お嬢様、学園祭にて押し負ける
久しぶりの連日投稿です!
よろしくお願いします!
「スカーレットさんったら、学園に入学してから1回も会いにきてくれないんだもの。わたし、とっても寂しかったわ」
「申し訳ありませんわ。学園生活の忙しさで、ロレーヌ様に会いに行くことが中々叶いませんでしたの」
嘘じゃん、俺とのくだらないやり取りをちょっと削れば、全然会いに行けたでしょ。
「そういうことなら仕方がないわね……。でも、久しぶりに会うことができて嬉しいわ」
「えぇ、わたくしも同じ想いです。御元気そうでよかったですわ。ではこれで」
久しぶりの再会なんですよね、お嬢様? もう少し位歓談しようとか考えないんですか?
「そう言わずに、折角久しぶりに会えたのだからもう少しお話ししましょ?」
「ごめんなさい、実はこの後クラスの演目の準備がありまして……」
嘘じゃん、この後俺に出店とかを回るぞって命令してたじゃん。
「あら? そうだったのね……忙しい時に声を掛けてしまってごめんなさい」
俺、ロレーヌ様が可哀想になってきたわ。しゅんとしてるし、ちょっと助け舟を出すか。
「いいんじゃないですか、お嬢様? 少し位、お話する時間はありますよ」
睨まないで、怖いから。
「あらあら? 此方はスカーレットさんの付き人の方?」
「えぇ、そうですわ」
「まぁ! ごめんなさい、わたしったら久しぶりにスカーレットさんに会えて舞い上がっていたみたい。気付かなくて、本当にごめんなさいね」
「いえ、そんな滅相もございません。私は今年からお嬢様の執事兼護衛を務めさせて頂いているシキ・トアルと申します。元は中央騎士団の3番隊に所属しておりました」
うわー、声掛けられちゃった! 大丈夫かな、今の挨拶に失礼とかなかっただろうか。
それにしてもこの方、使用人にもこんな優しい態度なのか。本当に見た目の雰囲気通り、優しくて穏やかな方なんだな。
「フフ、ご丁寧にありがとう。私は大公家のマリア・ロレーヌと申します。スカーレットさんとは小さい頃から仲良くさせていただいているのよ」
「そうでございましたか。此方こそ挨拶が遅くなり、申し訳ございません」
「それにしても、スカーレットさんが男性を側に置くなんてね。今までセバスさんくらいしか側につけなかったのに」
まぁ、お嬢様だし。付けないだろうな。
「そうですわね、この男はわたくしの運命ですもの。側に置くのは当然ですわ」
「誤解を招く言い方やめてもらっていいですか?」
心臓と胃の辺りがキュッとなるから、本当にやめて欲しい。
「あら? あらあらあら! スカーレットさんがそこまで言うなんて! 本当にトアルさんは気に入られているのね!」
「それはもうこの出会いが必然だったとはいえ、わたくしの生涯最高の幸運ですもの」
キャー! と乙女みたいに声を上げるロレーヌ様、ドヤァと胸を張るお嬢様、胃の辺りが締め付けられる俺、ロレーヌ様の後ろで静かに控えているメイドさんと、事態は混迷を極めていた。帰りたい。
「お嬢様、婚約者もいらっしゃるのにそのような言葉はお控え下さい。私には過ぎた御言葉です」
「事実だもの。それに婚約者なんて互いに興味がないただの政略婚約ですわ」
「それ言っちゃマズいやつですよ」
「事実を言えないなんて、狭量な世の中ね」
「建前って言葉、知ってますか?」
やば、ついお嬢様がトチ狂ったことばかりロレーヌ様の前で言うもんだから、突っ込んじゃったよ。
「突っ込むなんて、シキったら昼間っからいやらしいわね」
「いやらしいのはお嬢様の脳内ですよ! あと人前で心読んで会話続けないでくれませんかねぇ!」
終わった。
やっちまった。これはもうダメだ。
ロレーヌ様は大きな瞳を見開いて驚いている。ついでに口元を手で覆ってはいるが、ポカーンと口を開けている。ですよね、驚きますよね。俺も本当はもうちょっと礼節を弁えたかったんです、信じてください。
そんな風にロレーヌ様に念を送っていると、ロレーヌ様はクスクスと笑い始めた。え、怒らないの?
「フフフ、本当に仲が良いのね! スカーレットさん、昔は男性とそんな気安く話さなかったのに」
「シキは特別ですから」
「そう、そうなのね! スカーレットさんが婚約したって聞いた時は驚いたけど、正直今の光景の方がビックリだわ!」
「流石のわたくしも王族相手の縁談では、親の顔を立てようとくらいしますわ」
何か和やかに会話が続いているし、助かった。しかし、この御方は器がでかいのか天然なのか。本当にすっごい人だな。
「それもそうね、でもあの時も驚いたのよ? だって、スカーレットさんはそれまで全部縁談は断っていたじゃない」
「興味もなく、家の利益にもならないような婚約など不必要ですもの」
それは初耳だ。お嬢様の婚約なんて、生まれた時から決まっているものだと思っていた。貴族様だとそういうことも多くあるっていうし。
「スカーレットさんとトアルさんは本当に強い信頼関係で結ばれた主従なのね。羨ましいわ。ねぇ、メアリー、わたしたちもこんな風に気安くお喋りしましょう?」
「トアル様は使用人の中でも話題の人ですので、私にはそのように振る舞うことをお願いされても困ります」
「え? トアルさんって、有名な方なの? わたし、今日初めて知ったわ」
「あくまで使用人の中ではというお話ですので、マリア様が知らなくても当然のことかと」
嫌な予感がする。俺が使用人の中で有名な理由なんて、悪い方向の評判でしかないと思うんだよ。
「どうして有名になったのかしら?」
「トアル様はイージス様の付き人であるヴェルク様と使用人寮で、真剣での手合わせをしたことが特に有名ですね」
「そんなことがあったの!?」
「えぇ、その後寮母のゾーラ様にこっぴどくお叱りを受けていました。そのような破天荒な御方なのです」
恥ずかしい……。ヴェルクに巻き込まれたせいで、俺の悪評が出回っているなんて。きっと今の俺の顔は真っ赤にちがいない。お嬢様が俺の顔をさっきからカメラで撮りまくっているのがその証拠だ。それも含めて恥ずかしい。ロレーヌ様、どうかお嬢様を御諌めください。ほんとお願いしますから。
「すごいのね、トアルさんって。他にもあるのかしら?」
「メアリーさん、どうかお慈悲を……」
「後は本日の演目で、うさ耳メイドシキぴょんとして女装ヒロインに抜擢されるという学園が始まって以来の快挙を成し遂げられたことも有名ですね」
「メアリーさん!?」
「え、あの『シキぴょんときめき学園』のシキぴょんって、トアルさんのことだったのね!?」
いっそ殺せ。一思いに殺してくれ。
「トアルさんって凄いのね……。わたし、変わった題名だなぁとは思っていたけど、女装までするのね。これはこの後が楽しみになってきたわ」
「えぇ、マリア様と共に観劇するのは私も非常に楽しみです」
分かった、ロレーヌ様って聖人か極度の天然だ。多分、よっぽど後者なんだけど。だって、お嬢様の奇行全スルーの上に、俺の女装を凄いって普通に言い切るもの。いや、止めてください。
「スカーレットさんも登場するのよね?」
「えぇ、わたくしはシキぴょんを虐める悪役として登場しますわ」
「普段と違うのは俺が女装してるかしてないか位しか違いませんよね」
「酷いことを言う口はこれね」
モガァッ!? 当たり前のように指を口に突っ込むな!
「ハンカチあげるんで、俺の口に突っ込んだ指を舐めようとすんな!」
「綺麗にしようと思ったのよ」
「普通に拭け!」
疲れる……。俺とお嬢様のやり取りを見て、ロレーヌ様はめっちゃ楽しそうだけど。いや、メアリーさんもちょっと笑ってるわ。2人揃って、超大物だな……。
「本当に羨ましいわ、トアルさん。わたしはスカーレットさんにそこまで楽しそうな表情をさせてあげられなかったわ」
「いえ、これは弱者を虐めて楽しんでいるだけです。凄まじく嗜虐的な笑みだったでしょう?」
「そうかしら? 凄くキラキラした素敵な笑顔だったわ」
この御方の目は大丈夫だろうか。ギラギラした笑顔の間違いでしょう。
「やっぱり性で呼び合うと心の距離ができちゃうのかしら……? スカーレットさん、わたしのことはこれからマリアって呼んで欲しいわ」
「お断りしますわ」
「器の大きさが試験管サイズなんですか?」
モガァッ! しまった、つい本音が!!
いや、だから口に突っ込んだ指を舐めようとすんな!
「じゃあ、わたしもこれからエリザさんって呼ぶのはどうかしら?」
え、今のスルーなの?
「しかし、わたくしがそんな……学園では失礼がないように過ごそうと思っていまして……」
もうさっきまでのやり取りが大体失礼だったのは棚に上げるんですね。とは、流石の俺も学習して言わなかった。
モガァッ!! 心読まれたぁ!!
「ダメかしら?」
え、やっぱりスルーなんだ。
ジッとロレーヌ様がお嬢様を見つめると、お嬢様も少したじろいだ。お嬢様をたじろがせるってすげーな。これが生徒会長の力ってことか。
「………………………………マ、マリア様」
「そこはさんで良かったのに、エリザさんは恥ずかしがり屋ね」
お嬢様が押し負けた!!?? マジで!!?
「フフ、これからはもっとたくさんお話しましょうね。エリザさん!」
「……はい、ロ、……マリア様」
「これだからあの人は苦手なのよね……」
「まぁ、お嬢様が闇属性ならロレーヌ様は光属性って感じですもんね」
相性的に向こうのほうが強そうだよね。しかも、天然だし。ちょっとティアベル様と近いものを感じる。ああいった眩く真っ直ぐな人にお嬢様は弱い気がする。
「シキ、わたくしムラムラしてきたわ」
「そこはムカムカであってほしかったな!」
脅し文句が強過ぎる。
「嫌いではないのだけど、いつも笑顔で楽しそうだから何だか引け目を感じるのよ」
「お嬢様、無愛想ですもんね」
「シキ」
「いやぁ、お嬢様の笑顔はレアですし、そういうギャップ的な魅力がありますよね!」
あかん、何言っても地雷踏むわ。というか、俺の口が迂闊過ぎる。
「まぁ、何にせよ変わっていないようで良かったわ」
「そうなんですね」
「昔からああいう感じで、領内では『聖女』って言われてるらしいわ」
すげーしっくりくるな。学園でもファンが多そうだし。信者とか気付かない間にめっちゃ増やしてそう。
「ともかく残り時間はデートを全力で楽しむわよ」
「デートっていうのやめません?」
前にストーカでやったのはデートだけど、今日のって仕事だし。
無視された。
「まぁ、いいんですけど。どこ回るんです? 俺はヴェルク様の所とか行きたいんですけど」
「そうね、いいんじゃないかしら。適当に遊びましょ」
こうして俺とお嬢様の学園祭デート? はようやく始まったのだった。
あ、ハンカチ返してもらってねぇ。
ありがとうございました!





