騎士、教室にてご奉仕しちゃうぞっ♡
よろしくお願いします!
「シキ、この衣装なんて素敵だと思うわ」
「……いやです」
「シキ、こっちのミニスカートも可愛いわ」
「…………いやです」
「シキ、このメイド服なんて露出も抑えめよ?」
「………………いやです」
「おいシキ、このピンクのフリフリもいいぞ?」
「死ね」
「シキ、あまり我儘を言わないで頂戴」
「そうだぞ? スカーレット様がこんなにもお前のことを考えてくれてんのによぉ」
敵しかいねぇ、ここ。
何なのこいつら? そもそもお嬢様とジェフってあんまり仲良くなかった筈なのに、何でこんな意気投合してんの?
「……まず状況を整理させて下さい」
「シキが捕まったわ、はいおしまい」
「終わってたまるか!?」
それで納得できる状況じゃなさ過ぎだろ。そもそも何で教室に檻ができるんだよ!?
「檻のことが気になっているの? そんな些事に構う必要ってあるかしら?」
「あるわけねぇよ。スカーレット様がここまで心を砕いてシキを可愛くしようとして下さってんだぜ?」
「ありまくるわ!!」
何で不思議現象全てを些細なことで終わらせようとしてんの? ジェフがこんなモノになってしまったこととか、ヴェルク様の裏切りとか檻のこととか、色々気にする所だらけじゃねぇか。
「……全くシキってば、お馬鹿なのに細かいことばかり気にしちゃって。まぁ、そういうところも可愛いのだけどね?」
「ひゅ〜う、愛されてんなぁ、シキよぉ」
この2人の息が合うと滅茶苦茶ウザい。俺、また一つ賢くなったわ。こんな賢さ要らなかったけど。
「仕方ないわね。まず1つ目、この男がこんな気色が悪……可愛らしくなったのは、ヴェルクのおかげよ」
「ま、そういうこったな」
「おい、お嬢様お前のことを気色悪いって言ってたぞ?」
ジェフは俺の言葉を鮮やかに無視した、聞けよ。ってか、ヴェルク様、最初から裏切り者じゃねぇか。もうその時点で色々辻妻合っちゃうよ。
「その点についてヴェルク様から何か申し開きとかないんですか? ねぇ、扉の向こうの安全圏にいるヴェルク様ってば」
「……すまん!!」
「言い訳して下さいよ、お願いだから」
せめてお嬢様に脅されたとか聞きたかったんだけど。
「あぁ……実はだな……俺にも婚約者が居るんだが」
「それ長くなるからカットして下さらない? ヴェルク・イージス様」
「す、すまないスカーレット嬢。しかし、これではシキが余りにも不憫ではないだろうか」
「そ、確かに一理あるわね。その話が手向けとなるというのなら、話してあげてもいいんじゃないかしら」
手向けて。俺、これから旅立つの? 乙女の世界に? ハハハ、ウケる。
そうして俺が現実逃避をしていると、ヴェルク様から深刻そうな声音でポツポツと事情を話し始めた。
「で、その婚約者なんだが、少し問題があるのだ。以前話した面倒事がそれにあたる。いずれは助力を頼むつもりだったのだが……この前の夜会の時にスカーレット嬢にその……ほらあれだ。要するにその件についての弱みを少し……」
「握ったわ」
「やっぱり脅してんじゃねぇか」
予想通り過ぎて反応に困るわ。可哀そうにヴェルク様……この悪女に関わったばっかりにこんなことになってしまったのか。ということは、ジェフはそれでヴェルク様に頼まれたのか。そう考えるとちょっと同情しちゃうっていうか、見てて気の毒になってきた。
「んで、俺は若旦那に頼まれて新しい世界に目覚めた訳だ」
「お前、可哀そうだな……でも、俺に女装させるだけならそんな格好させられる必要はないんじゃねぇか?」
「シキも1人ぼっちは可哀想だと思ったのよ」
え、それだけでこんな惨劇起こしたの? 何その気遣いの方向性、迷走し過ぎて迷惑なんだけど?
「それに見ていて笑えるもの」
「お嬢様って悪魔の生まれ変わりかなんかなんですか?」
外道もここまで来ると清々しいわ。
「後は檻の件ね。それは檻をよく見ればすぐに分かるわよ」
「……これ、土魔術かよ」
「ヴェルクの友人に丁度良いのがいて助かったわ」
この人の情熱はどこから生まれてくるんだろう。
「無論、性欲ね」
「性癖歪み過ぎてて反応に困るんで、そのドヤ顔やめてもらっていいですか?」
腹立つわぁ。何でそんなに誇らしげに胸を張っていられるんだ。生き恥晒し続けるメンタルが強過ぎる。
「ま、諦めなさい。アーシャさんの衣装選びも直に終わるわ。彼女のセンスは中々のものよ、なんせわたくしがシキの衣装選びを任せるくらいだもの」
「不安しかないんですが、あと俺はまだ抵抗を諦めたわけじゃないですからね」
2人から距離を取り、武装を展開する。臨戦態勢も致し方ない。ここは強引にでも撤退させてもらおうじゃないか。
「全く往生際が悪いわね。あんまりにも抵抗するようなら、わたくしも相応に迎え撃たないといけないじゃない」
迎撃の準備は整っていると言わんばかりのお嬢様の台詞に、俺は辺りを警戒して見回す。ジェフは武装の準備をしていない。おそらく女装した時に武具は置いてきたのだろう。構えることさえしようとしない。お嬢様に至ってはやれやれといった感じで首を左右に振るのみで、特に魔力の高まりも感じない。
どういうことだろうか。これで迎撃しようなんて、お嬢様の意図が読めない。俺が力づくで逃げ出すことができないなんて思ってはいない筈なのに、どうしてそんな余裕を見せていられるのだろうか。
「シキ、これ何かしら?」
そう言って見せられたのは、何の変哲もない記録魔術の込められた魔導具である。あれ、あのタイプ見覚えがすっごいあるぞ?
「お、お嬢様?」
「何てことかしら。さっきこれと全く同じ内容が録音されたものを放送室にセットしてしまったわ。うっかりシキが逃げ出したら、再生されちゃうかもしれないわねぇ」
お、お、お、脅しに決まってる。まさかね。まさかお嬢様がそんな悪魔の所業に手を出す訳が……あるよね。知ってる。だ、だがどうやってここから放送室に伝えるというんだ! そんなの無理に決まって……
「そ、そんな卑劣なハッタリには屈しませんよ!」
「ヴェルク、シキが逃げたら風魔術で合図なさい」
「……今度、酒でも奢ろう。許せ、シキ」
やめて、そんな優しい声出さないで。
「お、俺がすぐに逃げてヴェルク様を止めたらどうするつもりですか?」
「あら、そしたらわたくしが合図するだけよ?」
「またまたぁ、お嬢様ってば冗談が上手いんだから……」
ヒュ〜、パァン!
「あら、手が滑ったわ」
『お嬢様……俺は巻き込まれても……』
「お嬢様ぁ!! 俺、急に女装がしたくなってきましたぁ!!! だからお願いします、やめてぇ!!」
「フフ、物分かりのいい従者でわたくしも幸せ者ね」
やっぱりお嬢様には勝てなかったよ……。
「ぴょんぴょ〜ん⭐︎ このウサ耳メイドのシキちゃんがぁ、愛情込めてご奉仕しちゃうぞっ♡」(裏声)
「永久保存版決定だわ」
いっそ殺してくれ。
ありがとうございました!
この章、書いてて楽しいです!





