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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第一章 ひよっこ魔術師
36/81

誘拐されちゃいました


残酷な描写があるかもしれないので一応注意書きを入れておきます。

ご注意ください。


 一人でバリアの特訓を始めた私は現在、透明の殻に閉じこもっていた。

 初めに言っておきます。

 一人になりたくて閉じこもっているわけじゃないよ。

 バリアの維持の練習をしているだけですから。


 私のバリアはなんとか20秒程度だけ維持できるようになった。


 強度は…トンカチで叩いても割れないことはわかっている。

 何故強度が測定できないかって?

 みんな怖がって誰も攻撃してくれないから。

 私が怖いわけではないよ。

 怖いのは私のバックについている父である。

 要は私に何かあったら生きていけないということだ。

 トンカチですら庭師が涙ながらにカンッと軽く叩いた程度である。

 そんな強さじゃ釘も打てないよ!


 強度は不明だが、魔力を集中的に注入すれば強度は高められると本には書いてあった。

 こればっかりはぶっつけ本番で試すしかないよね。


 今日の特訓は終了しよう。

 私が伸びをすると突然強い風が吹いた。

 先ほどまで庭にいたはずの庭師やお茶の片付けをしていたマリーの姿がどこにもなかった。

 公爵邸の物置に向かった時のことを思い出した。

 あの時も探索中の騎士が誰一人いなかった。

 嫌な予感に急いで屋敷に戻ろうと振り返った。


「エリアーナ・フロレンス・ウォルター侯爵令嬢ですね」


 目の前に黒いフードを深く被った声からして男と思われる人が立っていた。

 私は咄嗟にバリアを張った。

 男は口元に笑みを浮かべた。


「先ほどから拝見しておりましたが、素晴らしい魔術の使い方ですね」


 これは褒められている?それともけなされている?


「魔術を根底から覆してしまっている。無知な人間ほど恐ろしいものはない」


 喧嘩売られた!


「今すぐ殺してしまいたいが、あなたにはまだ使い道があるので一緒に来てもらいますよ」


 バリアが消えると同時に足元に魔法陣が展開された。

 魔方陣が発動すると私の頭に霞がかかり意識が遠のいていった。



 硬くて痛い…。寝づらいな…。


 寝返りをうつと手を踏みつけた痛みから目が覚めた。

 視線は床と平面になっており、視線の先には木製のドアが見えた。

 手を動かそうとするも動かず、後ろで縛られていることに気が付いた。

 私は状況を確認した。

 いや確認するまでもなくこれは誘拐である。


 あいつ私を殺したいとか言っていた。

 男の冷ややかな声音が甦り身震いした。

 こんなところで暢気に寝ている場合ではない。


 私は縄を切るため草刈り魔法を発動しようと試みた。

 しかし全く魔力を感じることができない。

 まさかまた魔力切れ!?

 焦った私は何か切れるものはないかと周囲を見回すと、壁一面に魔法陣が描かれていた。

 この魔法陣…どこかで見た気がする…。

 記憶を呼び起こして思い出した。

 魔術書に書かれていた『魔力封じの魔法陣』だ!

 この魔法陣には気を付けようと思っていたから偶然覚えていたのだった。

 つまり今、魔法が使えないのはこいつのせいか。


 怒りがふつふつと込み上げてきた。

 あいつ私に喧嘩を売っただけでなく、私をなめてかかっている。


 魔法が使えない元日本人!なめるなよ!!


 私は手の縄がほどけないか上下に動かしたり、握ったり放したりと色々動かしてみた。

 結果、縄は徐々に緩み外れた。

 これ刑事(デカ)結びだったら外せなかったな。


 次は入口のドアであるがドアの隙間から覗くと小さいかんぬき錠がかけられていた。

 私は不敵に笑った。

 セキュリティー大国日本に住んでいた私にこの程度の鍵が開けられないとでも。

 私は髪留めに使っていた髪飾りを外した。

 ピンの部分をかんぬき錠に引っ掛けられるように鉤型に変形し、隙間からかんぬき錠を回したり横にずらしたりしてみた。

 普通の令嬢ならきっと何もできずに泣いて助けを待つよね。

 奴らもきっと同じように思っているだろう。

 相手が悪かったと泣くがいい!!

 私は悔しがる奴らの顔を想像して優越感に浸った。


 鍵と格闘すること数分。

 ドアが静かに開いた。

 セ〇ムしてますか?


 目の前には狭い階段しかなかった。

 私は静かに階段を登った。

 登った先は床下のようで木の小さな扉で塞がれていた。


 犯人がいるかもしれない木の隙間から外の様子を窺った。


「あいつを殺すべきです」


 物騒な会話が聞こえてきた。


「駄目だ。あいつには王太子を呼ぶための餌になってもらう」


 目的はゼオン!?


「しかしあいつは餌にはなりません。王太子と別れたと噂になっています」


 ズーン…。

 餌にならないという言葉が私の胸に突き刺さった…。

 あいつらの言う通りゼオンが助けにきてくれる可能性は低い。

 そもそも私が誘拐されたことすらも知らないかもしれない…。


 いや!助けに来てもらうことを考えてどうする!

 だからいつまでたっても弱いままなんだ!

 ここは自分の力で乗り切るんだ!!


 私は己を奮い立たせた。


 けれどここをどうやって抜け出すか…。

 ゼオンみたいに転移術が使えれば簡単だが…勉強しておけばよかった…。

 いやいや、今、出来る自分の力で何とかするんだ。


 とにかくあいつらがどこかに行ったら水鉄砲か草刈り魔法でこの扉を破壊して脱出するぞ!


 私は息を潜めて機会を待った。


 ギシッ


 床の軋む音がした。

 もしかして気付かれた!?

 私はゆっくり後退した。

 けれど道は一本道。

 後退しても戻るのは魔法の使えない部屋。


 私は焦った。


 ギギギッ


 嫌な音を立てて床板が持ち上げられた。


「まさかあの部屋を抜け出すとはな」


 黒いフードを深く被った男が口角を持ち上げた。

 男の手が動くと同時に私はバリアを張った。

 何とかこの20秒で脱出方法を考えないと!

 しかし無常にもバリアは消え去った。

 男は鼻で笑うと構えた。

 私の足元に男が放った魔法陣が敷かれ…


 風が吹いた。


 突然目の前が何かに遮断され体に温もりを感じた。


「どうしてお前がここにいるんだ!」


 男は驚愕していた。

 顔を上げると相手を睨みつけるゼオンの姿があった。

 そこでようやく私はゼオンに抱きしめられていることに気が付いた。


「どう…して…」


 私の頬に涙が伝った。

 来てくれないかもしれないと思った。

 そもそもここに私がいることを知らないゼオンが来られるわけがない。

 これは夢?


「来るのが遅くなってごめん。もっと早く助けたかったんだけど…」


 ゼオンが私の涙を指で拭った。

 私は大きく首を振ると止まらない涙を流しながらゼオンの胸に顔を埋めた。


「感動の再会のところ申し訳ありませんが、私を忘れないで頂きたい」


 男は平静を取り戻していた。


「目的は何だ」

「こうなってしまった今となっては彼女の命を奪うことが一番の目的になるでしょうか」


 私を抱くゼオンの腕が強まった。


「エリィには指一本触れさせない」


 ゼオンが足元に魔法陣を描くと同時に、敵から異様な熱気が発せられた。

 ゼオンは咄嗟にバリアを張った。


「あなたを逃がすくらいなら、ここで死んでもらいます」


 この熱気、感じたことがある。

 ゼオンを止めに行った時と同じ熱気だ。

 ゼオンのバリアのお陰で熱気は遮断された。


「そのバリア、果たして持ちこたえられますかね」


 男の体から異様な炎が噴き出てきた。

 私はゼオンのバリアの中に自分のバリアを張った。


「エリィ!?」


 次の瞬間激しい爆発音とともに炎が吹き抜けていった。

 黒い煙が薄れて状況が確認できるとゼオンのバリアは消失しており、私のバリアは外側が溶けていた。


「エリィ、いつの間に全身のバリアが張れるようになったんだ!?」


 ゼオンは驚いていた。


「実は一人で猛特訓したんです!すごいでしょ!これなら師匠も私も守れます!」


 魔術は発想です!

 私は得意満面になった。


「それに誘拐されたけど魔法の使えない部屋も一人で脱出できましたし、師匠が助けに来てくれたから今もこうして元気です。ちょっとやそっとじゃ私は傷つきません」


 泣きそうになるのを堪えながら私はゼオンに笑顔を向けた。


「だから傍にいさせて下さい…」


 ゼオンは苦しそうな表情を見せて私を強く抱きしめた。


「俺はまたエリィを傷つけるかもしれない…」

「師匠お忘れですか?私は治癒魔法が使えるのですよ。師匠にだって私を傷つけることは出来ません」


 私もゼオンを抱きしめ返した。


「助けにきてくれて嬉しかったです…」

「…無事で良かった」


 騎士団が到着するまでの僅かな間、私達は抱きしめ合ったのだった。





読んで頂きありがとうございます。

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