騎士とお嬢様と夏の終わり
よろしくお願いします!
何とか無事に生き埋めから脱出しました。シキです。
「次は砂で作品作りね」
「お、いいですねぇ。賞品とか付けますか?」
砂で埋められ、砂で何かを作る。こういうのも楽しいもんだな。何を作ろうか、やっぱり愛剣かなぁ。
「シキの賞品はわたくしと生涯添い遂げる権よ」
「アハハ、罰ゲームの話ではなく、賞品の話ですよ?」
また埋められました。
「シキの罰ゲームは地下牢ね」
「何で俺限定なんです?」
「他の賞品は金一封で、罰ゲームとかは特にないわ」
「「行って参ります!!」」
あの人達、かなり俗っぽいよね。俺もそっちがいいんだけど。
「ちなみに審査はわたくしの独断と偏見よ」
「これは一本取られましたね」
出来レースじゃん。
そうして俺たちの熾烈なバトルは幕を開けた。出来レースだけどな!
さて、そうは言ったもののやるからには優勝せねば。優勝してもロクな展開が待ってないんだけど、何もせず負けるのも癪である。全員既にせっせと作り始めている。俺はといえば、未だアイディアを考えている段階だ。何であの人達作る事に迷いがないんだろう。
どうすべきかなぁ、愛剣も良いけどインパクトに欠けるよなぁ。ウンウンと悩んでいると、他の人達はかなり形が出来始めている。作業スピード早過ぎない?
仕方ない、ここはシアさん達の作品を参考にすべきだ。お嬢様は見ない方がいい気がするから無視しておこう。そう考え、まずはシアさんの元へと向かう。そこには真剣な顔でお嬢様の彫像を作っているシアさんがいた。
「それ、お嬢様ですか……?」
「あぁ、トアルさん偵察ですか? そうですよ、しかしお嬢様の美を再現することはできず、中途半端な作品になってしまいそうです……」
え、これで? かなりお嬢様なんだけど、圧迫感もリアルお嬢様に相当近いよ? 身長とかまんまの等身大お嬢様を再現しながら、悔しそうな顔をするシアさんを見る。マジかよ、この人。
「これで優勝は難しいでしょうね……」
「嘘でしょ?」
「セバスさんの作品はご覧になりましたか? 凄いですよ、流石はセバスさんです」
そんなに凄いのか……。あの人、万能すぎないだろうか。ちょっと見に行ってみよう。そして、セバスさんの側に駆け寄り、声を掛けようとして足が止まった。え、何あれ?
「おぉ、シキ様。偵察ですね、どうぞ存分にご覧下さい。中々の力作で御座います」
「力作というか、これって……スカーレット邸ですよね……?」
「そうで御座いますな。流石、慧眼です」
スカーレット邸を知っていれば誰が見ても分かるわ。うっそぉ。まだ始まって1時間程度なんですけど。
「しかし、これでは優勝は難しいでしょうな」
「冗談ですよね? このスケールと仕事で?」
もうお金取れそうなレベルなんですが。そういった仕事に就いても生きていけそう。スカーレット邸の広大な土地をミニチュアで完全再現している。庭園の花も砂で作ってんの、ヤバすぎる。どうやってんの? 何が起きてんの?
「お嬢様の神の如き作品の前では私の腕など児戯に等しいのですよ」
「そんな化け物みたいな作品をどうやってあの細腕で作るんですか」
「……愛、でしょうな」
あ、俺分かっちゃった。絶対見ないようにしよう。セバスさんも遠い目をしているし、もう既に戦意喪失だよ。
何にせよ、俺も何か作ろう。棄権だけは絶対にしたくねぇ。
「では、結果発表といくわ」
わー、パチパチと俺とシアさんとセバスさんのささやかな盛り上げと共に、作品鑑賞会が始まった。
「まずはシアの作品ね」
「はい、タイトルは『美しきエリザ・スカーレット様』で御座います」
あの人、暑さで頭がやられちゃったのかな。クオリティ凄いけど。お嬢様がまじまじと作品を鑑賞する。シアさんの作った等身大お嬢様は一見すると完璧だ。個展とかで飾られてそう。服装は学園の制服でそのディティールも滅茶苦茶凝っている。およそ芸術としての欠点は見当たらないと無学な俺でも思うのだが……。
「90点といったところかしら」
辛口だ! 何で10点も減点ポイントがあんの!?
「ですよね……妥当な評価だと思います」
納得の点数なんだ!?
「えぇ、シアの熱意は伝わったわ。でも、魂が篭っていない。わたくしを写実的に表現しただけで止まっているわ」
「その通りに御座います……!」
この世界のスピードに俺はついていけないよ。これ、そんなガチンコなやつなの?
「では、次ね」
「私ですな。是非ともご覧頂きたい。タイトルは『勇ましきスカーレット家』で御座います」
怖いよぉ、理解できない世界が広がってるよぉ。
「97点ね」
残りの3点は何なの。セバスさんも納得しないで、反論してもいいんだよ? どう見ても優勝だろ、優勝じゃなくても金一封ものだよ。
「そうで御座いますな。久し振りに老骨に鞭打って腕を奮いましたが、やはり寄る年波には勝てません」
「全盛期の貴方ならきっとこの程度では済まなかったでしょうね」
この程度? これってこの程度ってレベルで表現してもいい作品なの?
「ここ、花の位置がズレているし、照明も1つ足りていないわ」
「何で分かるんです?」
何で? 貴方達には何が見えているの。ていうか、内装までそんなきちんと作ってんのかよ。もう優勝させてやれよ。
「長年の経験から魂こそ込められているけれど、精緻さに欠けたわね」
「言葉も御座いません」
あっていいよ。キレても誰も怒んないよ? 俺、作品見せるの恥ずかしいんですけど。
「次はわたくしね」
「あの〜、俺を先にして頂いても……」
「却下するわ」
そんな殺生な。
俺の無意味な抵抗も虚しく、ズルズルとお嬢様の作品の元に引き摺られていく。何かデカくない?
「これがわたくしの作品、タイトルは『シキ・トアル』よ」
絶対やると思ったよ。……って。
「デカぁぁぁ!!!? 何ですか、この意味不明な大きさ!?」
「シキ3人分の大きさよ」
「デカ過ぎだろ!? 恥ずかしいわ! しかも何で全裸なの、コイツ!」
「わたくしの趣味よ」
「ざけんな!」
何考えてんだ、こいつ!
「翼も生やしておいたわ」
「見れば分かるわ! 何でだよ!!」
「わたくしの目にはシキがこう見えるの」
「節穴か!?」
目に豆でも付けてんのか!? どうしたらこうなるんだよ!? 後、セバスさんとシアさんはこの意味不明な像に感動すんな!
「なんと素晴らしい……! これはお嬢様の優勝以外有り得ませんな」
「私、感動しました! 私にはまだまだ愛が足りなかったようです」
全員揃ってここには節穴しかいねぇ!!
「さて、シキの作品を見に行きましょうか」
「嫌だよ! この意味分からんけど凄まじいクオリティの後で、自分の作品を見せたくねぇよ!」
「さ、行きましょ」
「聞けし!」
行動が早過ぎる。せめて自分の作品に得点つけてからにしようよ! もうお嬢様が優勝でいいよ。そんなこと思っている間に、俺の作品の前に到着してしまった。もういや。恥ずかしい。
「……タイトルは『初めてのプレゼント』……です……」
この辱めに耐えられない。
周りのお歴々が作った作品に比べて、自分の作品の小ささと拙さよ。
「…………あざといわ、100億万点」
「仕方ありませんな」
「まぁ、審査員はお嬢様ですもんねぇ」
「いやいやいやいや! おかしいでしょ? クオリティ的にもさぁ!?」
俺が作ったのはお嬢様に初めてプレゼントしたイヤリングである。すごく不細工な形だが。何でこれで優勝してんの!? 時間なくてパッと思いついたやつだったんですけど!?
「これは挙式しかないわ」
「そうですな」
「相思相愛みたいなものですよね」
やめ、ちょ、やめろぉ!!
危うく結婚するところだった。
「つかれた……」
ロクに泳いでもいないのに、この疲労感とは恐れ入る。俺としてはそこそこに遊ぶことができればよかったのだが。
夕日が沈み始める黄昏時、砂浜にゆっくりと腰を下ろしてボーッと海を眺めてみる。綺麗な景色だ。学園の奴らにも見せてやりたいと素直に思えてくる。そんな俺の隣にお嬢様が腰を下ろす。
「シアとセバスは別荘で料理を作ってるけど、シキは戻らないのかしら?」
「優勝賞品で、晩飯準備は免除になったんですよ」
「そう……結婚でもよかったのよ?」
二択の振れ幅がデカ過ぎる。飯の準備を免除してもらうだけで十分というか、その景品は要らないです。
それだけ言って、お嬢様も静かに水平線を眺めていた。波の音が心地良い。景色を眺めつつ、今までを振り返れば長期休暇まで激動の日々が脳裏を過ぎる。あれだけの出来事があって、まだ半年も経っていないなんてな。
それにしても、なんやかんやでお嬢様と本当に2人きりになったのは久しぶりだと思う。だから、ようやく聞きたいことが聞ける。
「……お嬢様、第二王子と何か俺の知らない因縁があるんですね」
沈黙。
お嬢様の秘密は前から謎だったが、何となくそう思う。いや、違うな。あの時の第二王子の発言がきっかけだ。
「あいつ言ってました。自分とお嬢様は同じだって、その意味は俺には分かりませんでしたが」
「……わたくしもそれに関してはよく分からないわ」
「そうですか」
お嬢様がそう言うなら、多分本当によく知らないのだろう。でも、何かしらの心当たりはあるようだった。それが前に言ってた俺への執着と関係あるのは間違いない。第二王子と俺とお嬢様の過去に何かあったのだろうか? 俺には心当たりが全くないけどなぁ。
何となく気まずい雰囲気が流れ始めたので、その雰囲気を振り払うように俺は立ち上がった。
「……難しいことを考えるのは疲れますね。飯行きましょう、飯!」
「……聞かないでくれるのね」
そりゃあねぇ。この前、ストーカでデートに誘った時に惚れた理由は聞かないって言ったしなぁ。この話がそれに繋がるなら聞かないほうがいいと思うし。
「気になるんで、気が向いたら話して下さいよ」
「お言葉に甘えるわ、わたくしの騎士さま」
結局、何度も繰り返しになってしまうがやることは変わらないのだ。それなら待とうじゃないか、貴女の心が揺らがなくなるその時を。
「えぇ、ドーンと俺の度量の広さに甘えて下さい」
そう言うと、彼女は惚れ惚れするような甘やかな微笑みで言葉を返すのだった。
「じゃあ、遠慮無く」
お嬢様は立ち上がり、俺の胸に飛び込んでくる。甘えろってのは俺の度量の話だよ。物理的に甘えてねって意味じゃねぇ。
こうして俺とお嬢様の初めての長期休暇は終わりを迎えた。
ありがとうございました!
これにて第二部完結です。
第三部はコメディだらけにする予定ですので、乞うご期待!です!
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