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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第一章 ひよっこ魔術師
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師匠と旅行に行きます

 はじけ飛んだ心臓の修復をしていると


「ゼオン」


 陛下と父が姿を見せた。

 ゼオンと私は礼をとった。


「そんなに堅苦しくしなくてよいぞ。エリィちゃんも久しぶりだな」


 陛下は優しい眼差しを向けた。


「陛下におかれましては、益々ご健勝のことと存じます」


 笑顔で挨拶をすると陛下も「うん、うん」と感慨深そうに頷いていたが、ふいにゼオンの手首に目が留まった。


「ゼオン、その紐はなんだ?」


 ドッキーーーーン!修復しかけていた心臓にヒビが入った。


「エリィからのプレゼントです」


 陛下にも見えるようゼオンが腕を持ち上げた。

 顔が熱い…。


「ほう。エリィちゃんみたいな綺麗な紐だな」


 陛下が組紐を触ろうとするとゼオンは手を後ろに引いた。


「触らないでください」

「器が小さいぞ」


 言葉とは裏腹に陛下がニヤニヤしているのは気のせいではないだろう。


「まだ出発までには時間もあるし、二人で()()()()話でもしていなさい」


 やけに『ゆっくり』を強調された。

 しかし私もゼオンに話したいことがたくさんあったため、陛下のご厚意をありがたく受け取った。


 

 私達は騎士の邪魔にならないよう回廊の端に移動した。


「師匠に話さなければならないことがいくつかありまして」


 まずは王宮図書館でのエドワードとのやり取りについて謝罪した。


「断る方法が見つからなくて、思わず師匠の名前を使ってしまいました…」


 ゼオンは怒るでもなく口に手を当てて合点がいったように呟いた。


「だからあの申請書…」


 もしかしてもうすでに何かが起きてしまったのか。

 不安気にゼオンを見上げた。


「心配しなくても大丈夫だよ。また困ったら使えばいい」


 ゼオンの言葉に胸を撫で下ろした。


 次は夢の話と口を開きかけたとき騎士団から出発の声がかかった。

 続きは帰ってから聞くと言い残しゼオンは出発した。



 ゼオンが討伐に出発して二日が経った。

 私は連日王宮図書館に入り浸っていた。

 傍から見れば夢占いとか人間の深層心理についてとか魂の在り方などの怪しい本を読み漁る令嬢でしかない。

 エドワードもあれ以来姿を見せず集中して調べることはできたが、これといった情報を得ることはできなかった。



「エリィ、明日の夕刻に戻られる予定だ」


 夕食時、父がおもむろに口を開いた。


「そうですか」

「明日は報告で忙しいだろうから予定を聞いておこう」

「わかりました」


 私と父のやり取りを黙って聞いていたフィリスが割って入ってきた。


異母姉様(おねえさま)、最近よく王宮に遊びに行かれているみたいですけど何しているのですか?」


 決して遊びに行っているつもりはない。

 …魔法を使いたいための勉強は遊びか?


「王宮図書館で調べものをしているだけです」

「そう言いながらまだエド様に会いに行っているのではないですか?」


 いや。むしろ会いに来たのは暇人の方だ。

 しかも命令までしてきて困ったくらいだ。


「エドワード殿下とはここ最近はお会いしていません」


 四日前に会ったけどね。


「じゃあ誰に会うのですか?今、お父様が明日戻ると仰っていましたが」

「魔法の師匠です」

「魔法?異母姉様(おねえさま)、魔法なんて勉強しているの?」


 フィリスは嘲笑った。


「野蛮ね」


 継母も口にナプキンを当て、軽蔑の眼差しを向けてきた。


「二人とも止めなさい。魔法を軽んじる発言は控えるように」


 父が一喝した。

 叱られたフィリスは不貞腐れた態度で嫌味を言った。


「師匠なんて言うくらいだから、どうせおじいさんなんでしょ。勉強大好きの異母姉様(おねえさま)にはお似合いね」


 私も父も言葉に詰まった。

 フィリスにゼオンの話をすれば絶対面倒なことになる。

 これ以上この話には触れないよう、私も父も食事に没頭するのだった。



 ゼオンが帰ってきて二日後。

 父からゼオンの予定が空いたと話を聞き久しぶりにゼオンの部屋を訪れていた。

 ゼオンの左手首には私のあげた組紐が付けられたままだ。


 私は前世の記憶などの話は省いて夢の内容だけを話した。


「俺も閲覧禁止の書庫を調べてみたけど原因はわからなかった。やはり夢の内容が鍵になっている気がする」


 口元に手を当てて考え込んでいたゼオンが遠慮がちに私に視線を向けた。


「エリィ…5日くらい旅行に行かないか?」


 私の思考は停止した。



 屋敷に戻ると旅行の準備を始めた。


 ゼオンは討伐に行く前に以前お世話になった魔法使いに手紙を送っており、討伐中に返事がきていたらしい。

 その人の手紙には『一度会ってみないとわからない』と書かれていた。

 ゼオンは陛下と父に事情を話し、許可をもらえたということだ。


「師匠も紛らわしい言い方をしないで欲しい」


 私のドキドキを返せ。

 ブツブツ愚痴を呟いていると準備を手伝いながらマリーが爆弾を投下した。


「お嬢様はデートのような旅行を望んでいらっしゃったのに…残念ですよね」


 そそそそそそそそそんなわけない。

 一気に顔から蒸気が噴き出した。

 私なんでドキドキしてるの…。

 最近の私の心拍数おかしくない?

 マリーが温かい眼差しを向けていた。

 そんな目で見ないでーーーーーーーー!



 ゼオンから旅行は軽装で来るように警告されていたため、ブーツにパンツ姿、手荷物はリュックのみと冒険者をコンセプトにした服装で早朝から王宮に来ていた。

 父が泣きながら「絶対エリィを無事に返してくださいね!」とゼオンの両肩を掴んで叫んでいた。

 恥ずかしいからやめて…。


「大丈夫です。エリィの身の安全は保証します」


 おお!カッコいい!

 陛下と二人でゼオンに見惚れた。

 父だけは最後まで心配していたが…。

 お土産でも買って帰ってあげよう。



 陛下が用意してくれた馬車は紋章のついていない普通の馬車だった。

 護衛もついておらず大丈夫かと心配したが、その件でゼオンと陛下と父との間でひと揉めあったようだ。

 最終的に馬車にゼオンがバリアの魔術をかけるという話で落ち着いたらしい。


 馬車の旅は想像以上に楽しかった。

 ゼオンが王都から出たことがない私を気遣って小休憩を挟んでくれたからだ。


 しかし楽しい旅で一度だけゼオンの表情が曇った瞬間があった。

 それは馬車の中で私が前回の討伐について話題を出したときだった。


「師匠、討伐はどうでしたか?」


 肘をついて窓の外を見ていたゼオンは私を一瞥した。

 触れないで欲しいのかと察した私はそれ以上問わなかったがややあってゼオンが口を開いた。


「討伐はできたよ…」

「さすが師匠ですね。魔法で倒したのですか?」


 ゼオンは視線を窓から私へ向けた。


「エリィは本当に魔法が好きなんだな」

「はい!だって魔法ってすごいじゃないですか。この馬車のバリアだってかけておけば護衛いらずですし」


 目を輝かせてゼオンを見るとゼオンは再び窓の外に視線を戻した。


「魔物は硬い殻に覆われていたから魔法で血液を操作した」


 討伐の話はしてくれないと思っていたが、ゼオンは私の問いに答えてくれた。


「魔法で血液って操作できるのですか?」

「水魔法を使えばね」

「魔法ってそんなこともできるんだ」


 私は魔法の使い方について考えていると、ゼオンが悲しそうな表情を浮かべていることに気が付いた。


「師匠?」


 私が呼びかけるとゼオンは表情を消していつも通りに私を見た。


「何かあったのですか?」

「何もないよ」


 嘘だ。明らかにゼオンを纏う空気が重い。

 私は立ち上がりゼオンの隣に座った。

 驚いたゼオンは目を見開いた。


「私はまだ何もできない助手ですが師匠の傍にいることはできます。辛いなら私に寄りかかってください」


 私は両手を広げ微笑んだ。

 口を噤んでいたゼオンの口が少し開かれ、そして私の肩に顔をうずめたのだった。





読んで頂きありがとうございます。

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