守る者と守られる者(ゼオン視点)
残酷な描写が出てきます。
ご注意下さい。
エリィの説得に失敗した翌日。
俺は討伐組に参加していた。
今日は山の周辺を探索する予定だ。
朝、エリィには山には近付くなと念を押しておいたが…大丈夫だろうか…。
「魔物はまだ麓までは降りてきていないみたいですね」
周辺を一通り回ったところで騎士団長が俺に投げかけた。
「あちらも俺達の様子を窺っているのかもしれません」
俺がそう答えるには理由があった。
所々で嫌な魔力を感じたからだ。
もしかしたら前回の魔物のように知恵が働くやつかもしれない。
「数も聞いていたより多そうです」
町長からは山で遭遇した時に群れでいたのは10匹ほどだったそうだ。
だが俺が感じた嫌な魔力は少なくとも50は超えていた。
短期間でこんなに増えるとなると誰かが故意に増やしているのか?
そうなると転移の魔法陣が設置されている可能性がある。
誰が何の目的で設置したのか…。
俺は団長に明日から転移の魔法陣探しを含めた討伐を提案し本日の探索を終了した。
町に戻るとルイゼルから驚愕の報告を聞くことになった。
「町の近くに魔物が現れました」
これは可能性としては考えていたため想定内だ。
問題は次だった。
「エリアーナ魔術師殿が全く効かない草刈り魔法で相手の意表を突いて撃退しました」
草刈り魔法は威力がないって教えただろ!
なのに草刈り魔法を魔物にあてるとか自殺行為にも程がある!
相手が引いてくれたから良かったものの襲ってきてたらどうするつもりだ!!
心の中で激怒しているのが顔にも表れていたのか団長がまあまあと俺をなだめた。
ルイゼルもさすがに気の毒だと思ったのかエリィのお陰で子供は無事だったとフォローしていた。
本当は今すぐに王宮に強制送還しようと思ったが、二人に免じて止めておいた。
だがしかし釘だけはさしておかないと!
俺はエリィを探しに町に出た。
町で銀髪の女性を見なかったか尋ねるも誰も見ていないと言われた。
何か危険な目に合っているのでは?
一瞬不安がよぎった。
しかし目の前をコソコソと何かから逃げるように黒いローブについたフードを深く被り、背を丸めて怪しい動きをする人物が歩いているのを目撃して不安はすぐに解消された。
その黒いローブ、俺達が選んだやつだからね。
俺は怪しい動きをする人物の目の前に転移した。
怪しい人物は下を向いており俺の足元が見えて顔を上げた。
「エリィ、何してるのかな?」
俺はこめかみに青筋を立てながらニッコリと笑った。
「ギャーーーーーーーー!」
エリィが回れ右をして逃げ出した。
そんな化け物を見たみたいな反応されると傷つくな…。
俺が指を鳴らすと逃げるエリィをバリアが囲った。
簡易牢獄の出来上がり。
さてどうしてくれようか。
エリィはゆっくり歩いてくる俺と対角にあるバリアに張り付いた。
「ご…ごめんなさい!」
エリィは目に涙を溜めて小動物のようにプルプル震えていた。
その姿がちょっと可愛くて少し吹き出してしまった。
「何に対して謝っているの?」
俺がエリィの張り付いているバリアに近付くとエリィはまた俺とは対角のバリアの壁に移動した。
俺から逃げようとするのは気に入らないな。
俺はバリアを解除するとすかさずエリィの腕を掴んで引き寄せた。
逃げられないと観念したエリィは項垂れたまま俺に手を引かれ説教部屋へと連行されるのだった。
説教部屋という名の支援中に寝泊まりする俺の部屋に入るとエリィは床に足を揃えて座った。
何をしているのか尋ねると、これは『正座』というものらしく反省の意を示しているらしい。
長時間座っていると足が痺れてしばらく動けなくなることからエリィはそれが罰だからと言っていたが、こんな罰聞いたことない。
無茶をしたことへの反省もしているみたいだし釘だけさして終わってあげよう。
足が痺れるまで座らせるのはかわいそうだから。
エリィへの優しいお説教が終わり、明日の相談をするため上層部の面々が会議室に集まっていた。
町の近くに魔物が現れたことを考慮し俺が町にバリアを張る提案をした。
団長や他の上層部の人間は同意したがルイゼルだけは渋い顔をしていた。
会議が終わりルイゼルに声をかけられた。
「民のためにバリアを張ることには賛成です。しかし少しでもエリアーナ魔術師殿のことを考えてかけるのであれば賛成しかねます」
心境を見透かされて俺は動揺した。
「彼女は自分の意志で今回の支援に参加しています。私から見れば守られる側ではなく守る側の人間です。そして彼女自身もそれを望んでいる」
そんなことはわかっている。わかっているけど…。
俺は何も言い返せず俯いた。
「守ってばかりではいつまで経っても成長しませんよ。相手を信じて任せることも時には必要なのでは」
ルイゼルの言葉が俺の胸に突き刺さった。
俺はエリィを弱い者として考え自分が守らなければと思ってきた。
でも本当はわかっていた。
ただ俺がエリィを失うのが怖くて守りたかっただけだということを。
俺に弟子入りしてきた時も、深層領域に入ると決めた時も、光魔法を発動させた時も、そして子供を助けた時も。
エリィはいつも自分から動き問題を解決してきた。
俺が思うよりエリィはずっと強い人間だ。
「ありがとうございます、ルイゼル副団長」
顔を上げた俺を見たルイゼルは口元を緩めたのだった。
翌日。
俺は討伐組とともに山へと向かった。
俺がするべきことは二つ。
魔物の討伐と転移の魔法陣を見つけること。
山の麓に到着すると前日とは全く違う山の雰囲気に一同が息を呑んだ。
昨日まで50くらいだと思われていた魔力の気配が山全体を覆うほどに膨れ上がっていた。
ここまでくるとさすがに騎士達も異様さを感じたようだ。
ここには転移の魔法陣がある。俺は確信した。
俺達は異様ともいえる空気の中に入っていった。
しばらく登ると魔物達が威嚇しながら姿を現した。
魔物は昨日報告にあった黒いモヤを発した狼のような小型の魔物だった。
それにしても数が多い。
俺は苦笑をもらした。
一斉に飛びかかってくる魔物に俺は土魔法の石つぶてを飛ばした。
本当ならこの種の魔物なら火の魔法で倒すのが理想的だが森を焼いてしまうため使えなかった。
魔物達が俺の石つぶてに誘導され集まったところに突風を発生させ魔物周辺に砂嵐を巻き起こした。
砂嵐に巻き込まれた魔物は成す術もなく倒れ、免れた魔物も騎士達によって討たれた。
何度目かの戦闘が続き中腹に差し掛かった時だった。
町に張ってあったバリアが壊された気配がした。
「バリアが壊された…」
俺の呟きに団長が一度町に戻る提案をしてきたが俺はこのまま探索を続けることを勧めた。
町にはエリィと騎士団達がいる。
エリィはエリィの俺は俺の成すべきことをする。
俺は目を閉じて一度深呼吸した。
次に目を開けた時、俺は自分の目的を達成するために歩みを進めたのだった。
中腹から少し歩いたところで異様な魔力の流れを感じて俺は走った。
うっそうとした森の中に洞窟が出現し、洞窟の入口からは嫌な魔力が漏れ出ていた。
俺が洞窟の中に入ると洞窟の壁一面と地面にはひと際大きな魔法陣が血を使って描かれていた。
後からやって来た騎士達も洞窟の中の光景に言葉が出なかった。
「異様な魔力の源はここからですね」
隣で洞窟内を見回していた騎士団長に伝えた。
地面の魔法陣はすぐに転移用とわかったが、壁の魔法陣が何に使われているのかわからなかった。
この山の異様な魔力から考えても魔物の力を増強するための魔法陣かと推測した。
どちらにせよ人間が故意に描いたものだということはわかった。
騎士団長と魔法陣を消す方法について話しているとウーッと外から唸り声が響いた。
俺達は魔物を迎え撃つため洞窟の外に出て構えた。
ここに来るまで連戦続きで騎士達は消耗している。
長時間の戦闘は不利と判断した俺はやむを得ず火の魔法を出そうと手を前に出した。
次の瞬間、強い光が俺達の体をすり抜け通り過ぎた。
光が通り過ぎたあとの空気はとても清らかで一瞬にして異様な空気が消え去った。
魔物達もただの狼に戻り、その場から立ち去っていった。
洞窟内からの嫌な魔力も感じず、確認すると血で描かれていた魔法陣も跡形もなく消え去り普通の洞窟に戻っていた。
これは光魔法か!?
ここに来ている人間で光魔法が使える者は一人しかいない。
けれど今のエリィにはこれだけの魔法は使えない。
『精霊のきまぐれ』が発動したのか?
エリィのことを考えているとドクンッと心臓が嫌な脈を打った。
まるで両親が亡くなる前に感じた嫌な予感のように…。
「すぐに町に転移します!俺の近くに集まって下さい!」
俺の異様な雰囲気に騎士達はすぐに集まってきた。
頼む間に合ってくれ!
俺は全力でエリィのもとに転移したのだった。
読んで頂きありがとうございます。




