第28話 幕間、上総心がコナタに戻る為にターキ村を出たところ・・・
ひょっとしたら少し強引かもしれません・・・。
ターニャの依頼をこなし、怪力熊の変異体も討ち取ったので、もう、このターキ村でする事は何もないので、俺もジーク達に倣ってこの村を出る事にした。
依頼主のターニャは俺にお礼のキスをして恥ずかしいからか、家の中に入ってしまい、この場にはいなかったが、足が元に戻った母親のイーニャを含め、村人達の見送りを受けながら、俺もコナタに帰るために村を出た。
「しかし、まさか、この顔と身体になった途端、助けたお礼で頬とは言え、女の子にキスされる事になるとはなぁ・・・。」
地球にいた頃は仕事場ではおろか私生活でもこの方、女の子は勿論の事、女性にキスをされるどころかそんなに交流をもった事すらなかったのに、今の男の娘になり、この世界に来てからミントとビジネスの関係とは言え交流を持つ事になり、今しがたも怪力熊の変異体も討ち取った事による礼としてターニャからキスされたのだから、人生とは分からないものである。
「でも、これならば俺もレオンみたいとは言わなくとも、女性と深い関係になる事も出来るかもしれないな・・・。」
異性との交流と言う方面でも、先行きが明るそうな兆しを感じ、俺は心が浮かれた状態でコナタへの帰り道を進もうとした。
その時だった。背中に強い悪寒が走り、全身が一瞬、震えた。コナタのギルド長、夕姫白蓮に試しに殺気と覇気をぶつけられた時、以上の圧を感じ取り、その次の瞬間、それが恐怖だと俺は本能的に理解すると同時に、北ラーシア山脈の方から誰かに見られていると言う強い視線を感じた。
思わず、俺はそっちの方を見ると、常人よりも4倍の能力を持つ今の身体は視力もよく、山脈の中に二人の女性の姿を見た。
一人は鎧姿と思われ、もう一人は鎧らしき防具は身に着けておらず、見た感じ魔術師の様に思わる。
が、距離が離れている上に、木々が生い茂っているため、相手の全貌を見ることが出来ない。
それでも向こうは俺が、自分達を見ている事に気付いた様で直ぐにその場から立ち去った。立ち去る直前、鎧姿の方が俺にニィッと笑いかけて・・・。
その笑みを見て、俺は再び湧きあがった恐怖による硬直で暫く、この場から動く事が出来なかった・・・。
しばし、時間を遡り、上総心が村から出て行こうとするのをターキ村に近い北ラーシア山脈の下部の森林の茂みの中から見つめている者が二人いた。
一人は二十歳前後と見られる、水色の髪をショートカットにした軽装備の鎧を身に纏っているが、見ただけで、ジーク達の身に着けている鎧よりも上質の鎧だと理解出来る。
一目見ただけで美女と理解できる美貌と鎧の上からも理解できる優れたプロポーションをしており、高貴な雰囲気を感じさせるが、それに反し、その身のこなしは微塵も隙が無く、明らかに強者の風格を漂わせている。
もう一人は鎧姿の女性より小柄で、見た目ターニャより1つ2つ上ぐらいの10代中頃の風貌をした少女で、ワインレッドの髪をロングヘヤ―にしており、相方の女性と比べて美しいと言うより可愛らしい容貌をしているが、意外と身体つきは同年代と比べて発育が良さそうである。
黒をメインにしたブレザーと膝ぐらいまでのスカートを身に纏っており、パッと見ると何処かの学生にしか見えない。
上総心を見ている二人のうち、先に少女の方が声を発した。
「私達が造り出した兵器用モンスターの最初の実験体が、あ~んな見た目弱そうな娘に敗けるだなんてびっくりですよ~。しかもあの娘、素手で殺してしまうんですから、なおびっくり~。」
その見た目に合うまだ幼さが抜け切れていない少女の声で鎧姿の女性におどけた様に報告する。
「まぁ、取り敢えずは今回の数か月の戦闘実験はこれで終了と言う訳ね。想定していなかった事もいくつか起こったけど、逆に良い実験データとなったので、良しとしましょう。」
「わぉ、その所為で自国民が何人か死んでしまったと言うのに、姫様ってば冷酷非情~♪」
「・・・」
鎧姿の女性の言葉を聞いて、変わらずおどけた様に続ける少女にを不快に感じたのか、鋭い視線で睨みつけると、一転して「も、申し訳ありません姫様、ふざけが過ぎました。」と怯えた表情で謝罪する少女。
そんな相方の少女の言動に軽くため息をついてから、
「まぁ、確かに結果的にとは言え、私達帝国の民を巻き込み、実験体が村を襲撃した時も放置してその襲撃のデータを取っていたのだから、あなたの言う事も否定は出来ないわね・・・。」
「さ、最初は怪力熊の実験体とこの山脈に根城を張っていたそこそこに手強い山賊達と戦わせて終わりの予定だったんですけどねぇ~。」
「・・・そのままあっさり暴走して制御出来なくなってしまったものね・・・。後はそのまま暴走した状態で、山脈のモンスター達を相手に暴れていたけど、我々にとってもそれは良い戦闘データとなった訳だし・・・。」
「そうやって実験体とモンスター達の戦闘を観察しながら、戦闘データを取っていたら、実験体がターキ村を襲撃しちゃったんですよね~。まぁ、姫様が今言った様にこの襲撃も、私達にとっては良い戦闘データになりましたしねぇ~。」
そう言って姫様と呼んだ鎧姿の女性を見ると、彼女は「否定はしないわ。」と言って肩を竦めた。
「そうこうしている内に実験体が村人達に見られるようになって、そろそろ計画を終了と言う事で、最後にそれなりに強い存在と戦わせようと言う事で、山賊と通じていたこの辺りの警備隊の元締めである隊長のジードと二人の部下をぶつけるために、ジーク卿達によって誘導させたと言う訳ですね。」
「・・・もっともジード達三人が敗れた後、ジーク卿達が実験体を抹殺するはずだったのが、ジード達がジーク卿達の足を引っ張り続けて、ジーク卿達まで余計な傷を負い、撤退する羽目になったのだから、どこまでもあの馬鹿三人は帝国に仇を成し続けたと言う訳よ・・・。」
最後の方はジード達に対する憤怒から恐ろしい形相になる鎧姿の女性。
その形相を見て、再び小刻みに震えあがる少女。何とか意識を逸らそうと何かないかと思ったところで、、ふとコナタへと戻ろうと道を歩く上総心が目に入った。
「あ、姫様、あの娘がコナタへ戻るようですよ。」
「あら、本当ね。しかし、あの娘が実験体を素手で殺すとは予想もしなかったわ・・・。」
「あ~見えて、実は戦士だとか・・・?」
「いえ、動きから見て素人だし、見た目からして明らかに戦士系ではないようだから、貴女と同じ魔術師系統でしょ。その証拠に」
そう言って鎧姿の女性は強い殺気を上総心にぶつけた。次の瞬間、上総心は歩みを止め、彼女達がいる場所を迷わず見て来た。
「あ、あら?てっきり私の殺気に気付かないんじゃかと思ったけど、反応して迷いなく私達の方を見るなんて、実験体を素手で殺すぐらいだから、やっぱりそれなりに戦士などの戦闘職でもあるのかしら?」
驚いた様に言って首を傾げる鎧姿の女性。どうやら、彼女の中では上総心は自分の殺気に気付かないと思っていた様だ。
「まぁ、これはこれで面白いわ。ジーク卿が彼女の事も本人から聞いているだろうから、来てみますか。この先、使えるかもしれないし・・・。さて、姿も見られちゃったし、さっさと撤収しますか。行くわよアンナ。」
「はいはい~姫様」
二人はそして踵を返してこの場から去ろうとしたところで、鎧姿の女性だけが、もう一度上総心を見、
「じゃあね。縁が合ったらまた会いましょう儚さそうな少女の皮をかぶったアマゾネスさん。」
不敵な笑みを浮かべながら、そう言って今度こそこの場から立ち去った。
こうしてターキ村の村人達を始め、コナタのギルドに関わる者の誰一人、この怪力熊の変異体の出没とその凶行が計画的になされた人災である事を知る事なく、事は密かに進められ、その事実は闇へと葬られた。
唯一、上総心だけが帰る道中、コナタのギルド長、夕姫白蓮と同等もしくはそれ以上の正体不明の使い手達と遭遇する事となり、怪力熊の変異体の出没に多少のひょっとしたらと言う疑問を抱かせたが、彼としてもそこまでだった。
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