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ヤンデレ悪役お嬢様は騎士さまに夢を見る  作者: ジーニー
騎士にとってのプロローグ
5/66

お嬢様、馬車にて再び高笑い

よろしくお願いします。

 あれから怒涛の日々が過ぎ去った。スカーレット家の使用人の方達はそれはそれは厳しかった。小姑かな?

 お茶の入れ方や掃除の仕方、マナーや作法を叩き込まれる日々だった。鍛錬は日々のルーティンとして苦しくはなかったが、雑務の類はやはり俺に隠された才能はなかったらしい。

 

 明日には、学園での新たなる生活が始まるのだが、結局執事としての免許皆伝とはならなかった。そりゃそうだよね。しかし、最低限の知識や技能はなんとか手に入れたと思いたい。お嬢様に1人で同行することは許されたし。

 

 実際、無理だとは思っていた。そもそもスカーレット家の当主様や奥方様は俺みたいな身分の低いやつが1人着いていくなんて許せないと思っていた。だけど、現実は当主様も奥方様も可愛い娘の戯れと思い、容易く許可を出してしまったのだ。なんで?


「世の中は信じらんないことばっかだよ、ほんと……」


 そんなことを1人呟く位は許して欲しい。お嬢様は、凄まじかった。俺を同行させる為にあらゆる手を使ったのだろう。家に俺を連れて帰った時の反応は、拒否感が凄いんだろうなぁとか考えていたのに大歓待である。いや、だからなんで?


 後日、仲良くなった執事仲間から聞いたのだが、彼女の使用人たちは全員納得済みな上、スカーレット家の方々も俺がいないと娘の正気がヤバいとなっている状況だったらしい。どうして?

 

 そんなこんなで迎えられた俺は、そりゃあさっきも言った通り扱かれた。ここまで頭を使ったのは、前に所属していた団が敗走して殿を務めて以来である。


 勉強は苦手です。学がないからね。おかげで騎士団に所属していても出世はできなかった。手柄は立てても、身分も頭もない奴は出世のさせようがなかったらしい。俺もしたくなかったからいいんだけど。

 

 しかし、今はお嬢様の護衛騎士だから最低限の学や品性は求められる。俺の対極にあるものたちだ。これができなければ流石に認められないとは、御当主様のお言葉である。それでも今日までやってこれたのは一重にお嬢様のため、というか俺のためだ。彼女は毎夜、俺が学んだことをテストしてきた。凄くない? なんで俺の学んだ内容を全部把握して、テストまでできんの?


 そして、彼女は俺がミスをする度に鋭利な刃物を自分の首筋に当てて、美しい笑顔でこうおっしゃるのだ。


「わたくし、あなたがいない生活にはもう耐えられませんの。だから、もしもあなたが基準を満たさないなんてことがあれば……ね?」


 脅迫って凄い。俺にここまでの根性があるとは思いもよらなかったもん。


 お嬢様は、多分本来は優しくて優秀な方だったのだろう。それはテストでミスした内容を復習する時の俺への接し方や使用人たちのお嬢様への態度でなんとなく分かった。俺が侍女の方達に習っていても特に激しい嫉妬をするとか、ヒステリックになるとかそういうことは一切なかった。お嬢様曰く、自分の使用人たちが弁えていることを知っているからということだったが、イカレた女はそれでも暴れるのだ。知ってる。

 

 だから、俺はお嬢様にある程度は肩入れするようになっていた。休みもくれるし。それに、人を心の底から信じられる人は信じられる。裏切られた時の悲しみや怒りを知っていても、誰かを信じたいと思える人だと思うから。


(それにあれ以来……特別変なことをされたわけでもねえしなぁ)


 信じたい人を俺は信じる。それが例え心が壊れかけてる人であっても。鬼のような人であっても。


「ねよ……」


 そして、次の日の朝、お嬢様と俺はスカーレット家の方々に見送られて学園へと出立したのだった。












「随分、スカーレット家から信頼を得ることができたようね」

「まぁ、いい人達でしたからね……」


 そう言うと、お嬢様は随分嬉しそうな顔だった。普段は良い人なんだけどなぁ。美人だし。


 赤い髪を腰まで伸ばし、アーモンド型の目、それにスタイルも大人顔負けだ。これだけの派手な美人がなぜ俺にとは思うが、今更そこを疑っても仕方あるまい。


「あの人達は努力する者を笑わないわ。それにわたくしによく尽くしてくれている。だからこそ、わたくし達も彼らに敬意を払い、尊重するのですわ」

「それはよく分かりましたよ。容赦ないですけど」


 当然よ、と自慢げな顔をするお嬢様は落ち着いて第三者目線で見れば、まさに完璧な御令嬢さまだ。気位も高いしね。

 それからしばらくは、無言で馬車に揺られていた。


「シキは、わたくしにあれ程のことをされても怯えないのね」


 ふと、お嬢様は馬車の外を眺めながらそんなことを言った。


「今更聞きます? そんなことを?」

「今更だからですわ。今更だから……怖くなりましたの……」


 そう言うお嬢様の顔は悲しげに沈んでいた。あぁ、これはふざけた答えは返せないな、なんて思った。もしかしたら、昨日考えていたことが頭をよぎったからかもしれない。だからだろうか、俺は考えるより前に言葉が出ていた。


「お嬢様って、元々は普通にお嬢様だったんですよね。たぶん」

「そうですわね。次期当主の兄がいるとはいえ、スカーレット大公家の娘として、その責務を自覚して日々を過ごしていたと思いますわ」

「そうでしょうね。そんな気はしていましたよ」


 でも、タガが外れてしまった。それだけのことなのだろう。今は、少し冷静に己を省みてしまった。だから、こんな質問をしたのだ。

 俺がここで優しく諭すように正論を言えば、彼女は戻れるのかもしれない。優しく、愛に狂っていない完璧なスカーレット家の息女に。

 だけど、俺はそんな綺麗なことは言えない。言うことはできない。俺は、あの時確かに怖かった。だけど、俺は……


「俺はエリザ・スカーレットに求められた時、少し嬉しかったですよ」


 誰かに愛されることは心地良いのだ。誰かを愛することもきっと。

 彼女の美しい真紅の瞳が見開かれる。驚愕に表情が歪む。そして、嬉しそうな、悲しそうな複雑な表情に歪む。


「わたくしは……あなたの意思を無視してまであんなことをしたのですよ?」

「そうですね。めちゃ怖かったです」

「それなのに、嬉しかったのですか?」

「あんまり人に好きだって言われたことなかったですし……」


 彼女はぎゅっと拳を握って、震えて俯く。


「わたくし、これからどうなってしまうのでしょうか……」

「幸せになれるんじゃないですか? 俺に目をつけるとはお目が高いですよ、お嬢様」


 きっとこれが俺とお嬢様の関係の本当のスタートだ。あの日のことを互いに清算して、いや清算は無理だな。とにかく彼女の負い目はこの際無くしてしまおう。


「俺、お嬢様のこと怖いけど嫌いじゃないですし」


 彼女はまだ俺の言葉の続きを待っている。


「あの日の出会いに後悔とかそういうのはあんまりないですよ。だから、まぁこれからも末長くよろしくお願いしますよ。男としての愛はぶっちゃけまだ恐怖で無理すぎますが、騎士としての俺はお嬢様にあげます」


 お嬢様はしばらく黙って、肩を震わせていた。あれ? これってデジャブってやつ?


「……フフフ……アハ……オーホッホッホッホ!!!! ついに! ついに、やりましたわ! これでシキはわたくしのもの!! 一生シキはわたくしから逃げられませんわぁ!!!」


 再びの高笑いだった。物語のお嬢様を絵に描いたような高笑いだった。俺、一応男としては振ったつもりだったんですけど? さては都合の良い所だけ聞いていたな? このお嬢様は。ていうか一生ってやっぱりなんで?


「オーホッホッホッホッホ!!! アーハッハッハッハッハ!!!!!」


 いつまで笑ってんだ、この方は。

 そうしてお嬢様は以前より晴れ晴れと長々と高笑いをしていた。御者の方、めっちゃビビってますよ。


「フー…フー…フー。あぁ、一生分くらい笑いましたわ。それにしても、愉快ですわ。シキがわたくしに愛を囁くなんて夢のよう」

「落ち着いてください、お嬢様。私はどちらかと言うとお嬢様を振りましたよ」


 お嬢様は未だに頭が沸騰していらっしゃるご様子なので、現実を突きつけてみるが、糠に釘、暖簾に腕押しである。要は、聞く耳をもたねえ。ずっと両手を頬に当てて、恍惚としていらっしゃる。


「いいえ、確かにわたくしは聞きましたわ。”まだ”無理だと。ということはいずれは男としてもわたくしを受け入れる準備を始めているのではなくて?」

「前向きに頭が沸いてますね、お嬢様」

「わたくしはやはり間違っていなかったのですわね! 愛は届く! 届くことを願うのは罪深くなどなかったのですわ!!!」

「方法は選びましょ?」

「わたくし、決めましたわ! この愛を必ず成就させると! 婚約者などすぐにでも破棄して、シキを囲いますわ!!!」

「って婚約者いるのに、俺にあんなことしたんですか!? とんでもねえな!?」

「所詮、政略結婚よ。相手との結婚以上の利益をわたくしがあなたを側に置いたままもたらせば、お父様も納得してくださいますわ」


 そういう問題ではないです。こわいよぅ……。


「あぁ! 一時はあなたを手放そうとしたことを謝らせてください! シキ!! あなたがわたくしをそのように想ってくださっていたのならば、最早迷いは不要!!!」

「現在も正気は迷子のようですが」

「これから先の日々に胸が躍りますわぁ!」


 お嬢様はそこから馬車の中でひたすら上機嫌だったことだけは報告します。

 まぁ、悪い気はしないんだけどね。でもやっぱり怖いので、女性としては無理ですよ。お嬢様。

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