幕間:悠久の果ての悦楽
よろしくお願いします。
幕間のため短いです
「ふむ、存外楽しめたな」
宮廷の私室にて、ワイングラスを片手に呟く。思い返すのは先日の一件だ。圧倒的な力の差を目の当たりにしても、殺気立って此方を睨みつける気力は知っていたとはいえ、心地の良いものだった。戯れに行動したことだったが、想像以上の収穫に心が充足感で満たされていくのを感じる。そして、グラスを傾けて酒を楽しむ。中々の酒の肴である。
しかし、そこに無粋な声が割り込んでくる。
「御愉しみ頂けたのは結構なことでございますが、余り勝手な行動は謹んで頂きたいものですな」
私に意見するのか、豚如きが。殺気を込めて豚を睨む。それだけのことで奴は冷や汗を流し、体を震えさせながらしどろもどろに言い訳を始める。
「……も、申し訳ございません。……しかし、我等にも長年の悲願が掛かった計画でございます。……何卒、御慈悲を頂きたく……」
つまらん奴だ。この程度で震え上がりおって。
「貴様ら帝国の思惑など私の知ったことではない。そもそも計画を実行に移す手助けをしたのも私だ。何故、貴様らが私に指図などするのだ」
「その通りにございます……思い上がった発言をどうか御許し下さいませ……」
意見を言ったかと思えば、すぐに震え上がるこの道化は私を笑わせることもできんのか。あの男は違ったぞ、私を心から笑わせることができる道化であった。
「下がれ、二度は言わぬ」
「……仰せのままに」
そう言うと奴はすぐに姿を闇に消していった。何がしたかったのだ、彼奴は。
邪魔者も消え、再びグラスに口をつけながら月夜を眺める。夜空も世界も何一つ変わり映えのしない退屈さに鬱屈とした感情が鎌首をもたげて顔を出す。腹立たしいことだ。世界とはこれ程までにつまらないものだったか。やはり、人間こそが最も私を退屈させない最高の玩具だ。
エリザ・スカーレットとシキ・トアル。あの2人に掛ける私の期待は大きい。しかし、すぐに仕掛けては容易く潰れてしまうだろう。奴等には準備の時間を与えてやらねばならん。
「暫くは奴等を眺めるだけしかできぬというのも歯がゆいものだな……」
牙を研ぎ終わるのはいつになるのか。気の遠くなる話だが、これまでを思えば耐えられる。あぁ、この退屈という渇きを癒してくれるのならば何でも良い。来たるべき日を待つというのもまた一興である。
だが、あの豚共はしびれを切らしてまた勝手にやらかすだろう。そこで終わるのならば、それまでの話でしかない。
「精々努力することだ」
私を殺すために。
奴等が絶望してもいい、私を終わらせてもいい。正直どちらでもいい。どちらでもいいから最期まで足掻き、愉しませてくれることを祈ろうではないか。今は愉しませてやろう。だから、いつか必ず私に牙を剥いてくれ。
月夜は変わらず美しく輝いている。私は悠久の時に想いを馳せ、グラスを呷り酒を飲み干した。
ありがとうございました。
次回から第三部です





