騎士、教室にて罠に嵌る
よろしくお願いします!
お嬢様の魔の手から何とか逃れることはできた。しかし、未だに危機的状況には変わりない。それどころか刻一刻と事態は悪化の一途を辿っていると言っていいだろう。
「シキの野郎はどこに行ったのかしら?」
「あのガタイなら目立つはずよねぇ」
「でもでもぉ、シキくんってばきっと可愛くなるわよ!」
「あ、分かるー」
「あたし的にもぉ、シキくんはピンクのフリフリはきっとよく似合うと思うっていうかぁ」
地獄の尖兵の数が増え続けていやがる……!? そう、先に餌食となってしまった執事達はもう既に色々と手遅れになってしまっているのだ。しかも、超積極的に俺を引き入れようとしているのである。あんまりだ、こんなのってないだろ。
というか、何でそこまで俺を道連れにしたがるんだ? 他の奴でもいいだろうが。どうして俺ばっかりこんな狙われてるんだよ。茂みの中で息を押し殺して、敵どもを睨み付ける。そうして睨み付けていると、一枚のビラが俺の目に飛び込んできた。
【ウォンテッド!! アライブオンリー シキ・トアル この男をエリザ・スカーレットの前に連れて来た者には、最新の化粧品一式を与える】
あ、あのお嬢様、俺に懸賞金を掛けやがった!! 俺に女装させる為だけにここまでしねぇだろ!? それより報酬が化粧品一式って、それであの執事ども動いてんのかよ!? 心底毒されているじゃねぇか!
「ねぇねぇ、化粧品一式が貰えたら、もっと可愛くしてもらえるのかしらん?」
「そうに決まってるじゃない! あのスカーレット様が御用意して下さった化粧品よ!? きっと素敵な商品に違いないわ」
「そうよねぇ……。スカーレット様みたいにとは言わないまでも、少しはあのきめ細やかなお肌に近づきたいわぁ」
乙女か。会話してるの全員見覚えある執事どもなのに、会話だけ切り取れば完全に可愛くなりたい乙女の会話で、本当に寒気がする。あいつら、今日の授業が終わる時に元に戻れるんだろうか……。カマルさんとかジェフとか後でトラウマになっていそうなんだけど。
誰か味方はいないのか。執事達はもう信用できない。あいつら簡単に俺を売り渡そうとするからな。ティアベル様とかもあの感じだと、間違いなく今は俺の敵だ。むしろ天敵と言っても過言ではない。
「そ、そうだ……ヴェルク様だ! あの人ならお嬢様に屈することなく俺に味方してくれる筈だ!」
ザディス様やコーズ様はおそらく味方にはなり得ない(金が無いから多分買収されてる)が、あの人ならジェフがああなってしまったことに胸を痛めて、俺の力になってくれるのではないだろうか。
そう考えると、すぐに俺は移動を開始した。おそらくお嬢様は俺の居場所にすぐに勘付くはずだ。理由は考えたくないけど。ヴェルク様はきっと自分の教室辺りにいるだろう。そこで接触を図り、何とかして匿ってもらおう。
「シキの匂いがするわね」
「え、本当ですか!? なら、また会えますね!」
犬かよ、あの人。勘が鋭いとかそういうレベルじゃないだろ、俺の居場所を送信する魔導具でも付けてんのか。
クソ、やはりヴェルク様に頼るしかない……! しかし、何とかヴェルク様の教室に移動しようとなると、お嬢様達を避けて行くには遠回りをせざる負えない。あの人、もしかして狙ってやってないか? そんな一抹の不安もあったが、結局俺に残された選択肢は無く、コソコソと茂みに紛れて遠回りをするのだった。
俺の目論見通り、ヴェルク様は自分の教室付近の廊下を歩いていた。しかし、ヴェルク様と合流するには問題がある。それは俺が今校舎の外の木にへばり付いて校舎の中を観察していることにある。まごうことなき不審者だ。更に、ヴェルク様の現在地は校舎の2階だ。窓も締め切られている。
ここで俺がヴェルク様に気付いて頂こうと大声を出そうものなら、瞬く間にバッドエンドである。
(どうする……? いや、本当どうしよう)
止まることなく思考はしているが、いい案は1つたりとも浮かばない。困ったものだ。
あとこの姿勢辛い。
そんな風に悪戦苦闘していると、ヴェルク様が此方に目を向けた。こ、これはチャンスだ! 今、全力で俺の存在感をアピールするんだ! なんて考えていると、すぐにヴェルク様と目が合った。これが天の配剤ってやつか……!
「シ、シキか? そんな所で何をしている?」
妙に挙動不審なヴェルク様だが、これはおそらく俺のこの木にへばり付いた格好のせいだろう。やけに言葉が棒読みなのもきっとそのせいに違いない。
「と、兎に角俺を匿って下さい!」
形振り構わず、必死の形相で懇願する俺はそれはそれは惨めな姿だったと思う。
「あ、あぁ……事情は知っているし、分かったとも……………………すまん」
「ありがとうございます!」
最後の言葉はよく聞こえなかったが、きっと俺を心配してくれていたのだろう。なんて優しい御方なんだ!!
そうして、身体能力を強化して開けてもらった窓に飛び移る。そして、ヴェルク様に教室へと案内して頂いた。しっかし、辺りに全く人がいないなんて妙だなぁ。執事どころか、教師も生徒も誰もいやしないなんて変な話だ。
ま、いっか。助かったぁ。
「それにしてもヴェルク様の教室には今誰も居ないんですか? 一応、授業中じゃないですか?」
「あ、あぁ。今は先程の執事達の騒ぎでウチのクラスも出払っていてな」
ふーん、なるほどね。皆、大変な事態だもんな。執事だけの問題どころではないから、一般的な主人達も事態の収拾に励んでいるのだろう。教室は廊下から見ても薄暗い感じがするのは、今皆出払っているからなのだろうか。
「さ、着いたぞ。先に入るといい。俺はもう少し辺りを確認しておこう」
「あ、ありがとうございます。そういうことでしたら、お言葉に甘えさせて頂きます」
ふー。ようやく一息つけそうだな。そんな事を考えながら、教室の中へと足を進めていく。それにしても、本当に薄暗いな。カーテンは締め切られてるし、明かりも点いてない。
ガチャ。ガシャンガシャンガシャン。
ガチャ。ガシャンガシャンガシャン? え?
ダラダラと冷や汗が流れ落ちていく。これ、まさかとは思っていたけど、俺ってばヴェルク様に騙された? バッと振り返り廊下側を見ると、何故かそこには檻ができていた。なんでだよ! 教室に檻ができるってどういうこと!? というか、やっぱりヴェルク様の野郎! 俺を!
「だーまーしーたーなぁぁぁぁぁぁぁ!!! って、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「おいおいおいおい、ひでぇじゃねぇか。そんな叫ぶなんてよ」
「オロロロロロロ」
「吐く程か!?」
「オェェ…………そりゃ吐くわ!!」
そう、俺は檻に閉じ込められた挙句、このピンクのフリフリゴスロリメイド生体兵器と2人っきりにされてしまったのだ。
「本当にすまん!!」
「ぜってぇ許さねぇからな、お前!!」
もう貴族とか関係ねぇよ。絶対に許さん!
「そんなことよりシキ、お前も早く可愛くなろうぜ」
「お前はちょっと黙ってていただけませんかねぇ!?」
「見ろよ、この筋肉とゴスロリのハーモニーを」
「不協和音の間違いだろ!?」
もう阿鼻叫喚である。
というかヴェルク様が俺を陥れたってことは、やっぱりあの妙なお嬢様の出現パターンは罠かよ。
「その通りよ、シキ。観念して可愛くなりなさい」
ほらきた。
もう貴女が俺にとってのラスボスですよ、マジで。
ありがとうございました!





