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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第一章 ひよっこ魔術師
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騒がしい日常(ゼオン視点)


残酷な描写が含まれている表現がありますのでご注意ください。


「エリィを危険に晒してしまい、申し訳ありませんでした」


 俺はウォルター侯爵の前で『正座』をして謝った。


「立って下さい、ゼオン殿。騎士団からの報告書を読ませて頂きましたが、ゼオン殿は最善を尽くして下さった。むしろゼオン殿がいなければ今頃エリィは…」


 侯爵は目頭を押さえた。


「今後はエリィ自身も守れるよう、バリアの魔術を教えていこうと思います」


 侯爵は俺の手を取って立ち上がらせ微笑んだ。


「今後もエリィのこと、よろしくお願いいたします」



 数日後、俺はサマナの家を訪ねていた。

 陛下に魔物の血液を調べてもらっているので転移で行きたいと話すと簡単に許可をしてくれた。

 以前だったら絶対渋っていたのに…。

 エリィがいる王都から俺が離れないと踏んでいるのだろう。

 癪だが当たっているから何も言えない。


「アテリア草かどうかはわからないけど、通常の薬の100倍の濃度の薬液が検出されたよ」


 100倍!?それだけの量を一気に服用したということか?


「通常の薬ではあり得ない量だ。やはり粉末にしたものを多量に飲んだか、もしくは他の物と併用して効果を増幅させたか…」


 他の物…。

 俺は洞窟の魔法陣を思い出していた。


「アテリア草があれば成分を分析できるんだけどね…」


 そのアテリア草は山にはもうない…。

 やはりピッツバーグ公爵領を調べるしかないのか。

 俺が難しい顔で考え込んでいるとサマナが思い出したようにある話題を出した。


「ところで、最近王都であんた達を主役にしたお芝居が流行っているんだって?」


 俺の顔は途端に苦いものへと変わった。


「最近、村の女の子達が魔法を教えて欲しいとやってきて困っているんだよ。ほら、家には今誰かさんが持ってきた物騒な代物があるだろ」


 物騒な代物に視線をやった。

 さすがにもう動いてはいない。


「見られでもして変な噂が立つと困るんだよね」


 サマナが俺をからかっているのはわかっているが…なんだか色々すみません…。



 最近、俺とエリィを主役にしたお芝居がすごい人気であり、俺達は見世物状態と化している。

 俺は早々に出所を調べた。

 どうやら第三騎士団の連中が王都の酒場で討伐の時に感動した場面を語り合っていたところ、たまたま居合わせた劇団の脚本家が興味を示し話を聞いてきたらしい。

 そんな大衆が集まる場所で話すなよ…。

 騎士団達はこぞって討伐の話から始まり、俺達の事で聞いた噂などを脚本家に話したそうだ。

 そして脚本家の創作意欲が燃えた結果がこれだ。


 大衆に見られるのは嫌だが、エリィとの恋愛話なら悪い気はしない。

 現にお芝居を見た連中からは俺とエリィは恋仲として関連付けられたことで悪い虫も付きにくくなった。

 王太子扱いされるのはちょっと困るけど…。

 陛下に「俺が王太子扱いされていますけど、いいんですか?」と尋ねたことがある。

 陛下は何がいけないの?と言った顔で


「この際、王太子になっちゃう?」


 なんてことを言い出すのだ。

 駄目だ、この古狸はあわよくば感が強すぎる。

 結局、抗議もできず下手をすれば王太子になりそうな案件に静観するしかなくなったのだった。



 部屋に戻ると魔術の本を手に取った。

 魔術についてはほとんど知っているが、洞窟内の壁の魔法陣は初めて見たものだった。

 何か似たような魔法陣がないかと探していると部屋の扉がノックされた。

 俺が扉を開けるとエリィが立っていた。

 もう約束の時間か。

 俺はエリィを連れていつもの訓練場へと向かった。



 訓練場の周辺の回廊にウロウロと不審者達がうろついていた。

 明らかに往復している奴もいる。

 俺は不審者達の顔と服装から部署を割り出し職務怠慢で陛下に申請しようと考えていた。


異母姉様(おねえさま)!」


 エリィに手を振る女性がエドワードを連れて小走りにやってきた。

 なんでお前がここに来てるんだよ。

 俺がエドワードを睨むとエドワードは視線を逸らした。

 エリィの異母妹と思う女性はエリィを通り過ぎ俺の前に立った。

 なんで俺?

 この女性の魔力はねっとりとしていて気持ちが悪い。

 あまり関わりたくないな。

 しかも上目遣いで明らかに好意を含んだ挨拶をしてきた。

 エリィの異母妹ということもあり、最低限の挨拶はした方がいいかと思い名だけ名乗った。

 これ以上関わるのは無理と思った俺はエリィに場所を変えようと話し、異母妹の横を通り過ぎようとした。


「私も魔法を習いたいです」


 あろうことか俺の袖を掴んできた。

 俺の腕の周りにねっとりとした魔力が絡みついた。

 気持ち悪い…。

 俺は袖を引き抜くとエリィの清らかな魔力に癒されたくてエリィの手を取ったのだった。



 エリィを帰したあと、俺はまた魔術書を開き魔法陣を眺めていた。

 新しい魔術だとしたらただ眺めているだけじゃ見つからないかも…。

 俺は覚えている範囲で洞窟の壁に描かれていた魔法陣を紙に書き起こした。

 書いているうちに法則などから魅了(チャーム)の術に似ていると感じた。

 魅了(チャーム)の術に何か他の魔術を組み込んだのか?

 山にいたのは小型の魔物ばかりだった。

 しかし町には大型、中型の魔物も出現した。

 町を破壊するように魔法陣に組み込んだ?

 しかし何のために…。

 あの町を狙っても得するものなど…。


 そこでハッとなった。

 エリィか!?

 エリィがもし魔物にやられていたら俺はどうなっていただろう…。

 考えただけでも恐ろしかった。

 王位を狙っているとしたら王位継承権第一位の俺は邪魔な存在。

 俺を直接排除するのが難しいと考えているとしたら…あり得ない話ではなかった。


 もう一つ気になるのは魔法陣が血で描かれていたということ。

 血は負の力を与える。

 あの転移と魅了(チャーム)の術もどきは配置の場所から恐らく呼応しあっている。

 転移してきてすぐに操られ、負の力を与え魔物が増えたのではないかと推測した。


 だがあの洞窟は山の中腹にあった。

 あそこで中型や大型魔物が出現したなら俺達が出くわさないわけがない。

 他の場所にも同様の魔法陣が配置されていた?

 今はもうエリィの『精霊のきまぐれ』で魔法陣は消去されているだろう。


 俺は顔を天井に向け大きく息を吐いた。

 あれを設置した奴の目的は大体わかった。

 新しい魔術を使えることからも魔術師として優秀な奴であることも窺える。

 そんな凄い魔術師を裏で操れるとしたら…。

 王位を狙い、財産、権力全てが揃っているピッツバーグ公爵しかいない。

 俺は確信したのだった。



 翌日、何故か俺は王妃に呼び出されていた。


「それが組紐なのね!」


 俺の手首に付いているエリィからもらった組紐を見た王妃が歓喜の声を上げた。

 一体なんなんだ?

 俺は状況が飲み込めず困惑した。


「これエリアーナに付けてもらったのでしょ?どうして言ってくれないのよ!」


 なんで知っているんだ!?

 話を聞くと最近お芝居で組紐を渡す場面が追加されたらしい。

 この組紐はエリィが考えて手作りしてくれたもので誰も持っていないはず。

 なのにお芝居に追加だと?


 俺は立ち上がると真っ先に犯人の元に向かった。



「これは一体どういうことですか」


 静かな怒りを犯人にぶつけた。

 上から見下ろされた犯人は両手の人差し指をいじりながら上目遣いで眉尻を下げた。

 そんな可愛い仕草をしても全く可愛くありませんから古狸。


「だってあの時の二人すごくいい雰囲気だったから…」


 やっぱり見ていたのか。

 上手いこと見計らって現れたと思ったよ。


「お前もそう思うだろ?」


 陛下は後ろに控えているウォルター侯爵に視線を移すも侯爵は素知らぬふりを決め込んでいた。

 侯爵に見捨てられた陛下は開き直った。


「ゼオン!考えてみろ!あの組紐が人気になったら景気が上向く。そうすれば民の生活も豊かになる。王としてこれほど喜ばしいことはない!」


 組紐一つで大袈裟な…。


「だからと言って王族の私生活を勝手に公表していいことにはなりません」

「だってお前、王子って扱いされたくないのだろ?だったら『王族』の私生活ではないよな?」


 俺は言葉に詰まった。


「王族の私生活と言いたいのなら、まずは自分が王子であることを自覚することから始めなさい」


 陛下は立ち上がり後ろで手を組むと窓の方を向いてしまった。

 俺は何も言い返せず陛下の執務室をあとにした。






読んで頂きありがとうございます。

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