初めては星空の下で
残酷な描写があります。
ご注意下さい。
騎士団が到着すると状況を説明した私はゼオンの転移で王宮へと跳んだ。
そういえばゼオンの転移術は初体験だったが、転移の感覚には心当たりがあった。
あれはピッツバーグ公爵邸の物置に設置されていた魔法陣に触れた時の感覚だ。
やっぱりあれは転移術だったのか…。
王宮に到着すると父が転移術ばりに飛びついてきた。
背骨折れる!力加減を覚えて下さい!!
ゼオンの計らいで詳しい話は後日聴取されることになり私は父と屋敷へ戻った。
「お嬢様ーーーーーーー!」
私の顔を見るや否やマリーに抱きしめられた。
この家の住人は抱きしめるのが好きだな…ん?ゼオンもか?
ゼオンに抱きしめられた事を思い出し顔が赤くなった。
「お嬢様!顔が真っ赤ですよ!体調が悪いのでは…!」
「エリィ!大丈夫か!すぐに医者を呼ぼう!!」
二人とも落ち着いて!
医者には治せないですから!!
翌日、私は久しぶりにゼオンの執務室を訪ねていた。
許可証?もちろん顔パスです。
「ゼオン殿下とエリアーナ様のお話を伺う限りではやはり殿下の王位継承権の放棄が狙いでしょうか…」
第三騎士団団長が唸った。
「調査の結果、ピッツバーグ公爵邸付近の森は全焼。焦げた遺体が一体発見されました」
これはルイゼル。
「恐らくエリィが言っていた二人のうちの一人でしょう…」
今、私の目の前では生々しい報告が飛び交っていた。
「ピッツバーグ元公爵はどうなりましたか?」
「そちらはエリアーナ様の治癒魔法の影響を鑑みて再度治癒魔法をかけてみましたが、アテリア草の効果を完全に消すことは出来ませんでした」
あのゼオンと対峙していた巨大な魔物の正体はピッツバーグ公爵だったらしい。
人間があれだけ巨大化したのだから元に戻るのは難しいだろう。
私の偶然発動した治癒魔法を浴びた元公爵はしぼんである程度は小さくなったらしいが、しわしわの老人のようになり呼吸をするのがやっとの状態だそうだ。
現在は上位貴族達が収容される監獄に収監されているらしい。
「全ての真相は闇の中か…」
ゼオンの呟きに重苦しい空気が漂った。
「あの…」
空気をぶち壊し小さく手を挙げた。
三人の視線が私に注がれる。
「ちなみに町の人達はどうなったのですか?」
私は自分の光魔法で黒いモヤが出た町人達が気になっていた。
「最初に倒れた人達は普通の生活に戻っているが、他の者はまだ治療中だ」
ゼオンが答えてくれた。
「どこか悪いところでもあるのですか?」
三人は顔を見合わせた。
ちょっと三人でアイコンタクトとるの止めてもらってもいいですか?
仲間外れみたいで嫌なんですけど…。
「治癒魔法を使ったら襲ってくることはなくなったが元公爵と同じで完全にはアテリア草を消すことが出来ず、日常生活が送れない状態になっている」
またゼオンが答えてくれた。
答えてくれるならアイコンタクトいらなくないですか?
「そちらは今、治療師達が薬草などを飲ませて対処中だ」
体の中のアテリア草の毒素を抜かないと完全には治らないということか…。
何とか治してあげたいけど…。
「そういえばもうすぐ就任式ですね」
騎士団長が話題を変えた。
アテリア草の思考から私の脳内メーカーは一気に『就任式』『ゼオンの正装』が占めた。
隅っこに『カメラ』の存在を残して。
「確か陛下の生誕祭で催しされる夜会で、貴族達にお披露目をされてから後日就任式でしたよね」
ルイゼルは口元に手をあてて予定を思い出していた。
「あまり参加したくないけど、王太子になった以上は参加しないわけにはいかないからね」
ゼオンが大きくため息を吐いた。
夜会ということは侯爵令嬢である私も招待されるはず。
ゼオンの正装が二度も拝める。
「エリィの参加は決定だからね」
ゼオンが満面の笑みで私を見た。
かぶりつきで観に行きます!
二人の世界に入ってしまった私達を呆れた様子で眺めていた騎士団二人は挨拶をしてその場を辞した。
二人が退室したのを確認するとゼオンは私の手を取った。
「今夜、侯爵邸に迎えに行くから待っててくれる?」
夜会はまだ先なのでは?
私が首を傾げるとゼオンは表情を引き締めた。
「連れて行きたい場所があるんだ」
ゼオンの決意に満ちた藍色の瞳に私の胸が高鳴るのを感じた。
一旦屋敷に戻り、オシャレをすると窓の外を眺めながらゼオンの来訪を待った。
馬車が門をくぐったのを確認すると私は急いで部屋を出た。
階段まで来るとエントランスにゼオンの姿が見えた。
私は嬉しくなり駆け下りようとしたがある人物がゼオンの傍に立っているのに気付き足を止めた。
どうしてフィリスがそこにいるの…。
誤解だったことは弁明されたが、抱き合っていた時の映像が甦りドロドロとした嫌な感情が自分の中に沸き起こった。
ゼオンは主に父と話をしていたが、フィリスはゼオンと話が出来ないか機会を窺いゼオンの傍をウロウロしていた。
階上から三人を観察しているとフィリスが話しかけようとすると父が間に入りゼオンとの接触を防いでいた。
ゼオンも気付いており苦笑いを浮かべていた。
これは喜劇か?
父とフィリスの攻防に私の中の醜い感情が消失していった。
二人を眺めていたゼオンが私の視線を感じたのかこちらを見上げた。
私を見つけたゼオンは瞬く間に蕩けるような笑みを浮かべて駆け寄ってきた。
その笑顔は心臓に悪いです!
父は複雑な、フィリスは苦々しい顔で私を見ていた。
「エリィ、いつも可愛いけど今日は特別に素敵だね」
ゼオンは私と向かい合うと私の頬をなでた。
気合い入れ過ぎたかな…。
口から砂糖が出そうなくらい甘いゼオンに赤面して俯いた。
「ゼオン殿下!一度だけですからね!!」
何の話かはわからないが父はゼオンに念を押した。
「約束は必ず守りますから。では行ってきます」
ゼオンは私の手を取りもう片方の手を腰に回すと転移したのだった。
転移した先は真っ暗な外だった。
しかし見覚えのある場所でもあった。
半壊した朽ちた家と中央に木で作られた簡易的な十字架が立っていた。
「ちょっとだけ待ってて」
ゼオンは私をその場に残し十字架の前に座った。
「父さん、母さん、久しぶり。俺、王太子になったよ。俺が王様になったら、父さんの代わりにこの国を導いていこうと思う」
ゼオンは立ち上がると私の前に跪いた。
「エリアーナ・フロレンス・ウォルター侯爵令嬢。俺と一緒にこの国を導いていって欲しい」
ゼオンは胸元から小さな箱を取り出して中を開いた。
中には大きな赤いバラが一輪詰められており、中央に小さな花を模したネックレスが入っていた。
花びら部分はそれぞれ違う五色の淡い色の宝石が埋め込まれていた。
「ゼオン・ルーレン・フリーデンの妻になって頂けませんか」
涙が頬を伝った。
ゼオンはネックレスを取ると私の首につけた。
「返事はもらえないの?」
ゼオンは少ししゃがみ私と視線を合わせると頬に手をあて親指で私の涙を拭ってくれた。
「はい!!」
私はゼオンに飛びついた。
飛びつかれたゼオンはバランスを崩し私を抱えたまま草の上に寝転んだ。
ゼオンの綺麗な藍色の瞳が月明りに照らされキラキラと輝いていて思わず魅入ってしまった。
ゼオンは反転して私を地面に寝かせるとゆっくりと顔を近付けてきた。
これは…期待してもいいんだよね…。
私は静かに目を閉じた。
満天の星の下、私達は初めてのキスを交わしたのだった。
読んで頂きありがとうございます。
次話からしばらくゼオン視点となります。




