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稽古


 王都ガルド。

 魔族の王都であり、ルイガ大陸の中でも最大クラスの大きさを誇る都だ。

 魔族というと、暗く淀んだイメージを持たれてしまうかもしれないが、この都は別名水の都と呼ばれるほど、景観が綺麗なことで有名だ。


 王が暮らす居城を湖が囲み、都の至る所に水路が引かれている。

 

 その王都にクレアと共に帰還してから二日、次の仕事を探す前に彼女の王城の中庭で剣を構え対峙していた。

 

「ハァッ……!」


 クレアの細剣から繰り出された中段三連突きの二つを払い、一つを頭を左に振ることで回避すると上段からの一撃を振るう。

 斬撃が彼女の体に触れる手前で、微かに火花が現れチリジリと音を鳴らす。


炎華障壁えんかしょうへき


 火花は一瞬で炎へと変わり、鼻の様に形状を変化させる。

 黒剣の刃を華が盾となり受け止めると、炎は彼女の細剣へと移る。


炎華斬撃えんかざんげき・二連」


 炎を纏わせた剣を上段切りと下段切りの交互に振るうことで、攻撃範囲と威力を増大させた斬撃に、思わずのけ反り交代する。

 その隙を見逃すことなくクレアは距離を詰めると、容赦なく追撃を始めた。


「稽古じゃないのかよ!?」


「常に真剣勝負よ! それにあなたには稽古でも負けたくないの!」


 纏わせた炎を切っ先に集中させるのを目視する。

 あれは、普通に受けたら剣が折れてしまう威力だ。

 握る黒剣に魔力を流し込み、こちらも刀身を黒い魔法粒子で纏わせる。


拒絶リジェクション


 消滅の魔力で彼女の切っ先に込められた炎をかき消すと、刀身が重なり合い純粋な押し比べが始まる。

 そこに、回し蹴りを振るってみるが、クレアは逆にその足を踏み台にしてくるりと宙返りして距離を取る。


 巧みな身のこなしに、思わず苦笑いを浮かべていると彼女は得意げに広角を上げる。


「魔剣の能力しか使わないなんて、余裕のつもりかしら?」


 そう言うと、クレアは不満そうに剣を指先でクルクルと回しながらつぶやいた。

 魔剣とは、固有の能力を有した魔法武具であり、それ単体が俺の使用できる本来の魔法ではない。

 「拒絶」の能力も、黒剣固有の能力だ。

 その他に、得意とする魔法が存在している。


 だが、クレアもそれは同じであり、彼女も腰に携えた魔剣の能力はまだ使用していない。

 彼女が得意な炎の魔法に純粋な剣技を合わせて攻撃を繰り出しているだけに過ぎない。


 つまりは、似た者同士だ。

 彼女からすれば、手を抜かれているから自分も本気は出さないというつまりかもしれないが。


 本来は、得意魔法と固有魔法の二つを掛け合わせることで能力を最大限に発揮するのだが、稽古としては些か本気が過ぎる。


 だが、クレアは徹底的に勝敗を付けたいのだろう……


 呆れて溜息を零しながら、かといって素直に彼女に負けてしまうのもなんだか癪だ。

 今回は安い挑発に乗ることにして、左手を前にかざす。


 黒い魔法粒子が掌を包み込み、魔法陣が展開される。


審判ジャッジメント


 黒剣を包む粒子と同様の輝きが、円の形を成して空間に広がる。

 訳半径二十メートルの円が、俺を中心に広がっていく。

 

 これが、俺の得意とする魔法の審判ジャッジメントだ。

 空間内のあらゆる行動、魔法、物質を察知して術者に有害か無害かを判断する能力。


 有害の場合、拒絶の固有魔法を駆使して無効化することで戦闘時の被弾を極限まで減らすことが出来る。

 

 そして、最大の利点がもう一つ……


「今日こそ、その円を突破してみせるわ……炎華花弁えんかかべん!」


 クレアは、頭上に炎の花を形成すると一枚一枚の花弁はなびらとなり舞い散る。

 細剣を振るうと、花弁が炎の刃と化して飛来した。


 だが、円となり広がった黒い粒子に触れると核を失ったように弾け散る。

 炎を生み出したクレアの魔力が、拒絶の能力に触れたことで無効化されたのだ。


 これが、審判の最大の利点。

 円として広げた魔法粒子は、術者の能力を共有することが出来る。

 

 ただ、魔力を無効化することが出来るだけで、実体あるものは通過してしまうので、その点だけ注意。


 炎の花が消されたことで、少し前まで自身に満ち溢れていたクレアの顔は不満そうなものに変わり、逆に俺の表情には笑みが浮かぶ。


「相変わらず嫌な魔法ね、でも今日は強引に突破してみせるっ……魔剣解放―――」


「皇女殿下!」


 クレアが携えた金色の剣を天にかざし、その真名を叫ぼうとした瞬間、中庭に一人の兵士が駆けこんできた。

 伝令を任される兵は、その場に膝をつくと言付かった内容を口にした。


「王都より東の渓谷にて巨大な竜が出現した模様、飛竜が多く被害を受けているため撃退、もしくは討伐せよと魔王様からの命でございます」


「巨大な竜……渓谷にそんなのいたかしら?」


 伝令兵の言葉を聞き剣を鞘へと納めると、クレアは首傾げる。

 確かに、記憶している限りでは東にある渓谷には竜の痕跡すらないはずだ。


 俺も疑問に思いながらも、稽古で乱れた髪の毛を整えていると兵の視線はこちらにも向けられる。


「アイン殿も護衛として同行するようにとのことです」


「分かった、飛竜を二匹東門へ用意してくれ」


 そう伝えると、伝令兵はすぐさま準備の為に立ち去った。

 クレアの隣へと歩み寄ると、溜息交じりで彼女が口を開く。


「今日はここまでね、すぐに出立しましょう」


 黒いコートを翻し、東門へと歩みを進める王女の後に続き、竜討伐の護衛として次なる依頼に赴くのだった。




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