離れて…全速力でゼオンの元に戻った。


「ゼオン!受け止めてーーーーーーーーーー!!」


 全速力で走っていたため魔力を注入し過ぎて急ブレーキをかけられずほぼ落下状態。

 慌ててゼオンに助けを求めた。

 突然物凄い勢いで走ってきた私にゼオンは上昇気流の風魔法をかけスピードを落とさせると落ちてきた私を抱き留めた。

 私はゼオンにお姫様抱っこをされたまま、ゼオンの胸倉を掴んで揺すった。


「早くここから逃げなきゃ!」


 不敬?今はそんなの関係ない!鬼が来る!!


「エリィ!!」


 怒鳴り声が辺りに響いた。

 私はゼオンの胸に顔を埋めた。

 なんでもいいから隠れたかった。

 頭隠して尻隠さずとはまさにこのこと…。

 状況を把握したゼオンも鬼の形相で近付いてくる人物に苦笑いを浮かべた。


「お父様…私空が飛べるようになったの…」


 ゼオンにしがみつきながらチラ見で父に報告した。


「ああ、知ってるよ。持っていた書類を破ってしまうくらいには驚いたからね」


 私が飛んでいるのを目撃した人達も何事かと集まってきた。


「ここでは目立つので殿下の執務室で二人からじっっっっくりと話を聞かせてもらいましょうか」


 その後ゼオンと二人仲良く父からお説教をされた。

 箒は没収。

 私の短い空中遊泳は終了したのだった。


 後日、王宮では『箒が空を飛んでいた!』と噂が駆け巡り、空飛ぶ箒を求めて武器屋に駆け込む人が続出した。

 箒に乗った『令嬢』の存在はどこいったよ!


 『箒』の前に跪かせる計画は半分叶ったのだった。





読んで頂きありがとうございます。

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