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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第一章 ひよっこ魔術師
39/81

煩悩だらけの日々(ゼオン視点)


一応残酷な描写の注意書きを入れておきます。

ご注意ください。


「ゼオン・ルーレン・フリーデンを王太子に任命する」


 荘厳な雰囲気の中、会場に陛下の声が響き渡った。

 俺はマントを翻すと陛下に跪いた。

 陛下から王太子に相伝する宝刀を下賜されると会場の騎士達が一斉に敬礼し、仕官達は心臓の上に手を置いた。


 俺は今日、王太子になった。



 王太子の部屋に移動した俺は執務机の上に置かれていた多量の書類に顔をしかめた。

 これ絶対面倒な書類とか俺に回してるだろ…。

 陛下のしたり顔が目に浮かんだ。

 今日は午前中に公爵邸の調査についての会議、午後から宝石商が来る予定になっている。

 俺は会議までの間に片付けられる書類を片っ端から片付けていった。



 会議が始まった。

 嘆願書を提出したのが第三騎士団の団員ということもあり、今回も第三騎士団と連携をとることになった。


「今回の調査はピッツバーグ公爵領の行方不明者の探索と公爵邸から聞こえる不気味な声の正体を突き止めることです」


 俺が今回の目的を会議室のメンバーに伝えた。


「ピッツバーグ公爵領を調査するにあたり、ピッツバーグ公爵の子息が協力してくれる事になりました」


 子息は立ち上がると全員に向けて一礼した。



 会議前日に俺の執務室を子息が訪れた。


「公爵領の調査の協力と情報提供を引き換えに、現公爵が捕縛されてもピッツバーグ公爵の存続と私に公爵の継承を約束してください」


 俺は事前に陛下と話を付けていたため子息の条件をのんだ。


 子息の話では現公爵が公爵領に引きこもるようになってから様子がおかしくなっていったらしい。

 公爵周辺には常に黒いマントを羽織った顔の見えない人物が近くにおり、二人でよく姿を消すようになったようだ。

 その頃から時折不気味な声が公爵邸周辺から聞こえるようになったらしい。

 気味が悪いと退職を申し出た使用人達もいたらしいが…全員その後の行方がわかっていない。


 子息は独自で調べようとしたらしいが、その度に調べに向かった者が行方不明になったり、自分が直接調べようとすると頭にモヤがかかり何もわからないまま終わってしまうらしい。

 幻術の類か?


 行き詰まった子息は俺の存在を知り、協力とは言っていたが利用することにしたようだ。

 こちらとしても子息の協力があれば調査しやすい。

 お互い利用し合うだけだ。


「アテリア草は知っているか?」


 俺の問いに子息は首を傾げた。

 子息が知らないとなればアテリア草は恐らく公爵がネルドの土地を手に入れてすぐに山から移して栽培を開始したのだろう。



 会議で俺は子息からもらった情報を提示した。


「彼の情報では最近公爵は姿を見せていないらしく、調査するには今が好機です。それと…」


 俺は一拍置くと続けた。


「今回、アテリア草が関与している可能性があると思われます」


 アテリア草の事を公に公表するのは初めてだった。


「アテリア草とは?」


 第三騎士団長が尋ねた。


「前回の巨大魔物に使われたと思われる薬草です。そしてネルドの狂戦士も恐らくその薬の影響ではないかと推測しています」


 会議室がざわついた。


「しかし前回の魔物は魔法陣が関与していたのでは?現にエリアーナ魔術師殿の光魔法で魔物に変化が見られました」


 ルイゼルが眼鏡をかけ直しながら意見した。


「魔術で強化されていた可能性はあります。しかし巨大魔物に関してはアテリア草かは不明ですが100倍の濃度の薬液が血液中から検出されています。そこから考えてもアテリア草が使用されていた可能性は否定できません」


 一同は静まり返った。


「アテリア草はネルドの山に生息していました。しかしその山は現在ピッツバーグ公爵領となっています」

「ではそのアテリア草を採取して調べれば…」

「残念ながらアテリア草は山にはありませんでした。恐らく公爵が全て持ち去ったと思われます。今回はアテリア草の行方も含めて調査していきます」


 全員の顔を見渡した。


「殿下は前回の魔物は公爵が放ったと仰りたいのですか?」


 ルイゼルは口元に手をあてながら質問してきた。


「それを調べるための調査です」

「…わかりました。ならばエリアーナ魔術師殿を同行させることをご推挙します」


 俺の思考は停止した。

 エリィを魔物の巣窟に同行させるだと!?

 こいつ余計な事を!!


「彼女ほどの光魔法使いはそういないでしょう。前回の事も踏まえて参加して頂ければ有事の際には力を発揮されるでしょう」

「光魔法が使える者は他にもいます。彼女にこだわる必要はないかと」


 俺は阻止すべく反撃した。


「現在、光魔法が使える者のほとんどが神官となっています。神官に同行を依頼すると?」


 ルイゼルの言い分は分かっている。

 最近は演劇の影響で魔法を学ぶ者も増えてきたが、それでも異端扱いされていた時期の影響で魔法を使える者はまだまだ少ない。

 その中でさらに珍しい光魔法を実戦でかつ神官でなく使える者は…俺が知る限りエリィしかいなかった。

 さらに神官を同行させるということは王宮から神殿に借りを作ることになる。


 俺はそれまで黙って聞いていた陛下とウォルター侯爵を横目で見た。


「神官を同行させることは反対だ」


 陛下がおもむろに口を開いた。


「今回はウォルター侯爵令嬢を同行させることとする」

「陛下!?」


 俺は思わず立ち上がった。


「お前が守ればいいだけだろう」


 侯爵を見ると侯爵は目を閉じて無言を貫き通していた。

 既に相談済みというわけか…。


 俺は一抹の不安を覚えて会議は終了したのだった。



 執務室に戻るとエリィから何とか断ってくれないかを考えていた。

 もちろん陛下に押し付けられた執務をこなしながら…。


「殿下、宝石商の方がお見えになりました」


 扉の外から声がかかり宝石商を中に通した。


 宝石商を呼んだのはエリィに渡すネックレスを作りたかったからだ。

 今はエリィの首に俺特製の許可証がかけられている。

 けれど俺と結婚すれば許可証は不要となってしまう。

 そのため求婚の時に渡せるよう代わりの…いや、それ以上の強力なネックレスを用意したかった。


 ん?待てよ…。

 新しく許可証を発行して『俺の嫁』とか…。

 いいかも…。

 いや駄目だろ!

 冷静になれ俺!


「魔法石は大きめでお願いします!」


 妄想を振り払ってネックレス作りに専念した。


「ネックレスにするのでしたらこれなど如何でしょう?」


 見せてもらった魔法石はネックレスにするとゴテゴテ感が強そうで可憐なエリィには似合わないと即却下した。


「もっと可愛い感じの物はないですか?」

「では、これなど如何でしょう?」


 次に出してきたのは小さ過ぎて今の許可証についている程度と変わらなかった。


「もう少し大きめで!」


 俺の本気の圧を感じて宝石商が嫌な汗を搔き始めた。

 宝石商は持ってきた魔法石を鞄から取り出し机に並べた。

 俺はその中の涙の形をした小さい魔法石を手に取った。


「これを5つ円状に並べれば花形になりますよね。あとは留め具で綺麗に加工すれば花のネックレスができませんか?」


 宝石商も盲点だったのか素晴らしいと手を叩いた。

 もしかしたらこれ以上嫌な汗を掻きたくなかっただけかもしれないが。


 後日サンプルを持ってくると言い宝石商は帰っていった。



 翌日、俺は執務に没頭していた。

 執務室の扉を叩く音がして書類に目を通しながら適当に返事をした。


 誰かが入って来た気配がして顔を上げると、会いたかったエリィが立っていた。

 俺がエリィに駆け寄ろうとするとエリィが俺に対して恭しく挨拶なんかするから王太子を本気で辞めたくなった。

 しかもまだ師匠呼びだし。

 婚約したら絶対止めさせてやる!


 俺はエリィに会えなかった分までエリィを堪能した。

 エリィは相変わらず固まっていたけどね。

 早く結婚したい。

 侯爵とも()()()()()()()との条件だしね。

 俺の頭の中は煩悩で埋め尽くされていた。


 ピッツバーグ公爵邸の探索の話をしようと顔を上げると、エリィの可愛い瞳が俺をじっと見つめていた。


 エリィ、その顔は駄目だって!

 俺の欲求が爆発寸前だから!


 俺は煩悩を抑えるため顔を反らした。

 俺、結婚まで我慢出来るかな…。


 気を取り直してエリィに会議で決まったことを話した。

 幽霊屋敷と言ったのはこれで怖がって拒否してくれないか願ってのことだった。

 案の定、エリィは怖がった。

 エリィ自身が一度幽霊扱いされてるのにね。


「だだだだだ…大丈夫です!ががががが…頑張ります!」


 いや、怖いならむしろ断って欲しいのだが…。





読んで頂きありがとうございます。

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