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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第一章 ひよっこ魔術師
22/81

すんごい魔法


魔物討伐の内容になるため残酷な描写があります。

ご注意ください。


 子供を救出し町に戻ってきた私はようやく昼ご飯に有り付けた。

 巡回に行っていた騎士達も違うテーブルで遅い昼食をとっていた。


「今回来ている奴だろ?」


 一人の騎士が声を潜めた。


「ああ、第四騎士団と討伐に行って魔物を惨い倒し方した奴」

「あの時のトラウマで騎士辞めた奴もいるくらいだってよ」

「お前なんかビビッて逃げ出しそうだな」


 騎士達は笑い声を上げた。


「でもあいつ髪も服も黒いから怖いよな」


 今回参加している中でこの騎士が言う特徴を持つ者はゼオンだけだった。


「しかし面と向かって化け物って言った騎士もバカだよな。誰も倒せなかった魔物を倒した相手に言っちまったんだから」

「その騎士処分を受けて退団させられたらしいぜ」


 ゼオンの悲しそうな顔を思い出した。

 こんな扱いを受けていたなんて…。

 私は歯を噛みしめて立ち上がると騎士達のテーブルに近付いた。


「無駄話はそのくらいにしなさい」


 眼鏡をかけたインテリ風の若い騎士が私の背後から騎士達を窘めた。


「ゼオン殿は立派に討伐された。情けないのは討伐方法に怯えた騎士達です。あれくらいで怯えるようでは騎士団員として失格ですよ」


 ゼオンのことを悪く言っていた騎士達は蜘蛛の子を散らしたように立ち去っていった。

 私がインテリ眼鏡を見上げると彼は眼鏡を上げ私を軽蔑するような眼差しで見下ろした。


「ゼオン殿は魔術師として尊敬できる方です。実力もありますし何より冷静に物事を判断できる能力がある。私が気に入らないのは役に立たない大貴族のご令嬢が遊び半分でこのような地に赴いていることです。魔物も出現するみたいですし早く王都に戻って令嬢は令嬢らしくお茶会でお茶でも飲んでいればいいのです」


 なんだろう。嫌味を言われているのに怒りが湧かない。


「あなたの仰りたいことは理解できます。私は魔法も治癒魔法以外ほとんど役に立たないですし、討伐などに無縁の貴族令嬢でもあります。しかし遊び半分というのは心外です。私は師匠の助手として恥ずかしくない魔術師になるために今回参加しています。だから私は私の出来る最大限の力を使って皆さんを支援するつもりです。それに誰だって最初から役に立てる人間などいないはずです。あなたは新人の頃優秀だったのかもしれませんが、ほとんどの方は難易度の低いところから始まっているはずです。自分達のことは棚に上げて私を責めるのはお門違いではないでしょうか」

「なるほど…」


 インテリ眼鏡は顎に手を添えると呟いた。


「失礼致しました。ウォルター侯爵令嬢…いえエリアーナ魔術師殿。私は第三騎士副団長のルイゼルと申します。あなたを今回の支援参加に要請したのは私です」


 怪奇現象から治癒魔法を結び付けた騎士ってあんたか!


「あなたに支援要請を出した身として今回の予想外の出来事にどれほどの覚悟があるのか確認したかったのです」

「それで私の覚悟は合格ということですか?」

「治癒魔法が使える者が令嬢だと知った時は守られるだけの人間ではないかと不安に感じましたが、どうやら杞憂に終わったようです」


 インテリ眼鏡はお詫びをすると私に背を向け歩き出した。


「そうそう。少女救出時の草刈り魔法のタイミングはとても良かったですよ」


 タイミングだけ褒められた…。

 っていうか見ていたなら助けてよ!



 翌日。

 町全体にバリアが張られていた。

 昨日、ゼオン達が帰ってきたとき町の近くに魔物が出現したとの報告がなされた。

 私の草刈り魔法の報告とともに…。

 それを聞いたゼオンから「帰ったら猛特訓だから覚悟しておいて」と仁王立ちで説教された。

 もちろん私は正座です。

 そんな事もありゼオンが討伐出発前にバリアをかけていったのだ。


 今日は大人しくしていよう。

 治療が一通り終わり、炊き出しの手伝いをしている時だった。


「魔物が出た!」


 町民の一人が息を切らして走ってきた。

 私は状況を確認するため町民が走ってきた方へと向かった。


 山の近くの町の外れに騎士達が集まっていた。

 その先には昨日見た黒いモヤの魔物や二足歩行の巨大な牙と爪を持った中型の魔物がバリアの外を囲っていた。

 インテリ眼鏡は状況を確認しながら騎士達と何かを話していた。


「インテリめが…ルイゼル副団長住民の避難をしないと!」


 インテリ眼鏡の傍に控えていた騎士達が吹いた。


「あなたが心の中で私をどう呼んでいるかがわかりました」


 今、そこのツッコミはいいから。


「それにあなたに言われなくてもわかっています」


 インテリ眼鏡は騎士達に住人の避難を促した。


「あなたのしょぼい草刈り魔法ではなんの役にもたたないので後方支援に回って下さい」


 ぐっ…反論できない。

 言われなくても支援に回りますよ。


「あと、先ほど笑った騎士は最前線に出なさい」

「うわ…鬼だ…」

「聞こえてますよへぼ魔術師殿」


 インテリ眼鏡が私をどう思っているのかがわかった。

 いつかこの黒ローブにかけてすんごい魔法拝ませてやるんだからね!


「それにしても妙ですね…」


 インテリ眼鏡が顎に手を添えて呟いた。


「わざわざ人が多く、頑丈なバリアも張られているところを狙いにくるなんて…しょぼい魔法を受けて倒せるとでも思ったのでしょうか」


 こいつ結構根に持つタイプだな。


「…それともここを狙いたい何かがあるのか…」


 インテリ眼鏡が光った。ように見えた。


 そうこうしている内に小中型魔物達はバリアに体当たりして何とか壊そうと試みていた。

 バリアはヒビどころか傷すらついていないようだった。

 それどころか魔物達が逆に跳ね返されていた。

 さすが師匠です!


 頑丈なバリアに守られて安堵しているとドシンッ!ドシンッ!と大きな地響きが山から聞こえてきた。

 地響きとともに木が左右に大きく揺れた。

 私達は息を呑んだ。


 地響きが徐々に近付いてきて、木々をなぎ倒しながら姿を見せたのは般若のような顔をした巨大な牙を付けた猿系と思われる毛むくじゃらの魔物だった。

 大きさは二階建ての建物の屋根を優に超えていた。


 これはあれか…かの有名な特撮映画か?

 巨大コングに巻き込まれた人ってこんな感じなのかな?

 いや、あの巨大なコングはビル群を優に超えていたからそれよりは小さいか?

 そう思うと可愛いもんか…。


 いやいや!これ可愛いか!?

 どう見てもこれヤバいやつでしょ!


 突然現れた巨大な魔物に私の脳内はプチパニックを起こしていた。

 騎士達も騒然としていた。


「総員戦闘準備!」


 インテリ眼鏡は冷静です。

 巨大魔物の次の動きを予測し全員が剣を構えた。


 巨大魔物がバリアの前に立ち…ガシャーン!

 まさかの頭突きをした。

 これには『パンチじゃないのかよ!?』という全員のツッコミが聞こえてきた。

 しかし悠長にツッコんでいる場合ではなかった。

 今の一撃でバリアが破壊されてしまったのだ。


 一斉に飛びかかる魔物と騎士達の戦いが始まった。

 私のせいで前線に出された人ごめんなさい。

 戦う騎士達を見て心の中で謝罪した。


 しばらくすると近くで「助けてくれ!」と叫び声がした。

 声の方に目を向けると魔物に足を噛まれて引きずられる騎士が映った。

 私は咄嗟に水鉄砲を発射し魔物の顔に命中させた。

 怯んだ魔物は騎士の足を離し、今度は私に襲いかかってきた。

 次の水鉄砲を発射しようと構えたとき、


『僕に続いて…』


 どこからか声が聞こえてきて


『聖なる光よ魔を浄化せよ。ホーリーライト!』


 どこからか聞こえた声と同時に詠唱すると辺り一面に神々しい光が放たれた。



 すんごい魔法出しちゃったよ…。





読んで頂きありがとうございます。

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