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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第一章 ひよっこ魔術師
31/81

抱きしめたいのは(ゼオン視点)


苦手な方もいるかもしれないので一応注意書き入れておきます。

残酷な描写があるかもしれないのでご注意ください。


 エリィが俺の部屋で組紐の場面が追加されたお芝居について話をしていた。

 家の身内が迷惑をかけてごめん…。

 エリィは特に怒った様子もなく二ヤリと明後日の方向を見ながら不気味に笑っていた。

 何か悪いことでも考えているのだろうか?


 エリィの妄想が終わると唐突に雷の魔法がないかと尋ねてきた。

 俺は自然現象の原理を考えて魔法の組み合わせで可能であることを伝えた。

 エリィは城門と家で起こった現象について話し始めた。


 それ俺が新しい許可証につけた結界が発動しただけだ。

 俺は以前から考えていた(エドワード)除けをエリィの新しい許可証に組み込んだ。

 結界は光魔法が使えない俺が現在唯一使える光属性の魔術である。

 結界用の魔法陣に魔力を注げば威力は弱いが邪気を寄せ付けないくらいの効果はある。

 エドワードがエリィの腕を掴もうとしたくだりではもっと威力があるものにすれば良かったかとは考えたが。


 しかし継母ってあのまとわりつくような嫌な魔力を持っている異母妹の母親だよな。

 娘といい母親といい邪心だらけなんじゃないか?

 予定外のところにまで作用してくれたことに安堵した。


 俺は虫どもがエリィに群がるのが耐えられないなんて内心を知られたくなくて、エリィには虫除けだとだけ言っておいた。

 エリィは可愛く首を傾げていた。

 その仕草、絶対他の(やつら)に見せるなよ。



 今日はエリィが王妃に組紐作りを教えに王宮に来ている日だった。

 俺はエリィから貰った組紐を眺めた。

 ずっと身に着けていることもあり、貰った時よりもくたびれた感じになってきた。

 エリィに頼めばまた作ってくれるかな。

 俺も俺の色で作ってエリィに渡すか?

 俺の周りの大人たちのニヤついた顔が浮かんできた。

 やっぱりやめよう。あいつらの餌食になるだけだ。

 俺は頭を振り、中庭で例の魔法陣の実験に集中することにした。


 まずは魅了(チャーム)の魔法陣に俺のところまで歩いてくるよう命令の文字を組み込んでみた。

 魅了(チャーム)の魔術は基本かけた魔術師の指示に従う。

 そのためかけた時に魔術師が近くにいることが大前提となるが…。

 この方法なら魔術師が近くにいなくても操れることになる。


 俺は魔法陣を描いた紙を地面に置いた。

 次に小さな土のゴーレムを作成し魔法陣の中央に置き魔法陣に魔力を注いだ。


 ゴーレムが動くことはなかった。

 魔方陣の書き方が悪いのか?

 それとも生き物じゃないと駄目なのか?

 俺が模索していると後ろから声をかけられた。


「ゼオン様、会いたかったです!」


 俺は会いたくなかったです。

 思わずしかめっ面をした。

 エリィの異母妹は小走りに俺の近くに寄ってきた。


「今、忙しいからあっち行ってくれる」


 俺は不機嫌さを隠さず冷たくあしらった。


「ゼオン様は照れ屋なんですね」


 はあ!?

 こいつの頭の中おかしいんじゃないか?


「実は私、ゼオン様の為に組紐を作ったんです」

「いらない」


 俺の手首はエリィの組紐で埋まっています。


「そう言わずに着けてください」


 異母妹は俺の手を取った。


「触るな!」


 絡みつくような気持ち悪い魔力に俺は思わず手を引いた。

 手を引いた反動でよろけた異母妹は魔法陣の上に…。

 その魔法陣発動中だから!

 俺は慌てた。

 魔方陣の上に乗った異母妹は虚ろな目をした。

 そして…


 俺の胸に飛び込んできた。


 俺は咄嗟に先日エリィと話した結界のことを思い出し、瞬時に結界の魔術を放った。

 寸でのところで結界が発動し俺の胸に飛びかかる前に異母妹は軽い衝撃を受け後ろに仰け反り尻餅をついた。


「いったーい。今のなに?」


 結界の発動で邪気が払われたのか異母妹は正気に戻った。


「もう二度と俺に近付くな」


 俺は魔法陣とゴーレムを持ってその場を立ち去った。



 すごく気分が悪い。

 俺は部屋でイライラしながら効果を失った魔法陣を指で叩いていた。

 いや、正確に言うと実験が成功したのは嬉しいが、それがあの女のお陰ということがすごく気分悪い。

 あいつなんなんだよ。

 エドワードの事が好きなんじゃないのか。

 唯一良かったことは、あそこはあまり人が通らず誰にも見られていなかったということだ。

 あの女と一緒にいるところなんて見られでもしたら変な噂が流れるかもしれない。

 エリィに誤解されたくない俺はそれだけは避けたかった。

 不本意だがとりあえずあの魔法陣が命令系統の内容が書かれた魅了(チャーム)ということはわかった。

 あとは血で描かれた意味だが…。


 俺はしばらくイライラしながら血の魔法陣について考えていると部屋の扉がノックされた。

 エリィが来たのかと思い気持ちが少し落ち着いた。

 しかし扉を開けて落胆した。


「今、少しお話しできますか?」


 無表情のルイゼルが立っていた。

 ルイゼルが俺の部屋を訪ねるなんて余程のことか?

 俺はルイゼルを部屋へと入れた。


 飲み物を用意しようとしたが要件だけ話したら戻るというのでソファーにかけた。


「中庭でゼオン殿が女性と抱き合っているところを目撃されました」


 俺の目が点になった。


「それを目撃した女性が泣いていたので私の部屋で保護しました」


 いや、抱き合ってはいないが…何の話?


「えっと…俺が誰かと抱き合っていると誤解した誰かが泣いているってことですか?」


 ああっと呟いたルイゼルの次の言葉に驚愕した。


「エリアーナ魔術師殿です」


 それを早く言え!!!!!!!!!

 俺はすぐに立ち上がり第三騎士団副団長の部屋に転移した。

 無断で入ることになるが知ったことか!

 しかしルイゼルの部屋はもぬけの殻。

 俺は自分の部屋に転移した。

 戻ってきた俺をルイゼルは無表情で迎えた。


「先ほど屋敷に帰られました」


 言うのが遅い!!!!!!!!!

 二度目の怒りにこいつわざとかと憤怒した。


「とりあえず落ち着いてください」


 落ち着けるか!

 抱き合っていたって誤解されているんだぞ!!


「エリアーナ魔術師殿には誤解があるのではとお伝えしておきましたので、彼女も少しは落ち着いたでしょう」


 とりあえず座って下さいと目で訴えられた。

 俺は一つ深呼吸をしてソファーにかけた。


「エリアーナ魔術師殿が廊下で泣き崩れていたので保護して話を聞くと、あなたと女性が抱き合っているのをみて失恋したと仰っていました」


 エリィが失恋って…え?それって俺の事を…。

 俺の顔が赤くなるのを感じた。


「顔がニヤけていますよ」


 ルイゼルに指摘されて俺は手で口元を隠した。


「抱き合っているというのは誤解で間違いないのですね?」

「誤解どころか触れてもいません!」

「そうですか。ではウォルター侯爵に事情を話しエリアーナ魔術師殿を訪ねるのが無難でしょう」


 え?今すぐ誤解解きたいんだけど…。

 俺の心情を悟ったルイゼルはため息を吐いた。


「あなた淑女の部屋に転移する気ですか?」


 確かに…マナーとしては最低だ。

 エリィの事になると冷静さを欠いてしまう自分に苦笑した。

 俺はエリィの誤解を解くために、まずは侯爵の説得に向かうのだった。



 ウォルター侯爵は最初は怒っていたが誤解であることを話すとエリィに会わせてくれるよう取り計らってくれた。

 俺は侯爵とエリィの部屋の前に立っていた。

 異母妹に会うと厄介だと思った俺はフードを深く被っていた。


「大丈夫です、お父様。少し休めば良くなりますから…」


 部屋の中から聞こえる少し鼻声のエリィに胸が痛んだ。

 侯爵は俺を窺った。

 俺は頷いてエリィの部屋の扉を開けた。


 エリィは俺が入ると布団を深く被った。

 俺はエリィに近付きながらフードを外し「エリィ…」と呼んだ。

 エリィの体が少し跳ねたように見えた。

 もう一度名前を呼ぶとおずおずと布団から顔を出した。


「し…師匠…?」


 エリィは信じられないものを見たような顔で俺を眺めていた。

 泣きはらした顔が俺への想いを物語っていて嬉しくなった。

 俺はゆっくり近付きエリィの傍に腰掛けた。

 また泣いてる…。

 俺が泣かしたのか。

 俺は指でエリィの頬の涙を拭った。

 そして自分の素直な気持ちをエリィに話すとエリィは真っ赤な顔で俯いた。

 それが嬉しくて可愛くて俺はエリィを引き寄せて抱きしめた。


「好きだよ、エリィ」


 抱きしめたエリィが温かくて愛しくて気付くと俺は想いを伝えていた。

 エリィは泣き疲れたのか俺の腕の中で眠っていた。


 エリィをベッドに寝かせ可愛い寝顔に口付けをしようとして止めた。



 侯爵から発せられる殺気が尋常じゃなかったからだ。





読んで頂きありがとうございます。


次話はウォルター侯爵視点となります。

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