お嬢様、帰り道にエンカウントする
短めです!
よろしくお願いします!
ようやく学園に着いた。なんだかすごい長い道のりだった気がする。クラス分けとかはどうなっているのだろうか。確か、学園の人が案内をしてくれるらしいけど、そこら辺はよく分からない。なんにせよ、早く着き過ぎてしまった。仕方がないので、近くのベンチでお嬢様と時間を潰す。
「紅茶が飲みたいわ」
「畏まりました、少々お待ち下さい」
俺の紅茶はあまり美味くないというのは、スカーレット家の方々の総意である。それでもお嬢様は何故か飲みたがるのだ。珍味的な扱いなのだろうか。
荷物からティーセットを取り出し紅茶の準備をしながら、学園をなんとなく眺めてみる。建築様式とかはわからないが、とりあえず立派で金を掛けていることがわかる。それに整備も完璧だ。かなり長くある建造物のはずなのだが、まるでそれを感じさせない。校舎は3つに分かれているらしく、その全てがでかい。移動教室とかあったら、めちゃくちゃ大変そうだな。
そんなことを徒然と考えているうちに、紅茶が完成した。ティーカップに入れて、お嬢様に渡すと優雅に口をつけた。仕草とかは完璧だなぁとか考えていると、お嬢様から感想をいただいた。
「不味いわ」
「申し訳ございません」
ストレートな感想に、俺も少し口にしてみる。だが、貧乏舌の自分には味の良し悪しとかよく分からなかった。紅茶だなぁ位の感想しかもてない。
お嬢様は、不味いと言ってもそのまま入れ直しを要求することもなく、紅茶をゆっくりと飲み続けていた。ツンデレさんかな? 実は美味しく淹れられてるのではないだろうか。
「ねぇ、この学園に婚約者も今年から入学するのだけど、わたくしはどのように動くべきかしら?」
「そんなこと言われても……御機嫌ようとか言っておけばいいのではないですか?」
適当に返すと、溜息を吐かれた。酷くない? それ以外に出来ることってなさそうじゃん。相手は王子様らしいし、丁寧に接する以外はなさそうだけど。
「そういう問題ではないわ。わたくしとあなたの関係をいつ伝えるのかということよ」
主人と奴隷ですって、改めて伝える必要とかあるのだろうか。いてもいなくても大した問題じゃないと思うんだけど。そんなことを考えていると、その考えを見通したかのようにまた溜息を吐かれた。心読むのやめてくださいってば。
「わたくしの運命の相手はもう決まってますので、あなたは用済みですわとかかしら」
不敬罪で即投獄ではないだろうか、それ。
「いや、王子相手にそれは不味いですって。しかも、運命の相手って誰ですか?」
「あなたに決まってるじゃない。脳カラなの?」
「お花畑な頭はお嬢様だと思いますよ」
こういう時に鈍感であることを許されないって酷いよね。
「そもそも、元々婚約者様と仲睦まじかったなら、それは泣きますよ」
「別に仲は良くなかったわ。というか嫌われていましたわ」
そりゃ、このクレイジーお嬢様と仲良く出来るやつは、クレイジーと相場は決まっている。王子様はおそらく違ったのだろう。
「所詮、政略結婚ですわ。愛とかそういうのはないも同然でしたわね。お互いに興味がないもの」
「でも、よくあることじゃないですか」
「そうね、昔はそれで良かったけれどね。わたくしはもうシキと出会ってしまったもの」
振られた相手にポジティブ過ぎて、対応に困るやつきたな……。
「まぁ、何にせよ無駄に家を傾けるのは良くないとは思いますよ。穏便に伝えるのがいいんじゃないですか?」
「それもそうね」
そう言うとつまらなさそうにお嬢様は紅茶を飲み干し、荷物を持って立ち上がった。雑談はここまで、ということらしい。黙ってティーセットを片付け、お嬢様に続いて歩きながらポロリと言葉が溢れてしまった。
「その王子様にも別の運命の相手ができれば話は早そうですよね」
「そうね、それはそれで厄介ごとが舞い込みそうだけど」
別に俺は運命の相手じゃないんですけど、とはなんとなく言わなかった。
教室に入るともう何人かの生徒たちがいた。俺とお嬢様も案内された席に向かい、椅子を引いて荷物の準備を進めた。
「あの方って……エリザ様だよな。スカーレット家の」
「あぁ……このクラスなのか、相変わらずお美しい」
準備をしていると、そんな会話があちこちから聞こえてきた。まぁ、そりゃ目立つよね。大公家なんて貴族社会でもトップ層に違いないし。
お嬢様は窓際の席だったので、これ幸いと俺は斜め後ろに立っていた。ど真ん中だったらこうはいかないよね。お嬢様はつまらなそうに外を見ている。もうちょっとテンション上げてもいいのでは?
それからしばらくして、入学式があるとのことでお嬢様達は移動していった。使用人組は最後に付いていって、講堂の1番後ろでひっそりとしていた。そうして学園長や来賓の話を聞いていると、新入生代表挨拶が始まった。読んでいるのは、今年入学したというウーサー・ヤディーレ第二王子様である。本当はもっと長い家名らしいが、そこまでは知らない。
(あれが……お嬢様の婚約者ねぇ)
爽やかでまさに王子様といった出で立ちだ。能力も優秀らしい。女子生徒の多くは彼にうっとりして、話に聴き入っているのがまさにその証だろう。話のつまらん奴は、本当につまらんもんね。もしかしたら、王子が喋ってるからってだけかもしんないけど。ウーサー様は、なんとも立派に新入生代表挨拶を乗り切り、黄色い歓声を浴びていた。ちょっと羨ましい。しかし、同時に哀れにも思う。お嬢様と同い年だったがために、わざわざ婚約者にされてしまったのだから。お嬢様という枷が無ければ、いや、お嬢様以外の婚約者であれば、楽しく過ごせていただろうに。
(心中お察しします、ウーサー様)
そんな不敬なことを考えながら、他にも生徒達の顔を見ていると、幾人か有名人がいた。近衛騎士団長の長男に、スカーレット家に並ぶ大公家の息子、他にも有名な者達を見かけた。調査した時から気付いてはいたが、今年は有力貴族とか王侯関係者が明らかに例年よりも多い。そして、男も女も全員凄まじい美形ばかりだ。貴族というのは顔がいいのがスタートラインなのだろうか。そんなことを考えていると式が終わった。
他の執事やメイドは既に各自自分の主人の元へ向かっている。皆さん仕事熱心だなぁ。でもまぁ、荷物を持つとかしなきゃだしね。
「お嬢様、お待たせいたしました」
「そうですわね。次は1番に私の元へ来なさい」
「善処いたします」
ほんとだよ?
「この後は、特に大したこともないわ。終わったら鍛練をして、インナーを渡しに来なさい」
「畏まりました、お嬢様」
覚えてやがったか、ちくしょう。ブレないのは流石の一言だぜ。
そうしてHRもつつがなく終了し(お嬢様の自己紹介などでざわつきはしたが)、帰宅する流れになった。
「久しぶりだな、スカーレット」
「えぇ、お久しぶりですわ。ウーサー第二王子殿下」
まさか、王子様とエンカウントするとか思わないじゃないですかー。もう〜、やってらんねぇ。
読んで下さり、ありがとうございました!!