騒がしい日常
王都に帰ってきて数日が経った。
私の周りは驚くほど騒がしくなった。
まず、父の過保護に拍車がかかった。
これは報告書を読まれたらあり得ると覚悟していたので想定内である。
次にゼオンのバリア魔術の猛特訓が始まった。
魔法は自然の力を使うが魔術は科学に近いため原理を理解するだけで一苦労である。
魔法でバリアの代用はできないだろうか模索中である。
そして今一番騒がしいのは、町で流行っているお芝居である。
ただの劇ならよく公演されているのだが、問題は内容だ。
とある貴族の娘がとある魔術師に教えを乞うところから話が始まる。
どこかで聞いたことのある話だ。
娘は魔法が使えるようになった頃、魔術師とともに魔物の討伐に向かい娘は光魔法を魔術師は闇魔法を駆使して巨大な魔物を倒す。
これつい先日どこかで経験した気がする。闇魔法は出てないけど。
しかも話を聞くとこのシーンで出てくる演出がすごく幻想的で綺麗らしい。
一番の見せ場だとフィリスが語っていた。
巨大な魔物を討伐した二人は絆を深めていく。
私と師匠の絆はもっと前から深かったです。あ、私の話になってしまった。
二人は徐々に惹かれ始め恋に落ちた。
しかし二人の恋には障害があった。
実は魔術師は王太子であり婚約者がいたのだ。
この婚約者が私とか言わないよね。悪役令嬢路線臭しかしないんだけど。
嫉妬に狂った婚約者に命を狙われながら、二人は愛の力で乗り越えて最後はハッピーエンド…
って途中まで完全に私とゼオンの話だよ!!
しかも魔術師が王太子ってこの脚本家はどこまで知っているのだ!?
このお芝居についてゼオンに尋ねてみたところあくまで創作だから王家は静観することにしたらしい。
お芝居が公演されるようになってからモデルとなった私とゼオンの人気が急上昇。
ゼオンが亡き王太子に似ているということと私がエドワード第一王子の元婚約者だったことから、ゼオンを王太子に私を王太子妃にと民衆の間で望まれる声が多くなった。
ゼオンが王位継承者だからいいけど、そうじゃなかったらみんな不敬だからね。
お芝居の人気が急上昇するにつれて貴族令嬢達からのお茶会のお誘いが増えた。
王妃のお茶会の時に挨拶にも来なかったくせに王太子妃候補に返り咲くかもとなった瞬間これである。
お好み焼き屋もビックリの手のひら返しである。
そしてもう一人騒がしい人物が増えた。
「異母姉様。ゼオン様は我が家にはいらっしゃらないのですか?」
私が王宮に会いに行っているのに来るわけないでしょ。
愛しのエド様はどうした。
手紙のやり取りをしているんじゃないの?
最近フィリスは令嬢達のお茶会に参加してはゼオンと知り合いだと豪語しているらしい。
存在すら認識してもらえていないのに大丈夫か?
そんな騒々しい日々の中、今日もバリアの特訓のため王宮に来ていた。
いつもの訓練場でいつも通りに訓練しているはずなのだが…やたら回廊を歩く騎士や魔術師や文官達の姿を目にする。
しかもちらちらと視線が五月蠅い。
この回廊、いつもはこんなに人通ることないよね!?
むしろ人が通っているのを見たことがない!
もちろんゼオンも不審な人物達に気付いており苦笑いを浮かべていた。
「異母姉様!」
見世物になりながら特訓を続けていると前回と同様に王宮ではまず聞くことのない声が聞こえてきた。
ゼオンと声のする方に目を向けるとエドワードの前を元気に手を振りながら小走りで走ってくるフィリスがいた。
お前はなぜここにフィリスを連れて来た!?
私がエドワードを睨むとエドワードは視線を逸らした。
フィリスは私の前を通り過ぎゼオンの前に立った。
あんた私を呼んだのに通り過ぎるとか…わかってたけどね!
「あの私、エリアーナ異母姉様の妹のフィリスと言います。リリィと呼んで下さい」
フィリスは口元に手をあてて可愛く上目遣いでゼオンに挨拶した。
「ゼオンです」
ゼオンは興味なさそうに名乗るとフィリスの頭上から私に声をかけた。
「エリィ、今日は観客が多いから部屋に戻ろう」
ゼオンがフィリスの横を通り過ぎようとするとフィリスがゼオンの袖を掴んだ。
「私も魔法を習いたいです」
今、町ではお芝居の影響で魔法一大ブームが巻き起こっているのだ。
少し前までは魔術師を異端者扱いしていたのに…。
クレープ屋もビックリの手のひら返しである。
しかもあなた以前『魔法なんて』って言ってませんでしたか?
「エドワード殿下に教えてもらえば?」
ゼオンは無表情で答えるとフィリスの手から袖を引き抜き、私の手を取ってその場を離れた。
姉妹共々服を掴んですみません…。それにしても…
回廊にいる奴ら、修羅場か!?みたいな顔で見てないで仕事しろ!!
「しばらくはここでバリアの練習をしよう」
ゼオンの部屋に戻ってきた私達はソファーに座り今後の相談をしていた。
「私考えてみたのですが、魔法でバリアの代わりって出来ないのですか?」
「出来ないことはない…」
ゼオンは少し考えて返答した。
「じゃあ!」
私が立ち上がり前のめりでゼオンに迫るとゼオンはにっこりと笑った。
あ、この笑顔『駄目だよ』の笑顔だ…。
これでもゼオンとはそれなりの付き合いになる。
最近では何となく何が言いたいのかお互い判るようになってきた。
私は意気消沈しソファーに座った。
科学苦手なんだよね…。
「魔法でも補えないこともないけど威力も弱くなるし四方からの攻撃は防げない。魔術が苦手なのはわかるけど出来るまで付き合うから頑張ろう」
ゼオンも最近忙しくしているのに私の為に時間をとってくれていることが嬉しくて素直に頷いた。
ゼオンは先ほどとは違い優しい笑みを私に向けた。
時折見せるゼオンの笑みを最近直視できなくなった私は赤い顔を隠すため俯いた。
ゼオンと別れ、屋敷に戻るため城門に向かうと城門前にエドワードが立っていた。
フィリスの見送りをしていたのだろうか、タイミングの悪さに不快さが顔に出そうになるのを耐えた。
「随分とあいつと仲が良いんだな」
エドワードに挨拶をし通り過ぎようとすると声をかけてきた。
「私の上司ですから」
ゼオンの事を想い出すと鼓動が速くなった。
エドワードが息を呑んだ。
「あいつのこと…好きなのか…」
す…好き!?
私の顔が一気に紅潮した。
そりゃあ師匠の事は尊敬しているし傍にいてくれると嬉しいし安心するけど…好き…なのか。
「俺じゃ駄目なのか!」
エドワードが私の腕を掴もうとした。
バチッ!
私の前で電気が走りエドワードは手を引いた。
え!?今の何?静電気?それにしては結構威力があったような…。
「失礼致します」
私は逃げるように城門を通り抜けたのだった。
屋敷に着くと今度はフィリスと継母が待ち構えていた。
今日は一体なんなのだ。
「異母姉様はずるいです!私も魔法を教わりたいのに異母姉様ばっかり…」
「エリアーナ、フィリスも一緒に勉強させてあげなさい。あなたはフィリスの姉なのですから」
こんな時だけ姉扱いとか…あなた以前魔法のこと『野蛮』って仰っていましたよね。
「私の一存では決められないのでお父様を通して頂けますか?」
困った時の生贄を出してみた。
「あなたが彼にお願いすれば済む話でしょ」
相手は王位継承者ですよ。
陛下の仕事も手伝っているというし、最近では色々調べものをして忙しくしているゼオンを見ている。
「簡単に言わないでください。師匠はお忙しい中、無理に時間をとって下さっているのですよ。そんな方にフィリスの面倒まで見ろとは私には言えません」
継母はギリッと歯を噛むと手を振り上げて私の顔めがけて振り下ろした。
バチッ!
また私の前で静電気が発生した。
継母は驚き手を引くと私を睨んだ。
いやいやいや…私何もしていませんよ!
お父様助けてーーーーーーー!!
父が帰宅し、私は家での出来事を話した。
父は継母とフィリスを呼び出し説教した。
ゼオンが王位継承者と知る父からしてみたら私が弟子入りしていることだけでも恐れ多いのに、これ以上ゼオンに負担をかけられないといったところだろう。
これでフィリスが諦めてくれるといいのだが…。
というかエドワードとの仲はどうなったのだ?
読んで頂きありがとうございます。
 




