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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第一章 ひよっこ魔術師
40/81

花に込めた想い(ゼオン視点)


残酷な描写が多く含まれています。

読む際はご注意ください。


 俺は今、エリィの光魔法を強化する訓練に付き合っていた。


「魔法は散布するよりも凝縮した方が効果は大きい。光魔法は使ったことないけど、恐らく他の魔法と要領は同じだと思うから水鉄砲の弾を作るイメージで光魔法を留めてみて」


 エリィはコクリと頷くと素直に従った。

 エリィは本当に可愛いな。

 俺の周りは食えない奴等ばかりで本当に心労が溜まる。

 唯一の癒しの時間を堪能していた。


「師匠!どうですか!!」


 しばらく訓練を続けているとエリィが眩しく輝く光の球を俺に向けた。

 エリィの頭をなでてやるとえへへ…と可愛く笑った。

 やばい…俺の理性が決壊する!


「じゃあ後はその球を極力大きくしていって、飛ばしてみたり放ったりと自在に動かせれば完璧だよ」


 俺は決壊する理性を抑えるために助言に集中した。


「もし大きくするのが難しければ大切な人を守りたいと想像すれば出来ると思うから…」


 ここまで助言してはっとなった。

 エリィは「大切な人…」と呟きながら俺を見つめていたからだ。

 見つめ返すとエリィは真っ赤になって俯いてしまった。


 この後、エリィを抱きしめることで俺の理性の決壊は何とか防ぐことが出来たのだった。



 調査当日。

 ピッツバーグ公爵邸の前で息を呑んだ。

 他の者が感じているかはわからないが、公爵邸周辺は昼にもかかわらず薄暗く異様な空気を纏っていた。

 後ろではエリィが俺の袖を掴んで震えていた。

 その姿に癒され気合を入れ直し調査開始の号令を出した。


 調査は公爵が不在のため子息の許可にてつつがなく開始することが出来た。

 俺は屋敷内の隠し扉の仕掛けや魔力の濃い場所から隠し部屋を徹底的に探索していった。

 しかし屋敷内にはそれらしい物は見つからず、使用人達から何かヒントが得られないかと話を聞くことにした。


「この屋敷からうめき声が聞こえるとの噂があるのですが何かご存知でしょうか?」

「このお屋敷に長い間勤めさせて頂いておりますが、そのような不可解な事が起きたことは一度もございません」


 執事が厳格な態度で返答してきた。


「正直に言え。私が知らないとでも思っているのか」


 子息が執事を窘めるも執事は頑なに態度を崩さなかった。

 俺は後ろに控えていた使用人達の内の二人が頭を下げながらチラリとお互いに目で合図を送っている姿が目に入った。

 やはりここには何かある。


 そこでふと先ほどまで俺の服を掴んでいたエリィがいないことに気が付いた。


「エリィはどこに行った?」


 俺は近くにいた騎士に尋ねた。


「先ほど部屋を出ていかれましたが…」


 部屋を出ただと!

 何が出るかわからない屋敷を一人で歩き回っているのか!?


 俺は直ぐにエリィの魔力を感知しようと試みた。

 おかしい…エリィの魔力を感じない!?

 焦った俺は部屋を飛び出した。


 廊下を探索していた騎士にエリィの居場所を尋ねた。


「そこから外に出ていかれましたが…」


 俺は急いで外に出た。

 外に出ても魔力を感じない。

 何かで遮断されている?

 子息が頭にモヤがかかると話をしていたが、幻術で感じられないようになっているとか…。


 だとするとエリィが危ない!!


 幻術で感じられなくなっている場所にはきっと見られては困るものがあるはず。

 急いで幻術を感知しようと試みたが、所々に邪魔な魔力が流れており感知しきれずにいた。

 焦った俺は片っ端から怪しい魔力を探そうと動き出した時、一瞬だけエリィの魔力の気配を感じた。


「地下に何かある!俺は転移で跳ぶ!!」


 近くにいた騎士にそれだけ伝えると直ぐにエリィの元に転移した。

 食えないルイゼルならそれだけで色々察してくれるだろう。


 俺はバリアを展開した。


 ギャンッ!


 獣の鳴き声が聞こえた。

 間一髪の状況に俺は安堵した。

 目の前には探していた渦中の人物の姿もあった。


 ピッツバーグ公爵は不敵な笑みを浮かべて虚ろな目をした人間を盾にした。

 エリィの光魔法でほとんどの人達は倒れたが、残りの襲ってきた人は風魔法を発動し気絶させた。

 この襲ってきた人達はアテリア草を飲まされている可能性がある。

 遅れて現れたルイゼルに指示を出し、公爵の後を追った。


 公爵の魔力を覚えた俺は外を走って逃げている公爵の前に転移した。

 突然姿を見せた俺に公爵は驚き腰を抜かした。

 剣を抜き公爵の首元に突き付けた。


「アテリア草を使って魔物を作り出し放っていたのか?」


 公爵は黙っていた。


「前王太子を殺害した時と最近現れた巨大な魔物もお前の仕業か?」


 公爵は驚愕の表情で俺を見上げた。

 知らないのか?


「お前があの巨大な魔物を放ったんじゃないのか?」

「私は知らない!確かに軍備強化を訴えるために魔物を放ったことはあるが、巨大魔物など私は知らない」


 公爵の必死の弁明を聞き本当に知らないのではないかと感じた。


「アテリア草はどこにある?」

「そうか…あいつだ!あいつが私を陥れるために仕組んだんだ!!だからアテリア草も違う場所に移したのか!!」


 公爵は怒りで我を忘れていた。


「私は嵌められたんだ!あのお…」


 公爵が口を割ろうとした瞬間、魔物の切り落とされた首が公爵の前に落ちてきた。

 俺は咄嗟に距離をとった。

 首だけになった魔物は見たことのあるやつだった。


 この魔物、さっき俺のバリアで弾かれたやつだ!


 魔物の首から流れる血が公爵の足元で魔法陣を描いた。

 近くに魔術師がいる!

 周囲を見回すと高台からこちらを見下ろす黒いフードを被った奴がいた。


「十分な量のアテリア草が蓄積されていますし、面白いモノが見られそうですね」


 黒いフードの奴は口角を上げた。

 公爵に視線を戻すと魔法陣の中で苦しみながら身体が変化していった。

 アテリア草の蓄積とアテリア草を飲んだ魔物の血で描かれた魔法陣、これがアテリア草の血中濃度を100倍にした方法か!

 そして前王太子の命を狙ったのは恐らくあいつだ。


 黒いフードの奴に目を移すも奴の姿はどこにもなかった。

 再び公爵に視線を戻した時、俺の思考は停止した。


「ガアアアアアアアアアアアアアアア!」


 聞いたことのある咆哮と姿…。

 6年前のあの日の記憶が甦った。


 なんで生きてるんだよ。


 心臓の音がうるさいくらい聞こえてきた。


 身体が燃えるように熱い。


 死なないなら俺の全魔力を使って殺してやる!!


 俺は全魔力を自分の体に凝縮させた。


 骨も残らないくらい燃やし尽くしてやる!!


「ゼオン!!!!!!」


 突然背後から抱きしめられ我に返った。

 光り輝く雨が俺の頬を濡らした。

 目の前の異形の巨大な魔物はもがき苦しみながらその場に倒れた。

 これはエリィの治癒魔法?


 ドサッ。


 背後で嫌な音がして振り返った。

 後ろには皮膚が焼けただれ、所々に水ぶくれができた痛々しいエリィが倒れていた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺は泣き叫びながらエリィを抱き上げた。

 空から降ってくる治癒魔法でエリィの傷は癒えて元の綺麗な状態には戻った。

 泣きながらエリィを抱きしめていると状況を把握したルイゼルが騎士に団長を呼ぶように指示を出した。


「しっかりしてください!エリアーナ魔術師殿は無事ですから!」


 ルイゼルに肩を掴まれたが俺は項垂れたまま顔を上げることが出来なかった。

 俺が使い物にならないと判断したのかルイゼルは駆けてくる団長に報告した。

 団長はその場の指揮を執り始めた。


「あなたのここでの仕事は終わりました。せめてエリアーナ魔術師殿を屋敷に送り届けてあげてください」


 ルイゼルの言葉に俺はエリィを抱いたまま侯爵邸へと転移した。



 侯爵邸に着くと状況を知らない使用人達は驚いていた。

 俺は簡単に説明するとエリィの部屋へと向かった。

 エリィをベッドに寝かせると侯爵の帰りをエリィの傍で待った。



 待っている間、俺の頭の中は我を忘れて暴走した自分への怒りとエリィの痛々しい姿が甦り強く握った拳で額を叩いた。

 後ろから叩いていた腕を掴まれた。


「俺のせいなんです…」


 項垂れたまま後ろに立つ人物に対して呟いた。


「俺がエリィを…」


 後ろに立つ人物は掴んでいた俺の腕をゆっくり離した。


「誰も悪くありません。エリィは無事帰ってきてくれました。殿下も今日は帰ってゆっくりお休み下さい」


 俺は立ち上がると侯爵に一礼して転移した。



 翌日、ガーベラの花束を持って侯爵邸に訪れていた。

 目覚めていないエリィのそばに花束を置いた。


「殿下、少し話でもしましょうか」


 侯爵に誘われて書斎についていった。


「殿下と騎士団の報告からある程度の状況は把握しました。エリィが制止を無視して動いたことも聞いています」


 侯爵は紅茶を一口すすった。


「あなたがこの件に関してご自分を責めることはありません。責めるとしたら指揮官を途中で放棄されたことを責めて下さい」


 俺は唇を嚙みしめた。

 何もかも中途半端な自分に嫌気がさした。


「あなたはまだ若い。今回のことを糧に成長して頂ければと思っています」


 侯爵は優しい笑みで俺を見つめていたが、俺はエリィと同じその目を見ることが出来なかった。



 翌日、王宮の温室でエリィに届ける花を用意していた。

 花を切る手を見て動きを止めた。

 俺の手の中で酷い火傷を負ったエリィの痛々しい姿が甦り手を強く握った。


 あの日から考えていた。

 いつかエリィをこの手で殺してしまうかもしれない。

 エリィを守るためにもエリィが目を覚ましたら別れを告げよう。


 だから未練がましいのは分かっているが目を覚ますまではエリィに伝えたい。

 『愛してる』の花言葉の花束を渡して。





読んで頂きありがとうございます。

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