必要としているのは(ゼオン視点)
一応注意書き入れておきます。
残酷な描写があるかもしれないのでご注意下さい。
エリィに別れを告げて数日が経った。
俺は寝る間も惜しんで執務に明け暮れていた。
執務室の扉が叩かれた。
エリィが王宮に来られないことは分かっている。
ルイゼルに壊れたエリィの許可証を渡されたからだ。
今は誰とも会いたくない…。
俺は返事を返さずに無視をした。
重要な要件なら扉の外から声をかけるだろうし、くだらない内容なら引き返すだろう。
しかし俺の予想は外れ、扉が開いて誰かが入ってきた。
「入室を許可した覚えはないぞ」
入ってきた人物を確認せずに俺は書類に目を通したまま相手を窘めた。
「完璧な王太子様が好きな女と別れてどんな顔をしているのか見に来ただけですよ」
声の主に驚き顔を上げた。
「エドワード…?」
「久しぶりですね、従兄殿。まさかお前が前王太子の息子だったとはな」
エドワードは俺が王太子になったことで『公爵』の位を授かり、現在は領地を運営する立場となっていた。
「用がないなら帰れ」
俺は再び書類に視線を戻した。
「傷心している王太子殿下に良い知らせを持ってきてやったというのに…」
エドワードはやれやれと両手を挙げながらソファーに腰掛けた。
長居するつもりか!
イライラしながら無視を決め込んだ。
「エリアーナと再婚約しようと思う」
顔を上げるとエドワードの不敵な笑みとぶつかった。
「それのどこがいい話なんだ」
怒りを滲ませながらエドワードを睨みつけた。
手に持っていた書類が俺の手で握りつぶされた。
「いい話だろ?お前はエリアーナ以外とは結婚しない。結婚しなければ跡継ぎが出来ない。そうなれば次の王は俺かその子供になる。その時お前は見知らぬ女の子供よりも愛しいエリアーナの子供の方が可愛がれるだろ」
エリィがこいつと結婚!?
黒い感情が俺の体を駆け巡った。
「俺と結婚しなくてもエリアーナは貴族子女だ。いつか見知らぬ誰かと結婚するより、俺と結婚した方がお前もあいつも幸せだろ?」
感情を抑えられずエドワードに詰め寄ると胸倉を掴んだ。
「俺がどんな想いでエリィと別れたと思ってるんだ!!」
エドワードは不快な顔で俺の手を払った。
「お前の想いなんか知るかよ!なんでも完璧にこなして一人で全て背負えるお前の気持ちなんか凡人の俺にわかるはずがない!!」
エドワードの言葉に俺の怒りが鎮まった。
「俺は凡人だよ。だから一人では何も出来ないし、誰かと支え合わないと生きていけない」
エドワードは哀しみの色を浮かべた。
「エドワード…」
執務室の扉を叩く音が響いた。
「殿下、陛下がお呼びです!至急執務室の方にお越しください!」
外から火急の知らせが伝えられた。
俺とエドワードは顔を見合わせると陛下の執務室へと急いだ。
執務室に入ると深刻な顔をした陛下とウォルター侯爵が話をしていた。
「エドワード?」
陛下は俺の後ろから入ってきたエドワードに驚いたようだったがそれ以上は何も言わず要件を話し始めた。
「今日の昼、ウォルター侯爵令嬢が何者かに連れ去られた」
陛下の言葉に心が乱れた。
「すぐに助けに行かないと…!!」
取り乱す俺を陛下が一喝した。
「落ち着け!まだ何もされていない可能性はある」
陛下は手に赤く黒い斑点がついた三つ葉の草を俺に見せた。
「それは?」
「アテリア草だ」
これが!?
「この草がエリアーナ侯爵令嬢を誘拐した場所に挿してあったそうだ」
これがアテリア草なら犯人はあの黒いフードの奴か!?
「敢えてこの草を置いていったとすると誰かに要求したいことがあるということだろう。要求を聞くまではエリアーナ侯爵令嬢は無事だと思っていいだろう」
エドワードが執務室を出ようとしていた。
「エドワード?」
「事情はわからないが、誘拐されたのなら誰かが目撃しているかもしれない。私は情報を集めに行きます」
そのまま執務室を出ていった。
黒いフードのやつが誘拐したのであればエリィが魔力を使わない限り見つけるのは難しい。
俺もエドワードを見習って情報を集めれるだけ集めよう。
陛下の執務室を後にした。
俺は奴を知っていそうな人物の元を訪ねていた。
「ゼオン!来てくれたのね。嬉しいわ」
メディーナは俺の腕に手を回して微笑んだ。
「夜分遅くに申し訳ありません。お聞きしたいことがあり伺いました」
メディーナは俺をソファーに腰掛けるよう促した。
焦ってはいたが機嫌を損ねて情報をもらえなくなると不味いと思った俺は素直に従った。
「公爵が使っていたアテリア草実験施設について知っていることはありませんか?」
エリィが誘拐されているとしたら公爵が言っていた『アテリア草を移した』場所である可能性が高い。
「私が知っているのはあなたたちが見つけた施設だけだわ」
「そうですか…」
「何かあったの?」
「エリィが誘拐されました」
メディーナは驚きの表情を浮かべた。
「誘拐したのはおそらく黒いフードを被った奴です」
俺は公爵を魔法陣で魔物に変えた時の事を思い出していた。
公爵がいなくなった今、王位は関係無くなったはず…。
なのになぜあいつはエリィを狙った?
「わかったわ…。私の方でも魔術師達がどこに潜んでいるか探してみるわ」
メディーナとの会話が終わりに近付いた時、エリィの魔力を感知した。
「すみません!このまま失礼致します!」
俺は陛下の執務室に転移した。
「エリィは公爵邸付近の森です!騎士団に伝達を!俺はこのまま跳びます」
突然現れた俺に陛下も侯爵も驚いていたが知ったことか。
俺は要件だけ伝えると直ぐにエリィの元に転移した。
転移して直ぐにバリアを張ろうとしたが、足元に現れた魔法陣を見て結界に切り替えた。
魔法陣から遠ざけるためエリィを抱き寄せた。
魔法陣は結界で消失した。
「どうしてお前がここにいるんだ!」
相手は俺の姿を見て叫んだ。
敬語じゃなくなっているぞ。
俺の腕の中のエリィは涙を流していた。
久しぶりのエリィの温もりに俺の心が癒された。
「感動の再会のところ申し訳ありませんが、私を忘れないで頂きたい」
そう思うなら邪魔しないで頂きたい。
俺は相手に対して舌打ちしたくなった。
「目的は何だ」
エリィを泣かせた罪は重いぞ。
俺は相手を睨んだ。
「こうなってしまった今となっては彼女の命を奪うことが一番の目的になるでしょうか」
何故そこまでエリィの命にこだわる?
エリィに何かあるのか?
考えるのは後だ、とりあえず転移してここから離れるのが先決だ。
俺は転移の魔法陣を展開しようとしたが、察知した相手が先に動き出した。
自爆する気か!?
咄嗟にバリアへと切り替えた。
しかし相手はかなりの魔力保持者、俺のバリアが持つかどうか…。
せめてエリィだけでも転移で…。
するとエリィが突然不思議な動きをして俺達を包むバリアを張った。
こんなバリアの掛け方見たことない!?
次の瞬間激しい爆発音とともに炎が吹き抜けていった。
辺り一面焼け野原になっていた。
読み通り俺のバリアは奴の自爆の魔力量に耐えきれず消失していた。
しかしエリィがかけたバリアのお陰で俺達は生き延びることが出来た。
エリィは無理やり笑みを作って泣きそうになるのを堪えながらバリアの特訓について語った。
エリィが必死で俺の傍にいたいと訴える姿が愛しくてエリィを抱きしめた。
『だから一人では何も出来ないし、誰かと支え合わないと生きていけない』
エリィを抱きしめながら俺はエドワードの言葉を思い出していた。
俺だって同じだよ。
エリィが俺を必要としているのと同じように俺にもエリィが必要なんだ。
エリィを抱きしめながらもう二度と離さないと決めたのだった。
読んで頂きありがとうございます。




