お嬢様と騎士、学園祭にてデートを楽しむ
よろしくお願いします!
久しぶりの3日連続投稿ができました!
「む、スカーレット嬢とシキではないか。よく来たな、是非楽しんで行ってくれ」
「えぇ、勝手にさせてもらうわ」
「ありがとうございます、ヴェルク様。あと無礼すぎますよ、お嬢様」
ヴェルク様たちのクラスはカフェを開いていた。貴族様もカフェしようとか思うんだな……。給仕服を着た貴族の方々が来店した客を丁寧にもてなしている。すげぇ、皆さん接客態度とか凄く良い……。
「中々様になっているだろう?」
「あ、はい。凄いですね、使用人の方たちは厨房の方を担当されているのですか?」
「あぁ、料理の方は基本的に使用人と希望したクラスメイトに任せている。ホールも希望者のみの筈なんだが、何故か俺は問答無用でホールに回されてな。……準備を担当したかったのだが」
まぁ、そりゃこの人がホールに出なかったら客足は大分違う結果になっていただろうな。ヴェルク様はその容姿もさることながら、騎士団長の息子としても有名だ。ヴェルク様目当てのお客様はかなりいるだろう。
「まぁ、貴族なのに給仕をしたくないという気持ちも理解できなくはないからな。そういった者が準備を担当したのだ」
「いい感じに役割分担ができたみたいで良かったですね」
「……ヴェルク」
和気藹々と俺とヴェルク様が談笑していると、メニューを眺めていたお嬢様がヴェルク様に低い声で問い掛けた。メニューが決まったのかな?
「何だ? 注文が決まったのか、スカーレット嬢」
「いえ、シキはウェイターとしてわたくしに奉仕しないのかしらと思って」
「俺、今お嬢様の対面にいるんですが」
何言ってんだ、この人。
「それは知ってるわ。何故2人シキがいないのかしら?」
「今まで俺がお嬢様の目の前で分身したことないですよね?」
これまで幻覚でも見えてたのだろうか。俺は1人しかいないよ?
「相変わらず滅茶苦茶だな……スカーレット嬢」
「何か言ったかしら?」
「いや、何も言ってないぞ! シキの給仕はまたの機会にしてくれないか?」
ヴェルク様、キレてもいいんですよ。お嬢様の頭がおかしいだけなんだから。
「そう……仕方ないわね。今度はギャルソンを着せて給仕させるわ。あと紅茶」
「あ、俺はアイスコーヒーで」
「そうしてくれ。注文は承った。紅茶とアイスコーヒーだな。すまんが、俺は余り一つの席にいるわけにはいかないから、もう来れんとは思うが楽しんでいってくれ」
「大人気ですもんね。またお願いします」
「構わないわ、下がりなさい」
お嬢様、そんなんだから友達が少ないんですよ。
「あぁ、すまんな」
そう言って、ヴェルク様は他の席の注文を取りに行った。その度に座席から黄色い歓声が上がっている。ちょっと羨ましいかもしれん。しかし、もしお嬢様から黄色い歓声が上がったら、俺は鳥肌が立つだろうことは想像に難くない。
「凄いモテモテですね、ヴェルク様」
「それはそうでしょうね。面は整っているし、身分もあるもの」
おぉ、お嬢様もそういうのは分かるんだな。ちょっと意外だった。
「そうですねぇ、それに爽やかで話しやすいですもん。人気なのもよく分かりますね」
「シキ、羨ましいと思ったのは何故かしら?」
笑顔のまま固まった。やばい、バレてる。特に何も仕掛けて来なかったから、スルーしてもらえたもんだと勝手に思っていたが、そうは問屋がおろしてくれなかった。
「いやぁ、男のロマンみたいなところがあるじゃないですか。異性に黄色い歓声上げてもらうのって」
「今度、わたくしがああいう甲高い声を上げたらどうするのかしら?」
「熱があるのか調べますね」
違うんですよ、こうほら、ね?
「シキ、いつも言ってるけれど、わたくし以外の評価なんて塵よ」
まるで常識を説くかのように俺にそんな言葉を掛けるお嬢様に、俺は「はぁ……」と気の抜けた返事しかできない。それを意にも介さず、お嬢様は呆れたように言葉を続ける。
「浮気性なのはこれから直していかないといけない、わたくしたちの課題ね」
「付き合ってる前提条件もおかしいし、俺が思っただけのことを浮気と捉えるのやめて欲しいんですけど」
ツッコミが大変だから、もう少し価値観の擦り合わせを行なって欲しいと思う今日この頃だ。
「全くそもそもあんな有象無象に好かれるより、わたくし1人に愛されている事実で満足できないものかしら? 不思議だわ」
「愛を数と質量で比べると、お嬢様1人の方が圧倒的に重いんですけどね。これは1人の男としての反論ですが聞いて下さいね」
「断るわ」
断んなや。話進まないだろ。
「で、どんな反論なのかしら? くだらなかったら、どうなるか分かっているでしょうね」
「うぇっ………………」
どうなっちゃうの、俺。また監禁されるの? ちょっと反論するのやめよっかな……。
いや! 大丈夫、きっとお嬢様も納得されるはずだ! 自信をもって言おうじゃないか。スーハー、深呼吸をして決意を固める。そして、俺は意を決して口を開いた。
「そもそも男っていうのはですね、大体が不特定多数の女性にチヤホヤされたいものなんですよ」
「やっぱりくだらなかったわね」
結論が早い!
「いやいや、ちょっと待ってください。まだ続きがあるんですから」
「罰をそんなに重くしたいの?」
あ、罰はもう確定なんだ。
「それでですね、キャーキャー言われて悪い気はしないわけです。特定の誰かと付き合いたいとかそういうのではないんですが、たくさんの人に好意を向けられている状況に自尊心が高まる訳です」
お嬢様の目がすっごい冷たい。やだ、どうしよう。そんな風に冷や汗をダラダラとかいていると、ウェイターの方がドリンクをもってきてくれた。ナイスタイミングだ! ありがとうございます!
「ご注文の紅茶とアイスコーヒーになります。旦那様、奥様、お好みで砂糖などもお使い下さい」
「だ、旦那様ぁ!? い、いや、此方はエリザ・スカーレット様ですが、私はしがない使用人ですからそんな敬称は不要ですよ!」
「いえ、お似合いでございますよ。それに私どもは新婚の夫婦がご来店されたものだとお聞きしていましたので」
奥でバチコーンと爽やかにウィンクを決めているヴェルク様が見えた。なるほど、あの人は基本的に俺の敵なのね。
焦る俺の一方で、お嬢様は大変機嫌を良くしたらしくウェイターを労っていた。
「よく分かっているわね、その通りよ。このカフェのウェイターは随分と優秀のようね」
節穴だよ! あとその通りでもねぇ!
結局、俺が訂正することもままならず、ウェイターの方は去っていった。あのウェイター、ヴェルク様の入れ知恵もあるだろうけど、絶対お嬢様に忖度したよ……。絶対に許してやらん。
「気分が良いわ。さっきの件は水に流してあげましょう」
ナイスだ、ウェイター!! 俺はお前がやる奴だって知ってたぜ!
こうして俺のカフェでの危機は去り、そこからは穏やかにアイスコーヒーを楽しんだ。……このコーヒー、俺が淹れるやつよりも美味いかも。ちょっとだけプライドが傷付いた。
「ジェフとは会えませんでしたね」
「まぁ、どうせシツコンで会うからいいじゃない。別に会わなくてもいいけれど」
ひでぇ言われようである。
「次はティアベル様のところでも行きますか?」
「そうね、アーシャさんのクラスも確か劇だったわね。そろそろ開演する頃だし、行きましょうか」
「かしこまりましたー。あ、飲み物と食べ物を出店で買ってきますか? 俺、買ってきますよ」
講堂に向かいがてら、目に入る出店を見て思い立つ。確か、講堂内も今日だけは飲食を許してくれていた筈だ。ゆっるゆるだなとは思わないでもないが、ありがたいことである。
「そうね、適当に見繕うわ。はい、お金」
「え、いいですよ。これぐらいは出しますって」
お嬢様に財布を押しつけられたが、全力で遠慮する。というかこの人、放っておくと何でもかんでも俺に買い与えようとするな……。意志を強くもたないとダメ人間になりそうだ。
「ダメになればいいと思うわ」
「嫌ですよ、そんな甲斐性なし」
「そう、大体の人間はダメになりそうなものだけれど」
そんなことねーだろ。与えられるだけで生きていこうとするのって、恥ずかしいと思うわ。力でも金でも、自前で極力手に入れたいんだけど。
「そもそもこれはお嬢様的にはデートなんでしょう? だったら、多少は彼氏に甘えてみてもいいんじゃないですか?」
「……シキ、貴方は時々本当にわたくしを落としにくるわね」
「いや、お嬢様的にはデートでも、俺は仕事感拭えてないからデートじゃないと思ってますけど」
そもそも俺は彼氏じゃねぇ。
「そういうことではなくて、シキが彼氏だったらさっき言ったみたいにサラッとお金を出すということでしょう?」
「そういうもんじゃないんですか? お嬢様だって好きな人に金を出そうとするじゃないですか。俺もその点は同感ですよ、お嬢様はやり過ぎですけど」
お嬢様の方がお金はあるし多少は折半にしたいけど、そこはそれ。
「そうね。……そうかもしれないわ」
「というわけで、今回の代金位は俺がもちますよ」
「まさにデートね。本気で嬉しいわ」
……必死に否定していたけど、確かにそうかもしれん。まぁ、カップルでなくてもデートくらいはするし、そういうことにしておこうかな。とりあえず適当な出店でドリンクと食べ物を買ってお嬢様に渡す。
「ありがとう、これは家に飾っておくわ」
「いや、食べて飲んでください」
買った意味ないじゃん、それ。
ありがとうございました!





