第7話 俺のチート能力はどれも便利だな♪
「ミントの嬢ちゃん、荷馬車と荷物はどうだったって、その顔見りゃあ、よろしくなかったみたいだな。」
しばらくして、荷物や荷馬車を調べていたミントが俺達のところに来たが、その表情は少し暗くなっていた。
「積み荷の方は問題なかったんだけど、荷馬車の方が・・・ね。」
「このまま移動するのは無理って訳か?」
「うん、車輪の外れた上に破損もしているから動かす事が出来ないわ。コナタまで誰か行ってもらって代わりの荷馬車を持ってきてもらわないといけないかな。」
「そうか」
「はぁ、うちにはこの荷馬車しかないから、他から持ってくるとなるとそれなりのレンタル料を支払わなけばならないし、この荷馬車の修理にもそれなりの修理料が掛かるしで、もう大赤字!・・・この積み荷の利益が全部吹き飛ぶどころか損失ね・・・。」
大赤字と癇癪を起した様に叫んだ後、がっくりと肩を落として力のない声で答えるミント。ジャン達はそんなミントの様子に対して、気の毒そうに見ている。
そんなミントの説明を聞いて、俺はこの荷馬車を”アルケミー”の能力で直せないかなと荷馬車に手を当てて調べてみると、破損した部分を補う材料となる物があれば再構築できる事が理解できた。
しかも材料もそこそこの大きさの木の棒3本で良い。そういう意味ではこの荷馬車が木材で出来ているのが幸いしたともいえる。
しかし、この辺りに”アルケミー”の能力で直すために必要な資材となるそこそこの大きさの木の棒3本がない。
どうしようかと周りを見渡してみると、野盗達が持っていた武器や防具に眼に止まった。野盗達は全部で13人いた様で、全員、すでに物言わぬ亡骸となっている。
こいつらの所持していた武具を使って代用できないかと、俺は近くに倒れていた野盗達の4人の亡骸から素早く武具を回収し、それを資材としてもう一度、荷馬車に手を当てて調べてみると、問題ないどころか、若干、ミントの荷馬車の強度を上げることが出来る様である。
その事を確認した俺に、ジャンが声を掛けてきた。
「どうしたんだ坊主?嬢ちゃんの荷馬車に手を当てたと思ったら、いきなり野盗達から武具をはぎ取って集めたと思ったら、また荷馬車に手を当てて・・・。」
ジャンの質問に答えようと、彼の方を見ると他の護衛達やミントを不思議そうな表情で俺を見ている。
「ミントさん。」
「うん?何?」
「ミントさんの荷馬車、この場で直す事が出来ますよ。」
「え?どういう事?」
俺の言葉にミントは一瞬、何を言われたか理解できないと言う表情になり、次に怪訝な表情になって尋ねてきた。
俺は”アルケミー”錬金術を使って野盗達の武具を資材に再構築する事で直せる事を伝えたら、皆が驚きの表情となった。
「え、何?あなた、錬金術師だったの?」
「ええ、まぁ」
「正直、驚いたな。あの強さにあの身体付きだからてっきり戦士か何かと思ったんだが、」
そう言ってからジャンは俺を上から下まで観察する様にマジマジと見た後、
「しかし、確かにその恰好じゃ戦士とかには見えないので、魔術師や錬金術師と言われてもおかしくはないが・・・。」
そう言つつも、釈然としない表情をするジャン。ミント達も同じ様子だった。
俺はそれに構わず、
「だから、直しておきますね。目的地にこの荷馬車の積み荷を持っていかなければならない以上、荷馬車が動いた方が良いでしょう?」
「え、ええ、出来るのならばお願い。助けてもらったお礼とは別に修理代も出すわ。」
「はい、承りました。」
俺は半分おどけて、仰々しく反応して、荷馬車に手を当て再構築と思った瞬間、荷馬車が一瞬輝くと、荷馬車のすぐ下に置いてあった野盗達の武具が消えており、俺、いやミントやジャン達も荷馬車の破損したところを見てみると、破損したところが綺麗に治っていた。
「・・・あなた、本当に錬金術師だったね・・・。」
修理された箇所を見ながらぽつりと言うミント。そしてしゃがんで破損していた箇所を手で触れて確認した後、何かに気付いた様に立ち上がり、荷馬車の周りを見ながら、ところどころを手で叩いたりして調べている。
その様子にジャンが、
「どうした嬢ちゃん?何か問題でもあったのか?」
「・・・問題はないけど、荷馬車が新品の状態に戻っている。」
「何?」
「数年、使っている間に出来ていた傷などが綺麗に無くなっており、新品同様になっている。更に言えば荷馬車の強度も少し硬くなってる。」
ミントの説明にジャン達は俺を見る。どういう事か説明してくれという事だろう。
「荷馬車を直したと言っても修理して直したんじゃなく、壊れて欠損した部分を、よそから持ってきた資材で補いながら、一度分解、再構築という形で復元しましたからね。その時に傷などもリフレッシュされんでしょう。それに使ったのが木材ではなく鉄がメインで、余剰で再構築したので、その分の質量も追加されたので、荷馬車がその余剰分、頑丈になったと言う事でしょう。」
俺の説明にジャン達も納得した様だった。
「坊主がマジで錬金術師だというのは驚きだが、荷馬車が動かず、コナタまで使いを出さなきゃいけなかったのが解決されたのは確かだ。ならば後はこの荷馬車を俺達が引っ張っていくだけだ。」
「・・・でも大丈夫なのジャンさん?」
「何、これも嬢ちゃんの護衛を引き受けた時に入っていた条件の1つだ。問題はねぇよ。」
そう言うと荷馬車の御者台の先についている馬を繋いでいる部分を持って歩き始め、、残った護衛達が荷馬車の後ろに回って押し出した。
どうやら残りの賊の亡骸から所有品を回収などの行為は行うつもりはなさそうである。
俺とミントが見ている中、荷馬車は少しずつ動き始めたが、この様子ではコナタとやらまで着くのに、かなりの時間が掛かりそうである。
仕方がないので、手伝おうと思った時、手にしている鉄の棒が邪魔になったので、アイテムボックスに収納すると、第三者からするといきなり手にしていた鉄の棒が消失するところを見た事になるミントは何が起きたと言う形相でこちらをガン見している。
俺は、その時、目の前の荷馬車も収納できないかと、ガン見するミントを無視して荷馬車に近づき、触れたところで収納しようとしたが、荷馬車は消えなかった。
どうやら、収納出来ないらしい。と言う事はアイテムボックスに収納出来る物には制限があると言う事だろう。
それが分かっただけでも収穫なので、俺は切り替えてジャンの元によって、
「すいません、それは俺が変わるので、あなたは後ろで押すのを手伝って貰えませんか。」
「あん?」
顔を赤くし、少し汗ばんだ状態で荷馬車を引っ張っているジャンは俺を見る事なく、
「は、バカ言うんじゃねぇよ。これも俺達の護衛依頼の内容の1つに入ってるんだよ。故にこれは俺達が成さなきゃならない仕事だ。それに坊主にはヤバい所を助けてもらった上に、荷馬車も直してもらった以上、これ以上助けを借りる訳にはいかねぇよ。気持ちだけもらっておくぜ。」
どうやら、ジャンは自分の仕事に責任はちゃんと持つタイプらしい。
俺が転生する前、勤めていた会社にいた、いい加減な仕事しかしなかった同僚に、爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぜ。
俺自身、ジャンに対して好感は抱いたが、このままジャン達に任せていたら、かなりの時間ロスになると思い、ジャンの意向は無視して、隣に行き御者台の先についている馬を繋いでいる部分を持ち、ジャンが何か言う前に力いっぱいで引っ張った。
「うおっ?!」
どれかが驚きの声を上げる中、荷馬車はジャン達が引っ張っていた時よりも早い速さで動いた。
隣のジャンがまたもや、驚いた表情をしているのを尻目に俺は荷馬車を引っ張りながらも、スタスタと歩くと荷馬車もそれなりの速さで移動するので、何か言おうとしたが言葉を飲み込んだらしい。
「このまま、俺が先頭で引っ張っていきますので、後ろで押すのは頼みます。それとコナタと言うところまでの道案内も頼みます。」
「え、ええ、分かったわ。こっちよ。」
俺の言葉に、俺をガン見していたミントは慌てた様に、先頭に立って指示を出す。
その指示に従って荷馬車を引いている後ろで、
「・・・最近の錬金術師って身体を物凄く鍛えて凄い筋力を持つのが主流何でしょうかね?」
「・・・分からねぇ、しかし、もしそうなら錬金術師の見方を変えざるをえねぇ・・。」
「・・・並みの戦士や騎士なんざ比べる事も出来ないぐらい強いですぜ。」
「・・・錬金術師が、並みの戦士や騎士よりも遥かに優れた筋肉を持つ時代となった、ある意味、スゲェ時代がきたもんだな・・・。」
ジャン達が話しているのが聞こえたが、悪い皆の衆、俺が例外なだけであって他の錬金術師はあんたらの知っている錬金術師で合っているから・・・。
しかし、この世界の人間達がこうも驚くとは、やっぱりこの世界の常人の平均的な総合能力の約4倍と言うのは伊達じゃないっ!!という事だな。
俺はコナタへ行く道すがら、そんな事をぼんやりと思いながら荷馬車を引くのだった。
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