2.○○こしただけなのに
前に記載した通り、主人公の便を相当にいじめてます。私個人、男の娘やショタが苦しむ姿はそそるので、苦手な人はさけてください。
今回は排泄我慢です。
(どうしてここにいるんだろう)
目が覚めると、便は洋式トイレに座っていた。
しかも、ただの洋式トイレではない。便が地球にいた頃、慣れ親しんだ家のトイレ。
(あれ、開かない?)
ドアノブはいくら回しても途中で止まり、カチャカチャと音をたてるばかり。
(なにこれ……)
便が目を凝らしてみると、カギ穴がこっちを向いていた。もちろん、便の家はそんな不便なドアではない。
便はこのドアから出ることをあきらめて、別の出口を探す。
(あそこは……ダメそう)
トイレの上にある小窓を見るも、人が通れるほど大きくはない。
思いつく限りの脱出経路は調べたが、他に脱出する手段が思いつかず、便は頭を悩ます。
(とりあえず便座に座ろうかな。はぁ……死んだ時いい、トイレには縁がないよ……)
便は過去を思い出して、大きなため息をつく。
便にとって、忘れたくとも忘れられない死に際の記憶。死去した場所はこの密室にあたり、それが全ての汚点でしかない。
****
あれは夏休みのことだった。便は外出予定もなく、両親は共働きで不在。だからか、便はいつもより長くトイレにこもっていた。
狭い場所が好きとかそんなちんけは理由ではない。便は便秘をわずらっていてそのせいで、出そうで出ないの押し問答が続いていた。
最初の異変は喉の異常なかわき。
夏だからそれくらい普通だと、便は気にもとめなかった。
次の異変はめまい。
これはいよいよまずいと、便は出すことをやめて、トイレから出ることにした。
便座から立とうとしたその瞬間、便は呻き声をあげて、吸いこまれるように便座に座った。
足の痛覚以外の感覚がないほど、足はしびれきっていた。
立つこともままならず、便の顔にはあせりの色がにじんだ。
(このままじゃまずい)
便が意を決して立ち上がれば容しゃのない激痛。
(っ!!)
便は前かがみに倒れ、なま尻を突き出す格好。
(まだ死にたくない!)
便はその格好に、一ミリの羞恥もなかった。あるのはここで死にたくないという強い思い。それが、便の体をつき動かした。
イモムシのようにはい、便はドアノブに手を伸ばした。だが、この体勢ではまったく届かず、空を切るばかりだった。
(まずい……)
便の視界はどんどんと白いもやにつつまれ、ドアノブを認識するのもやっとの状態だった。
やみくもに手を振り回しても、便の手がドアノブにあたることは一度もなかった。
それからしばらくが経った。白いモヤのかかった視界は暗幕が落ちて、真っ黒につつまれた。
最後に覚えているのはセミの鳴き声だけ。それを最後に、セミの鳴き声は遠のき、便はそれからを一切覚えていない。
****
便はそこまでを思い出して、耳まで真っ赤にする。
顔を手で覆うと、声にならない声を発してもだえる。
(トイレで死ぬなんていい恥さらしだよ……)
まさかトイレで一生を終えるなどとは思いもしなかった。しかも、過去の記憶は引き継がれ、死に恥は忘れようにも忘れられない。
この生涯、時おりこのことを思い出してもだえるのだろう。便はそう考えて、身の毛がよだつ。
「はぁ」
(とりあえず今は、ここから出る方法を考えなきゃ)
いったん、過去のことは置いておいて、まずはここからの脱出。
便は大きく息をはいて、難しい顔をうかべる。
この、まか不思議なトイレから出る方法。便が頭をひねっていると、ゴボゴボという音が足もとで鳴る。
だが、便は気づかない。出る方法にばっかり頭が回り、迫る危機に気づきもしない。
(ん?)
二度目の音で便は気づき、やっと便座から立ち上がる。そして、便座の中をのぞきこむ。
(なんの音だろう)
トイレの中から聞こえてくる不吉な音。嵐の前の静けさなのか、はられた水はみょうに落ち着いている。
(気のせいかな……)
便がそう判断して顔をそむけた瞬間。ボガンという爆発音が響き、便はとっさに顔を向ける。
****
便は顔全体に広がる冷たい感覚に、ハッと目を覚ます。
顔には水滴のつく感覚がして、便はおおよそどうやって起こされたのか理解する。
(夢か)
便は今までが夢であったことにホッとする。反面、起こされかたには腹ただしさが残る。
「やっと目を覚ましたか」
便の視線の先には、カトラン姫の足。
麻のズボンからはしなやかな太ももが大胆にのぞき、みごとな曲線美が艶かしい。
便は官能が刺激されそうになり、あわてて視線を顔へと逃がす。
だが、またしても際どい。包帯のようなものを巻いているだけで、便の視線からは、たわわに実った肉まりのアンダーラインがのぞく。
他にも貴族がまとうようなローブを着ていても、もう便の視線は下乳にくぎづけ。便は生つばをのみこむ。
(もっと隠してよ……)
なぜか便一人が、気まずい思いを抱えて視線を逃がす。
カトラン姫に羞恥はないらしく、どこかムスッとした顔を便にぐっと近づけてきた。
「起きて早々、私の顔を見ないときたいか」
鋭く目をとがらせたカトラン姫は、こめかみに青筋をうかべる。
便はチラリと見て、劣情を焚きつけるものがないことを確認する。それからやっと、カトラン姫と顔を合わせる。
「人間風情のくせに生意気だが……。まあいい。それよりも最高の目覚めだろ?」
(最悪だよ)
カトラン姫の的外れな言い草に、便は心の中でツッコミを入れる。
便はため息をつきたい気持ちをグッとこらえて、まずは顔についた水滴を取り除こうとする。
(!?)
便は首を動かそうとすると、手と同様に動かない。
(拘束されてる……)
手も首も動かない。かろうじて足は動くも、重りがついているのか動かしづらい。
「なにを怯えている。興はこれからだというのに」
カトラン姫は不敵に笑い、マントをはらって背を向ける。
どんどんと離れていくカトラン姫。便はさっきの言葉が忘れられず、その背中に向かって問いかける。
「な、なにをするんですか……」
「……」
カトラン姫は一度足を止めるも答えてはくれず、また歩き出す。そして、奥にあるイスに座ると、カトラン姫は冷たい眼差しを便へと向ける。
「やれ」
(な、なにが始まるの)
カトラン姫が指示をくだすと、ジャラジャラとなにか重いものを引く音が部屋に響く。
(怖い……)
見えないせいで、便の不安はさらに加速する。
これからなにをされるのか。便は想像するだけで体はガクブルと震えてくる。
(あ……///)
音が止まると同時に、便は下腹部の違和感に気づく。スースーとして、風が股下を通ればぞわりとした感覚が背筋をなでる。
(うそ……なんでこんな時に……)
そのくすぐったさとは別に、便のお腹でじわりと広がる感覚。
(こんなとこでしちゃ……だめなのに……)
便はおしりをキュッとしめて、顔を真っ赤にする。
いったいなぜ、眠る前は感じなかった便意がこみ上げてくるのか。
(絶対にカトラン姫だ!)
便はイスにふんぞり返り、ニタニタと笑うカトラン姫をにらむ。
さっき言っていた興というのも、そう考えればうなずける。それに、眠ってしまったのもカトラン姫のせいに決まっている。
便はあまりにもできすぎた状況に、カトラン姫がやったのだと揺るぎない確信すら覚える。
「いいのか。そんな顔をして。他に言うことがあるだろ?」
(思い通りになんかなるもんか!)
便はプイッとそっぽを向いて、強情になる。
もう、カトラン姫の好きにはさせない。便なりのささやかな抵抗を示す。
「おもしろい。インスマ、便にたっぷりと飲ませてやりなさい。貴様らにはこれくらいしてやらないとな」
「御意」
カトラン姫の横にいたインスマは、つぼを手に持ち近づいてくる。
(なにが入ってるの……)
土色のつぼは中身が見えない。そのせいで、便の不安はますますとふくらんでいった。
(怖い……)
便の目の前に来たインスマは、はるか頭上から眼差しを向ける。
「口を開けろ」
威圧感に加えて、弾丸のような言葉には殺意が凝縮される。
(あ、開けるもんか)
便は抗い、キュッと口を真一文字に結ぶ。
抵抗の先に待つことがどれだけ恐ろしくとも、カトラン姫にはもう膝を屈しないと、便は決めていた。
「開けろ」
二度目の殺気はより鮮明になり、便の生存本能に訴えかける。
(嫌なのに……)
一度も経験したことのない恐怖が、便の口をおもむろに開かせる。
曖昧であった死というものが、便の目の前で形をなしていたかのように錯覚する。それほどまでの、殺されるという感覚が生存本能を駆り立てた。
便は喉ちんこまで見えるほど、口を大きく開く。目からは悔し涙が、はらりと頬をつたい落ちた。
「飲め」
便の意思に反して、首はこくこくと縦に動く。
(体が言うことを聞かない……)
便にはどうしようできず、生殺与奪はインスマの手にある。
口に注がれる液体を、便の喉は喜々して飲んでいく。
カトラン姫はその様子がおかしかったのか、甲高い声で笑う。
「その浅ましさこそ人間だ!」
(見ないで!)
便の自尊心はもうすでにズタボロだった。
されるがまま、言われるがままで便の意志はそこにない。まさに傀儡ともとれる扱いは、便の心をズタズタにする。
便は最後まで飲み終えて、頬は涙でぬれ、目に宿る生気は枯れ果てていた。
(もれちゃう。けど、もういいのかな……)
人というものを根底から否定された扱いに、便はもう人としての誇りも尊厳もない。あるのはカトラン姫の玩具という焼印のみ。
(やばい)
どんどん下り、すんでのところで止まる。便の瞳に、かすかながらの生気が戻る。
(ここでして、僕は人間に戻れるのかな)
このまますんなりと出して、便は自分で、自分を人として誇れるだろうか。
(できるわけないじゃん!)
これが最後の抵抗。便は負け戦と知りながら、人間としての誇りをかけて抗う。
息を吹き返した強気な眼差しは、カトラン姫をじっと見すえた。
「人間風情のくせしてこしゃくなマネを……」
カトラン姫がどれだけ小さく言っても、静かなこの場では瞬く間に広がる。
かすかににじんだ怒りのせいか、場の空気が張りつめる。
「インスマ、何としてでも出させなさい。最悪、殺してもかまわない」
「御意」
カトラン姫の命令に、インスマは便へと向き直る。
(耐えてやる!)
便はキュッとおしりに力をこめて身構える。もう、インスマの殺意に脅かされていた便はここにいない。
インスマは便の前で立ち止まり、だんまりとする。さっきのような手口はもう効かないということを、薄々勘づいたのだろう。
インスマはワキワキと手を動かして、便は察してしまう。
「まっ、待って……」
顔は真っ青になり、便の声はうわずる。くすぐられれば、体の力は抜けて、簡単に我慢の糸はほどけてしまう。
インスマは便の泣き言には耳も貸さず、無防備な便のわきをスっーとなぞる。
「んっ!」
便はくぐもった声をもらして腰をよじる。
(こんな敏感じゃないのに!)
便は自分でも予期しない反応にカッーと顔は赤くなる。
こんなことを続けられれば、便はあっさりともらしてしまう。
「やめっ……」
便が音をあげようとした瞬間。インスマは五指全てを駆使して便を責め立ててきた。
便は口からはどっと笑い声があふれて、体はくねくねと絶えず動き続ける。
(もう……無理……!)
あまりのくすぐったさに頭はどうにかなってしまいそうで、便の足腰には力が入らない。
息をするのも絶え絶えで、インスマの手が止まる頃には過呼吸寸前になっていた。
便は降参する声もあげられず、弱りきった顔でインスマを見上げる。
(やめて……)
そんなSOSを飛ばすも、インスマには届かない。
便の体はビクリとはねる。再び手が動きだし、便は陸に上げられた魚のようにはね続ける。
(もう……ダメ!)
便は笑い声と同時に、おしりからはついに開放感が穴をこじ開ける。
そこでインスマの手は止まり、便は拘束具に身を預ける。そうでもしないと、立つこともままならない。
(出しちゃった……)
ボッーとする頭でも、なにをしたかは分かっている。
(でも、頑張ったよ。僕は最後まで、頑張ったんだ……)
便は最後まで頑張った自分をほめ、人としての尊厳はなんとか守りきる。
「タヨリ。貴様はなにをした」
(言うわけないじゃん!)
便はカトラン姫の変態具合にほとほとあきれる。首輪もそうだが、今回も辱めの一種として言わせるつもりだろう。だが、言うつもりはない。
「だんまりか。インスマ、タヨリに見せてやれ」
「御意」
(え、なんで?)
インスマは便の拘束具を外す。便は思わぬ自由に、目をぱちくりとする。
「後ろを見ろ」
インスマに言われて、便は嫌々、後ろを見る。見えるものなんて分かりきっている。
(どうせ……)
便は下を見て絶句する。そこにあるのは茶色ではなく、若草色。緑便ではない。
(えええええ!)
画一的に並べられた石畳を覆い隠すほどの草花。
「うんこしただけなのに……」
次回の投稿は9月5日を予定してます。時間も今と同じくらいの12時を考えています。
もし、遅れるようでしたら、作者存命に限り、この場でお伝えします。