騎士、学園にて泣き喚く
第三部スタートです!
趣味全開のコメディとなります。シリアスは置いてきました。
よろしくお願いします!
……どうしてこんなことになってしまったんだ。最悪の展開という言葉が頭に浮かぶ。逃げねばならない、しかし逃げ続けたところでどうなるというのだ。
木陰に隠れて、ゆっくりと呼吸を整えていく。横を見れば、俺と同じように顔色を悪くしている執事の姿がある。
……あいつももう限界だな。手を貸してやるか? いや、奴等に見つかる可能性の方が遥かに高い。見捨てて逃げるべきだ。
「問題は見捨てて逃げても、俺が生き残れる可能性が低いことには変わりないってことだよな……」
だからと言ってどうするんだ。俺は奴等の前では無力だ。ただ訪れる死を待つことしかできねえ。
ジェフはどうなったんだろうか。あいつはあの魔の手から逃げ切ることはできたのだろうか。物音を立てずに、息を殺して周りを観察する。しかし、周りにいるのは結局、あの顔面蒼白な執事仲間だけだ。仕方なく彼の側にそっと移動し、声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
「ッ、……ってトアルさんか。驚ろかせないでください……心臓が口からまろび出るかと思いましたよ」
「大惨事じゃないですか」
ビクッと肩を震わせながら、彼は俺の言葉に反応する。どうにも極限状態の緊張が続いているためか、ピリピリとした雰囲気を感じる。コソコソと話す俺たちの姿はさぞ滑稽なことだろうが、そんなことは気にしていられない。
「トアルさん、状況の把握ってどれくらいできていますか?」
「残念ですが、貴方とそこまで大差ないかと」
「ですよね……」
本当、何でこんなことになってしまったのか。回想をして頭の中を整理したいところだが、事態は緊迫している。そんな余裕はないだろう。
「シキの匂いを感じるわ」
ビックゥ! と身体が反射的に跳ねそうになる。この声はまさかでも何でもないけど、お嬢様だ。俺達は今、木陰に隠れているがこれでは心許ない。せめて茂みにでも身体を突っ込みたいのだが……。
お嬢様は取り巻きも連れて、辺りを見回している素振りをしているが、その足取りは迷いなく此方に向かってきている。うわぁ、確信してやがる。
「不味いですね、どうしますか? 全力で走って逃げましょうか?」
「いや、私にいい考えがあります」
「本当ですか!? どうすればいいのでしょうか?」
流石はシドゥーレ王立学園で執事をやるだけのことはある。俺のようなある意味コネでなった男とはひと味もふた味も違うぜ! 早速、その案とやらを聞かせてもらおう。お嬢様とはまだ距離があるとはいえ、残された時間は少ない。
「えぇ、まずはトアルさんがスカーレット様達の前に現れます」
「ふむふむ」
「そして、貴方に意識が向いている間に私は逃げます」
「ふむふむ……え?」
聞き間違いかな? 俺を囮にして逃げるって聞こえたんだけど。
「しかし、それでは私が捕まりますよね?」
「尊い犠牲でした……幸いスカーレット様の狙いは貴方1人の御様子、私は逃げられるでしょう」
「て、てめぇ! こうなったらもう俺たちは一蓮托生だろ!?」
「ではいきますよ」
「話を聞け!!」
言うや否やこのクソ野郎は木陰から躍り出て、全力でお嬢様達のいる反対方向へ走り出した。ご丁寧に身体強化まで使ってやがる。
「スカーレット様、シキ・トアルさんがそこの木陰にいらっしゃいますよ!!」
「そう、御苦労。逃げることを許すわ」
「この裏切り者がぁぁぁぁ!!」
「御達者で! きっと似合いますよ!」
「てめぇの面、覚えたからな!」
奴は俺の居場所を元気良くチクり、何処かへ走り去っていった。出遅れた! 俺も逃げなくては、と身体強化をして顔を上げると、美しい見慣れた御尊顔と目があった。
「お、お疲れ様です、お嬢様方にしては御機嫌麗しゅうございます……」
「えぇ、それはそうときっと可愛くしてあげるからお縄につきなさい?」
「はい、任せてください! エリザ様、トアルさんはきっと可愛くなりますよ!!」
詰んだわ。
「では失礼します」『強化』
「させないわ」
「させませんよ?」
首根っこを捕まえられる。反応早すぎて嘘じゃない? 何その力。
「エリザ様、どんな服がいいと思いますか?」
「そうね、フリルましましのドレスがいいわ」
「あー、いいですね!」
ティアベル様とお嬢様は地獄みたいな会話を続けている。他の取り巻きの方々はうんうんと頷いている。誰か気付いて、この会話の異常性に。あと俺の首根っこはいつ離して頂けるんですかね。
「い、嫌だぁ! あいつらみたいになりたくないぃぃぃ!!」
「おいおい、ひでぇ言い草じゃねぇか。シキ、意外と悪くないぜ? お前もこっち側にこいよ」
ピタッと俺の動きが止まった。え、この声ってまさか。
「可愛くなる悦び、お前にも知ってもらうぜ」
「いぃぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
声の主はピンクのフリフリミニスカゴスロリメイドになり果てたジェフだった。ひでぇ! ゲロ吐きそう!! あいつもう洗脳されてんのかよ!?
「無理無理無理無理!! 絶対にいやぁ!!」
「こら、待ちなさい! シキ!! 我儘言わないの!」
もう俺は恥も外聞もなく、号泣しながらお嬢様の手を振り払い脱兎の如く逃げ出すのだった。
どうしてこうなった!!
回想に続く!!
ありがとうございました!





