家庭教師の独白。
「ねぇアーミヤ、どうしたの?ボーとしちゃって。」
友人からそう言われて、私はふと現実に引き戻された。
「最近、家庭教師のシフト入れすぎて疲れてるんじゃ無いの?あんた、そんなに働いて何が欲しいのよ?」
彼氏でも出来たのー?このこのー?と絡んでくる友人は無視するとして、確かに、ここ最近は家庭教師のアルバイトを多く入れている。
もしかしたら知らず知らずに疲れが溜まっているかもしれない。
「ちょっとね。今教えてる子が熱心でさ。あと、少し気になることを言い始めたから、放って置かなくて…」
「えーー!それってもしかして、その子アーミヤのこと好きなんじゃ無いの!?そして、アーミヤも満更でも無い感じ!?」
キャー、と1人勝手に盛り上がる友人は置いておき、その生徒が私に気がある、ということは間違いなく無いだろう。
彼、シン君は私の家庭教師先の生徒で、16歳の学園生だ。
貴族の子息であり最初は緊張したが、思ったよりも気さくな良い子で、数ヶ月したら歳も近いこともあり気の置かない弟のような関係になった。
ただ、授業に関しては真面目そのもので、貪欲に知識を求めるその姿には少し圧倒される時もある。
最近は特に鬼気迫るものがあり、正直怖いくらいだ。
この間など、禁術を得るにはどうすれば良いのか?と言ってきたので思わず叱ってしまったが、本当に諦めたのか怪しい所である。
禁術にも色々あるが、1番メジャーなのはデュアルスペルだろうか?
通常、魔術は一回の詠唱で一つの魔法しか発現できないが、デュアルスペルを使えば専用の詠唱を使うことにより、ワンアクションで二つの魔法を発現することができる。
単純に考えて、火力が二倍になるので魔術師ならば一度は夢見た反則技だ。
勿論、その代償に術師の負担は非常に重く、寿命を縮めることが分かってからは禁術指定されたが、その有用性から今もなお使いたがる術士は後を絶たない。
「あの子…大丈夫かな…?」
キャー、惚気?惚気なの!?
煩く騒ぐ友人を後目に、私は胸騒ぎを抑え切れないでいた。