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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第一章 ひよっこ魔術師
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魔物討伐(ゼオン視点)


魔物討伐時、残酷な描写がでてきます。

虫やスプラッタ系が苦手な方はご注意ください。


 エリィに魔力をはじかれて二日が経った。

 魔力をはじく原因を探すため陛下に許可をもらい閲覧禁止の書庫で魔法の本を読み漁るもエリィのような状態が載っている本は見つからなかった。

 俺は最後の手段とばかりに故郷の村で薬師として生計を立てており、薬学、魔術などあらゆる分野に精通しているサマナに手紙を送った。


 いつものように陛下の執務室で仕事をしていた俺は陛下から一枚の書類を手渡された。


「これお前宛だ」


 書類に目を通すと『申請書』の文字が。

 最後に書かれていたサインに顔が引きつった。

 エドワード・ゼオニアス・フリーデン…これ燃やしていいかな。

 しかし、ある人物の名前を見て燃やすのをやめた。

『エリアーナ・フロレンス・ウォルターをエドワード・ゼオニアス・フリーデンとのお茶会に召喚させろ。拒否権はない。』

 これ申請書ではなく命令書の間違いでは。

 やっぱり燃やしてしまおう。


 お茶会に誘うくらいなら直接エリィに声をかければいいだけだ。

 しかし俺に申請をするという面倒な行動をわざわざとってきたということは、恐らくエリィが許可証を使ったのだろう。

 俺が渡した許可証には実は細工がしてあり周辺にちりばめた石は魔法石で命の危機に直面したときある程度の魔物くらいならはじけるようバリアの魔術が仕掛けられている。

 陛下にプレートに細工をしてもよいか相談したところ文字さえ細工しなければ問題ないとの返答をもらった。

 後ろでウォルター侯爵が嬉しそうにハンカチで涙を拭っていたが見なかったことにしておいた。

 こうしてできた強力な魔術が施されたエリィ用の許可証は分かる者が見れば触るのも怖い代物となった。


「それでどうするのだ?」


 陛下がニヤニヤしながら聞いてきた。


「拒否します」


 俺は用紙を返しながらとても良い笑顔を陛下に向けた。


「陛下が彼を戒告してくれると信じています」


 今度は陛下の顔が引きつった。

 奴も陛下の孫でしょ。

 手綱くらいちゃんと締めておいてください。



 討伐までの残りの二日間は討伐する魔物の対策をしていた。

 騎士達からの報告で今回の魔物の殻の強度は尋常ではないようだ。

 実際派遣された王宮魔術師の魔法でも傷一つ付けることはできなかった。

 さらに殻のない柔らかいと思われる下部にも武器での攻撃や魔法を当てるも粘液に阻まれ攻撃が届かないとのことだった。

 報告書を読む限りでは今回の魔物は虫系の中型魔物と判断した。

 虫系で中型、強度も測定不能、通常の魔物ならあり得ない。

 通常、魔物はもともとの生態以上の大きさや強度を超えたとしてもここまで異常なものになることはない。

 過度に要素を吸収しない限りは…。

 そこで一つの疑念が浮かんだ。

 アテリア草…。


「新しい魔法、試してみるか」


 討伐の方針が決まった。



 討伐当日。

 今回討伐に一緒に行くことになったのは第四騎士団だった。

 騎士団団長から討伐までのスケジュールを聞き、話が終わったところで背後から声がかかった。


「師匠」


 俺をそう呼ぶのは一人しかいない。

 俺が振り返ると予想通りの人物が立っていた。

 討伐のことは話していなかったと思うが侯爵から聞いたのか?

 申し訳なさそうに謝罪するエリィの話す内容から侯爵から聞かされたことが窺えた。

 そしてお礼として渡されたクッキーの入った瓶…手に持った感触が何かおかしい。

 感触がおかしいところを注視すると三色で編みこまれた紐があった。

 俺がその紐を持ち上げると顔を真っ赤にしたエリィがそれを手首に巻いてくれた。

 人から何かをもらうなんて故郷にいた時以来だと心が温かくなるのを感じた。

 一生懸命編んでいるエリィの姿を想像し口元が緩んだ。

 しかもこの紐の色…傍にいるという意味だろうか。

 色について言及するとエリィの顔は真っ赤になり固まってしまった。



 出発時刻となり俺は馬車に乗るよう促され仕方なく馬車に乗った。馬乗れるのに…。

 馬車が動き始めてしばらくしてエリィから貰った組紐なるものを眺めていると、同乗していた騎士団長が声をかけてきた。


「嬉しそうですね」

「うん」


 俺は組紐から目を逸らさず返事した。


「そういえば殿下は王太子殿下殺害について調査していらっしゃるとお聞きしましたが」

「その呼び方はやめて下さい。調査中ですけど何か?」


 顔を上げると騎士団長から失礼しましたと謝罪を受けた。

 第四騎士団は父と母が亡くなったあとに俺を王宮に連れて行った団でもあり、その団長は俺が亡き王太子の子供だということを知っている数少ない人物である。


「私の情報が役に立つかわかりませんが王太子殿下の失踪した夜のことについてはご存じでしょうか?」

「刺客に狙われたと父からは聞いています」

「陛下からは?」

「陛下は先入観が入るといけないからと自分で全て調べるよう仰せつかっています」

「そうですか…」


 団長は少し考える素振りをみせてから口を開いた。


「…実は王太子殿下の命を狙ったのは近衛兵達です」


 近衛兵と言えば城の警護をしている者たちだが…近衛兵が何者かの間者だったってことか?


「あの夜私はたまたま残業をするため遅くまで王宮に残っていたのですが、突然討伐要請が発令されたのです」


 団長の話では、要請の詳しい内容を聞くと討伐対象は城の近衛兵であり今まさに父を襲っているとのことだった。

 団長は王宮に残っていた兵たちを集め至急向かったが、そこには父はおらず血走った目で騎士団に襲い掛かる近衛兵達がいた。

 近衛兵の様子は尋常ではなく、団長曰くまるでネルドの狂戦士のようだったそうだ。


 父の失踪にアテリア草が絡んでいるかもしれないことに俺は驚愕した。


 その後近衛兵達を取り押さえた騎士団は牢に近衛兵達を収容したが…翌日、近衛兵達は亡くなっていた。

 その後の調査で狂戦士になった近衛兵達は同じ時間に食事をとっていたこと以外にはこれといった関係性がないことがわかった。

 そこで当時の料理長を調べようとするも料理長も事件の翌日に姿を消してしまったらしい。

 この国で一番警護の堅い王宮で近衛兵達が暴走したということが世間に知れ渡るとまずいと判断した陛下は、父は失踪したということにし唯一事情を知っている第四騎士団に父の行方を探すよう命令が下った。


 王宮の近衛兵数人、しかも夜の遅い時間の暴走。

 近衛兵の食事にアテリア草を混ぜれば可能だが…。

 料理長が混入させたとしても王宮の料理長に命令できる人物は限られてくる。

 しかも翌日王宮の地下牢に収容されていた近衛兵達を口封じに暗殺したとしたら。

 王宮内部の人間の犯行か?しかもかなり権力がある人物…。

 しかしアテリア草は日記の内容からも蓄積されることで狂戦士に変わっていくとあった。

 急に変化する方法でもあるのか?


「貴重な情報をありがとうございます」


 俺がお礼を言うと団長は少し困った顔をした。


「我々は結局王太子殿下をお救いすることが出来ませんでした。この話をしたのは半分罪滅ぼしもあるのかもしれません…」


 俺は第四騎士団が到着したとき彼らに八つ当たりをしたことを思い出していた。

 彼らも父を救えなかったことをずっと悔やんでいたのだろう。


 それ以上現地に到着するまで俺達が口を開くことはなかった。



 現地に到着すると壊れた家や何者かに踏み荒らされた畑が目についた。

 村の人間達は俺達の姿を見ると影でコソコソと何かを話していた。

 恐らく討伐の失敗続きで騎士団の信頼が落ちているのだろう。

 この日は拠点として建てられていたテントで一夜を過ごすことになった。



 翌日。朝から俺達は森の中を歩いていた。

 先に討伐に来ていた騎士団員達から情報をもらった俺達は中型魔物がいると思われる住処に向かった。

 途中、普通の魔物には何度か出くわしたが騎士団達が瞬殺するため俺の出番はなかった。

 住処に近付くにつれ鼻につくような臭いが立ち込めていた。


 もうすぐ住処かと慎重に進んでいたところでドドドドドドドドドッと何かが勢いよく向かってくるような音が聞こえてきた。

 俺は咄嗟に全員を守れるようドーム状のバリアを張った。

 勢いよく突っ込んできた大きな何かは俺のバリアにはじかれて一歩後ろに飛んで止まった。

 止まった魔物は黒光りの殻で上部を覆われており円状に丸まっていた。

 騎士達が息を呑んだ。

 魔物は突進ではバリアが壊れないと判断したのか体を伸ばして起き上がった。

 そして足がたくさんついた下部から粘液のようなドロッとした液体を出した。

 液体を一定量出すと再び丸まり液体の上を転がりだした。

 液体が周囲に飛び散り液体に当たった個所はジュッと焼けるような音とともに溶けた。


「酸か!?」


 俺はバリアの力を強めた。

 魔物はなかなか壊れないバリアに攻撃方法を変更し今度は自分の体に酸を擦りつけ突進してきた。

 酸と突進で一点集中攻撃されバリアにヒビが入った。

 中型魔物でこれかよ。しかも虫なのに知恵がある。

 俺は舌打ちした。

 勝負は次あいつが粘液を出すとき。

 バリアが壊されないよう魔力を強めた。

 粘液が尽きると再び粘液を出すため魔物が起き上がった。


 今だ!


 俺はバリアを解き、水の粒子を奴の体に浴びせた。

 もちろん粘液が出ている下部も堅い殻で覆われている上部にも効かない。

 俺の狙いは目だった。

 一滴でも目に入れば俺の勝ちだ。

 目に入った瞬間、魔物が耳障りな奇声を発した。

 そこからは一瞬だった。目から血液内に入った水を増幅させ…破裂した。

 飛び散る肉片や体液を防ぐためバリアをかけた。

 ビチビチと嫌な音を立てて奴の残骸が降り注いだ。


「化け物…」


 怯えた騎士の一人が呟いた。

 振り返ると他の騎士達も怯えた表情で俺を見ていた。

 団長が窘めるも騎士達から恐怖の色が消えることはなかった。



 村に戻り討伐が完了したことが村人達に伝えられると村人達は騎士の手を握り感謝の意を表した。

 俺がその光景を座りながらぼんやりと眺めていると団長が俺の傍にやって来た。


「先ほどは部下が失礼致しました。部下達には罰を与えておきました」

「罰を与える必要はありません」


 『化け物』

 初めて向けられた畏怖の目。

 うつむくとエリィから贈られた組紐が目に留まった。

 今日の話をしたらエリィも化け物と思うだろうか。

 エリィのキラキラした瞳が見たい。

 俺は立ち上がり帰りの馬車に向かうのだった。





魔物はダンゴムシをイメージしてます。


ゼオン視点もう一話だけ続きます。


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