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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第一章 ひよっこ魔術師
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討伐に行きたいです

 ウォルター侯爵邸内が突然光ることがあると噂が立ち始めた頃、私は光と水の魔法を混合した治癒魔法が使えるようになっていた。

 屋敷内で怪我人が出たとの話を聞くとすぐに飛んで行っては治療して歩いていたためか治療師エリィと密かに呼ばれるようになった。

 さらに私が所かまわず魔法を発動するため、ウォルター侯爵邸では魔法が日常的となってしまい世間程魔法に対しての抵抗が無くなっていた。


 最近では傷に合わせた程度の調整も完璧にできるようになっていた。

 水魔法も精度を上げ念願の水鉄砲を発射することが可能になった。


 そして私は治癒魔法が使えるようになってから考えていたことがあった。

 それは討伐に行ってみたいということだった。

 今度ゼオンに会ったら頼んでみよう。


 ゼオンにはあの日用事が出来たと言われ別れて以来会えていなかった。

 明らかに様子がおかしかったが何かが起きているのだろうか…。


 ゼオンの事を考えていると部屋がノックされた。

 入室を促すと入ってきたのはフィリスだった。


異母姉様(おねえさま)、お手紙です…」


 渡されたのはゼオンからの手紙だった。

 手紙をフィリスから受け取ろうとするもフィリスは手を離さない。


異母姉様(おねえさま)、私も王宮に行きたいです!エド様に会いたいです!」


 いやいや、会いたいって言って簡単に会える人物でもないし、私も関わりたくないし。

 お茶会のあとフィリスが出した手紙の返事が来ないのだろう。

 最近元気が無くなってきたのもそのせいか。


「フィリス。エドワード殿下はこの国の第一王子様。会いたいからと簡単に会えるお方ではないわ」

「でも異母姉様(おねえさま)は婚約破棄したのに王宮に入れるわ」

「それは許可をもらっているからよ」

「では私の許可ももらってください!」


 私に権限があるわけないでしょ。

 眩暈がした。


「それは無理よ」

「もしかして異母姉様(おねえさま)が私とエド様の邪魔をしているのではないですか?」


 なんて恐ろしい事を言うのこの子は。

 私はむしろ全力で応援してあげているのに。


「では、お父様にお願いしてみては?」


 埒が明かないと判断した私は父を生贄に出したのだった。



 フィリスがようやく退室し、私はゼオンからの手紙を開いた。

 手紙には前回突然帰らせた事への謝罪と近々治癒魔法の成果を見たいから会いたいとの旨が記されていた。

 私はすぐに返事を書いた。



 二日後、王宮の訓練場でゼオンと会っていた。


「じゃあ、師匠は治癒魔法が完成していたことを知っていたのですか!?」

「うん。最近ウォルター侯爵邸で怪奇現象が起きているから調べて欲しいとの嘆願書が届いていたから」


 怪奇現象!?

 光魔法を使っていただけなのに嘆願書が出されていたとは。

 父からは何も聞かされていなかったけど大丈夫だったのだろうか…。


「その嘆願書を読んでいたから、エリィ頑張ってるんだなって思ってた」


 ゼオンは可笑しそうに笑っていた。


「侯爵もまさか自分の家についての嘆願書をもらうとは思ってなかったみたいですごく驚いていたよ」


 あ、やっぱり。

 確かに屋敷内で魔法連発していたから時折光ってはいたかもしれないが…怪奇現象扱いとは…。

 今度から魔法使う時は気を付けよ。


「そういえば師匠、私も討伐って行けるのですか?」


 私が討伐について尋ねるとゼオンがフリーズした。


「せっかく魔法が使えるようになったのに使う機会がないですし、師匠の助手なのに何も出来ないままでは嫌なので」


 これは魔法が使えるようになってから考えていたことだった。

 ゼオンが以前、討伐の話をしたときの悲しそうな姿を見てからずっと何も出来ない自分に不甲斐なさを感じていた。

 今ようやくゼオンと同じ場所に立てるところまできたのに魔法が使えるようになっただけで終わってしまってはまた何も出来ないままになってしまう。


「助手っていう肩書は入城許可証を作る際に必要だったから作っただけで別に討伐まで行く必要はないよ」


 私が討伐に行きたいと言い出すとは考えていなかったのだろう。

 ゼオンは当惑の色を見せた。


「以前師匠に言いましたよね。私はまだ何もできない助手だって。師匠にとって今の私も何も出来ないままですか?」

「治癒魔法は確かに討伐隊の中に一人は欲しい逸材ではあるけれど、ただエリィは魔法を使えるようになりたいだけだと思っていたから…」

「師匠に会った当初はそうでした。でも今は師匠の役に立ちたいのです」


 あんな悲しそうなゼオンはもう見たくない。

 私は結局あの時なぜゼオンが悲しそうだったのか理由も知らない。

 傍にいなければ支えることもできない。


 私の決意にゼオンは目を伏せた。


「俺の一存では決められない。まずは侯爵の許可を取ってからだ」


 討伐までの道のりの最難関が待っていた。



「駄目だ」


 即答である。


「お前は侯爵令嬢なのだぞ。討伐に参加など以ての外だ」

「けれどお父様…」

「何を言っても駄目なものは駄目だ。魔法を教わることは反対しない。しかし討伐に行くとなると話は別だ」


 聞く耳持たず。


「私がまだ王妃教育を受けていた時、王妃様から王家の人間としての在り方を学びました」


 父が反論してこないことを確認し続けた。


「王家の者は民達の剣となり盾となる必要があると。私はこれを力のある者が力のない者のために力を尽くせと仰っているのだと解釈しました。私も貴族の端くれ。いざという時に逃げるだけの自分になりたくない。皆を守れる自分でありたいのです」

「だからと言ってお前が討伐に参加する必要はないだろう」


 頑なだった父の心が少し揺れたようだ。


「ここ最近難民が増えていると聞きました」


 屋敷を走り周っていた時、使用人達が噂しているのを聞いた。

 最近異様な魔物が増え、地方では難民が増えてきていると。


「魔物の討伐は私には出来ないかもしれません。だけど魔物に怪我を負わされた人や苦しんでいる人を助けることは出来ます。それにそういう現場での経験こそが差し迫った時も冷静に対処できる力が付くのではないですか」


 父は私の言い分を黙って聞いていたがややあって呟いた。


「お前の頑固なところは母親譲りか…」


 父は目頭を押さえた。


「お前には黙っていようと思っていたが、我が家での怪奇現象の噂を聞いた騎士や魔術師から治癒魔法を使える者がいるなら討伐に参加させて欲しいとの要請があった」


 怪奇現象から治癒魔法に繋げられる騎士と魔術師がすごいな。


「ゼオン殿からは私が許可をするなら一緒に参加するとの返答をもらっている」


 ゼオンがそんなことを父に話してくれていたと知り胸が熱くなった。


「だが危険な討伐には参加させられない。参加するにしても魔物の被害がまだ少ない地方の支援だ。それ以上の事は容認できない」

「ありがとうございます!お父様!」


 私は父に抱き着いた。

 すると大粒の水滴が滴り落ちてきて頭頂部を湿らせた。

 お父様、涙は拭って下さい!



 父の許可が出てからは使える魔法を増やそうとさらに力を入れて取り組んだ。

 現在、私が使えるのは治癒魔法と水鉄砲、一度ゼオンがかけてくれた上昇気流の縦横バージョンが出来るようになっていた。

 上昇気流の練習をしている時に『最近侯爵邸ではすごい草刈り機が使われている』との噂が立ちどこで買えるのかと侯爵邸に人が押し寄せた。

 えっと、非売品ですけど何か。

 マリーには「依頼があったご自宅に刈りに行かれてはどうでしょう」と言われた。

 完全に草刈り機扱いである。

 なぜ私が魔法を使うと変な噂が立つのか…解せぬ。



 今日は王宮で草刈り機ならぬ上昇気流の魔法をゼオンに見てもらっていた。


「これが噂の草刈り機か」


 ゼオンが笑いを堪えながら言った。

 王宮にまで草刈り機の事が知れ渡っているなんて恥ずかしすぎる…。

 顔を真っ赤にしてプルプルと震える私に「悪い悪い」と言って指で涙を拭った。


 ゼオン曰く、私の上昇気流は風の流れがバラバラなため細かい風が違う方向から力をぶつけあっていることで草を刈り取ってしまっているのではないかとのことだ。

 簡単に言うと鎌状の二つの刃が左右からやってきて真ん中で切れるというイメージだ。

 これはかすり傷程度なら付けることができるが、威力は弱く敵を飛ばすまではいかないらしい。

 ゼオンがお手本を見せてくれると風は一定方向に旋風を巻き起こしていた。

 草は刈れないが木に当たると木がえぐれた。

 威力が強いと地面もえぐれて風の流れた跡がつくため草刈りのレベルではないらしい。

 今ので3割くらいの力らしいから恐るべし。


「そういえば地方に行く日が決まったよ」


 ゼオンの言葉に緊張が走った。

 いよいよ行くんだ。


「今ならまだ断れるけど…どうする?」


 私から行くと言い出したのだ。

 断る理由などない。


「もちろん行きます!」


 ゼオンは複雑そうな顔で溜息をつきながら地面に置いてあった箱を私に渡した。

 箱を開けると黒いローブが入っていた。

 フードの付いたローブの内側は白地で外側が黒く、袖は折り返されており折り返された先は可愛くカットされていた。

 襟元は丸くなっており可愛い仕上がりとなっていた。


「これって…」

「エリィ用のローブ。現地での役職の見極めのため騎士には白のマント、魔術師には黒のローブが支給されることになっている。エリィのは陛下と侯爵が張り切り過ぎた結果、こうなった」


 可愛いは可愛いが…特別過ぎないか?


「陛下が選んだんだし気にせずに羽織ればいいよ」


 私はローブを羽織ってみた。


 なんだか今ならすんごい魔法が発動できそうだ!





読んで頂きありがとうございます。

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