諸悪の根源
最近、シン様と話せて無いな…
秋も深くなり、紅葉の美しさに目を取られながらふとそう思った。
「オリヴィアー、今日もまたバイト〜?たまには遊びに行こうよ〜。」
そう誘ってくれる友達にいつものようにごめんねと言い、今日もまたアルバイトに向かう。
最近はこの国の最高学府に在籍しているからか、学生の身ながら家庭教師のアルバイトをしており、大分楽になってきている。
その家庭教師先の子が12歳ながら生意気なのだが、それも可愛いものだ。
そう、ただの小作人の娘の私が、この国の最高学府に通い、教師の真似事をする。
普通に考えれば、有り得ない状況だろう。
近代化が進んだこの国でも、ヒエラルキーというものは純然と残っており、小作人の子供は小作人になる、というのは当然の事として受け止められる。
順当に行けば、私も今頃は近所の小作人の男と祝言をあげ、早ければ子供の1人でもいるかもしれない。
それが今この場にいるのは、単純に幾つもの幸運が重なっただけだ。
たまたま私が生まれた都市の領主であるカルラ様が非常に開明的な方で、人材教育に熱心であったこと。
たまたま私に幾ばくの才能があったこと。
この二つが噛み合い、私は見出された。
たまたま、同じ歳の領主の後継がいたこともプラスに働いたのだろう。
自分の息子には切磋琢磨できるライバルが必要だ!このままだと調子に乗ってしまう!と領主様の教育方針がなければ、私は今ここにはいなかったと思う。
学費などを全て出していただいていることから、アーツボルト家の名を汚してはいけない!と思い、家庭教師中も暇を見つけては自習をしてきたおかげか、運良く一位を維持できてはいるものの、それもいつまで続くか分からない。
特に最近は一年生に才能溢れる子が出てきており、油断は禁物だ。
「ねー、先生。先生って彼氏とかいるの〜?それとも先生くらいの美人さんなら、とっかえひっかけな感じなのー?」
飽きてきたのか、おませな生徒がそう質問してきた。
「彼氏なんていないわよ。多分、卒業したら結婚すると思うし。」
えーー!それって許嫁ってやつ!?キャー先生凄ーい!と煩く騒ぐ生徒。
恐らく、カルラ様としては私をシン様の側室に入れたいのだと思う。
帰省するたびに両親からシン様とはどうだ?と言われればいくら鈍い私でも気がつく。
そうでなければ、流石にただの小作人の娘にここまでの投資はしないだろう。
私としても、ここまでよくしてくれたカルラ様に恩返しをしたいと思っていたし、自分の容姿にも多少の自信はある。
シン様の側室の一人に加えていただければと思っているのだが…
「肝心のシン様が、どう思っているのかしら…」
昔はよく一緒に遊んだものだが、学園に入ってからは妙に壁を作られており、最近は言葉を交わすことすら出来ていない日々だ。
認めたくはないが…避けられていると思う。
原因は…分からない。
「もしかして、シン様はスレンダーな体型が好みなのかしら…?」
ここ数年で無駄に育ってしまった胸を見ながら、頭を抱える私。
貴女は胸がなくて良いわね、と言うと、余計に騒ぎ始めた生徒を横目に、どうすればシン様に好いてもらえるかを真剣に考えるのであった。