表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第一章 ひよっこ魔術師
18/81

治癒魔法

 ピュッ。

 軽い音を立てて少量の水が弧を描いた。


「師匠!見て下さい!水が出ましたよ!!」

「うん…そうだね…」


 ここは以前ゼオンから魔力供給をしてもらった場所。

 魔力が戻った私は家で練習した水の魔法をゼオンに披露した。

 ドヤ顔で振り返る私にゼオンは苦笑いを浮かべた。


「魔力コントロールが全く出来てないけどね」


 それでもいいのだ。

 魔法が使えなかった前世を思えば例え一滴の水でも…せめて水鉄砲くらいは出したいかな。


「まずは魔力を感じること」


 ゼオンが私の手を取った。

 魔力供給をしようとしているのはわかったが、やっぱりこれ恥ずかしい。

 魔力を供給されると思いきやなかなか供給されずゼオンを見上げると何故かゼオンの顔も赤くなっていた。


「こっち見なくていいから」


 目を閉じ、深呼吸したゼオンから魔力が送られてくる。

 魔力が手に集まってくる感じがした。

 ゼオンが手を離すと手のひらの上には円状の水が浮いていた。


「まずはこの形の水を作ること。作れるようになったら徐々に円を大きくしていく。エリィの当面の課題はこれかな」


 これが意外と難しいのだった。



「お嬢様、庭師が水やりの仕事が減ったととても喜んでいましたよ」


 それは嫌味か。

 マリーを睨みつけた。


 ゼオンから課題をもらい屋敷の庭で課題をこなすも上手くいかず、手も服も水で濡れる日々を送っていた。

 そんなある日、庭師が場所を提供してくれた。

 最初は庭師の指示のもと失敗すると次の場所へと移りながら水魔法を使っていたが、途中から気付いてしまった。

 これ水やりに使われてない?

 問い詰めると


「お嬢様の出してくれる水は清らかで綺麗な花が咲くのです」


 そんなに褒めても水しか出せないよ。


 というか気付くべきだった。

 水やりを始めて二日で花は咲かないということを。



 二週間も魔法の特訓をしているとさすがにコントロールもできるようになってきた。

 最近では庭全体に水のシャワーを降らすことまでやって見せた。

 喜んでいたのは庭師だけだったが。


 ドヤ顔再びでゼオンに披露すると「頑張ったな」と褒めてくれた。


「ところでエリィはどんな魔法を使いたいの?」

「空を飛びたいです!」


 ゼオンの質問に即答した。

 もともと空を飛ぶ憧れはあったので飛べるなら飛んでみたい。デッキブラ…箒に乗って。

 するとゼオンは理解できないと首を傾げた。


「空を飛ぶよりも転移した方が早くない?」


 ゼオンは瞬時に他の場所に移動できるピンクのドア派だった。

 いや確かにあれも素晴らしいがやはり風を切って走る気持ちよさは味わってみたい。

 ゼオンは空の飛び方を考えて私に風魔法をかけてみた。

 上昇気流に乗って浮き上がった私の体は確かに飛んでいる…飛んでいるがそうじゃない!

 これじゃあ前に進めない!

 いや、これはこれでアトラクションみたいで楽しいは楽しいが…。


「まあ、空飛ぶ方法についてはおいおいやっていこう。他に使いたい魔法はないの?」

「そうですね。治癒魔法とか使ってみたいです」


 治癒魔法が使えれば筋肉痛もすぐに治せるのでは。

 筋肉痛が治せるなら鍛える必要もないしね。

 帰ってから体を鍛えようと意気込んだが結局三日坊主で終わってしまった。


「治癒魔法か…俺はあまり得意じゃないからどこまで教えられるかわからないけど、基本治癒魔法のベースは水魔法になる。水魔法を極度に浄化したものが治癒魔法になる。浄化は光魔法だからあまり使える魔術師はいないが…エリィならできるかもね」


 なぜ私ならできるのか?首を傾げた。


「エリィの周りに光の精霊が浮いているから」


 精霊!?私の周り精霊がいるの?

 周囲を見回しても何も見えない。


「エリィの魔力なら精霊も見えそうなんだけど、やっぱり魔力をはじいていた時の影響かな?」


 いやたぶんそれ元日本人だからが影響していると思います。



 それからしばらくは治癒魔法の勉強と特訓に専念した。

 治癒魔法は繊細な魔力量の調整が重要であることと、少量の光魔法を水魔法に組み込むという難易度の高い魔術だった。

 まずは光魔法を使えるようにならないと。

 しかし魔法書を読むも光魔法と闇魔法についてはほとんど記載がなかった。

 行き詰った私はパラパラと何となくページをめくっているとある一文に目が留まった。


『魔法は感情で発動されると考えられている』


 感情か。有名どころだと『喜怒哀楽』とかだよね。

 感情と魔法について調べてみるも『感情』という言葉は出てくるが、どんな感情かまでは記載されている本はなかった。

 つまりは曖昧ってこと?

 もし魔法が『喜怒哀楽』で発動するなら…。

 私は何となくのイメージで感情と魔法を分類してみた。

 怒りは火、楽しいは風、喜びは水、悲しみは土って感じかな。

 私が最初に魔法を出したときも魔法が使えると喜んでいたから水が出たのかもしれない。

 でも深層領域でエリアーナは悲しみで風を出してたよね。

 じゃあ怒りは火、楽しいは土、喜びは水、悲しみは風か?

 これは実験してみるしかない。

 私は庭に向かったのだった。


 庭に出た私はまずは一番出しやすそうな怒りからの火の魔法を使うことにした。

 怒りか…最近怒りを感じたと言えば…モヤモヤと頭の中に嫌いな人物の顔が浮かんできた。

 エドワードに叩かれそうになったこと、エドワードに命令されたこと…よしよしいい感じだ。

 イメージを膨らましているとその先のゼオンに助けられたシーンまで思い出してしまい心臓が大きく脈打った。

 駄目だ!エドワードに怒りは感じるのに怒りに繋がらない。

 赤くなる顔を覆い身悶えした。

 そういえばゼオンはどうやって魔法を使っているのだろう。



「俺はあまり考えずに魔法を出しているからよくわからないな。これを出したいとかイメージすると出てくる感じだから」


 師匠は天才ですね。

 羨望の眼差しでゼオンを見た。


 ゼオンの部屋で感情と魔法の関係についてゼオンに話をしていた。

 以前は父に仲介してもらっていたが、最近ではゼオンと直接手紙をやり取りし近況報告を伝えたり会う日の調整をつけたりしている。

 今日も手紙を送ってすぐにゼオンが予定を調整してくれた。


「でも…感情が魔法の力を増幅させるっていうのはあるのかもしれない」


 ゼオンは一度怒りで高火力の火の魔法を出したことを話した。

 あれですね。大型魔物を倒した時の話ですね。

 父から聞いていた幼少期のゼオンの話を思い出した。


「それに魔法は基本その人その人で得意不得意な分野がある。現に俺は攻撃系の魔法は得意だが、回復魔法など光系の魔法を必要とするものは苦手だ」


 ああ、何となくそんな感じがします。

 温顔を向けた。

 ゼオンは咳払いをひとつした。


「だから俺が最初に出した魔法は火の魔法だった。エリィは攻撃より回復や補助系の魔法の方が得意そうだから、最初に出た魔法も水だったのかもしれない」


 なるほど。つまり自分の得意不得意で発動できる魔法の種類が限られ、感情で得意の魔法を強化するという感じかな。


「では、光と闇もイメージすれば出せるのですか?」


 ゼオンは口を噤んだ。


「師匠?」


 私が首を傾げるとゼオンは私を凝視した。


「俺は闇魔法が使える資質はあるらしいが今まで一度も発動できたことがない。光と闇は四属性の上位にあたる。俺が考えるにおそらくこの二属性こそ感情が影響しているのではないかと思う」


 ゼオンはあくまでも推測だがと付け足した。

 師匠にも出来ないことを私がするの!?

 で…出来る気がしない…。



 ゼオンと別れたあと私は自室にこもり光魔法について考えていた。


 前世では光魔法が使える代表として聖女などが挙げられていたが光魔法を発動するのには愛に溢れた人とか純真な者が出せるとされている話が多かった。

 でもどう考えても私聖女って柄じゃないし。悪役令嬢ポジだし。


 自分で言っていて悲しくなり頭を抱えた。


「お嬢様、今日は庭の水やりはいいのですか?」


 飲み物を持ってきたマリーが頭を抱えている私の横にコップを置き、にこやかな笑顔を向けてきた。

 うん。マリーなりに気を遣って魔法の訓練のため庭に出てみたらって言いたいんだよね。わかるよ。

 水やりって言ってるけどね!



 部屋にこもっていても仕方がないし、水やり扱いされるのは不服だが庭に出ることにした。

 庭では庭師が脚立に登り高い木を剪定していた。


「お嬢様。今日も水やりに来て下さったのですか」


 お前も水やり言うな。

 私は水魔法を発動すると周囲に水のシャワーが降り注いだ。

 水魔法は完璧だ。

 満足そうにシャワーを眺めていると庭師がハサミを持ちながら手を叩いてくれた。


「お嬢様。水浸しになっていた頃に比べて随分上達されましたね」


 ハサミ持ちながら涙を拭うな。

 そして以前は酷かったみたいな言い方をするな。

 私がむくれているとガタッと音がした。

 音の方に目を向けると、脚立の上でバランスを崩した庭師が足を滑らせ落ちてきた。


 危ない!!


 私は咄嗟に庭師に手を伸ばした。

 その瞬間、柔らかい小さな光が庭師に向かって飛んでいった。

 光は私が降らせた水を吸収しながら地面に落ちた庭師に当たった。


「いたたたた…くない?」


 地面に落ちた庭師は最初こそ腰を押さえていたが、どこにも異常がないことを知ると不思議そうな顔をした。

 私は自分の手のひらを見た。


 今、出たよね?





読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ