俺よりも優れたあいつが許せない…!
クソクソクソ!
いつもあいつは俺の上を行きやがる!
俺がどんなに努力しても、まるで片手間でそれ以上の実力を見せつける!
このままでは、一度も勝てないまま学園を卒業することになってしまう。
片田舎の小娘だったあいつも、今や次代の担い手として将来を嘱望されている身。
ここを卒業したら、首都に行き近衛隊などのエリートコース。
2度と戦うことはできないだろう…
この10年の雪辱を果たす機会は、残りわずか!
次の卒業試験が実質最後のチャンス。
それまでに、この術を実践で使えるようにしておかなければ…!
俺の名はシン。
この国の最高学府の生徒であり、アーツボルト家の長男だ。
と言っても、アーツボルト家は俺の爺さんの代に貴族になった成り上り者。
商人だった爺さんの才覚で貴族になったものの、所詮は多少金の持っている新興貴族の一つだ。
それでも俺は、自分の家柄に誇りを持って生きてきた。
また、自慢じゃないが、昔から剣も魔術も学問も何でもそつなくできた。
貴族という家柄も相まって、子供の頃は自分が選ばれた人間だと思っていた。
あいつが俺の前に現れるまでは…!
あいつ、とはうちの領地の小作人の娘であるオリヴィアのことだ。
ただの小作人の娘のくせに、俺よりも剣も魔術も学問も出来やがる。
あいつが現れるまでは、俺が神童だと言われていたのに、今じゃ誰も俺のことなど見向きもしない。
両親もあいつの才能に惚れ込み、平民のくせに俺と同じ教育を受けさせることにした。この学園の費用も、全てうちが出している。
まさかと思うが…アーツボルト家もあいつに継がせようとしているんじゃないだろうか…?
最初に抱いていた嫉妬は、段々と恐怖に変わっていき。
年々と膨れ上がっていくその恐怖に、俺は段々と寝食を忘れ勉学に励むようになった。
この間帰省した時に父から、オリヴィアのことどう思う?ワシは良い子だと思うんだが…と言われた時は衝撃が走った。
俺に嫁ぐ格好でアーツボルト家に入り込み、頃合いを見て俺を抹殺…
最終的にのっとる計画なのだろう…
しかし、どうやってもオリヴィアに勝てない。
あいつは、殊勝にも学費や寮費を全て出してもらっているのが申し訳ないと言い、授業以外の殆どの時間をアルバイトに励んでいる。
学生の身で稼ぐ金など微々たるものだが、稼いだ金は毎月親父に送金しているようだ。親父はその態度に更に惚れ込み、全て取っておき卒業したら渡そうとしているようだ。
絵に描いたような美談だが、俺にとって重要なのはそこではない。
空いた時間のほとんどをアルバイトに注ぎ込んでいるということは、予習復習をしている時間は全くないということだ。
一方で俺は親からもらった金は全て使って家庭教師を雇い、自分を高めることに費やした。
アルバイトなど一切せず、ひたすら自分を痛めつけるように学んだ。家庭教師が帰った後も自分で特訓し、遊んだ記憶など殆ど無い。
それなのに!常にあいつが一位。俺が二位だ!
二年生からは、剣術は諦め魔術一本に絞った。
とてもじゃ無いが、両方学んでいるとあいつとの差は広がるばかりな気がして、より適正のある魔術に注力した形だ。
学問も、魔術に関係のある部分だけに絞り、他は捨てた。
にも関わらず、結果は変わらない!
寧ろ、学問と剣術は二位から陥落してしまったので成績は悪くなった。
最終学年である三年生になってもそれは変わらず、寧ろ一年生で天才魔術師と呼ばれる後輩が入ってきたことから、魔術も二位が危なくなってきている始末。
俺の焦りはピークに達している状況だ。
最早、手段は選んでいられない。俺は、様々なツテを使って禁術と呼ばれる術を探した。
使うと寿命が縮むと呼ばれる魔術だが、その分威力は折り紙付き。
学園に入ってから雇った家庭教師には強硬に止められたが、あいつに勝てないまま卒業することになれば、その場で憤死してしまいそうな今、寿命などどうでもいい。
尋常な手段では勝てないのであれば、命をかけてでも倒すだけ…!
この禁術は、必ずものにする!