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ヤンデレ悪役お嬢様は騎士さまに夢を見る  作者: ジーニー
騎士にとってのプロローグ
6/66

お嬢様、学園にて悦びに震える

よろしくお願いします!

 シドゥーレ王立学園は王都近郊の都市、ストーカの外れにある。都市の近くのため、休日の都市は学生で賑わうという話であった。というより、学園の側にわざわざ都市を興したらしい。金持ちって怖いよね。


 そうこうしているうちに、馬車はシドゥーレ王立学園に到着した。流石に貴族御用達の王立学園だけあって、その校門も豪奢である。それだけでこの学園の規模が窺い知れるというものだ。

 

 ここで、俺は執事兼護衛としてお嬢様の側に立つことになるのだ。求められる技能はどちらかと言えば執事としてのものである。そりゃそうだ。当たり前だが、守衛さんはいるし、騎士団から騎士も派遣されているらしい。確か、2番隊の管轄だったはずだ。とはいえ、隊長格どころか中隊長、小隊長がいるわけでもない。仕方ないよね。


 それに加え、この学園の先生達もそれなりの腕利きだっている。護衛としての本分なんてものは、この学園では発揮されることは無い。あっても困る。


「お待ちしておりました、エリザ・スカーレット様。此度はお目にかかれて光栄であります」

「いやですわ、ここではわたくしも一人の生徒です。特別扱いのようなものはしないでいただけるかしら」


 このお嬢様、さっきまでトチ狂ってたんですよと言っても信じてもらえないんだろうなぁ。


 案内の女中さんだろうか、寮生活を支援してくださる方々だろう。わざわざ校門まで出迎えに来るとは、流石スカーレット家といったところだろうか。他の家も毎回出迎えている訳では無いだろう。案内図とか要綱の紙が送られてきている上、そこには寮にて受付をしますとまで記述されていたのだから。まぁ、大公の家だったらそれ位はするよね。


「それでは寮まで御案内をさせていただきます。御付きの方も後で、使用人の寮まで案内いたします」

「それは……わざわざ御丁寧にありがとうございます」

「よろしくお願い致しますわ」


 それからお嬢様と別れ、俺も使用人寮まで案内してもらった。使用人とはいえ、スカーレット家の人間なので、個室を与えられた。すげぇ。ある程度は家の格がこの学園においては、肝要であるということらしいが、貴族社会であっても平等では無いということがよく分かる。

 

 というか、寮での生活は寮の女中さんが支えるということなので、想像以上に俺は必要なさそうである。そりゃそうだよね。全ての家が使用人を連れてくるって結構無茶だし。こうなってくると俺はお嬢様のためにできるのは、日中の世話くらいである。授業中に世話とかすごく目障りだろうなぁ。お茶とかを準備するくらいなのだろうか。意外とこの生活は素敵なものになるのかもしれない。主に業務の楽さで。


「なら、鍛練はキツめにいけるのか。ラッキーだな」


 そう独り言を呟きながら、荷物を整理する。すると、一枚の紙がパラリと地面に落ちた。


『寮前集合』


 こえぇよ!










「で、どんな用事ですか? 今日はもう特にやることないですよね? 女子寮は男子禁制ですし」

「決まっているでしょう。散歩よ」


 決まってないよ?


「決まっているのよ」

「心読むのやめてもらえません?」


 お嬢様は俺の返答にクスリと笑って、そのまま歩き始めた。どうやら俺の願いは却下されたようである。仕方なく、そのままお嬢様の3歩後ろをキープしながら歩き始めた。


「荷解き、女性の使用人連れてこなかったからお嬢様がやるしかないんですよね?」

「そうね」

「やっぱり1人くらいは連れてこればよかったんじゃないですか? シアさんとか」

「いやよ」


 さいですか。


「それに荷解きはとっくに終わったわ」

「流石ですね、お嬢様」

「もっと褒めなさい」

「素晴らしいですね、お嬢様」

「足りないわ」

「素敵です、お嬢様」

「もっと愛を込めて」

「あぁ! なんて可憐で美しく、出来の良い方なんだ!!」

「愛を囁いて」

「愛し‥‥‥‥‥‥いや、なんでですか!?」


 ノリノリで途中まで付き合ってしまったが、だんだん方向性が捻れていた。というか、注文がこまけぇ。それになんというか、お嬢様の口調が変わっている気がする。少し気安いというか……フレンドリーというか、なんだろうな、この違和感は。‥‥‥‥‥‥あ、分かった。


「お嬢様、ですわ口調やめたんですか?」

「やめたわ。疲れるもの」

「じゃあ、なんでやってたんですか? スカーレット家で決められてたとかですか?」

「そうじゃないわ。どちらかというとあの話し方のが馴染み自体はあるわよ」

「そうなんですか? ならどうしてやめたんですか?」


 そう訊くとお嬢様は少し黙ってしまった。これはもしやまた高笑いされるのだろうか。あれは心臓に悪いので、やめてほしい。


「あの喋り方、あなたあまり好きじゃないでしょう?」

「? いや、好きも嫌いもないですけど?」


 どういうことだろうか。あの話し方に嫌悪感とかそういったものを抱いた覚えも、顔に出した覚えもない。そもそも人の喋り方を嫌いとか考えたこともない。


「言い方を変えるわ。あの喋り方だと、あなた緊張するでしょう?」

「あー、なるほど。確かに貴族様って感じですもんね。あんまり貴族様と接する機会はなかったんで、緊張してたかもしれないです」


 それよりあの日記を読んで、真後ろに立たれたときの方が緊張というか恐怖したけど。だけど、今はもう俺はかなりフランクな口調でお嬢様に接しているので、正直緊張とかはない。


「そういう意味でなら、確かに今のお嬢様の話し方の方が俺は好きかもしれないですね」


 瞬間、お嬢様が固まった。それはもう美しく、彫像のように。


「そう……好きなのですわね……わたくしのことが好き……」


 言ってませんよ?


「決めましたわ!! わたくし、これからは何があろうと先ほどのような話し方で生きていくことを!」

「いやいやいやいや! そんなわざわざ変えなくてもいいと思いますよ!」

「いいのよ。決めたわ」


 切り替えがはえぇ。

 その後、結局1時間ほど話し合い、お嬢様の気分で話し方は決めることになった。いや、当たり前の結論過ぎるんだけどね。














「フフフフフフフフ‥‥‥‥‥‥フヘへ」


 ニヤニヤが治らない。今日はいいことがあり過ぎましたわ。シキはわたくしのことを諦めて受け入れたのだと思っていた。当たり前だ。あんな脅迫まがいの事をしでかしたのだ。そうならない方がおかしい。だけど、彼はわたくしを受け入れた。嫌いじゃないと、そう言ってくれたのだ。本心かどうかくらいはわたくし位になれば、簡単に分かる。彼は紛れも無い本心からわたくしのことを嫌いじゃ無いと言ってくれたのだ。

 

 あの時は大変だった。下着はビショビショだし、理性も焼き切れていた。彼を押し倒さなかったのは、一重にわたくしの愛故だ。あぁ、日記を書く手が止まらない。あの瞬間の悦びを反芻しては、『すき』『愛してる』の文字が増えていく。

 

 それにコレクションも増えた。シキの使っていた下着類は全て戴いた。もちろん、新品で同じものを荷物に積み直したのだ。他にも髪の毛を4本も手に入れた。あぁ、もうわたくしは手遅れだ。あの言葉で何処までも堕ちていくのを感じた。欲望が止まらない。もう戻れない。戻りたくない。

 

 それに、彼はわたくしのことを振ったと言っていたが、あの程度の優しい拒絶でわたくしが諦めるとは思ってもいないだろう。いずれ心もわたくしのものに。その日は確実に近づいている。


 好きと言われたのだ。喋り方だけではあるが、わたくしを好きと言った。間違いない。彼はストレートな愛に弱い。おそらく、今までは直接言葉として突き付けられたことが少ないのだろう。ならば、これからも愛をぶつける直球勝負だ。いずれ押し切る。

 

 そうして思いが交わった時には、この学園はわたくしとシキの愛の巣となるのだ。それを思うと背中からゾクゾクとした快感が走る。


 わたくしはいずれ来たるその甘い日々を妄想しながら、彼の髪をしゃぶって眠りについた。


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お読みくださりありがとうございました!!

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