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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第一章 ひよっこ魔術師
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チャンスは一度だけ(ゼオン視点)

 エリィと共に王宮に戻り、陛下に報告したあと執務室に戻ると空が白み始めていた。


 執務机の一番上の引き出しを開けた。

 そこには完成した五色の花びらを模した魔法石の花のネックレスが小箱の中で輝いていた。

 俺はネックレスを手に取ると魔法石の数だけバリアが張れるよう魔術を施した。

 これで同じ強度の五重のバリアが張れるはず。

 ネックレスを小箱にしまった。



 昼過ぎになり陛下の執務室に訪れていた。


「エリィに結婚の申し込みをしようと思います」


 陛下も侯爵も手に持っていた書類を落とした。

 そんなに驚くことか?


「お前達、別れたんじゃないのか?」


 陛下は書類を拾いながら聞いてきた。


「俺にはエリィが必要だと気付きました」


 陛下は恋愛話が大好きな貴婦人のように両手を口に当てて顔を赤らめた。

 いや、じいさんに告白したわけじゃないから。


「殿下。吹っ切れたのですか?」


 侯爵は優しい笑みを俺に向けてくれた。

 俺はエリィと同じその目を今度は真っ直ぐに見つめた。


「ご心配をおかけしました。これからはお互いを支え合っていけたらと思います」


 俺の言葉に侯爵が目を潤ませた。


 だが、俺の本番はここからだった。


「それでお願いがあるのですが…」


 俺は意を決して侯爵と向き合った。


「エリィと一度だけ口付けを許可して頂けないでしょうか!」


 陛下も侯爵も固まった。

 顔が熱い…。


「一度くらい許してやれよ。盛り上がったところに口付けなしじゃ恰好つかないだろう」


 陛下が援護射撃をしてくれた。

 この時ばかりは陛下に感謝した。

 執務頑張ります!


 侯爵はため息を吐いたあと断腸の思いで許可を出してくれたのだった。



 翌日、執務室に第三騎士団団長とルイゼルが調査の事後報告に来ていた。


「今回魅了(チャーム)の術を使われた人々は口々にエリアーナ様を襲えと暗示を掛けられていたようです」


 団長が治療師からの報告書を渡してきた。


「魔術だけで操作されていた者は王宮魔術師が違う暗示を掛けたことで対処できましたが、アテリア草を飲まされた者は今も暗示が解けていない状態です」


 サマナなら何か方法を提案してくれるかもしれない。


「暗示が解けていない者に関してはそのまま治療を続けさせて下さい。近々直接視察に行きます」


 罪のない人でもエリィを狙う可能性があるのなら家に帰すわけにはいかない。

 何とかアテリア草を消す方法を見つけないと…。


 俺が考え込んでいると執務室の扉が叩かれた。

 来客の予定はなかったが新しい書類でも持ってきたのか?

 入室を促すとおずおずと入ってきた人物に目を見開いた。


「失礼致します」

「エリィ!?」


 聴取は後日すると話しておいたのにどうして?

 エリィが来たら通すように門番には伝えてあったため入城は出来たようだが。


 俺は治療師の書類を執務机の引き出しに仕舞うとエリィに駆け寄った。

 エリィは少し照れくさそうに俯きながら俺にだけ聞こえるように小さな声で呟いた。


「師匠に会いたくて…」


 俺の心臓は撃ち抜かれた。

 団長達がいなければ間違いなく手を出してしまっていただろう。


 俺はエリィを隣のソファーに座らせ報告の続きを促した。

 もちろんエリィに関する話は省くように目で訴えながら。


 話を進めているとエリィがおもむろに操られていた人達の事を尋ねてきた。

 よりによってその話か。

 俺は当たり障りのない部分を伝えたが、エリィの疑問は解消されずさらに質問された。

 俺は前に座る二人に余計な事を言うなと目で合図してエリィに返答した。


 団長はボロが出る前に俺の就任式へと話題を変えてくれた。

 エリィの目が輝いていた。

 夜会に出たいのかな?

 俺は元々夜会にはエリィをパートナーにするつもりだったし、満面の笑顔でエリィの強制参加を示唆した。

 前に座る二人はこれ以上この場で報告するのは危険と察しそのまま退室した。


 二人っきりになったところで俺は姿勢を正し、心に決めていたことを今晩実行すべくエリィを誘うのだった。



 今晩エリィに結婚の申し込みをすると侯爵に伝えたあと、温室に来ていた。

 俺は沢山咲き誇る花の前に立ち考え込んでいた。


 渡すならやっぱりバラの花束か?

 でも花束は隠せないしどうせなら驚かせたい。


 眉間に皺を寄せていると肩を何かで軽く叩かれた。

 振り返ると扇を持って微笑む王妃が立っていた。


「聞いたわよ、ゼオン。あなたエリアーナに一世一代の求婚をするんですって」


 面倒な奴に捕まった。

 目がにやけすぎですよ。


「そうです。だから邪魔しないで下さい」


 俺は早々に話を切り上げたくて直球をぶつけた。


「冷たいわね。ほんとお父さん似ね、あなたは」


 父に似ていると言われて納得してしまった。

 父が母に激甘だったのが今になってよくわかる。

 俺もエリィが魔法で失敗しても『可愛いな』って小突きそうだが…子供の前では控えよう。

 威厳の欠片もない父の情けない姿を振り返り決意した。


「バラの花束でも渡す気?ありきたりね」


 俺の心の声を読んだ王妃は扇を広げてため息をついた。


「では王妃様は何か良い案でもあるのですか?」


 王妃は待ってましたと言わんばかりに酔いしれた顔で遠くを見た。


「あれは私がまだ幼い頃、陛下が私にタンポポで指輪を作って渡してくれたの。いつか本物の指輪をプレゼントするって言って…」


 そっちの方がありきたりじゃないか?


「それでねそれでね、婚約の時にタンポポの花を模した指輪をプレゼントしてくれたのよ!」


 王妃は一人で盛り上がっていた。

 しかし…一輪の花か…。


「参考になったかどうかは微妙ですが、協力ありがとうございました」


 俺は興奮する王妃を無視してお礼を言うとバラを一輪だけ切って執務室に戻った。



 切り取った花が枯れないよう茎部分を球状の水魔法で包みその上を防水の膜で覆い水が漏れないように調整した。

 そのまま木の小箱に詰めると上に花のネックレスを置いて準備した。

 よし!あとはエリィに想いを伝えるだけだ!

 緊張しながら侯爵邸へと向かった。



 侯爵邸では主である侯爵がすでに帰宅していた。

 これは執務を陛下に押し付けてきたな。

 俺は苦笑いを浮かべた。


「殿下。エリィをお願い致します」


 侯爵が頭を下げた。

 制止しようと手を伸ばすと


「ゼオン様!?」


 エリィの異母妹が階段から駆け下りてきた。


「ゼオン様、あちらでお茶でも…」


 異母妹が俺に手を伸ばそうとすると侯爵が間に入ってきた。


「殿下。エリィは間もなく来ると思いますが、くれぐれも約束だけは…」

「大丈夫です。俺を信じて下さい!」

「何の話ですか?私も話に入れて下さい」


 異母妹が侯爵の肩越しから会話に入ろうと必死に跳ねていた。

 この異母妹には苦い思い出しかなくエリィに誤解されたくないことからも、侯爵のガードは有難かった。

 俺が二人の攻防を眺めていると、上段から視線を感じそちらに顔を向けた。

 そこには綺麗に着飾ったエリィが訝しげな表情でこちらを見つめていた。

 また誤解されたくない俺はすぐにエリィに駆け寄り最後の侯爵との約束を交わした後、エリィを連れて父と母の元に転移した。



 半壊した朽ちた家、父と母を弔うために作った十字架。

 幼少期住んでいた頃とは明らかに違う風景だが、空に輝く星空だけは昔と変わらず輝いていた。


 結婚の申し込みは絶対ここですると決めていた俺は、まず両親に王の道を歩む覚悟を伝えた。

 心の中でエリィと共に歩みたいことも含めて。


 緊張を抑えるため小さく息を吐き、俺はエリィに向き合うと結婚の申し込みと同時に用意した小箱を出した。


「ゼオン・ルーレン・フリーデンの妻になって頂けませんか」


 エリィが涙を流したのを見て焦った。

 もしかしてエリィは嫌だった?

 振られる事を予想していなかった俺は絶望して目の前が真っ暗になった。


 もしエリィに振られてもエリィが幸せなら俺は…。

 目をつむり覚悟を決めるとエリィの首元にネックレスをかけた。

 エリィと結婚出来なくてもこれがあればエリィは守られる。

 俺は意を決して返事を聞いた。


「返事はもらえないの?」

「はい!!」


 安心して力が抜けた俺は飛びついてきたエリィを支えきれず草むらに寝転んだ。

 上から俺を見下ろしているエリィは月明りに照らされて輝いて見えた。


 するなら今だ!


 俺は反転してエリィを草むらに寝かすと侯爵と交わした約束の一回を実行したのだった。



 長い口付けは一回としていいんだよね?





読んで頂きありがとうございます。


次話から最終章に入ります。

一応、フラグ回収章になる予定です。

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