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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第一章 ひよっこ魔術師
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王都に帰ります


討伐続行のため一応注意書き入れておきます。

ご注意ください。


 周辺一帯にホーリーライトが発動し小型の魔物から黒いモヤが消え去り狼に戻った。

 狼達は戦意を喪失し山へと帰っていった。


 中型魔物からはシューッと音を立てて黒い蒸気が立ち込めており、苦しそうにもがいていた。


 巨大な魔物は…ズシンッ!

 私の頭上に影が差した。

 見上げた瞬間バリンッと何かが壊れる音とともに衝撃と風圧で体が飛んだ。

 地面に叩きつけられ脳しんとうを起こしたのか眩暈がした。

 ぼやける視界で巨大な魔物がこちらに向かってきているのが分かった。

 私はグラつく頭を上げ立ち上がろうとするもうまく立つことが出来ない。

 巨大な魔物は私の前に立つと鋭い爪を振り下ろした。


 あ、これ死んだ…。


 死ぬ前って頭が危険を回避しようと走馬灯やスローモーションに見えるっていうけど何にも見えない。

 これ考えている時間があるだけでもスローモーションになっているのかな?

 など呆然と考えていた。

 目の前に鋭い爪が迫る。

 私は目をギュッと閉じた。


 ガキンッ!


 何かを弾く音がしてそっと目を開けた。

 私の視界に映ったのは黒いローブをはためかせた黒髪の後姿。


「し…師匠…?」


 頼もしい背中に涙が零れ落ちた。


「エリィ、無事か?」


 ゼオンは目の前の巨大な魔物を牽制しながら視線だけ私に寄越した。

 私はコクコクと大きく頷いた。

 ゼオンは安堵のため息を漏らすと隣に立つ団長に指示を出した。


「中型魔物の討伐は騎士団でお願いします。俺はこいつを片付けます」

「総員!戦闘態勢を整えろ!中型魔物を殲滅する!!」


 団長が指揮すると倒れていた騎士達も立ち上がった。


「エリィ、もう少しだから頑張れるか」


 ゼオンは優しい眼差しを私に向けた。

 私は零れ落ちる涙を拭った。


「はい!師匠!!」


 私の返事にゼオンは満足そうな笑みを浮かべると巨大な魔物に向き直った。


「お前の相手は俺だ」


 ゼオンが指を鳴らすとその場からゼオンと巨大な魔物は姿を消した。

 中型魔物を殲滅するため騎士達が剣を振るう音がそこかしこで響いた。

 私は震える足に力を入れて立ち上がると治癒魔法に専念した。


 数刻後、最後の魔物が倒され歓喜の声を上げた騎士達の姿を最後に私は意識を手放した。



 額や頬に冷たい何かがあたり、私はもっとと頬を摺り寄せた。

 冷たい何かは頬を優しく撫でてくれた。

 私は再び眠りについた。



 私が目を覚ましたのは討伐が終わって二日後のことだった。

 体を起こすと何かに手を握られているのに気付いた。

 手の先を見ると見慣れた黒髪のゼオンが私の手を握りながらベッドの横にうつ伏せて眠っていた。

 普段、ゼオンの頭頂部を眺めることなんてない私は触ってみたくなり握られている手とは逆の手でゼオンの頭を撫でた。


 髪サラサラ。


 気持ちいい手触りと普段撫でられてばかりだから撫でている優越感も相まって私は恍惚な表情を浮かべた。

 しばらく撫でているとガシッと腕を掴まれた。


「いつまで撫でているの」


 笑顔のゼオンのこめかみに青筋が浮かんでいた。

 あ、起きてたんですね。

 恍惚な表情のままゼオンを見つめているとゼオンはため息を吐いた。


「どこか痛むところはない?」


 ゼオンに聞かれて気が付いた。

 身体の節々が痛い!

 これは筋肉痛再来か!?

 しっかーし。今の私は以前の私とは違うのだ!

 今の私には治癒魔法という強い味方がいる。

 私は治癒魔法を自分にかけようとするも発動しない。


「え?なんで!?」


 パニくる私にゼオンが一言。


「魔力切れだよ」



 なぜこうなる。

 私はベッドの上で動けずにいた。

 ゼオンが言うにはどうやら私は『精霊のきまぐれ』の発動と限界まで治癒魔法を使ったことで現在魔力切れを起こしてしまっているらしい。

 魔力が戻るか私の筋肉痛兼打ち身の回復が早いかの状態だ。

 なんのための治癒魔法なの!!

 一番使いたいときに役に立たないとか…泣ける…。



 さらに二日が経ち、身体を動かせるようになったと同時に魔力も少しずつ回復してきた。

 同時に良くなってくるとか…これはやはり体を鍛えろということですか!?

 私が重い体を起こすと部屋の扉がノックされた。

 入室を促すとインテリ眼鏡が入ってきた。


「お加減は如何ですか?」


 お加減はとても悪いです。とは言えず笑顔で返した。


「大分良くなりました」


 インテリ眼鏡は真剣な表情で私を見つめた。


「『精霊のきまぐれ』とはいえ、あなたの光魔法に救われました」


 インテリ眼鏡が頭を下げた。

 私が止めさせようと手を伸ばすと


「このご恩はあなたが王太子妃になられた時にお返し致します」


 王太子妃?


「あの、私、エドワード殿下とは婚約破棄したのですが…」


 インテリ眼鏡は頭を起こした。


「この国で王太子の資格を持てる方はエドワード殿下だけではございません」


 それだけ言うと退室した。

 エドワード以外というとゼオンしかいない。

 でもゼオンは王になるつもりがないし、そもそも私が妃に選ばれるかもわからないし…。

 胸がズキリと痛んだ。

 私はゼオンに自分を選んで欲しいと思っているの?



 その日の夜。

 討伐の功労者であるゼオンと私のために町の人達が宴を開いてくれた。


 隣に座るゼオンのもとには目を輝かせた騎士達が集まっていた。


「俺、あの大人数を一気に転移させる魔力量に感動しました」

「俺なんか指を鳴らして巨大魔物と転移した姿に痺れた」

「いや、やっぱりあの巨大魔物でもビクともしないバリア、そしてエリアーナ嬢を助けるために颯爽と現れた姿がカッコ良過ぎて俺は鼻血出た」


 鼻血は魔物にやられたからじゃないのか?

 ゼオンも私も顔が赤くなっていた。

 ゼオンに至ってはいたたまれないだろう。


「副団長も魔法が使えるし、俺も魔法教わろうかな」


 魔法に良い印象を与えられたみたいで良かった。

 それにしてもインテリ眼鏡、魔法使えるの!?

 私が驚いているとゼオンが説明してくれた。


「ルイゼル副団長は魔法剣士なんだ」


 魔法剣士!?

 カッコいい!!

 私の目が輝いた。


「大した魔法は使えませんよ」


 私達の会話を聞いていたインテリ眼鏡が背後から現れた。


「魔法と言っても刀身に魔法を付与して威力を上げる程度のことですから」

「それでも使える騎士が少ないのも事実ですよ」


 ゼオンがインテリ眼鏡を褒めた。

 疑問符がいっぱいの私にゼオンが補足してくれた。


「刀身に魔法を付与するのは難しいんだ。付与し過ぎると刀身が壊れるし、弱すぎると役に立たないし」


 私もやってみたい!


「エリィは危ないからダメだよ」


 心の声を読まれた。


「褒められてもゼオン殿のような火力の高い魔法の前では役に立たないのも同義です」


 ゼオンは苦笑いを浮かべた。



 宴が最高潮に達したところでゼオンが呟いた。


「帰ったら新しい許可証作らないとな」


 許可証?

 私は自分の胸にぶら下げておいた許可証に触れようとしたが…ない!?

 確かにあったはずの場所を何度も触り、服の中まで確認した。

 服の中を確認する私にゼオンが咳払いをした。

 心なしかゼオンの顔が赤い。


「バリアが発動したろ?」


 バリア?

 私は首を傾げた。


「ルイゼル副団長の報告では巨大な魔物に攻撃を受けた時にエリィの前にバリアが発動したって聞いたけど…」


 あの吹き飛ばされた時か!


「エリィの許可証のバリアが発動したんだよ」

「許可証ってそんなすごい機能があったんですか?」


 弁償しろとか言われたらどうしよう…。

 私の反応にゼオンが噴出した。


「そんな機能はついてないよ。俺がただの許可証に付けたんだよ」


 私は驚き目を丸くした。


「バリアが付与されていれば命の危機は免れるからね。でもまさかこんな風に発動する羽目になるとは思っていなかったけど…しかも壊れたし」


 あのバリンッはそれか!


「次はもっと強力な魔法(もの)を付与するよ」


 いえいえ、あれも十分強力ですよ。

 あれ以上って誰も近付けなくなるとかないよね…。

 ちょっと不安になった。



 今回支援で来ていた私達だったが思わぬ討伐に発展してしまい一度王都に戻るよう王命が下った。

 私達は次に派遣された騎士団達に申し送りをした後、王都に向けて出発した。



 しかしこの時の私は気付いていなかった。



 王都に戻ったあとの父の説教とゼオンの猛特訓が待ち受けていることを…。





読んで頂きありがとうございます。


次話からしばらくゼオン視点となります。

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