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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第一章 ひよっこ魔術師
34/81

命を懸けて


残酷な描写があります。

ご注意下さい。


 ピッツバーグ公爵。

 五大公爵の一つで子息がエドワードの側近になっている。


 最近この公爵領の公爵邸付近からうめき声が聞こえてくるとの噂があり、その真相を調査することになった。

 調査するのは公爵邸と公爵邸周辺に広がる森。


 協力者は第三騎士団とまさかのピッツバーグ公爵子息、つまりエドワードの側近だ。

 そして肝心のピッツバーグ公爵が数日前から行方不明になっているらしい。

 そのため特に抵抗もなく調査が開始された。


 私はゼオンの服を掴みながらゼオンの後ろをついていった。

 前は鉄壁だが後ろが無防備なのが不安で仕方がない。


 今回、私のようなビビりが何故参加することになったかというと光魔法が使えるからだ。

 珍しく父も今回は反対しなかったという。

 政治的な問題が絡んでいるらしいが…。

 いや今回だけは反対して欲しかった。

 ゼオンは反対してくれたそうだが、父が反対しなかったこともあり私の参加が決まった。


 そんな私の役目は浄化らしい。

 今日の為にゼオンが光魔法の特訓に付き合ってくれて以前よりも凝縮された強い光を放てるようになった。

 しかし幽霊って浄化されるのか?

 成仏させる感覚でやればいいのかな?

 なんか陰陽師みたいでカッコ良くない。


 屋敷内をゼオンについて歩いているが、今のところうめき声らしきものは聞こえてこない。

 まだ昼間だしね。


 ゼオンは一階の応接室で使用人達から話を聞くことにした。

 皆、口をそろえてうめき声など聞かないと答えていた。

 そりゃそうだ。

 仕えている屋敷のことを悪く言う使用人がいたらそれはそれで問題だ。

 しかも跡取りの令息までいるのだから聞いていたとしても知らないと言うだろう。


 ふと窓の外を見ると中庭に使用人の服を着た女性が具合悪そうにふらふらと歩いていた。

 その女性は中庭にある物置に入っていった。

 ゼオンに報告しようとするも話し中のゼオンの邪魔はできず、私は一人で中庭に向かった。


 騎士達が探索中にも関わらず中庭には誰の姿も見えなかった。

 他の場所を探索しているのだろうか?


 私は女性が入っていった小さな物置を開けた。

 物置は庭の手入れの為の道具が乱雑に置かれていた。


 女性の姿はなかった。

 ゼオンの元に戻ろうと扉を閉めようとした。


 うぅ…。


 物置の中から小さなうめき声が聞こえた。

 な…何?

 幽霊…!?


「誰かいますか…」


 私は恐る恐る物置に足を踏み入れた。

 狭い物置のため奥まではさほど距離がなく、一番奥まで進んだ時だった。


 バチッ!


 許可証のプレートに施された結界が発動し、目の前に魔法陣が出現した。


「これって…」


 私が魔法陣に触れると巨大掃除機に吸い寄せられるような感覚に陥った。

 一瞬だったが物凄い突風に目を開けていられず目を閉じた。



 次に目を開けた時、そこは先ほどまでいた物置ではなかった。


「ここ、どこ?」


 私がいたのは薄暗い廊下にたくさんの牢屋があり、牢の中には魔物や動物が捕らえられており所々でうめき声が聞こえてきた。

 先ほど触れた魔法陣も見当たらず進むしかなかった私は牢の前を歩いた。


 うめき声の正体は魔物?

 ピッツバーグ公爵が捕らえているの?

 何のために?


 状況を確認するため周囲を見渡しながら歩いていると、牢の中に先ほどの女性がいた。


「大丈夫ですか!?」


 私が女性に声をかけるも女性は反応せず虚ろな目で首をゆっくりと動かしていた。

 何故この人は捕らえられているの?

 私が治癒魔法を使おうと女性に手を向けると


 バチッ!


 背後で結界をはじく音がした。

 振り返ると白髪の威厳のある男性が手を押さえていた。


「お前、ウォルター侯爵の娘だな」


 この人まさか…ピッツバーグ公爵!?

 ヤバい!

 私は咄嗟に逃げた。


「捕らえろ!」


 公爵は牢にいる魔物を私に向けて放った。

 魔物も味方かよ!!

 全速力で走るも四足歩行には勝てず、私は水鉄砲を放った。

 魔物が一瞬怯み少し距離が開いた。

 今のうちに!

 怒った魔物が猛然と私に飛びかかった。

 飛びかかるとか反則!!

 私がバリアを展開しようとした瞬間、誰かに抱きとめられた。


 ギャンッ!


 魔物の鳴き声が聞こえた。


「エリィ、大丈夫か!?」


 ゼオンが私を片手で支えバリアを発動していた。

 魔物は公爵の後ろに控えた。


「これはこれは王太子殿下ではございませんか」


 魔物を従えたピッツバーグ公爵が不敵な笑みを浮かべた。


「こんなところに隠れていたとはな。魔物の保有と前王太子殺害の容疑でお前を捕縛する」

「私を捕まえられますかね」


 ピッツバーグ公爵の前に虚ろな目をした人間が集まってきた。


 これが幽霊の正体?

 どちらかというと動きがゾンビである。

 しかも練習用に倒される最初の方に出てくる奴ね。

 中には少し膨張して体が大きい人も混ざっていた。

 そっちは頭に頭巾とか被ってチェーンソーとか持ち歩いていそう…途中で出てくるちょっと手強い奴ね。

 私が前世の記憶を掘り起こしていると、


「エリィ、広範囲で光魔法を使えるか?」


 ゼオンが私にだけ聞こえるように呟いた。

 光魔法で治せるの?

 私は広範囲の光魔法を放った。

 光魔法を浴びた練習用の人達は黒いモヤを出し、バタバタとその場に倒れた。

 しかし手強い方の人達は黒いモヤが出てはいるが倒れることなく苦しみながらこちらに向かってきた。

 動きはやっぱりゾンビだった。


 これホーリーライトをかけた時と状況が似てる。

 あの時も小さい魔物は狼に戻ったが、中型魔物は黒いモヤを出しながら苦しそうにもがいていた。

 大型魔物にいたっては効果なしだった。

 大きさによって光魔法の効き方が違うということなの?


 私が状況を分析しているとゼオンはやむを得ないといった様子で向かってくる人に風魔法を使った。

 風魔法で飛ばされた人達は壁にぶつかり意識を失った。

 正直一人だったら泣きながら逃げているところだが、ゼオンがいるだけで怖さ半減というより無敵な感じ。


 周囲が静かになると上からバタバタと数人、下りてくる音が聞こえた。


「殿下、ご無事ですか!?」


 ルイゼルの声だった。


「ここに倒れている人達は恐らく町の人だ。魔術は浄化できたがアテリア草に侵されている可能性がある。医療班に引き渡すように」


 アテリア草?


「あとピッツバーグ公爵が逃げた。俺はこのまま追いかける。ルイゼル、エリィを頼む」


 ゼオンはそれだけ言うと転移した。


「アテリア草って何?」


 ルイゼルに聞いた。


「ネルドの狂戦士などに使われたといわれる危険な薬草のことです」

「じゃあ前回出た魔物もその薬草が使われていたの?」

「巨大な魔物に関しては使われていたかもしれないとの報告を受けています」


 そんな物が存在していたなんて…。


「この人達は治るの?」


 ホーリーライトでは小型魔物は狼に戻ったが、中型魔物は第三騎士団によって倒されたため治ったという例がない。

 光魔法で治せなかった人は元に戻るのだろうか…。

 治癒魔法で治すことはできないだろうか?


 ドンッ!


 天井が大きく響き埃が上から降ってきた。

 外にいた騎士が慌てて下りてきて報告した。


「大型魔物が出現しました!!」


 師匠は!?

 私は状況を確認するため地上へと駆け出した。



 数百メートル先では巨大な魔物と対峙するゼオンの姿があった。

 巨大な魔物は全身ボコボコに膨れ上がっており、皮膚は赤く、所々に毛細血管の青い色が浮き出ていた。

 鋭い爪と片目だけ見開かれた目がとても不気味だった。

 前回見た巨大な魔物は猿っぽい感じがしたが、今回の魔物は何かと聞かれると原型がわからなかった。


 対峙するゼオンの体からは遠目でもわかるくらいの赤黒い魔力が放出されていた。

 ゼオンの様子がおかしい?

 私がゼオンの元に駆け寄ろうとするとルイゼルに腕を掴まれた。


「あの場は危険です!巻き込まれますよ!」


 危険だということはわかっている…けど…。

 胸騒ぎがする。

 私は腕を思い切り振ってルイゼルの手を切り離すとゼオンの元に駆けた。


 ゼオンに近付くにつれて異様な熱気と息苦しさを感じた。


「師匠!」


 ゼオンを呼ぶも反応がない。

 聞こえていないの?


「師匠!!」


 もう一度呼ぶと私を拒むかのような熱気が放たれた。


 バリンッ!


 聞き覚えのある何かが壊れる音が聞こえたが今の私に構っている余裕はない。

 熱い…。

 私は膝をついた。

 何かゼオンを止める方法はないの…。

 このままでは取り返しのつかないことになる気がする。

 何とかしないと…。

 私の使える魔法は限られている…私が使える魔法で役に立ちそうなものは…。


 ごちゃごちゃ考えるな!一か八かやってみよう!


 私は立ち上がると最大級の水鉄砲を地面に目がけて打ち込んだ。

 ジェット噴射した水鉄砲は私の体を持ち上げてゼオンの元へと運んだ。


 服さえ掴めれば!


 私は必死でゼオンに向けて手を伸ばした。

 熱気で皮膚がヒリヒリしていたが、今はそんなことに構ってはいられなかった。


 お願い!届いて!


 私はもう一度地面に水鉄砲を打ち込んだ。

 二度目の水鉄砲は一歩だけ私をゼオンに近付けた。


 掴んだ!!


 ゼオンの服を掴んだ手からジューっと焼けるような音がした。

 私は高温のゼオンを後ろから抱きしめた。


「ゼオン!!!!!!」


 私の体から眩しい光が放たれた。

 水鉄砲とゼオンの熱気で発生した蒸気は雨となり光魔法と相まってキラキラと光る雨を降らせた。

 雨に打たれた魔物は体から黒いモヤを出し崩れ落ちた。


 私はゼオンの体から赤黒い魔力が消えたのを確認して…手を離した。

 力の無くなった私の体は後ろに傾いた。


 倒れる直前に見えたのは私の降らせた雨によって出来た綺麗な虹だった。





読んで頂きありがとうございます。

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[一言] 倒れる直前に見えたのは私の降らせた雨によって綺麗な虹が出来ていた 倒れる直前に見えたのは私の降らせた雨によって出来た綺麗な虹だった 若しくは 倒れる直前に見えた。私の降らせた雨によって…
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