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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第一章 ひよっこ魔術師
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アテリア草の行方(ゼオン視点)

 エリィが治癒魔法を完成させるため魔法の特訓を始めて数日が経ったある日。


「師匠!危険に晒されてください!」


 唐突に何を言い出すんだこの子は…。

 どうやらエリィは屋敷の庭師を助けようとして偶然光魔法を発動したかも?とのことだった。

 つまり俺が危険に晒されたら庭師よりも強く光魔法が発動するのではと考えたのか。

 いや、もしかしたら俺なら危険な目にあっても何とか回避できるから安心だとでも思っているのか。

 嬉しいやら悲しいやら複雑な心境に陥った。

 とはいえ上位属性か…。興味はある。

 俺はエリィを連れていつもの練習場に向かった。


 練習場でエリィに想像で発動するよう促すもイメージが湧かないのか難しい顔をしていた。

 仕方なく俺は前回の討伐内容を少し変えて話してみた。

 話が佳境にさしかかったところでエリィが「危ない!!」と叫ぶと、エリィから辺り一面を包み込むほどの強い光が発せられた。

 エリィ、庭師の時は弱い光って言ってたよね。

 俺の危険を想像しただけでこれだけ強い光が出るってことは…。

 エリィの想いを知った俺は、嬉しさでにやけそうな顔をバレないよう手で顔を隠した。

 光はすぐに止んだが近くの魔術師の塔から何事かと魔術師達が顔を出した。

 こっちを見るなと俺が睨むと魔術師達は殺気を感じたのかすぐに引っ込んだ。


「師匠?」


 目を開けたエリィが俺の顔を覗き込んだ。

 頼むから今こっちを見ないで…。

 俺はエリィから顔を背けた。


「うん…大丈夫…ちゃんと出来ていたよ」


 エリィは赤くなった俺の顔を見て体調が悪いのかと心配していた。

 大丈夫。俺が拗らせているのはただの恋煩いだから。



 数日後、エリィが王妃の主催するお茶会に参加すると聞いた。

 王妃もクセが強いからな。

 エリィに変な事を言わなければいいけれど…。


 王妃は父の実母であり陛下同様俺の事を可愛がってくれている。

 しかし陛下より質が悪いのは恋バナが大好きだということだ。

 陛下から最近俺とエリィの仲が良いことを聞きつけた王妃は俺を呼び出し根掘り葉掘りエリィとの関係を聞いてきた。

 何度転移しようかと思ったことか。

 しまいには「これでフリーデン王国も安泰ね」なんて良い笑顔を見せた。

 俺、王になるとは一言も言っていませんが。


 王妃がエリィに余計な事を言っていないか心配になった俺はお茶会翌日、エリィを王宮に呼んだ。


「まさかあそこでエドワード殿下がいらっしゃるとは思いませんでした」

「へえ…」


 エリィの言葉に思わず低い声が出た。

 あいつ女性のお茶会に参加したのか?

 やっぱり(エドワード)除けのバリアも付与するか。

 不穏な空気を感じたエリィが話題を変えた。


「でも、メディーナ様はお綺麗な方でした。魔法にも理解のある方でしたし」


 メディーナ?確かエドワードの母親だったか?

 病気がちで部屋にこもっていることが多い彼女は滅多に姿を見せない。

 俺も実際に会ったことがない。

 噂では可憐な女性だとか囁かれていたが…。

 メディーナの情報を呼び起こしているとエリィが衝撃的な言葉を口にした。


「メディーナ様はなんとあのネルドって滅びた国の出身らしくてそこから嫁いでこられたみたいです」


 メディーナがネルド出身!?

 その情報が本当なら、父と母を死に追いやったのはメディーナか?

 俺はメディーナの情報を集めるためすぐに動き出した。



 俺はまず王宮図書館に向かった。

 閲覧禁止の書庫には王族に関する記録が残されているからだ。

 以前エリィの魔法はじきについて調べるため閲覧禁止書庫の入室許可を陛下にお願いした際、今後も自由に使えばいいとの許可をもらっていたため今回は難なく入室できた。


 ネルドが滅びた20年前からメディーナの経歴を調べ始めた。

 当時16歳だったメディーナはネルドの第三王女であった。

 城で暴れるネルドの兵士達の異変を感じたメディーナは城を抜け出しフリーデン王国に助けを求めた。

 そのためメディーナはネルドの唯一の生き残りとなった。

 メディーナの情報のおかげで被害を最小限に抑えることが出来たことへの功績からフリーデン王国の第二王子の正妻として迎えら入れられることになる。

 後見人はピッツバーグ公爵…。


 俺は本を閉じた。

 メディーナとピッツバーグ公爵が繋がった。

 メディーナがアテリア草を使った可能性が出てきた。

 王宮で暮らす彼女なら料理長にアテリア草の粉を渡し料理に混ぜ、さらに牢の中の近衛兵達を暗殺することも可能だ。

 父と母の前に現れた魔物に関しては誰かに命令して実行したのだろうか。


 けれど何かおかしい。

 もし俺が犯人ならわざわざ俺と接点のあるエリィと会い、自分がネルドの出身であることを伝えるか?

 黙っていれば俺はメディーナがネルド出身だとは気付かなかった。

 とすると…メディーナが俺に何かを伝えたくてわざともらしたか。


 あまり会いたくはないが会ってみるか…。

 俺は王宮図書館をあとにした。



 翌日。

 メディーナに挨拶したいと申し出た俺を快く迎えてくれた。


「ゼオン、来てくれたのね」


 メディーナは俺に駆け寄ると愛らしい瞳で俺を見上げた。

 メディーナは噂通り可憐という言葉が似あう女性であり、男であれば一目ぼれしてしまう者もいるだろう。

 けれど魔力を感じることが出来る俺には彼女の傍はあまりいい気分がしなかった。


「初めまして叔母上、ゼオンと申します」


 あちらは俺の事を知っているようだが俺と会うのは初めてだし一応挨拶をしておいた。

 メディーナは俺の腕に手を回した。


「叔母上だなんて他人行儀みたいで嫌だわ。あなたと私は家族なんだからメディーナと呼んで」


 メディーナは俺の腕に手を回したままソファーに誘導した。


「今日はゼオンのために美味しいお菓子とお茶を用意したの」


 メディーナは俺とお茶会でも楽しみたいといった空気だった。


「お茶は結構ですのでお話だけ聞かせてもらえますか」


 アテリア草が含まれているかもしれない物なんか口に出来るか。

 仕方ないわねとメディーナは侍女達を下がらせた。


「エリィからあなたがネルド出身であると伺いました」

「彼女はちゃんとあなたに伝えてくれたのね」


 俺の眉間に皺が寄った。


「どうしてわざとエリィにネルド出身であることを伝えたのですか?」

「あなたがアテリア草について調べているからよ」


 この人はどこまで知っているんだ。


「そんな怖い顔しないで。アテリア草はもともと私の国だったネルドで見つかったもの。ネルドの最後の王族としてアテリア草が悪用されないよう情報が入るようにしてもらっているだけよ。あなたにも知っていることを教えてあげたいと思っていたのだけれど、情報を手に入れている私をピッツバーグ公爵は警戒していて下手に動くことが出来なかったの。だからあなたに来てもらう方法をとっただけよ」

「エリィを使ってまで俺に伝えたい事ってなんですか?」

「ピッツバーグ公爵が私の後見人なのはご存じかしら?」


 俺は素直に頷いた。


「彼が私の後見人になったのは分割されたネルドの土地が欲しかったからなの」


 つまりアテリア草がある山が欲しかったということか。


「公爵は私がまだネルドの城にいた頃に秘密裏に王城を訪ねて来ていた。アテリア草を分けて欲しいと」


 公爵はアテリア草を手に入れて何をするつもりなんだ?


「もちろんお父様は断ったわ。アテリア草は使い方を間違えれば危険な物。そのような物を他国の貴族に渡すわけにはいかなかったから」


 けれど今はアテリア草を取り放題か…。


「ゼオン、気を付けなさい。最近魔物が増えたのはアテリア草が原因かもしれないわ。私はピッツバーグ公爵が最近公爵領に引きこもり何か実験をしているという噂を聞きつけたの」

「あなたの後見人はピッツバーグ公爵ですよね。俺にそんな事を言ってもいいのですか?」

「私もフリーデン王国の王家の一員よ。民が苦しむ姿は見たくないわ」


 メディーナは悲痛な面持ちをした。


「お願いゼオン。もしアテリア草が悪用されているならピッツバーグ公爵を止めて欲しいの」


 メディーナは俺の手の上に自分の手を重ねてきた。

 俺は手を引いてそれを避けた。


「わかりました。貴重な情報をありがとうございました」


 俺は立ち上がると挨拶だけして立ち去ろうとした。


「ゼオン。またいつでもいらっしゃい。私ならきっとあなたの力になれるから」


 俺は返事を返すことなく一礼するとその場を辞した。



 部屋に戻りメディーナに触れられた手を眺めた。

 その手が穢されたような感じがして気持ちが悪かった。

 父が女性は苦手だと言っていたことを思い出した。

 父も母以外の女性と接する時こんな気持ちだったのだろうか?

 ふとエリィの笑顔が頭をよぎった。

 エリィに会いたい…。

 昨日は突然家に帰してしまったから心配していないだろうか…。

 もう少し落ち着いたら手紙を出そう。

 エリィの事を考えていると穢れた手が浄化されたような気がした。



 翌日、俺はいつもの日課の執務室に訪れていた。


「陛下、アテリア草の件について以前調べて下さると仰っていたのはどうなりましたか?」


 陛下はよく覚えていたなと言いたげな表情だ。

 忘れるわけがない。

 自分が調べたいと言ったのに王命を使ってまで従わされたんだから。

 俺が凄むと陛下は言いにくそうに口ごもった。


「アテリア草はもうないらしい」

「はあ!?」

「ピッツバーグ公爵に持ってくるよう命じたら最初からなかったと…」

「そんなの嘘に決まっているでしょ!」


 俺は陛下の机を叩いた。

 山積みの書類が跳ねた。


「王宮からも調査に行かせたがアテリア草らしき草は生えていなかったとの報告が上がっている」


 陛下は引き出しから出した一枚の報告書を俺に手渡した。

 報告書には山頂にも中腹にも洞窟にもアテリア草は生えていなかったと記されていた。

 ピッツバーグ公爵が山を管理するようになって20年。

 アテリア草が生えていないとしたら。


「ピッツバーグ公爵が根こそぎ持っていってしまったとか…」


 俺の呟きに陛下も可能性はあると同意した。


 もしそうだとしたら今使われているアテリア草はピッツバーグ公爵が栽培したもの?

 だとするとアテリア草を無尽蔵に手に入れられるということだ。





読んで頂きありがとうございます。

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