42話 サバチャイ戦う
「ルークさん、どうします」
このままでは、近くにいる公爵軍の人達から、順次レッドドラゴンのご飯にされてしまう未来しか浮かばない。現状で有効な攻撃手段は、この拳銃しかない。最初からたいした選択肢はないんだ。僕がここに来たのもタマがいるからで、となるとやることは一つしかない。
「ポリスマン、真正面からレッドドラゴンの頭部を狙って全ての弾を撃ち込みましょう」
「その後は?」
「その後はタマを信じます」
「タ、タマか……。こいつ、すっげー体がポカポカっつーか、熟睡しているけど大丈夫なのか」
「大丈夫だと信じたい。というか、他に手段がなさそうです」
「ちっ、わかったよ。どうせなら口元の牙を狙ってやろうか」
「ええ、そうですね。では、いきましょう!」
「おう!」
瓦礫の陰から現れたピカピカの鎧に対して、とっても嬉しそうな表情を見せるレッドドラゴン。何故だか、周囲の公爵軍の方々の安堵の表情がとても気になる。
そしてご主人様を発見したワンコの如く、息を吐く間もなく、突進してくるレッドドラゴン。本当、もうルンルンが殺したくなるほどに憎い。また、少しでもカッコいい鎧とか思ってしまった、過去の自分をぶん殴ってやりたい。とにかく、捕まる前に全弾叩きこんでやる!
二歩目を踏み出そうと近づいてくる足元に僕の撃った弾が被弾した。おかしい、頭を狙っているのに何故、そこへ飛んでいく。
ギシャアオオオォォォ!!
「チャ、チャンスだ、ルークさん!」
そう、近づこうと二歩目を踏み出した瞬間、その踏み込んだ足に見事命中したことでレッドドラゴンは見事に転んでくれた。それはとてもきれいに転んでくれたのだ。
「は、はいっ!」
残りの弾を全て動きの止まったドラゴンの頭部に集中させる。何度も何度も激しい爆発がレッドドラゴンの頭付近で巻き起こり、その硬い鱗や皮膚の一部も飛び散っている。これで倒れなかったら、どうやって倒すというのか。万が一、倒れなくともそれなりのダメージは受けていると思いたい。
「やったか!?」
ポリスマンがその言葉を言った時だった。ゆっくりとその大きな体を起こすように頭部が傷だらけのレッドドラゴンが立ち上がった。顔周辺はかなり火傷で爛れているが、口元に光る牙は全くもって健在だし、他の部分はまるでダメージらしいダメージが見当たらない。
「あー、これは勝てないですね……」
最大の攻撃である拳銃の連続被弾で、このダメージとか倒すのにちょっと無理がある。
そもそも、人間がレッドドラゴンに勝とうなんて思うこと自体が無謀なことだったんだ。全員が諦めたと思ったその時だった。
再び、上級召喚獣が奇跡を起こす。
レベル二の身体能力を生かして、知らない公爵軍の人の肩を勝手にジャンプ台にしたサバチャイさんが、鮪包丁を振りかぶったまま飛び上がっていた。
そして、その動きは顔周辺を火傷しているレッドドラゴンの死角を見事についていた。ただ上から落ちてきた菜切り包丁とは比べ物にならない、力を込められた料理人の一撃。
ギシャャャアアアオオオォォォ!!!
「サバチャイの願い叶えないドラゴン、その尻尾はもうお前には必要ないね!」
どうやら、自分が殺された攻撃がその尻尾であることをちゃんと覚えていたらしい。恨みを倍返しするバングラディッシュ人、それがサバチャイさん。
これは、まるで攻撃が通っていなかったレッドドラゴンに、はじめて完璧に通った攻撃。その尻尾は根元からキレイにぶった斬られている。
ふと隣を見るとポリスマンが消えて、再召喚されている。ということは、つまり拳銃の弾は再び装填されたことになる。サバチャイさんがレッドドラゴンを前にして、とても頭が冷静かのように思えた。思えたのたが……。
一度ポリスマンが消えてしまったことで、ポリスマンが抱えていたタマハウスごと、そのまま地面に落とされてしまうということまでは想定していなかったようで。
「タ、タマー!?」
いきなり地面に落とされてしまったタマは、驚いてどこかへ走り去ってしまった。な、何てことをしてくれるんだサバチャイさん! 僕の最後の切り札が……。
しかし、サバチャイさんもタマを再召喚するほどの余裕はないようで、そのまま走ってレッドドラゴンに向かっていく。信じられないことたけど、願いが叶えてもらえないのなら、経験値にしてやろうという召喚獣としての本能やアドレナリンが爆発しているのかもしれない。
こうなればもう応援するしかない、頑張れサバチャイさん二号!
「ルークさんも、拳銃の再召喚をしといてくださいよ」
サバチャイさんのフォローをする為にも、僕も再び拳銃を召喚する。少なくともサバチャイさんを攻撃しようとする、レッドドラゴンの牽制ぐらいは出来るはずだ。
再び、真正面からぶつかろうとするサバチャイさん。あなた、それはさすがに死にに行くようなものだよ。
「レッドドラゴン、サヨナラね」
ポリスマンと目を合わせると、すぐに援護射撃を頭部へと集中させる。これで、あのカッパ・バシ師の名刀が届けば、間違いが起こるかもしれない。
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