任務完了(ゼオン視点)
残酷な描写があります。
グロテスクな描写が苦手な方は注意してください。
転移と同時に俺は最大級のバリアを展開した。
ガキンッ!
バリアが目の前の魔物の爪を弾いた。
「し…師匠…?」
今にも泣き出しそうなエリィの声を聞いて安堵した。
視線をエリィに向けるとエリィの姿は痛々しく無理をさせたのがわかった。
けれど生きていてくれたことが素直に嬉しかった。
目の前の巨大な魔物は俺のバリアを壊そうと何度も叩きつけていたがそう簡単に壊れてやるつもりはない。
エリィをここまで傷つけた報いは受けさせてやる。
俺は静かな殺意を巨大な魔物に向けた。
魔物は俺の殺気に一瞬怯んだが負けじと咆哮を上げさらに強くバリアを叩いた。
「エリィ、もう少しだから頑張れるか」
エリィを安心させるため俺は優しい笑みを浮かべた。
エリィは強い。
だからここはエリィに任せた。
そんな俺の想いに気付いたのか
「はい!師匠!!」
と力強く返事をしてくれた。
俺は再び巨大な魔物と向き合うと殺気を込めた視線を送った。
「お前の相手は俺だ」
俺は指を鳴らし巨大な魔物とともに転移した。
俺が転移したのは先ほど魔法陣が存在していた洞窟だった。
この巨大な魔物がこの洞窟から出現したのか確認するためと、入口側に立つ俺の前にバリアを張れば魔物の行動を制限することができるからだ。
高さが少し足りなかった魔物は転移と同時に頭を固い壁にぶつけ膝をついた。
俺はその隙にバリアを張り、魔物を閉じ込めた。
魔物は俺のバリアを壊そうと狭い檻の中で暴れていた。
高さが足りないことからもこの魔物は転移してから巨大化した可能性があること。
そして巨大化したのは今日、俺達が討伐に行っている間と推測した。
もしこれほどの巨大な魔物が山をうろついていたら昨日と今日探索した段階で俺が気付かないわけがない。
そう、両親の前に現れた巨大な異形の魔物と同様に…。
俺は暴れる魔物の姿を冷然と観察していた。
「どちらにせよエリィを傷つけた時点でお前を生かすつもりはない」
俺は冷笑を浮かべ、魔物の心臓めがけて水の槍を飛ばした。
水の槍は心臓に刺さる直前に心臓を包むように円形に形を変えた。
心臓に繋がる全ての血管をそのまま切断し…引き抜いた。
引き抜かれた心臓は水魔法に包まれた状態で魔物の体を離れても拍動を続けていた。
魔物は何が起きたのか理解できずしばらく暴れていたが、心臓を無くした体からは行き場をなくした血液が大量に流れ出てやがて魔物はその場に崩れ落ちた。
俺は巨大な魔物の死骸をその場に残し転移した。
「あ…あんた突然現れたと思ったら、なんて物を持ってんだい!?」
どうやら転移した先の住人を驚かせたようだ。
「これ約束の新鮮な血液」
新鮮も新鮮。まだドクドク動いている採れたてですから。
「誰もそんな物騒な物を持って来いとは言ってないだろ」
サマナは怪訝な顔をしながら真空の瓶を持ってきた。
物騒と言いながらも受け取ってくれるんだね。
瓶に血液の入った心臓を入れると水だけを抜いた。
「これでアテリア草が使われているか調べられるだろ?俺すぐに行かないといけないから結果は落ち着いたらまた聞きにくるよ」
俺はサマナへの挨拶もほどほどにすぐにエリィのもとに転移した。
転移してすぐに歓声の声が聞こえた。
討伐が終わったのか?
近くにエリィがいるはずと周囲を見回すと今にも倒れそうなエリィを見つけた。
俺はすぐに駆け寄りエリィを抱きとめた。
すでにエリィの意識はなく俺の腕の中で紅潮した顔を歪めていた。
俺はエリィを抱き上げるとすぐに部屋へと転移した。
エリィをベッドに寝かせると治療師を呼んだ。
治療師はエリィの状態を診て外傷は治せるが、体の痛みはとれないと話した。
どうやらエリィが平然と使っている光魔法が混ざった治癒魔法でしか完治できないとの事だった。
エリィの魔力は尽きてるし目を覚ました時、痛がるだろうな…。
俺は筋肉痛のエリィを思い出していた。
治癒師が帰り、俺はエリィの額に手をあてた。
まだ熱は下がっていないか…。
「あんまり心配かけるなよ」
額にあてていた手を頬に下ろすと、エリィが頬をすり寄せてきた。
その仕草が可愛くて俺は悶えた。
これはもしかして俺の理性が試されてる!?
無邪気なエリィの仕草に俺はドキドキする心臓を落ち着かせながらエリィの頬を親指で撫でてやった。
エリィは嬉しそうな表情を浮かべたまま寝息を立てた。
「人の気も知らないで…」
しかし今回は間に合ったから良かったけど、俺がいつも側にいてあげられるわけじゃない。
「これは帰ってから魔法の猛特訓だな」
とりあえずバリアは張れるようにさせよう。
俺の不穏な空気にエリィが顔をしかめた。
どうやら空を飛んで俺に褒められたあと落下して全身が痛くなるという夢を見ていたらしい。
エリィが目覚めるまでの二日間、俺はほとんどの時間エリィの側で過ごしていた。
二日目の朝、頭を優しく撫でられる夢を見た…夢?
エリィのベッドの端で寝落ちしていた俺は目を開けた。
頭部が誰かに撫で回されていた。
「髪サラサラ…」
恐らく本人は声を出したつもりがないくらいの小声でエリィが呟いた。
エリィの腕を掴むと心配したのがあほらしくなるくらいの恍惚な笑みを浮かべていた。
起きたら今回の頑張りを褒めてあげようと思っていたが、この顔を見ていたら…無性にいじめたくなった。
おそらく痛みの事を忘れているエリィに痛みの情報を与えてやった。
「どこか痛むところはない?」
案の定、脳が痛みを忘れていたのか思い出したエリィは身悶えていた。
しかも魔力切れを起こしているエリィは治癒魔法が使えず涙を流していた。
ちょっとかわいそうだけど俺は治癒魔法が使えないし、ベッドにいる方がエリィも大人しくしているだろうから良くなるまでゆっくり休んでもらおう。
二日後、エリィの部屋に入ろうとして足を止めた。
部屋の中で誰かと話をしているようだ。
扉が閉じていたので内容まではわからなかったが、聞こえてきた会話から「光魔法」「王太子妃」という単語が出てきた。
声の主はルイゼルだ。
光魔法が使える者が王太子妃になれとか言っているのか?
エリィはエドワードと婚約破棄したんだぞ。
ルイゼルの意図がわからず考え込んでいるとルイゼルが部屋から出てきた。
ルイゼルは俺がいたことに気付いていたのか無表情で頭を下げると俺の横を通り過ぎながら挑発してきた。
「私は彼女がこの国の王妃になることを望みます。彼女が王妃になった時、隣に立つのは果たしてどなたになるのでしょうね」
エリィの調子が大分良くなり、今回の功労者として俺とエリィのために宴が催された。
宴では酔った騎士達が俺の武勇伝を語ってきた。
自分のことを語られるのってすごく恥ずかしい!
人から見た俺ってこんななの!?
俺は赤い顔を隠すように俯いた。
隣に座るエリィはルイゼルの魔法剣士という言葉に目を輝かせていたが、教えないからね。
エリィがやりたいと言い出す前に釘をさしておいた。
こうしてエリィの初任務を終え、俺達は王都に帰還したのだった。
とりあえず王宮に戻ったらエリィの許可証の再発行と虫避けの魔法を付けないと。
あとは…
エリィに無茶をさせた罰としてウォルター侯爵に『正座』でもしよう。
読んで頂きありがとうございます。
次話からエリアーナに戻ります。




